吟遊詩人となったツアレが冒険者チーム『漆黒の剣』と冒険――という名のネタ探しに出かけてから、早くも数日が経とうとしている。
極々普通の
彼女がいない間久しぶりに一人で過ごしていたモモンガだったが、思い返せば初日から帝国に行って中々濃い日々を過ごしている。
「帝国に行った時はいつも貯金が増えてたんだが、今回は初めての赤字だな」
とある姉妹のために使った金額を頭の中で数え、リアルではあり得ない程の浪費っぷりに思わず笑いが出た。
僅か数日で随分と散財――実は一般的な帝国の家庭が一ヶ月暮らせる金額の二百倍くらい――してしまった気がするがモモンガに後悔はない。
むしろ気分がいいとすら言えるだろう。
(ツアレが帰ってきたら話のネタにするか)
そんな事を考えながら冒険者ギルドを覗きに行くと、ちょうど『漆黒の剣』のメンバーとツアレが帰ってきていた。
モモンガは受付で仕事の報告を終えたばかりの彼らに、後ろから優しく声をかける。
「おかえり、ツアレ。無事に帰って来れたみたいだな」
「モモンガ様…… はい、ただいまです」
「冒険は楽しかったか?」
「ええ、まぁ。なんというか、その……」
道中に何か問題でもあったのか、あまり元気のない返事が返ってきた。
モモンガとしてはどのような冒険だったか非常に気になるのだが、問いかけられたツアレは分かりやすく目を逸らしている。
そして『漆黒の剣』の面々はというと、各々が別の方向を見ながら遠い目をしていた。
「エルダーリッチが一撃で倒せる程度の雑魚アンデッドだったなんて…… しかも魔法詠唱が素手でも倒せる存在。それを倒せない私達は一体……」
「既に他の冒険者が一つ、そしてモモンガ氏も一つ手に入れているのであるか…… 一人一本ずつ漆黒の剣を持つ――チーム結成時の密かな夢が崩れたのである……」
「アゼルリシア山脈の頂上の景色? アベリオン丘陵を歩いた? 野営は家を建てるもの? あはは、姉さんが遠いところに…… 私も早く強くならないと。魔獣を投げて湖を凍らせてアンデッドをワンパンして――最後に頼るべきは魔力より筋力――」
冒険者になる者の多くは、大なり小なり英雄という存在に憧れがある。
現在はまだまだ駆け出しといえる
それ故にツアレから色々と聞かされた――本人は妹にちょっと自慢したかっただけで悪気はない――彼らはどこか夢破れたような顔をしている。
「ちくしょうっ!! 超絶美人なエルフのハーレムを差し出されて断るなんて…… 俺なんてまだ一回も告白すらされた事ないのにっ!!」
一人だけ血の涙を流しているチャラ男――ルクルットだけは考えている事が少し違っていた。まぁそれも男の夢には違いないのかもしれないが。
ちなみにこの男の告白が上手くいった事はない。
下手な鉄砲数打ちゃ当たるは嘘である。
「くっ、みんな思い出せ!! 私達にはこれがある。それに、まだ何も終わってなんかいない」
「そうであるな…… まだ冒険者として諦めるには早いのである」
「ああ、そうだな。こうなったら俺もガンガン上を目指して、いつか自分だけのハーレムを作ってやるぜ!!」
夢と常識を一度壊されたはずだが、意外と男達の復活は早かった。
リーダーであるペテルが仲間を焚きつけ、お揃いの黒い短剣をみんなで掲げてやる気を出し始めている。
むしろ冒険に出る前よりも一段と結束が強くなっており、燃えるような気合が感じられた。
「――モモンガさん、姉さんの事をもうしばらくお願いします」
「はい?」
そしてブツブツと独り言を繰り返していたニニャだったが、男達がやる気を出し始めた頃、やっと現実に帰還した。
自問自答の末、真っ白に燃え尽きた彼女は、姉であるツアレの事を今しばらくの間モモンガに託す事にしたのだ。
「本当はこの依頼が終わったら、姉さんと一緒に暮らせるかもしれない――私も頑張って稼ぐから一緒に暮らそうと、そう伝えるつもりでした。そう思ってたんです……」
「えっ、何この状況? ツアレ、どういう事だ?」
「えっと、あはは……」
ツアレが原因で何か起こっているのは何となく察したが、その本人は笑って誤魔化している。
「――ですが今の私では姉を養うどころか、対等に助け合って生きる事すら出来ません。昔のようにまた頼りきってしまいます!!」
