オーバーロード 拳のモモンガ   作:まがお

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 今までの感想欄でいくつか同じような疑問があったので、この作品での補足を前書きと後書きで少しだけ書きたいと思います。

Q.モモンガ様の物理攻撃はもっと強いんじゃ?
A.魔法攻撃力分は加算されていますが、筋肉量は増えてません。骨なのでその恩恵は受けられませんでした。
 それでもレベル100の戦士職に負けないくらいの物理攻撃力はあります。ただし近接系のスキルが無いので、ユグドラシルのレベル100としては戦闘力はかなり低めです。

Q.エロフ王が意外といい勝負してる?
A.実はエロフ王は装備や技量を含めてかなり強めにしました。レベルとしては70台後半くらいですが、レベル差で一方的な戦いにならない様に戦士寄りで殴り甲斐のある強さに設定しました。
 ただしモモンガ様が殺す気でやったらもう少し一方的になります。

 そして普通のレベル100戦士職、コキュートスとかと戦ってたら真っ二つです。



春が来たら

 エルフの国から少しだけ離れた三日月湖の近く。

 そこに倒れていたエルフの女性がピクリと動いた。

 モモンガが魔剣で貫かれる姿を見て、戦いの途中で失神してしまったカナトである。

 

 

「――っう…… あれ、ここは……――っモモンガ!? モモンガは!?」

 

 

 意識が覚醒するにつれて、先の光景が鮮明に蘇ってきた。慌てて起き上がるが辺りはとても静かで、木々を揺らす風の音しか聞こえない。

 どう考えても戦闘は終わっている。

 

 

「何よ、カッコイイ勝ち方を見せるって…… とっておきの魔法で決めるって言ったじゃない……」

 

 

 理解した途端に視界が歪み始めた。拳を握りしめ、震える声で文句を呟く。

 するとツアレが控えめに横から声をかけてきた。気が動転していて、隣に居たのにすら気がついていなかった。

 

 

「あの……」

 

「ツアレちゃん…… ごめん、ごめんね。私が連れて来なければ、モモンガは――」

 

 

 今更意味のないことだと思いながらもツアレに謝罪の言葉を口にしていると、仮面を付けたローブ姿の人物がやって来た。

 

 

「おーい、湖を元に戻してきたぞ。ああ、起きたのか」

 

「死なずに…… っえ?」

 

「どうした、大丈夫か?」

 

 

 掘り出したエルフ王を縛り上げ、凍った湖を元に戻す。その作業を終えたモモンガが二人の元に戻って来てみると、こちらを見たカナトが固まった。

 

 

「キャーッ!? 幽霊!? ゾンビ!? アンデッド!?」

 

「何故バレた!?――っじゃなかった。んんっ、私だ、モモンガだ!!」

 

「だからよ!! 剣で貫かれて死んだじゃない!!」

 

 

 どうやら魔剣に刺されたあの時、完全に死んだと思われていたようだ。錯乱する彼女を宥めながら、モモンガはテキトーな理由をでっち上げる。

 

 

「えーと、実はマジックアイテムの効果で一度だけ致命傷を無効化出来るんだ。だから私は死んでないぞ。アンデッドなんかじゃないぞー」

 

「先に言いなさいよ!! 本当に死んじゃったかと思ったじゃない、馬鹿。馬鹿、馬鹿馬鹿っ!!」

 

「ちょっ、やめ、打撃は弱点――」

 

 

 馬鹿と言いながら、モモンガの胸をポカポカと叩くカナト。

 そして叩いた内の一発が、ローブの首元にスルリと入ってしまった。

 

 

「手が、めり込んで…… この感触は、骨?」

 

「あちゃー、そうかー、このパターンかー」

 

 

 この後どうなるかは一度似たような事を経験しているので分かる。

 先の展開が読めてしまい、モモンガは頭を押さえながら天を仰いだ。

 

 

「いひゃいです」

 

「うん、ごめん。ツアレちゃんも肉が無いのかと思って」

 

 

