オーバーロード 拳のモモンガ   作:まがお

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有力な手掛かり

 クライムと別れたモモンガとツアレはエ・ランテルにやって来ていた。

 クライムが夢を叶えるべく歩み出した姿を見て、ツアレも吟遊詩人になるため一層やる気を出している。

 モモンガはそんなツアレを変わらず応援しているのだった。

 

 そして、二人は今……

 

 

「モモンガ様、私達は今何をしているんでしたっけ……」

 

「ん? 寄り道のし過ぎで忘れたのか? 漆黒の剣の一つ、『死剣・スフィーズ』を探しているんだぞ。此処には手掛かりを探しに来たんだ」

 

「ですよね、手掛かりを探しにきたんですよね。ならどうしてこんな場所に? お墓しかありませんよ」

 

「それは『ズーラーノーン』のアジトとやらを探しているからだぞ」

 

「それモモンガ様が言ってた危ない秘密結社ですよね!?」

 

「邪教集団なら漆黒の剣の情報を持ってる気がしないか?」

 

「そんなテキトーな理由で!?」

 

 

 ツアレは思う。最近モモンガ様の勢いが凄い。

 思い立ったらすぐ行動というか…… いや、よくよく思い返してみると元々その傾向はあったかもしれない。

 クライムと過ごし、そして別れた事でモモンガにも何か変化があったのだろうか。

 モモンガが楽しそうにしている事自体はツアレも嬉しい。

 しかし、もうちょっとやる前に相談して欲しいと思うのだった。

 

 

「死の魔法と漆黒の剣の能力って似てると思わないか?」

 

「確かに似てるかも知れませんけど……」

 

「死の魔法、これは即死魔法の事だと予想出来る。だが、それは第8位階以上の高位の魔法の可能性が高い。その場合この世界の魔法詠唱者(マジックキャスター)が使えるレベルからは離れすぎている。盟主とやらは本当にそんなのが使えると思うか?」

 

「あくまで噂なんですよね? でも、噂があるって事は近い事が出来るとか……」

 

「ああ、その可能性はある。あとはマジックアイテムを使っているとかな」

 

 

 盟主が本当に自力で即死魔法を使えるレベルなら、国によっては単騎で落とせているだろう。違うとすれば後はアイテムを使っている可能性がある。

 モモンガはそのアイテムこそ、漆黒の剣の一つ『死剣・スフィーズ』ではないかと思ったのだ。

 

 

「モモンガ様って魔法の事になると詳しいですよね。まるで専門家みたいです」

 

「いや、私の本職は魔法詠唱者だが…… っと、あったぞ。あそこがアジトになっていると噂の場所だな。さてさて、今回の酒場の情報はどうかな」

 

「酒場……」

 

 

 たどり着いた場所はエ・ランテルの共同墓地の最奥。そこにある建物が目的地である。

 全体的に明るい白色を基調としているが、枯れた木々など周りの雰囲気と合わさってどうにも不気味さが滲み出ている。

 

 

「うう、やっぱり怖いです…… いきなりゾンビとか出て来て襲って来たりしませんよね?」

 

「ゾンビくらいもう慣れたものだろう? カッツェ平野で沢山会ったじゃないか」

 

「何度見ても怖いものは怖いんですっ」

 

 

 少しでも離れる事が怖いのか、ツアレはモモンガのローブの裾をしっかりと掴んでいる。

 モモンガもそんなツアレの歩調に合わせてゆっくりと進んでいった。

 

 

「私もアンデッドなんだがなぁ……」

 

「モモンガ様はほら、モモンガ様じゃないですか」

 

「ツアレよ、全く説明になってないぞ」

 

 

 吟遊詩人がその語彙力で大丈夫かと、墓地を歩きながらモモンガは呑気に考えていた。

 扉を開き建物の中に入ると明かりはほとんど無く、扉を閉めると部屋全体はかなり薄暗い。

 とりあえず辺りを物色しようと思ったが、部屋の奥から物音が聞こえてきた。

 何が出てくるかは分からないため、モモンガは緩んだ思考を切り替える。

 

 

「こんな所に何の用だ? お前達は冒険者か?」

 

 

 奥から出て来たのは赤紫のローブを着た丸坊主の男。髑髏の首飾りに杖まで持って、見た目は悪い魔法使いそのものだ。

 しわがれた声からはこちらを歓迎している様子はまるで感じられない。

 

 

「ひっ!? モモンガ様やっぱり出ましたよ、エルダーリッチです!?」

 