「いや、ツアレより歳下だし、家族なら普通に頼るくらいはいいんじゃないのか?」
「このままじゃダメなんです!! 姉のヒモになる訳には…… せめて姉さんの半分は稼げるようにならないと。だから私達が
まるでツアレが高給取りみたいな言い方にモモンガは疑問を覚える。
ツアレの現在の収入は吟遊詩人の活動で得られるものだけだ。一般的な平民と比べても安い金額しか稼げていない。
鉄級の冒険者はランクで言えば下から二つ目だが、収入面で大きく負けているとも思えなかった。
「あと姉さんは普通ではありません。ちょっとヤバ――天然です。私はそんな姉さんも可愛いと思いますけどね、うん」
そしてニニャはさり気なく姉にひどい事を言いかけて――誤魔化した。
新たな目標を掲げたニニャと『漆黒の剣』の男達はそのまま冒険者組合を去っていく。
残されたのは状況の理解出来ていないモモンガと、知ってて何も言わないツアレのみ。
「えっ、誰も私に説明してくれないのか? 話にサッパリついていけないんだが」
モモンガが困惑していると、話題の中心であるツアレが瞳をウルウルとさせながら見つめてきた。
妹に言われた事がショックだったのか、それとも別の理由があるのかは分からないが、口を結んで非常に悔しそうだ。
だがこの顔は前にも見た事がある。
ツアレが暴走気味な時――やる気を出す前に見せる顔だ。
「モモンガ様…… 私、普通を体験しようと思います」
「その発想は既に普通からかけ離れている気がするんだが」
「そして今度は極々ありふれた普通の日常を物語にして妹に披露します」
「物語の前にまず私に説明するところから始めようか」
「妹とのすれ違いを無くすために!!」
「先に私とのすれ違いを無くしてくれ……」
ツアレのやる事――モモンガも割と思いつきで行動しているので人の事は言えない――は偶に突拍子がない。
いや、本人的には理由があって計画的に行動を起こしているのだが、結果が残念に終わっているだけだ。
(やれやれ、ツアレの独り立ちはもう少し先になりそうだな)
こんなやり取りもツアレが吟遊詩人になると決めた頃にはよくあったものだ。
二人が出会ったばかりの目的を探していた時や、ツアレが徹夜で企画を練っていた時の事を思い出して、モモンガの口からふっと笑いが洩れる。
「明日から早速頑張りますよー!!」
胸の前で拳を握り宣言する彼女を見て、自分の日常が戻ってきた事を実感するモモンガだった。
◆
陽が落ちて辺りが暗くなってくる頃、仕事を終えた冒険者達の喧騒と酒の匂いがとある場所には集まっている。
エ・ランテルの冒険者ギルドに隣接している酒場である。
「肉の盛り合わせ出来たよ、持ってきな!!」
「おーい!! こっちにも酒だ、早く持ってこい!!」
「おいおい、急に寝るなよ。まだ全然飲んでないのによ」
「こいつ完全に意識失ってるぞ?」
「がははっ、店員のケツ追っかけて倒れるとかアホだろ!!」
「いってぇぇぇ!? 今なんかぶつけたの誰だよ!?」
「こっちの注文もとってくれ!!」
バハルス帝国では専業の兵士がモンスターの討伐も請け負っているため、冒険者の仕事は少なくその地位も他国に比べて低い。
しかし、流石の超有能なジルクニフ皇帝でも一気に拡大された領土――元リ・エスティーゼ王国領を完全にカバーできる程の兵士をすぐには用意出来ない。
それ故にエ・ランテル周辺のモンスターなどは国が討伐していないため、元王国の冒険者達にはまだまだ活気があった。
「はーい、少々お待ちください!!」
そんな冒険者達の笑い声と注文が飛び交う中、負けじと声を張り上げる一人の少女。
給仕服に身を包み、慌ただしく動いているのは職場体験中のツアレである。
「おっ、吟遊詩人の嬢ちゃんじゃないか。ここで働き始めたのかい?」
「いえ、私は今日だけのお手伝いなんです。ちょっとしたネタ集めというか――」
ツアレは酒場の店主に頼み込み、一日だけ給仕のお手伝いとして仕事をさせて貰っているのだ。
一日だけのお手伝いとはいえ仕事は仕事。
ツアレは慣れない仕事ながらも、時折お客さん達と話しながら一生懸命に働いていた。
(うん、大丈夫。私は普通の事もちゃんと出来てる!!)
