三千世界監察軍。それは、数多の下位世界に存在するトリッパーたちの支援組織だ。ブリタニア帝国の特別保護星系に存在する100機近くあるコロニー群で構成されており、下位世界の知識と技術が集結する場所であった。
「ふう、今日も平和だな」
監察軍の総司令官シリウスは、いつもの業務をこなし休憩に入っていた。
「総司令、お茶です」
シリウスにお茶を差し出す生活班の少女。彼女は人間ではなく人間に限りなく似せているアンドロイドだ。
監察軍では掃除や食事などを担当する生活班や、医師や看護婦などの医療班、艦艇、艦載機などを整備する整備班は、アンドロイドで構成されていた。これは人件費削減という目的もあったが、有事の際に戦死者を減らす為だった。これは監察軍だけでなく、ブリタニア帝国もそうであった。
ブリタニア帝国の艦隊は無人艦や無人機が大半で、少数の有人艦がそれらの無人戦力を操作するという構成となっており、残りの有人艦も生活班、整備班、医療班はアンドロイドで構成されている。さすがに命の危険を伴うのにまともに昇進したりできないのは拙い。軍で昇進して出世するのは艦長などの指揮官や、参謀、パイロットなどですからね。
もっともブリタニアには、敵国や敵対勢力というものが存在しない。邪魔であった時空管理局は滅び、旧管理世界群も地球と共に衰退していた。つまり次元世界だけでなく、並行世界や他の下位世界からブリタニアに攻めてくるという者は存在せず、ブリタニア軍であっても訓練だけで実戦を経験していなかった。それだけこのブリタニアが平和で安定していたのが、これから未曽有の危機に陥ることになる。
ブーー!! ブーブーー!!
突然、大きく鳴り響く警戒音。
「な、何事だ!!」
シリウスは驚愕する。警戒音などこれまで訓練以外で聞いたこともなく、それだけ非常時という物に無縁だったのだ。
「総司令、コロニー群周辺で異常発生!! 周囲が無に飲まれています!?」
「なんだと!?」
バカな!? この星系でそんな異常が起こるわけがない。となると……。
「まさかベヅァーか!? いや、こんな事が出来るのは奴しかいない!!」
シリウスは焦る。それはシリウスが、いやトリッパー全てが恐れていた事態。破壊神の出現。多くの下位世界が並行世界ごと滅びる最悪の事態だ。
「ベヅァーが出現ほどのエネルギーはないはずなのに、一体どういうことだ!?」
監察軍を初めとするトリッパー達により破壊のエネルギーを中和されており、現時点でベヅァーが出現することは想定外だった。
「無の浸食が止まりません!!」
管制から悲鳴が上がる。
シリウスは慌ててすべての魔力を防御にまわすが、無は容易く防御をうち砕いてその身を飲み込んだ。シリウスも無駄なあがきであることはわかっていたが、それでも出来るだけの事をしていたが、効果はなかった。人もコロニーも次々と無に飲まれる。こうして監察軍本部のコロニー群は消滅していった。
「くくく、くくくっ……」
消滅したコロニー群の存在していた場所。そこには黒い巨人がいた。
それの名は破壊神ベヅァー。上位世界人が行った下位世界の創造の反作用の結晶。創造の反作用であるが故に破壊を司り、下位世界をその並行世界ごと滅ぼすことを目的としていた。
しかし、今のベヅァーには下位世界を並行世界ごと葬るだけの力がない。トリッパーによって力を中和され続け、いつまでたっても万全な状態にならなかったのだ。シリウスが考えていたとおり、ベヅァーが活動する段階ではなかったのだ。
しかし、ベヅァーは己の邪魔をし続けるトリッパー達を邪魔と考えて、トリッパーを排除する事にした。だから真っ先にトリッパー達が集結している監察軍本部が狙われ消滅してしまった。
「さて次は……」
ベヅァーは、他の下位世界に繋げる穴を展開する。異世界間転移を行う穴。それは、監察軍では世界間転移システム『ユクドラシル』という現有技術として用いられ、転生者ザビーネ・クライバーのいた下位世界では第六魔法・異世界間の移動『世界門(ワールド・ゲート)』という奇跡として扱われていた。
ベヅァーは他のトリッパー達のいる下位世界に繋げて、自身が創造した『刺客』を送り込んでいく、一箇所送ると次のトリッパーのいる世界に穴を開けてまた刺客を送り込んだ。今のベヅァーは能力が極めて制限されているので自身の世界間転移はできないから、精々穴を開けて、そこに適当なものを送り込むのが限界だった。
しかし、それだけでも十分だった。今のベヅァーの目的は、トリッパーを一人でも多く始末すること。全エネルギーを用いて出現していられる内に、トリッパーたちをできるだけ多く抹殺できればいいのだ。
「むっ!?」
トリッパー存在するいくつもの世界に干渉していると、いきなり光子魚雷が接近してきた。大規模な爆発。しかし、それはベヅァーには微風のようなもので全く通用しない。
「宇宙艦隊か……」
恐らく異常を察したのだろうが、三千隻ほどの艦隊がこの場に展開されていた。
「……邪魔だ」
艦隊から放たれる重力波砲やレーザー砲を受けながらベヅァーは呟いた。