「まだアンデッドにはなっとらんわ!!」

 

「まだ? とりあえず落ち着け、ツアレ。よく見ろ、顔色が悪くて毛の無い普通のおっさんだ」

 

「えっ、本当だ。ごめんなさい、暗くてよく見えてなくて…… てっきりアンデッドかと勘違いしちゃいました」

 

 

 モモンガはアンデッドのため暗い所でもハッキリと見える。更には自身の能力でアンデッドの感知も出来る。

 能力を過信するのは禁物だが、目の前の相手がアンデッドでは無いと判断していた。

 もっとも敵になるかどうかはまた別の問題だが……

 

 

「驚かせたようですまないが、私たちは冒険者ではない。『死剣・スフィーズ』を探してるんだが何か知らないか? 他の漆黒の剣についてでもいいんだが」

 

「ふんっ、何かと思えばそんな事を聞きに来たのか。儂は何も知らん。他を当たるんだな」

 

(一体なぜ十三英雄の持ち物など自分が聞かれなければならないのか……)

 

 

 モモンガの直球な問いかけに男は顔を顰める。

 面倒なものを追い払うように答え、こちらの相手をする気が無いのか早々に部屋の奥に戻ろうとしている。

 

 

「そうか、ズーラーノーンなら知ってるかと思ったんだが……」

 

「何っ!? 儂をズーラーノーンの十二高弟の一人と知っていたのか!?」

 

「えっ、そうなの? すまんが知らなかった。所でズーラーノーンって具体的に何をする組織なんだ?」

 

「くっ、誘導尋問か。お前達は何者だ!! 何のためにここに来た!!」

 

 

 男は自分から所属をバラしたくせに、勝手に警戒態勢に入った。

 杖をこちらに向けて、敵意のこもった目で睨みつけてくる。

 

 

「ツアレを見習って最初に素直に言った筈なんだが…… 何がダメだったんだ?」

 

「さぁ? ちなみに私の目的は吟遊詩人になることです」

 

「見え透いた嘘を言うな!! こんな危険な事に首を突っ込む吟遊詩人が何処にいる!!」

 

「確かに怖いですけど、それでも私は吟遊詩人になりたいんです。そのために必死なんです!!」

 

「自らの夢を叶えるため、危険を顧みずに挑戦する。確かに他人から見れば馬鹿げているのかもしれんな。だが、この子の願いを、夢を否定する事は許さん!!」

 

「お前らは吟遊詩人を何だと思っとるんじゃ」

 

 

 男は段々と頭が痛くなってきた。

 本当は今すぐにでもぶち殺してやりたいが、とある計画の準備を行なっている途中なのだ。長期に渡って準備が必要な為、早々に目立つ事をして計画に影響があっては困る。

 こんな奴らに真面目に相手をする事は無いと思い、テキトーな嘘でも話して終わらせることにした。

 

 

「はぁ、そこまで言うなら仕方ない。その熱意に免じて教えてやろう。『死剣・スフィーズ』はズーラーノーンの盟主が持っておる」

 

「おおっ、本当か!!」

 

「ああ、本当だとも。盟主の使う死の力はそれだ。あと『腐剣・コロクダバール』も盟主が持っておる。その二つの魔剣により力を増幅させておるのだよ」

 

「モモンガ様、これは本当なら凄い情報ですよ。悪い組織の親玉なら懸賞金もかかってる筈です。別に倒してしまっても問題ありません!!」

 

「はははっ、ツアレも段々と染まってきたじゃないか。こうやって少しずつ情報を集める感じ、まるでゲームのクエストのようでワクワクするな。よし、盟主を倒して戦利品に漆黒の剣を頂こう!!」

 

「そうか、頑張れ。儂も盟主の場所は知らんからな」

 

(本気で信じるとは…… いつの世もこういった馬鹿は一定数いるものだ。流石に盟主を見つけられる筈もないだろう。もし万が一にも見つけたとしたら、それはお主らが死ぬときだな……)

 

 

 男からすればズーラーノーン自体はどうでも良かった。彼の目的を達成するのに都合が良かったから在籍しているに過ぎない。

 先ほどの嘘に釣られてこの二人が盟主を探そうと関係ないのだ。

 もっとも盟主の強さだけは本物なので、もし仮に見つけたとしても殺されるだけだと思っていた。

 

 

「実際にお前が何をしているのか私は知らない。だから今回は見逃そうと思う。怪しい組織なんてさっさと足を洗うんだぞ」

 