 ツアレのほっぺをムニムニと引っ張り、彼女は一瞬冷静になった。

 しかし、もう一度モモンガのローブに手を突っ込む。

 

 

「やっぱり死んでるぅぅう!?」

 

 

 悲鳴を上げて再び失神してしまったようだ。パタリと倒れた彼女を見て、呆れた様な表情をしたツアレがモモンガを見ている。

 

 

「どうするんですか?」

 

「うーん、なんとか夢だったと思ってもらおう……」

 

 

 記憶を操作する魔法は使えるが、余り知り合いにやりたい手ではない。

 再び彼女が目を覚ました後、モモンガとツアレは30分かけて誤魔化す羽目になるのだった。

 

 

 

 

 エルフ王を倒した後の事。

 ぐるぐる巻きにしたそいつを他のエルフに引き渡し、お礼に魔剣を貰ってハイさようならとはいかなかった。現実はゲームの様にスムーズにはいかない。

 現在スレイン法国と戦争をしているため、彼らとの和平の目処が立つまでここに残って欲しいと言われたのだ。

 

 

「どうかお願いいたします。貴方様は我々を王の支配から解放してくださった。その上で更にお願いするのは無礼だと承知の上です。しかし、交渉が終わるまで、貴方様のお力をどうかお貸しください」

 

 

 モモンガはこの国の事情や政治の駆け引きについて、正直なところ詳しくは知らない

 どうやらエルフ王を倒した存在が国を守っていると法国に誤認させる事で、和平交渉を拒まれるリスクを減らしたいらしい。

 確かに国に強い存在がいないとなれば、法国が強引な手に出て来る可能性もあるだろう。法国はエルフ王の力をある程度知っている様だ。そのため、そんな奴を倒す存在がいると分かれば相手も慎重になるしかないだろう。

 

 

「確かモモンガ様はヒューミリスをお望みだとか。実はあの王のせいで若いエルフは知らない者もいるのですが、あれは本来国宝なのです」

 

「それは初耳でした…… 申し訳ありません。国宝を欲しがるなど、無理な事を言ってしまいました」

 

 

 国宝というのも頷ける。この世界の水準から考えるとあれは最高クラスの武器と言っても良い。

 そして鑑定魔法で調べると、あの剣はユグドラシルではあり得ない性能をしていた。

 特殊能力は『血肉を喰らって使用者の体力を回復』『装備するとステータスがアップ』である。シンプルで強いが、似た様な効果ならユグドラシルにも沢山ある。

 問題はレアリティだ。レアリティはさほど高くはない、つまりデータ量が多くはないという事。

 しかし、この剣の効果はデータの容量を超えた、破格の効果量だったのだ。

 

 

(あのポンコツは国宝を俺に渡しても良いと言ってたのか。一体どうやって説得する気だったんだか…… たぶん知らなかったんだな)

 

「いえ、ですが…… 国を挙げて式典を開き、正式な褒美として救国の英雄に渡す。そういう形ならば何とかなるはずです。いえ、周りに反対されようとも何とかしてみせます!!」

 

 

 鬼気迫る勢いで交渉を続ける重鎮。

 法国との戦争は余程切羽詰まっているのだろう。

 

 

「その式典を開くまでの間だけだと思って、私達に時間を頂けないでしょうか。国に滞在していただく間は精一杯おもてなしをさせて頂きます。それに、エルフ王を倒した救国の英雄がこの国にいる。その事実だけで指導者のいなくなった民達も安心するのです」

 

「はぁ…… 分かりました。少しの間だけこの国に滞在させてもらいます。ただし、私の正体はバラさないで頂きたい。私の顔や名前が広まるのは面倒です。あくまで国を救ったのは名も無き仮面の人物だという事で」

 

 

 国を立て直そうと必死な重鎮達に頭を下げられ、渋々モモンガは頷いた。

 あまり後先考えずに戦ったが、悪い王とはいえトップがいきなり消えるのは何かと問題があったのだろう。

 実際エルフ王を倒したのは自分だし、それくらいの責任は持つべきなのかもしれない。

 それに考えようによっては、ゆっくり待つだけで魔剣が手に入るのだ。王国と帝国の戦争から逃げる意味もあったのだし、避暑だと思えば別段悪くは無いだろう。

 

