シドゥリ暦2022年
三千世界監察軍本部のある一室にはテレサ、ランカ・リー、涼宮ハルヒ、ホシノ・ルリの四人が集まっていた。彼女たちは監察軍の少数派閥〈虚無の使い魔〉のメンバーであった。人が集まれば自然と派閥ができる為、三千世界監察軍のような大規模な組織ともなれば、派閥が発生するのは当然であった。
現在の三千世界監察軍本部の派閥は総司令官トレーズを筆頭としたトレーズ派が主流となっているが、彼女たちの様な少数派閥も存在している。といっても我の強いトリッパーが多い監察軍本部だけに派閥に入って群れる事を嫌い、無派閥で活動しているトリッパーが大半であるが、それでもトレーズ派が監察軍本部の最大派閥で大きな影響力を持っているのは間違いなかった。
彼女たちの場合は、『ゼロの使い魔』関係の特典を有していることが縁でハルヒを中心に派閥を作ることになったが、別に監察軍本部でいたずらに派閥争いをやって仲間内でいがみ合いたいわけではない。
監察軍本部があまりにもトレーズ派に偏り過ぎていることから別の派閥として意見を主張することで、バランスを取りたかったのだ。要するにトレーズ派を与党とするならば、ハルヒたちは弱小野党という事になる。
野党なき与党は腐敗するというだけに、トレーズ派を監視すると共に自浄作用として機能するというのが彼女たちの目的だった。それだけにトレーズ派とは別の意見を言う等して別の立場からの発言をよく行っていた。
これは監察軍の腐敗や暴走を警戒していたシドゥリも賛同しており、そうした事もあってハルヒたちのような少数派閥が監察軍本部で存在していたのだ。そんな彼女たちが今回集まったのは以前開発していた無人ISのことがトレーズにばれたからだ。その所為でハルヒは予算と施設の不正使用を問われていた。
「隠蔽工作にはそれなりに気を使っていたんだけどね」
と、ハルヒが疲れたように言う。
正直な所、彼女たちはトレーズの無人機嫌いには懸念を示しており、その点では激しく対立していたのだ。とはいえ、そこは少数派閥の力の弱さからトレーズに押し切られてしまった為に、監察軍では無人機開発が許可されなくなり、表立って無人機開発ができなくなったのだ。
それなら開発を諦めればいいじゃないかと思う人もいるかもしれないが、無人機の効率は非常に魅力的であった。その為、無人機開発を一切やらないというのは非効率的な行動で、合理主義のハルヒにとって到底納得できることではなかった。だからこそ、下位世界の人間を利用してまで秘密裏に無人機開発を進めていたわけである。
幸いなのが、件の無人ISは既にロールアウトしてレッドノアに配備されており、そのデータのみならず製造ラインすらもブリタニア帝国本国に移設済みであった為にトレーズがこれを潰すことはできないことだろう。
トレーズは監察軍では強力な権力を持つが、ブリタニア帝国にはあまり影響力をもっていないから、ブリタニア帝国が採用した無人機を廃棄させるような政治力など有していないのだ。
「それで、これからどうするの?」
「シドゥリがこの件で便宜を図ってくれたわ。彼女も無人ISの有効性は理解してくれたもの」
少々、不安そうに訊いてきたランカにハルヒが気にしなくていいとばかりに朗報を伝えた。実際、今回の無人ISはシドゥリも一枚かんでおり、開発された無人ISはレッドノア内部で順調に活動していた為にシドゥリの評価は上々であった。
シドゥリからすれば無人ISの開発に使われた資金に見合うだけの成果だったことから、今回の件ではそれとなく弁護していた。
「でも、レディ・アンがうるさくて困るわ」
トレーズ自身は無人機に頼りたがるハルヒたちに対する牽制程度に思っているようでハルヒたちを叩き潰そうとまではしていないかったが、レディ・アンはここぞのばかりに積極的にハルヒを叩いていたのだ。
「大丈夫なの?」
「やった事は大したことはないし、何とかなるわ」
レディ・アンはトレーズの副官とはいえ所詮はトリッパーではない下位世界人にすぎない。その彼女がトリッパーが優遇される監察軍においてトリッパーであるハルヒを排除することは余程のことがないと無理なのだ。そして今回の事は許容範囲内のことであり、いくらでも切り抜けることができるだろう。
ハルヒの予想通りに、その後の後始末でもハルヒにある程度の厳重注意が加わったのみで処分されることはなかったのであった。
あとがき
今回は、以前書いた『大天災がいない世界』で登場した無人ISが話の焦点になっています。ハルヒは秘密裏に開発を進めていましたが、さすがにいつまでも隠し続けることは不可能でしょう。