聖女の盾となりて   作:マスターBT

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ぶっちゃけ最後が書きたかった。
はい。盾inオルレアンを楽しんで頂けると幸いです。


邪竜百年戦争オルレアン

 懐かしい風の中に混じる血の香りがとても不快に感じられた。帰る事が出来なかった故郷に呼ばれたと思ったら、記憶の中とは全く違う景色に苛立ちが生まれる。辺り一面に広がる夥しいまでの死。自分を呼んだのは人理の最後の叫びだと理解しても尚、腹が立つ。何故、もっと早くこうなる前に呼んでくれなかったのかと。

 

「……いや、こんな事考えてる場合じゃないな。俺が呼ばれてるならアイツも居るはずだ。当面は合流を考えよう」

 

 村に背を向けて歩き出す。生者の気配が全く感じられない故郷、ドンレミを後にする。向かう先など決めていないが、オルレアンでも目指せば良いだろう。此処が俺の生きた地であり百年戦争の最中ならあそこに何かあるだろう。

 

「しかし、フランスの空をワイバーンが飛んでるってのも違和感が凄いな」

 

 俺に気がついていないのか悠々と空を飛んでいる緑や赤の鱗を持つワイバーン達。当たり前だが生前のフランスでは一度も見かけなかった幻想種だ。俺の様なただの盾使いに相手出来るものなのかねアイツらは。

 

「ん?戦闘音がするな、あっちか」

 

 目的地であるオルレアンから少し逸れるが、近くの森から僅かだが戦闘音が聞こえた。別に無視しても良いのだが、なんとなく本当になんとなくだがあそこに呼ばれている気がするのだ。

 

「……ジャンヌ。お前はそこにいるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ!」

 

「踏み込みが甘い!」

 

 黒いジャンヌから逃れ、休息していたカルデア一行。そこに敵側のサーヴァントであるバーサーク・ライダーこと壊れた聖女マルタが現れ、戦闘を開始していた。彼女の宝具である大鉄甲竜タラスク、そして今しがた盾で殴りかかったマシュをその盾ごと拳の一つで弾き飛ばすマルタの戦闘力の高さによりカルデア一行は押されていた。

 

「どうしたのですか、この程度では到底竜の魔女に勝てませんよ!」

 

 マルタはカルデア一行を試していた。自分を倒し、竜の魔女を倒せるほどの力を持っているのか。故に全力で戦ってはいるが本気は出していない。タラスクは現在、マリー・アントワネットとモーツァルトによってギリギリ押さえ込めている。本気でタラスクが暴れれば、サーヴァントになっているとは言え、生前戦士でもない王妃と音楽家など簡単に破れる。

 

「(よく抗うわね……でも、まだ足りない。もっと、その力を見せてみなさい)……タラスク!」

 

 時間をかければ自分を踏破出来ると分かるが、それでは足りない。ならば、更に追い込みその底力を引き出す。なに、潰れてしまうのならそこまで。遅かれ早かれ敗北するだろう。死が早まっただけだ。狂化によって狂った思考は聖女とは言え、耐えきれるものではなかった。

 主の呼び声にタラスクは応える。その場で回転し、マリーとモーツァルトを弾き飛ばし、マルタの目の前に立つマシュとジャンヌに襲いかかる。

 

「竜種の突撃、来ます!ジャンヌさん、私の背後に」

 

「分かりました!」

 

 盾を構えたマシュの後ろへジャンヌは移動する。盾持ちである彼女がタラスクの突撃を防ぎ、ジャンヌがその背を守る形だ。

 

「はぁぁ!」

 

 タラスクの突進を見事防いで見せるマシュ。だがそれはマルタの狙い通りであった。

 何かに祈りを捧げる様に手を組むマルタ。それと同時に高まり圧を発生させる彼女の魔力。その場の全員が気がついたーー宝具がくると。阻止しようと動き出しても既に遅い。何故なら、彼女の宝具は放たれている。

 

『ガァァァァ!!』

 

「きゃあ!?」

 

 その場で回転し、主から供給された魔力でマシュを弾き飛ばすタラスク。その勢いで、上空へと跳ね上がり巨大な隕石の様にマシュの背後にいたジャンヌへと襲いかかる。

 

『ガァァァァ!!(良いんですね、姉御!!)』

 

「やりなさいタラスク!!」

 

 マリーも、モーツァルトも、マシュも。その場の英霊全てが間に合わない。マシュに背を向けていたがゆえに反応が遅れるジャンヌ・ダルク。気がついた時には彼女では回避出来ないほどタラスクは迫っていた。ルーラーとしての耐久力を信じ目を閉じるジャンヌ。

 

「させねぇよ。宝具ーー『聖女に安らぎを(ジャンヌ・ポア・ラ・ペ)』」

 

 ジャンヌの危機にこの男が間に合わない筈がなかった。

 

「あな、たは…!」

 