 

「貴方様は名声を求めないのですね…… 今の貴方なら、大抵の事は夢では無いのに」

 

「地位や名誉といったモノには興味が無いのです。今は彼女の夢を応援したいので」

 

「分かりました。一般の民には貴方様の名前は伝えません。式典の際も仮面を外さずに参加してくださって結構です」

 

 

 良い方向に勘違いされて、モモンガの株が勝手に上がっていた。この事が他のエルフにも伝わり、仮面の勇者の好感度は爆上がりである。

 そしてエルフの重鎮はああ言ったが、王の持ち物であった『邪剣・ヒューミリス』を渡す事に反対する者は実は最初から誰もいない。式典など必要ないのだ。

 ミラクルを起こしつつ、若干騙されている事をモモンガは知る由もなかった。

 

 

 

 

 エルフ国のとある広場。そこには沢山の人集りが出来ていた。

 その中央に居るのは音楽の流れる箱に乗り、物語を語るツアレである。

 内容はエルフ達の間で今一番の関心を集めるお話――エルフ王と仮面の勇者の戦いである。

 

 

「――エルフ王の魔剣に貫かれ、遂に力尽きたかに見えました。しかし、勇者は震えながらも立ち上がります。これには流石のエルフ王も驚きを隠せません。『お前は何故こんな無駄な事をする? エルフですら無いお前が私に挑む理由はなんだ!! 』――」

 

 

 物語のクライマックス、ツアレの語りにも熱がはいる。男性の様な力強い声ではなく可愛らしい声なのだが、その様は不思議と観客を引き込んでいった。

 

 

「――『私を信じてくれる人がいる。ならば、それ以外に理由などいらない!! 例え魔力が尽きようとも、この身にどれ程の刃を突き立てられようとも、貴様に負ける訳にはいかないんだ!!』しかし、彼の手にはもう武器となる杖はありません。そんな彼が最後の力を振り絞り、放ったのは願いを込めた拳――」

 

 

 微妙に台詞が違うが、そこはツアレのアレンジだろう。モモンガの言った言葉をそのままにすると、所々で悪役らしさが出てしまう。

 

 

「――両者が地面に崩れ落ち、そこから立ち上がったのは仮面の勇者。最強と謳われた悪虐の王を見事に打ち破り、彼は勝利を収めたのです。その結果、何が起こったかは皆さんが知る通り…… 本日の物語はここまでとなります。皆さま、ご清聴ありがとうございました」

 

 

 物語は締めくくられ、盛大な拍手と共に周囲から歓声が飛び交う。それをツアレは丁寧にお辞儀をしながら聞いていた。

 彼女にしてはやけに落ち着いている。それもそのはず、この話をするのは既に四度目。

 流石に観客の反応にも慣れてきたのだ。

 

 

「くぅぅぅっ、私はあんな事は言っていないはず…… 所々ぼかしているけど、直接聞くとやっぱり恥ずかしい!!」

 

 

 そんな裏ではモモンガが羞恥でのたうち回っていたとか。悪い事ではないのだが、黒歴史を暴露されているような気分になっている。

 ちなみに最近は表を歩くとすぐ囲まれる為、認識阻害の魔法が欠かせなかった。

 モモンガが開き直って堂々と表を歩く様になるのは、まだまだ先の事である。

 

 

 

 

 モモンガ達がエルフの国に来てから一ヶ月程が経った。

 既に夏の暑さは弱まってきており、時たま秋風が吹き始めている。

 

 

「そこそこ時間があったと思うのだが、法国との交渉は上手くいっていないのか?」

 

「いえ、元エルフ王を引き渡したので、順調に進んでおります。元はと言えばあの王が蒔いた種ですから、もう暫くしたら纏まるでしょう」

 