仕事に確かな手応えを感じ、ツアレは失いかけていた普通に対する自信を取り戻す。
「すみません、注文いいかしら?」
「はい、お伺いしま――」
テーブルを片付けている時に後ろの席から声をかけられ――即席の営業スマイルを添えて――その場でパッと振り返る。
どんなに忙しくても笑顔は絶やさない。
人前に出る仕事の際に表情は大事なポイントだと、モモンガに貰ったアドバイスだ。
「――何してるんですか……」
しかし、振り返って相手の姿を確認した途端、ツアレの完璧な笑顔が崩れた。
声を聞いた時点で薄々気づいてはいたのだが、実際に見ても予想通りだった。
「あら? 私はただ食事に来ただけよ。ここを選んだのは偶々です」
「今言った通りだ。私も食事をしようと外に出たら偶々ラナーに会ったんでな。折角だから一緒に食べる事にしたんだ。ここを選んだのは偶然としか言えないな」
とても可愛らしい少女と、とても怪しい不審者の二人組。
一人は黄金のような笑みで、もう一人は変な仮面姿でテーブル席を陣取っていた。
ほとんどの客が冒険者のこの店では、荒事とは無縁の上品なラナーはかなり浮いている。
モモンガに至ってはどんな場所でも目立つので言うまでもない。
「はぁ、もういいです。――それではお客様、ご注文をどうぞ」
真顔でシラを切る二人に少しだけイラッとした。
ツアレはあえて丁寧に注文を取ってから、これまた丁寧にお辞儀をしてから厨房に伝えに戻った。
「モモンガ様、あそこの人がお尻に手を伸ばしてます」
「はぁ、またか。〈
ラナーは周囲の気配に敏感なのか、ツアレにピンチが訪れると直ぐに気づいて教えてくれる。
モモンガはそれを聞き思わず溜息を吐きつつ、もう何度目かも分からない魔法を周囲にバレないように放つ。
「んー、大好きな人と一緒に食べるご飯は格別です。あっ、その隣の人達も何かしそうですよ」
「私も落ち着いて食事がしたいよ…… もう面倒だな。〈
美味しそうにご飯を口に運ぶ彼女を眺め、指を指された方向へ投げやりに魔法を放つ。
「ふふっ、モモンガ様も大変ですね」
「嫌な予感はしてたんだが案の定だ。なんであんなに狙われやすいんだろうな…… ツアレは幸運値が低いのか?」
「元々お酒の席にああいったトラブルは多いですから。ツアレさんの所為とも言いづらいですね」
「ラナーも気をつけた方がいいぞ。子どもでも狙ってくる奴はいるもんだ」
モモンガ目線でまだまだ子どものツアレすらちょっかいを出されているのだ。
更に歳下とはいえ、ラナー程の美少女なら狙われてもおかしくないと忠告する。
誰もがかつての友人のように「イエスロリータ、ノータッチ」の紳士ばかりではないのだ。
(いや、でもアイツは結構スレスレだったか? 変態という名の紳士だったような……)
もしこの世界で結婚出来る年齢を知ったら、某バードマンは合法ロリを探しに飛び立つかもしれない。
「それは怖いです。もしもの時は守ってくださいね、モモンガ様。白馬に乗って登場して下さるのを期待してます」
「出来れば最初から危機は回避して欲しいんだけどな」
おどけるような様子のラナーに、この子は本当に大丈夫なのかと少し心配になるモモンガ。
実際はラナーにとって危機なんて回避するどころか、自分に都合のいいチャンスに作り変える事すら余裕である。