 男が振り下ろした盾を中心に、夜だというのに辺り一面を照らすほどの輝きを持った黄金の光を放つ結界が生成される。やがてそれは人の形を取る。守られているジャンヌには見えないがそれは祈りを捧げ、微笑むジャンヌに酷似していた。彼は死ぬまでジャンヌと共にあり続け、ジャンヌと離れた時彼は死に、そしてジャンヌも死んだ。この宝具はその逸話が昇華されたもの。

 

 彼が聖人・聖女と認めた者を守る時のみ使える宝具。己の人生、全てを捧げ聖女を護った男の盾は聖人・聖女に降り注ぐあらゆる厄災を退ける盾となる。

 

 男が盾を大きく突き出せば、呼応する様に光が強くなりタラスクを吹き飛ばす。

 

「すまない遅くなったジャンヌ。今度はお前を護り通してみせる」

 

 その男、百年戦争で大きな盾を振り回しジャンヌ・ダルクを護ったという。

 その男、数千の軍勢にただ一人で挑み命果てても屈する事なく、ジャンヌ・ダルクが逃げる時間を稼いだという。

 ジャンヌ・ダルクの守護者にして、盾使い。見上げるほど大きなその身体の持ち主はただ一人。

 

「レーヴ…!」

 

「おう!レーヴ・ガルディアン、我が聖女の為に参上!ってな」

 

 万人を救える英雄ではない。天災を退ける英雄ではない。幻想種を踏破し輝かしい伝説を残した英雄ではない。

 

 だが、ジャンヌ・ダルクを護る為なら男は竜種の突撃すら防ぎ、聖女を安心させる為笑う。

 

 その姿は正しく、聖女の為の英雄だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと落ち着いたところで色々と話を聞いても良いか?」

 

 壊れた聖女マルタは敗れた。龍殺しの情報を残してその霊基は還っていった。一度落ち着いたところで情報共有でもしようとレーヴから持ちかけたのだ。

 

「あ、はい。その、先程はありがとうございます。お陰で助かりました」

 

 赤髪の少女、人理を託された最後のマスター藤丸立香がお礼をする。その言葉にこそばゆそうに頬を掻きながら、レーヴはその礼を受け取る。実はこの男、基本的にジャンヌを護ってるだけなので彼女以外からのお礼を受けた経験が乏しいのだ。つまりどう返せば良いのかよく分かっていない。

 

「レーヴ、私からも。貴方が来てくれなかったら危なかった」

 

「ジャンヌを護るのが俺だからな。しかし、俺の様なただの盾使いすら呼ばれるぐらいだから余程だとは思ったが、なんなんだこのフランスは?一体全体何がどうなっている?」

 

 ジャンヌからのお礼にはしっかりと返答する。この森に来る道中に見かけたワイバーンや空に浮かぶ光輪、そして滅びた村々。それら全てがレーヴが理解できないものだった。

 

『僕から説明するよ』

 

「うおっ、なんだとてつもなくビビりの癖に戦場に立って震えてそうな男の声は」 

 

 通信機越しに聞こえてきた声にあんまりな評価をするレーヴ。ロマニから現在、人類が置かれている状況が説明される。話が進んで行くうちにどんどん真面目な顔になり最後には、上を向きため息を吐くレーヴ。ロマニが話し終わると立香に視線を合わせジッと見つめたあと口を開く。

 

「世界ってのはどうして少女に重みを背負わせるんだか……自己紹介がまだだったな人類最後のマスター。

 俺はレーヴ・ガルディアン。クラスは見ての通りシールダーで現界した。護ることに関しては自信あるが立派な伝説など持たないただの盾使いだ。よろしく頼む」

 

 此処に本来は存在しない、盾の英霊が加わった。しかし、彼は聖女を護ることしか出来ない。

 

「……A……アー……サー……」

 

「アーサーじゃねぇよ。ジャンヌだ」

 

 贖罪を求め狂う騎士には最期の祈りをさせることはない。

 

「……殿は俺の仕事だが、王妃様。貴女が残ると言うのですか」

 

「えぇ!だって、貴方はジャンヌと離れてしまったから死んでしまったのでしょ?なら、貴方を残す訳にはいきませんもの。

 それに私はフランスの王妃。貴方が聖女を護る方なら私は市民を護る者、同じ護る者なら分かってくださるでしょう?」

 

「ぐっ……分かりました。ジャンヌ、聖人ゲオルギウス此処は引くぞ。王妃の覚悟を無駄には出来ない」

 

「待って!マリー!私は……もう誰かを!!」

 

「良いのです。きっと私はこの為に呼ばれたのですから」

 

 邪竜から街を、市民を護るために残る王妃を助ける術はない。

 

 彼は、レーヴ・ガルディアンという男は絶望をひっくり返すほどの力はない。だから、彼が加わっても本筋は変わらない。一騎当千の英雄ではなく、さりとて名も無き英雄として歴史に消える英霊ではない。だが、それでもそれでもこの男だからこそ、救える者がいた。