「そうか、それならば良いんだが」

 

 

 順調ならば焦ってもしょうがない。しかしいくらお礼とは言え、世話になりっぱなしも申し訳ない。モモンガは暇つぶしも兼ねてエルフ達のモンスター狩りを手伝ったりしていた。危険なモンスターが出てもモモンガにかかれば瞬殺である。

 そうして秋も終わりを告げ、寒い冬がやって来た。モモンガ達はまだエルフの国にいた。

 

 

「あの、長くないですか?」

 

「というか式典の準備とか本当にしてるのか?」

 

「はい、和平交渉も無事に終わりました。お互いに不可侵の条約を結んだので、この国にもまた平和が訪れるでしょう。後はこの国の新しい指導者、王が決まれば式典は行えますよ」

 

 

 そう言われれば引くしかない。モモンガ達はエルフの国に滞在し続ける。しかしあらかた観光も終わり、やる事もなくなって来た。

 暇なモモンガは魔法を使った大道芸もどきをして、子供達を楽しませたりしながら過ごしていた。

 

 ――そして、遂にはエルフの国へ来てから半年ほどが経った。

 

 

「おい、流石におかしいだろ。夏、秋ときて、この調子だと冬を越えそうなんだが?」

 

「春まで体験したら完璧ですね。ところでモモンガ様はこの国の王様とか興味ありませんか? 今ならヒューミリスが付いて来ますよ?」

 

 

 どこからかヒューミリスを取り出しながら、重鎮のエルフは王様になる事を勧めてきた。

 

 

「えっ? いやいや、私はエルフじゃないぞ」

 

「しょうがないじゃないですか。国を救って、危険なモンスターも進んで倒してくれる。オマケにお二人は子供達まで喜ばせる術がある。モモンガ様の人気が高すぎて、他のエルフが王になりたがらないんですよ」

 

「知らねーよ!!」

 

 

 愚痴のような物言いに思わず素が出てしまった。

 

 

「分かりました…… それならこちらっ!! 最高に美しい女性が貴方様の妻にっ!! 今なら希望者が多いので選り取り見取りですよ? 複数もオッケー、寧ろ推奨致します」

 

 

 挙句の果てに、まさか深夜にやってる通販番組みたいな事を言い出すとは。わざわざ後ろに女性陣までスタンバイさせて一体何がしたいんだ。

 

 

「どうですか。どの女性も貴方に夢中ですぞ」

 

「えっ!? んんっ、普通に魔剣だけください…… 実は貢献度的にはもうくれても問題ないんじゃないか?」

 

 

 元々容姿に優れるエルフの中でも特に美人な者を連れてきたのだろう。熱っぽい多数の視線にさらされて、流石に動揺してしまう。

 それにしてもこの重鎮エルフ。最初の頃、俺に頼んできた真摯な態度はどこに行ったんだ。

 

 

「モモンガ様、今ちょっと揺らぎませんでしたか?」

 

 

 不味い、ツアレの頬っぺたが膨らんでいる。ここは大人の対応を見せねば、紳士的モモンガのイメージが崩れ去ってしまう。

 冷や汗をかき、雫が頬を伝っていく――リアルタイムな心情をきちんと反映した、無駄に高度な幻術を仮面の下で展開しているモモンガだった。

 

 

「元エルフ王の私物なんかより、こっちの方が断然お得だと思うんですけどね。国民から愛されるハーレム王なんて中々いないんですよ? 富、名誉、異性、権力の全てを手に入れられる滅多に無いチャンスなんですがねぇ」

 

「おい、お前。今、私物って言ったな? 国宝は嘘か? 嘘なのか? おい、どうなんだ?」

 

「ああ、遂にバレてしまいましたか…… これ以上お引止めするのは無理ですね。仕方ありません。遅くなりましたが、国を救って頂いたお礼です。どうぞこちらをお受け取りください」

 

「……」

 

 