「忠告に感謝しよう。儂も目的…… 願いを達成したら直ぐにでも抜けるとも。分かったから早く出て行け。そして二度と来るな」

 

「はい、色々と教えてくれてありがとうございました。お願い事、叶うと良いですね」

 

「ふんっ……」

 

 

 二人が出て行った後、男は近くの椅子に深く腰掛けて息を吐いた。なんだか精神的に酷く疲れたようだ。

 

 

「はぁ、何が夢だ。現実を知らん、何も考えていない子供はこれだから嫌いなんだ。……儂は必ず母を蘇らせる。何年かかろうが絶対に、どんな事をしてもっ!!」

 

 

 男にとってあの子供の目は綺麗すぎた。過去の馬鹿な自分を思い出し、苛立ちが募るばかりだ。

 これから彼がやろうとしている事は願いというには無謀過ぎて、ツアレの事を馬鹿に出来る立場ではないかもしれない。そのための手段は余りにも犠牲が多く、他人に語る事など出来ない。残酷で血塗られた道は決して誇れるような物ではないと分かっている。

 この感情はもしかしたら自身に残された良心かもしれないが、その事実に彼は目を背け続けた。

 

 

 

 

 先程は有力な情報が手に入ったと、余り深くは考えずに舞い上がっていた。

 しかし、興奮が少し落ち着いて来た頃、ツアレは先程出会った男の事を考えていた。

 

 

「モモンガ様、あの人はアレで良かったんでしょうか……」

 

「捕まえなかった事か? 現行犯でも無いし悪事を働いている証拠も無い。ズーラーノーンが何をしているのか、詳しくは知らないからな。あの場でどうこうは出来ないだろう」

 

「いえ、そうではなくて。なんて言うんでしょう、その、あまり悪い人には思えなくて……」

 

「実際の所はどうなのだろうな。悪の組織にいる人間の全てが悪人とは限らん。まぁ、逆もまた然りだがな」

 

「大人って難しいですね…… もし目の前に悪い人がいたら、困っている人がいたらモモンガ様は助けてくれますか?」

 

「さぁな。前にも言ったが、私は正義の味方でも何でもない。この世界に迷い込んだだけの、ただの元人間のアンデッドだ」

 

(そう言いながら結局助けるんですよね。ただの優しい元人間のアンデッドだから)

 

「元の世界に戻りたいと思った事はないんですか?」

 

「無いな。あの世界には未練も何も無い。本当に何も無かったんだ……」

 

「それならモモンガ様もこの世界での夢とか、大切な物が見つかると良いですね」

 

「確かにツアレにあれだけ言って自分に夢が無いのは不味いな。まぁ死ぬまでには見つかるだろう」

 

 

 私はアンデッドだから死なないけどな。

 そう言って笑うモモンガにも何か夢を見つけて欲しい。

 自身に希望を与えてくれたこのアンデッドにも大切な物が見つかれば良いなと、ツアレは心から思うのだった。

 

 

 

 

 この世界ではどこの都市でも孤児はいる。教会や孤児院が出来るだけ多くの子供を救おうと奮闘しているが、予算は少なく人手も足りていないのが現状だ。

 教会や孤児院では時々ボランティアなどを募っているが、中々人は来てくれない。

 

 そんな中、孤児院の門を叩く男が一人……

 

 

「はい、どちら様……」

 

 

 その音に気づいた院長が玄関に出ると、立っていたのは筋骨隆々でスキンヘッドの大男。地味な服装だがタトゥーが見え隠れしており、どう見てもならず者にしか見えない。

 控えめに言っても不良グループのボスだろうか。

 

 

「こちらで人手が足りていないと聞いて来たのだが」

 

「ウチでは用心棒は雇っておりません」

 

「いや、ボランティアに協力をしに来た」

 

「えっ?」

 

「教会や孤児院を回っていてな。困っている人を助けたいと思ったんだ」

 

 

 男の声は見た目にそぐわず穏やかだった。よく見れば鋭い眼光の中にも優しさがある。

 本当なら得体のしれない人物を招き入れるのは間違っているのかもしれないが、やるべき事は多くて猫の手も借りたい状況なのだ。多少見た目が厳つくても構わないだろう。

 それにこの体格なら力仕事も得意そうだと、院長は彼を信じてみることにした。

 

 

「そうでしたか、これは失礼致しました。私はこの孤児院で院長をしているイレキと申します。貴方のお名前を伺ってもよろしいですか?」

 

「申し訳ないが名前は無いんだ。ただの修行僧(モンク)、モンクとでも呼んでくれ」

 

 

 

 

 


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