聖女の盾となりて   作:マスターBT

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バレンタインデー編!急遽思いついたので突貫で書き上げました!


想いは隠して

 2月14日。この日、カルデアはいつもより浮かれそして甘い空気が流れていた。白紙化された人類史を取り戻す戦いのほんの僅かな一休みの一幕。オルレアンの戦いの後、ジャンヌと共にカルデアに召喚された男、レーヴは食堂で職員やサーヴァント達のやり取りを眺めながらエミヤの淹れてくれた紅茶を飲んでいた。

 

「バレンタインデーか。良い日だな、エミヤ」

 

「乙女にとっては想いを伝える良い日だろうな。マスターも忙しそうにしていたよ」

 

「全員に配りそうだもんなあのマスターは。それでエミヤ?これは、バレンタインデーって事で良いのか?」

 

 紅茶と共に置かれたチョコレートケーキを指さすレーヴ。無名の英霊同士惹かれるところがあるのか、ジャンヌ達を除けばレーヴが最も関わっている男エミヤ。真名をさらりと呼ぶ辺り良好な関係を築けているだろう。

 

「無論だとも。別に男同士で渡し合ってはいけない訳ではない。友チョコなんて言葉があるぐらいだからな。君には日頃世話になっているからそのお礼だ。受け取りたまえ」

 

 食器を拭きながらサラッと言うあたりこの男のタラシっぷりがよく分かる。当人にとっては言葉通りの意味なのだからタチが悪い。多分、生前では女性で苦労しただろうなと思うレーヴ。何も言わず、当たり前の様に一緒に出されていたチョコレートケーキ、レーヴが指摘しなければこの男は何も言わなかっただろう。そして、この推測は合っている。

 

「んじゃ頂くか。エミヤの料理は美味いからな。っと、エミヤ!」

 

「何かねっと……チョコレートか」

 

「仕事しすぎのど阿呆には、糖分を与えないとな。まっ、俺は料理なんてしないから購買で買った市販品だけど」

 

 投げつけたチョコレートの説明をしながらエミヤお手製のチョコレートケーキを頬張る。しっとりした柔らかさに程よい濃さのチョコレートの甘さが紅茶と合う。ストレートで淹れられた紅茶はこのケーキと合わせて飲む様に淹れられたのだろう。紅茶とチョコレートケーキ、交互に食べる手が止まらない。

 

「しっかり休んでいるのだがね。まぁ、折角用意してくれた物だ、有り難く受け取っておこう」

 

「マスターが忙しそうにしてたって知ってるお前の事だ。どうせ、手伝ったんだろう?洗い物が多いぞ」

 

「さてな。私には君が何を言っているか分からない」

 

「逃げ方雑だな。っと、ご馳走さん。美味かったぜケーキ」

 

「食べてる様子を見れば分かるとも。喜んで貰えた様で何よりだ」

 

 ケーキのお礼を言えば流れる様に皿を回収され、紅茶のおかわりが用意される。ほんと、このアーチャーは執事みたいだ。常に相手が何をして欲しいか察して動いている。騎士王や、女神様達が何故かこの男に絡む理由を見た気がする。

 

「あ、いたいた。レーヴさん!」

 

「うん?おう、マスターか。どうした?」

 

 さっきまで食堂にいるサーヴァント達にチョコを配っていたマスター。藤丸立香がレーヴの元にやってくる。少し中身の減った大きな袋を持っている事からまだまだ配る相手は多そうだ。

 

「はい。ハッピーバレンタイン!」

 

 丁寧に包まれた可愛らしいチョコレートを受け取る。結構な数作る必要があるというのに手抜きを一切感じられないこのチョコレート。これが自分用の特別だとレーヴは思わない。目の前の少女は与えられた幸福を当たり前の様に周囲に返す事が出来る優しい人物だと知っているから。大きな袋の中身全てがこのチョコレートなのだろう。まぁ、マスター大好き勢にはちょっと残酷な優しさかもしれないが彼らもこういうマスターだから好きになった。だからきっと良いのだろう。

 

「おぉ、ありがとう。しっかし、丁寧だな、こんな盾を振るしか出来ない俺みたいなサーヴァントには手を抜いても良かったんだぞ?無理してお前が倒れたらハッピーなんて言えないからな」

 

 そう分かっててもついついお節介を言ってしまうのはジャンヌを思い出すからか。

 

「うっ……確かに量が多いから大変だったのは認めるけどエミヤやブーディカ達に計画立てて貰ったから無理はしてないよ!ね、エミヤ?」

 

「あぁ。何、少々時間を忘れて何回か日付を大きく越えたぐらいさ」

 

「ちょ!?それは言わないで!!」

 

 エミヤに隠していたことをバラされ慌てふためく立香。こうしている間は、本当にただの少女だ。人類を背負っているマスターには見えない。いっそ、ずっとマスターとしての顔しか知らなければどんなに楽だっただろうか。そんな事を考えて馬鹿な考えだと一蹴するレーヴ。そんなマスターならこんなに数多のサーヴァントが力を貸すことはなかったし、自分も力を貸す気にはならなかっただろう。

 

「たくっ、マスター。手を出してくれ」

 

「ん?」

 

 差し出された手にそっとなんの変哲もない髪留めを置く。マスター用にレーヴが用意していた物だ。魔術的な加護がある訳でもなく、レーヴに縁がある物でもない。本当になんでもないただの髪留め。似合うだろうと思って買ってきたが同じ物など購買に行けば幾らでも並んでいる。ただ、そんな当たり前の品を当たり前を送れなくなってしまった彼女にレーヴはあげたかった。