 絶望のオーラを凄く出したくなった。

 なんだろう、レベル1くらいなら使っても許されるんじゃなかろうか。

 『邪剣・ヒューミリス』を遂に手に入れたモモンガ。しかし、なんとも感動は薄い。

 これ以上相手のペースに呑まれる訳にはいかない。知り合いに挨拶だけすますと、何か言われない内に転移で逃げる様に国を出たのだった。

 

 

 

 

 長い長い旅を終え、久しぶりにリ・エスティーゼ王国に戻ってきたモモンガとツアレ。

 今回はエ・ランテルではなく王都の方に来ていた。

 

 

「ふぅ、久しぶりの王都だな。そういやクライムは元気でやっているだろうか」

 

「そうですね。きっと今も努力を続けてますよ、きっと」

 

 

 自然に浸り過ぎたせいか、人の多いこの街が少しうるさく感じる。ここで出会い、そして別れた少年の事を思い出しつつ、ツアレと約半年振りに人の街を歩いた。

 ふらふらと当てもなく歩いてると、本通りを少し外れたところで子供達が遊んでいるのを見かけた。

 

 

「ツアレ、折角だからここでもアレをやってみないか? エルフ達にはウケたが人間相手の反応も知った方がいいだろう」

 

「そうですね。私の初めてのオリジナルな物語ですし、気になります。モモンガ様の活躍が世に広まりますよ!!」

 

「そういわれると辛いな。名前は出すなよ、あれはあくまで謎の仮面の人物なんだからな」

 

 

 完全な思いつきだったがツアレは意外と乗り気だった。

 エルフの国で散々披露したが、何も知らない人達にも聞いてもらいたいという気持ちがあったのだろう。

 分かってますよと言いながら、彼女は音楽の出るマジックアイテムの箱に乗った。

 それに気づいた何人かの子供が興味を持ったようで、こちらの様子をちらちらと窺っている

 

 

「皆さん初めまして、私は吟遊詩人見習いのツアレです。ほんの少しだけ、どうぞお付き合いください。これより話すのはまだ人の世に広まっていない物語。エルフの国を救った名も無き英雄の話で御座います――」

 

 

 ツアレが話し始めたのを見守りながら、最初にカルネ村でやった時のことを思い出す。

 あの時の彼女はかなり緊張しており、道中に散々練習していた。それがどうだろう。今も子供が多いとはいえ、実に堂々と話せるようになった。

 

 

「――『君が信じてくれるのなら、私はどんな敵にも立ち向かおう』仮面の勇者はそう告げて――」

 

 

 マジックアイテムも以前より上手に使えるようになっている。場面に合わせて音楽を切り替え、そのBGMは物語をより盛り上げている。

 聞いたことのない音楽の効果もあって、通りにいた人は皆足を止めて聞いてくれていた。

 

 

「――こうして仮面の勇者はエルフ達の未来を切り開いたのでした…… 本日のお話は以上になります。ご清聴ありがとう御座いました」

 

 

 周りから拍手が起こる中、モモンガは奇妙な一団が目に入った。

 集団から少し離れた位置で護衛の騎士に囲まれ、車椅子に乗った子供。白い帽子を被っており、レースが付いていて顔は全く見えない。仕立ての良いドレスと騎士がいることから、どこかの貴族だろうか。

 そして気になったのは顔が隠れている筈なのに、何故かこちらを見られているような気がしたからだ。

 

 

「ツアレではなく私の方を見るとは…… この仮面が気になったのか?」

 

 

 まぁ、目立つし当たり前か。どうでもいい事だと頭から振り払い、ツアレと一緒に今日の宿を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 少女は今日、初めて自分の理解出来ないものに出会った。いや、興味が湧いたものだろうか。

 変わらない生活に少しでも刺激を与えるため、父親からの勧めで護衛を連れて城を出た。

 護衛に車いすを押されながら、特に珍しいものもない王都の街並みを眺め続ける。

 

 ――つまらない。

 