モモンガに対しては失敗する事が多かったが、人外領域に達した頭の良さは並ではないのだ。
「さて、デザートでも頼んでゆっくりしましょうか。まだここに居ますよね?」
「そうだな。本当はすぐに帰るつもりだったんだが…… こんな調子じゃ仕方ないだろう」
「私はいくらでもお付き合いしますよ。さぁ、モモンガ様も一緒に選びましょう!!」
二人はゆっくりと食事をしつつ、不届き者を見つける度に妨害を繰り返した。
慌ただしい食事でモモンガは気疲れしていたが、ラナーは
純粋な喜びを表したその笑顔は、心配性なモモンガの心を癒してくれたとか。
「寝てるお客さんが多いなぁ。酒場では寝落ちするのが普通なのかな?」
ちなみに自分が二人のSPに警護されていた事には、仕事を終えた後も最後まで気づかないツアレであった。
◆
村人達が農業に勤しみ、牧歌的な雰囲気が漂う村――トブの大森林近くの開拓村、お馴染みのカルネ村である。
「普通といえば農業――と、いう事で畑仕事のお手伝いです!!」
「お二人はいつも唐突に現れるからビックリですよ」
「あとでお話も聞かせてね、ツアレさん!!」
「はい、協力はエモット家の皆さんでーす。エンリ、ネム、よろしく頼むよ」
とある日の朝、ツアレとモモンガの二人はカルネ村を訪れていた。
理由は言うまでもなくツアレの普通体験である。
リアルでは消滅したに等しい仕事ではあるが、この世界で農業といえばかなり一般的な仕事だ。
確かに普通といえば普通だろう。
「手伝って貰えるのは助かるんですけど、本当にいいんでしょうか?」
「これもツアレのためだと思って好きなだけ働かせてやってくれ」
「早く、早くっ!! モモンガ様も遊びにいこーよ!!」
「ああ、じゃあ一緒に行こうか。ネムは私が見ているから安心して欲しい」
モモンガはネムに袖を引っ張られて早々にどこかに消えていく。
エンリとしては妹が失礼な事をしないか心配――既に微妙なラインなのだが、モモンガの優しさに甘えて任せることにした。
「もう、ネムったら……」
「ふふっ、元気でいいじゃないですか」
天真爛漫で元気いっぱいなネムを見てエンリとツアレの二人は笑いあった。
甘いと思いつつも、歳の離れた妹はやっぱり可愛いものである。
「よしっ、とりあえずやりますか、ツアレさん」
「任せてください。私も元々農村の生まれですから」
手始めに畑に向かい、毎日のように生えてくる雑草を黙々と引き抜く二人。
そのまま作業を続けて一時間ほど――気温はさほど高くないとはいえ、しゃがみ続けての作業は中々腰にくる。
「くぅぅぅ、久しぶりにやると腰が……」
ツアレは同じ体勢を続けて固まった体をほぐすように大きく伸びをする。
隣ではエンリも同じように体を伸ばしていた。
「ツアレさんはいつも何かに挑戦していますよね」
「え?」
不意にエンリに声をかけられたが、ツアレにはその意味が理解できない。
そんな様子を知ってか知らずか、エンリは何でもないように言葉を続ける。
「だって普通はそんなに色々やらないですよ。畑仕事をしたり、家の手伝いをしたり、私の毎日は変わりませんし」
(言われてみれば確かに…… なんでそんな簡単な事も忘れてたんだろう。もしかして私、暴走してただけ?)