 

「答えろジル。何故、竜の魔女なんて願った…!何故、俺たちがついて行きたいと心の底から思ったアイツを、唯の幼馴染だからとついてきた俺より聖女としてのジャンヌに何より憧れていたお前が!!よりにもよって、ジャンヌを魔女だと言うのか!!」

 

「黙りなさい!!盾と言いながらジャンヌを守れなかった背信者が!!確かにジャンヌであるならば、この国を憎まないでしょう……ですが、私は、この国を、憎んだのだ……!我が聖処女を!我が友を!全てを裏切ったこの国を滅ぼすと誓ったのだ!!」

 

「お前の憎しみは理解しよう……道半ばで死んだ俺には抱けない物だ。だけどな、ジル・ド・レェ!お前はその願いを聖杯に祈った時点で、何よりお前自身が俺を…ジャンヌを……俺たちが駆け抜けた時間を裏切ったんだよ!!」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 盾を投げ捨て、本を投げ捨てあろう事かこの二騎は素手での殴り合いを始めた。レーヴは我慢出来なかった、友が道を踏み外すのが。申し訳なかった、何も出来なかった自分が。ジルは憎んだ、憧れの聖処女に信頼されていたのに守りきらなかった友を。そして、申し訳なかった、友の死後聖処女を守れなかったのが。

 

「ジル!!」

 

「レーヴ!!」

 

 憎しみも後悔も、慈愛も友情も全てがぐちゃぐちゃになりながら目の前の男を殴り続ける。彼らが喧嘩をする事は生前、一度も無かった。戦場を共に駆け抜け、笑い合ったがこうして正面から殴り合う事は無かった。

 

「なぁ、ジル!お前は世界なんて恨む必要なかったんだ。守れなかった俺を恨んで、ジャンヌが作った平和を享受すべきだったんだ……俺たちが夢見た平和を楽しめば良かったんだ」

 

「出来るわけがないでしょう!!貴方が、ジャンヌを守れないなんて思いも考えもしなかった。何食わぬ顔で戻ってくると思いたかった。そして、可能なら平和な世界で聖女でも盾でも兵士でもない。私達でくだらない、なんて事のない平和を生きたかった!」

 

「……馬鹿だなぁ……だからお前は堅物なんだよ」

 

「貴方の様に生きられたら……どれだけ良かったのでしょうね……」

 

 同時に倒れ伏す。口を大きく開け息を乱しながらスッキリとした顔で天井を見上げる二騎。

 

「……貴方が此処に召喚された時点で……私は負けていたのですね……聖杯を持ってしてもこのザマですか。こんなんじゃ、世界なんて壊せませんな……」

 

 ジルがゆっくりと立ち上がる。ふらふらとした足取りで投げ捨てた本を拾い、カルデアへジャンヌへの向き直る。

 

「…ジル」

 

「ジャンヌ……私は私がしでかした事の責任を取る必要があります…そこの馬鹿に存分に殴られたお陰で自死する気力も無いのです。どうか、私を地獄に堕としてくれますかな?」

 

「貴方がそれを望むのなら……ジル、大丈夫ですよ。私は最後の最後まで決して後悔しません。何故なら貴方達が共に居てくれたから。さぁ、戻りましょう在るべき時代へ」

 

 ジャンヌが旗を振るい、ジルにトドメを刺す。この特異点を生み出すほど、世界を憎んでいた彼は消えゆく最後まで笑みを浮かべていた。

 彼から出てきた聖杯をカルデアが回収すると特異点の修復が始まる。最期の言葉を交わしながら力を貸してくれた英霊達が消えていく。

 

「藤丸立香。きっとお前の旅はこんなもんじゃない苦難が待ち受けている筈だ。だが、決して絶望する必要はない。

 本当は、代わってやりたい。だが、世界はお前を選んだ。お前にしか成し遂げられない理由があるんだ。だから、苦しくても辛くてもそれ以上に楽しめ!お前が笑っていれば英霊達は力を貸してくれる。勿論、俺もな」

 

「ーーはい!レーヴさん、ジャンヌ、またね!」

 

 こうして世界の命運を背負う少女はフランスから戻って行った。次なる戦いがいつかはレーヴには分からない。だが、その旅に幸あれと祈りを捧げる。

 

「レーヴ」

 

 ゆっくりと頭が持ち上げられ、次には柔らかい感覚が後頭部に広がる。

 

「ただいまジャンヌ」

 

「お帰りなさいレーヴ」

 

 会話はそれ以上続く事は無かった。しかし、二人は漸く帰って来れた。迎える事が出来た。

 あの日、失ったものを。言いたかった言葉を。もう一度、彼/彼女と共に過ごせたのだ。特異点を修復した報酬としては余りにも小さい報酬を受け取って此度の戦いは終わった。




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