 そう思っていた彼女の耳に、どこからか聞き慣れない音が聞こえてきた。管楽器、弦楽器、打楽器、鍵盤楽器などの様々な音色が混ざった曲。

 しかし、その音の中にはどの様な楽器を使っているのか分からない音色が混じっている。

 自分の知らないことがあった。久しぶりにそう感じた彼女は護衛に伝え、音の発信源へ向かった。

 

 

「あれは吟遊詩人というものかしら……」

 

 

 そこにいたのは自身よりほんの少し年上に見える程度の少女。そんな少女が不思議な音楽の流れる箱の上に立っている。

 別に吟遊詩人を見たことが無い訳ではない。子供の吟遊詩人が珍しかっただけだ。

 そして、彼女の口から語られる物語は全く聞いた事の無い内容。

 冒頭は聞き逃したが、内容の予想は簡単に出来る。恐らく英雄が悪を倒す、極々普通のありふれた勧善懲悪モノ。

 

 

「――『私を信じてくれる人がいる。ならば、それ以外に理由などいらない!!』――」

 

 

 物語に登場した勇者は信じられない様な魔法を使って戦い、敵の剣に刺されようが立ち上がる。あり得ない。そんな人間が居るわけがない。

 想像の産物だと切り捨てることは容易だ。むしろこの内容で現実だと信じる方がどうかしている。

 だが、しかし――

 

 

「あの子は…… どうして、あんなにも誇らしげに語るのかしら」

 

 

 少女にかかれば人の感情を見抜くことなど容易である。理解も共感もできずとも、真剣に観察すれば何を考えているかは大抵予想がつくのだ。だが今はそんな自分の能力も信用しきれないでいた。

 彼女の語りからは物語の登場人物を本当に信じている。本気で尊敬している。愛情にも似た本物の感情が込められていたのだ。まるでその冒険をずっと見てきたかのようだ。

 そのまま観察していると、ふと気がついた。観客を見渡している時、ほんの僅かだが彼女の表情が嬉しそうに動く瞬間がある。

 気になって辺りを見回すと、少し離れた所にそれは居た。

 黒い地味なローブに籠手、そして顔にはよく分からない仮面。

 どう見ても不審者――怪しさ満点の魔法詠唱者(マジックキャスター)だった。

 

 

(いけない、見つめすぎて気付かれたかもしれない)

 

 

 向こうがこちらに振り向いた気がして、ゆっくりと視線をずらした。お互いに顔が隠れているため、実際に見られたという確証はない。

 やがて物語が終わり、その二人は仲良さげにどこかへ行ってしまった。

 

 ――あの二人の事を知りたい。

 

 この少女、リ・エスティーゼ王国第三王女――ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは久々に心が動くのを感じた。

 

 城に戻り自室のベッドで休んでいると、国王である父親がいつもの様に自分の様子を見に来た。

 その時ラナーはあるお願いをする。

 

 

「ねぇ、お父様。今日とても面白い話をする吟遊詩人と、仮面を着けた変わった人を見つけたの。その人達をここに呼べないかしら?私、その人達とお話ししてみたいわ」

 

「ああ、ラナー、お前が我儘を言うのはいつぶりか…… 分かった、必ず連れてくるよ。だから少しでも良くなっておくれ」

 

 

 最近は明るい話題など何もない。そんな国の国王にとって、娘の回復に繋がるかもしれない希望の発見は何よりの良いニュースだ。

 国王ランポッサ三世は娘が心から楽しめるように、万全を期して手筈を整えるのだった。

 

 

 

 




Q.武技強すぎない?
A.ハムスケ(物理攻撃27%)以下の力しか無さそうなブレインが、シャルティア(物理防御85%)の爪を斬れる。
 もしや武技って振れ幅が大きくて、使い手によってはかなり強いのでは?と想像しました。
 ちなみにこの作品でクレマンティーヌなんかが、モモンガ様の本気のフルスイングを〈不落要塞〉するとたぶん死ぬ。
 あくまで自分の想像なので「俺のリュラリュースはもっと強いんだ!」といった具合にお考え下さい。

 描写不足で伝えきれていない部分があるかもしれませんが、これからもお読みいただければ幸いです。

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