 

「女の子はお洒落したいだろう?それには何一つ加護とか特殊な素材で作られてるとかないから。お前が、ただの藤丸立香でいた時の様に付けて大丈夫だ。あ、俺のセンスで選んだから気に食わなきゃ捨ててくれ」

 

 髪留めを受け取った立香はしばらくまじまじとそれを見つめていたが、やがてレーヴを見て笑顔を浮かべ、お礼を告げた。それに笑顔で応じ他に待ってるサーヴァント達のところへと送り出す。

 そんなレーヴと立香のやり取りをエミヤは優しく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……いざ渡すとなると緊張しますね。マスターに渡せたから同じようにいけるかと思っていたけど……」

 

 レーヴに与えられた部屋の前で私はウロウロと不審者の様に動いていた。バレンタインデー、今日くらいは聖女ジャンヌではなく、ただのジャンヌとしてレーヴと会おうと思っていたけど中々決心がつかない。これなら、オルレアンに軍を率いて突撃した時の方がまだ落ち着いていたと思えてきた。視線を落とせば飾り気のないチョコレートが目に入る。何か飾ろうかと思ったけれど、結局何も思い付かず、シンプルなデザインのままになってしまった。いけませんね、どうにも私は普通の女の子の様に振る舞えない。 

 

「思えば……レーヴが召喚されて嬉しいのにそれを表に出した事がありませんでした」

 

 同じ村で育って私が巻き込んでしまって百年戦争に参加したレーヴ。彼に救われた事は数えきれないほどある。けど、私は彼に何かしてあげられたのだろうか?最期まで彼は私を守るために戦ってくれた。ずっと隣に居てくれた彼にただ私は甘えていただけなんじゃないだろうか。

 

「ジャンヌ?何してるんだ?」

 

「ひゃわ!?」

 

 いけない方向に考えが回り始めたときに声をかけられる。変な声を出してしまった……

 

「レ、レーヴ。外に出ていたんですね」

 

「星が見たくてな。それで、どうした?」

 

 ゆっくりと近づいてくる彼の足音に合わせて心臓がどんどんうるさくなる。用件を告げなければと、口を動かすが上手く動かない。どうやら緊張で強張ってしまってる様だ。ああもう!情けない。

 

「ンンッ!」

 

「うおっ!?」

 

 大きく咳払いをして覚悟を決める。明らかに変な私の様子に心配しているレーヴをまっすぐ見つめながら手に持っていたチョコレートを差し出す。

 

「ハ、ハッピーバレンタイン!です。レーヴ、私はカルデアでこうして貴方と共に居られるのをとても喜ばしいと思っています。

 共にマスターを守る身ではありますが、共に支え合い戦っていきましょう」

 

 結局、ちょっとばかり聖女としての私になってしまいましたが仕方ありません。差し出したチョコレートに彼が触れ、私の手から離れていくのが分かる。直後、私は彼に抱きしめられていた。

 

「レ、レーヴ!?!?」

 

 彼の逞しい腕が私の腰に回され、強く強く私という存在を確かめる様に抱きしめられる。

 

「ジャンヌ……ありがとう。俺も君とこうして居られるのがとても嬉しい。君と触れ合える日が来るなんて思っていなかったから。

 チョコレート、ありがとう。シンプルなデザインが凄く君らしいよ」

 

 耳元で感謝されるのはなんともこそばゆい。でも、彼がとても喜んでくれている様で私も嬉しくなる。私じゃ彼を包んであげるには小さすぎるけど精一杯手を伸ばし抱きしめ返す。私も彼を感じたかった。

 

「レーヴ……私は貴方にずっと助けられてきました」

 

「俺もそうだ。あの戦争を戦えたのは君が居てくれたからだ」

 

「でも、私が居なければ参加しなかったんじゃありませんか?」

 

「あぁ。だが、それはレーヴ・ガルディアンにはあり得ない話だ」

 

「……どうして、ですか?」

 

「ジャンヌが居なければ俺は世界に名を残す英雄にはなっていないからだ。もし、信託を受け取った君を見送っていたとすれば、その俺はもう俺じゃないんだ。君を守りたい。君の助けになりたい。君の笑顔が見たい。君の夢が叶うところを見たい。そう思ったからこそ俺はこうして存在している」

 

「本当に貴方は……私ばっかりですね。少しは他の人を見ても良いんですよ?」

 

「嫌だ。君が居るのに君以外を見る理由がない」

 

 ぎゅっと再び強くなる抱擁。流石に少し苦しいけれど、彼が望んでいるのならこのままでいよう。だって今はただのジャンヌなのだから。しばらく彼が満足するまで抱きしめられた私。やがて、冷静になったのか彼の方から離れる。少しばかり寒いと思ってしまったのはわがままだろうか。

 

「……お礼を用意してある。ジャンヌが良ければだけど、部屋来るか?」

 

「えぇ。お邪魔しますね」

 

 鍵を開け私を伴って部屋に入る。椅子に座って待ってくれば、紅茶の香りが流れてくる。どうやら、紅茶を用意してくれた様だ。しかし、彼のお返しとはなんだろうか。別に3月14でも構わないけどカルデアでは、よくその場でマスターにお返しをしている。きっと、彼もそれに習ったのだろう。そんな事を考えていれば、彼が紅茶とお菓子を持ってくる。

 

「エミヤから貰った茶葉で淹れた紅茶だから美味しいと思う。それと、これは少々不恰好だが、俺が作ったマカロンだ」

 

 バレンタインにおけるマカロンの意味。この時の私は知らなかったが、それは──『あなたは特別な存在』

 




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