「監察軍本部が消滅した!?」
ミズナは飛び抜けた凶報に思わず叫んだ。
「ええ、破壊神ベヅァーが出現して、あっという間にやられたわ」
その言葉とは裏腹に、その場にいる〝姫神みこ″の言葉には余裕があった。
みこは、トリッパーの中でも飛び抜けて特殊な存在で、『至高のトリッパー』『全能なる観察者』などと呼ばれている。それだけに常に余裕を持っているのだが、今の彼女のそれは些か不自然に思える。
その場にいるのは姫神みこ、カリン・エレメント、シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル、ミズナ、ブロリーの四人のトリッパーと一人の監察軍構成員だった。
破壊神ベヅァーの出現に、その場の者達にはざわめく。それは彼等の共通の恐れだった。いつかはくるかも知れない危機であったが、監察軍を含めたトリッパー達の活躍もあって、出現を阻止できていると思っていたところにこの事態が起きたのだった。
「本部にいた者達は、生死不明。多分死んでいるでしょうね」
当然本部には同じトリッパーがおり、彼等からすれば仲間がたくさん殺されたという事になる。
「今はカグヤに凍結艦隊を使った時間稼ぎをやらせているけど、それも長くは持たない」
監察軍のスポンサーにして、下位世界でも最大勢力を誇るブリタニア帝国皇帝シドゥリが補填する。
「ただ今回出現したベヅァーは下位世界を丸ごと滅ぼすほどの力はないわ。精々いくつかの並行世界を滅ぼすぐらいが関の山でしょう。本来なら現時点でベヅァーが出現するはずはなったけど、どうも今回のベヅァーはトリッパーを排除することを目的としているみたいだわ」
不完全な状態でも出現して邪魔なトリッパー達を始末する。そして次に完全な状態になるのをまって出現すれば良いのだ。ベヅァーから見れば今回は下準備にすぎないのだろう。
その言葉は、トリッパーである自分たちは、これからベヅァーに狩られることになると言外に指摘していた。トリッパーではないブロリーがいるというのにそのような事をいう辺り、シドゥリの余裕の無さがうかがえる。もっともそんなことを注意している場合ではないが。
「拙いわね。アレに勝てそうなのは超16号あたりしかないだろうけど、起動に時間がかかるわ」
超16号は、『ドラゴンボール』の人造人間16号を監察軍の技術でパワーアップさせた物だ。その力は絶大で、万が一にも暴走したら簡単にブリタニア帝国を滅ぼすことができる。あまりにも強力すぎるので、そう簡単に起動できないように強烈極まるプロテクトをかけていた。カグヤはそれを全力で解除中であるが、もう少し時間がいるとの連絡が入っている。だからこそ凍結艦隊で時間稼ぎをしているわけだ。
「完成している六体の超16号を全部ぶつければ、あるいは何とかなるかも知れないけど、それ以外にも戦力が欲しいわ」
そこで、その場にいる者の視線が、ミズナとブロリーに注がれる。
超サイヤ人。数多の下位世界においても飛び抜けてチートな彼等ならば、あるいは可能かもしれない。
「ベヅァーが本来の存在ではなく、かなり弱体化して出現していたので、確かに超サイヤ人4ならば話は変わってくるけど、あれには条件があるはずだよね」
変身にはシッポと満月という条件があり、シッポはともかく、満月というのは結構条件が厳しかった。そもそも現在ベヅァーは、宇宙空間で凍結艦隊と交戦中だ。となるとパワーポールを星の大気と混ぜて人工の月を出現させる事はできない。
「その点なら問題ない。能力を渡しておくわ」
ミズナとブロリーの手を取ったみこが能力を与えた。
「これで月に関係なく、いつでも超サイヤ人4になれるわ」
ミズナとブロリーに渡した能力はブルーツ波がない状態でも、いつでも超サイヤ人4に変身できる程度の能力だった。
「では、二人を現地に送ります。他の者はここで待機するしかないでしょうね」
カグヤから用意ができたとの連絡を受けて、二人だけ転送することにした。他の者が行っても邪魔になるだけだからだ。そして、シドゥリがブロリーとミズナを転移魔法で送った。
おまけ
「みこ、貴女がミズナとブロリーに与えた能力はあれだけなの? 貴女の事だから別の能力も与えていたんじゃないの?」
シドゥリはみこの抜け目のなさを知っている。いくらなんでもベヅァーが相手ならば保険ぐらいつけるだろう。
「……確かに与えてはいるけど、それを使うかどうかは分からないわ」
みこはポツリと呟いて、それっきり黙ってしまった。
「はあ~、この状況だというのに余裕ですね」
ベヅァーは確かに脅威であるが、あれは上位世界には一切干渉できないから、いざとなれば、みこは上位世界に逃げ込めばいいのだ。他のトリッパーにはできなくても、彼女ならそれが可能だ。
しかし、シドゥリには余裕がない。彼女はこれまでここまでの危機に陥ったことはなかった。古代ベルカ時代は、圧倒的な力で勝ち抜いていたし、時空管理局には圧倒的な軍事力で叩き潰している。それだけにこの手の危機に対する免疫がなかった。