普通の村娘の言葉によって自身の失敗を悟ったツアレ。
そう、わざわざ日常の物語を作る必要なんてない。
初めから妹ともう一度話せば良かっただけだったのだ。
ツアレの普通体験、終了である。
◆
その日の夜、いつもよりほんの少しだけ賑やかなエモット家の晩御飯。
食卓では今日何をして遊んだかを、ネムがみんなに向かって話していた。
「あのね、あのね!! モモンガ様凄いんだよ!! 私を抱えて空をビューンって飛んでくれたの!! 他にもいっぱいしてくれたんだよ!!」
「もうっ、お行儀良くするようにって言ったのに…… モモンガ様、ネムがわがままを言ってごめんなさい」
「はははっ、大丈夫だよエンリ。私も楽しかったからな。ただの〈
娘が瞳をキラッキラに輝かせて語る姿をエモット夫妻も嬉しそうに眺めつつ、モモンガに対して申し訳ないと苦笑した表情を見せた。
「うちの娘がすみません、モモンガさん」
「いえいえ、そんな大した事のない魔法ですから。魔力の消費も微々たるものですし」
そういう意味ではない事は分かっていたが、モモンガはあえて二人の両親にそう返す。
モモンガの方こそ、急に来た上に晩御飯までご馳走になって悪いと思っていたくらいだ。
「ところでツアレさんはなんで畑を手伝ってたの?」
先ほどまでモモンガとの遊びの話をしていたネムだったが、急に話題をコロッと変えてきた。
「ええっと、普通を知るための勉強?」
『普通』に敏感になってしまっていたツアレは、理由を言うのが恥ずかしくて少しだけ言葉を濁す。
しかし――
「あははっ、変なの。『普通』だったらお手伝いより遊びたいよね!!」
「普通っ!?」
――ツアレの心に幼女の真っ直ぐな言葉が刺さった。
「モモンガ様」
「ん、なんだ?」
「遊びましょう」
「……そうだな。たまには遊ぶか」
結局『普通』に振り回されるツアレだった。
もはや当初の目的であった、妹とのすれ違い云々はすっかり忘れ去られている。
ツアレの普通体験、今度こそ本当に終了である。
◆
表の世界にはいない、後ろ暗い者達が集まる奴隷商。
裏社会の一大犯罪組織『八本指』が消えた今でも、取締りの目を搔い潜って違法な奴隷売買などは細々と続けられている。
「雇い主が組織共々消えた時はどうしようかと思いましたが、コレをくれた事だけは感謝しないといけませんね……」
客として来ていた一人の剣士の些細な癇癪によって、現場は血の海と化していた。
商品の奴隷だった物、それを売りに来ていた人間だった物が散乱する中で、男は剣を握りしめて何事もなかったかのように佇んでいる。
男の持つ嫌な気配のする錆びた色の剣からは、今しがたついたばかりの鮮血がポタポタと垂れて地面に波紋を作っていた。
「やれる、やれるぞ。ようやく使い方が分かった…… はははははっ!! この力があれば私は王にすらなれる!!」
物言わぬ屍しかいない場所で、男はたった一人狂乱の雄叫びをあげる。
「もはや『天剣』すら今の私には相応しくないでしょうねぇ!! 生きる価値の無い異種族も無能な人間も、全て私の奴隷だ!! 私は全てを支配出来る!! ……ですが、まずは私に二度も屈辱を与えてくれた男――」
――モモン、貴様への復讐から始めるとしましょう。
◆
おまけ〜ツアレの弁明〜
モモンガは『漆黒の剣』のメンバー達がなぜあんな風になってしまったのか、ツアレの必死の弁明をベッドに腰掛け静かに聞いていた。
「うぅ…… 違うんです。ちょっと自慢してみたかっただけなんです!! 冗談のつもりだったんです!! それなのにニニャったら、私がそれを普通の事だと思ってるって勘違いして……」
「そもそも今までの冒険を彼らが信じてくれたとは…… ツアレも物語を語るのが上手くなったんだな。アレに説得力を持たせるって中々凄いぞ?」
「えっへん、これでも吟遊詩人ですから――でも妹は私の事をヤバイ賭博師だと思ってます……」
モモンガが吟遊詩人として成長してきた事を褒めると、ツアレはそれに関しては自信が付いてきたのかパッと明るくなり胸を張った――
――だが、すぐに妹にどう思われているのかを思い出してどんよりと肩を落とした。
「ああ、なるほどな。闘技場で常に全財産を賭け続けたらそう思われても仕方ない。こればっかりは誇張もなく真実だな。うん、十分にヤバイ奴だ」
「うわぁぁぁぁん!!」
そしてモモンガは少女にトドメを刺した。
コッコドール「計画が失敗したわ!?」
自称天才剣士「落ち目の組織に興味はありません。さようなら」
イベントのために少しずつ育てておいた悪役、始動。