ブリタニア近郊の無人世界。そこにシドゥリとミズナが転移して戻ってきた。
「しくじったわね。まさかベヅァーがここまで強いとは……」
シドゥリがぼやく。
「まあ、とりあえずミズナを回復させましょう」
そういってみこがミズナを全開させた。
『ドラゴンボールGT』では、超サイヤ人4の状態で受けたダメージは、サイヤパワーを回復させないといけない。単純に仙豆や回復魔法でどうにかなる物ではない。
サイヤパワーを回復させるには、同じサイヤ人がサイヤパワーを分け与えるか、食事と睡眠をとって時間経過を待てばいいが、そんな時間はない。なので、みこはサイヤパワーを回復させる能力を新しく創造して回復させた。
「それでこれからどうするの? ベヅァーが消滅するまで待つ?」
まともに戦っても勝てない。となるとベヅァーが活動限界になって消滅するまで逃げるしかないだろう。過去の例からいっても、無制限に活動していられるわけでないようだし。それに今回のベヅァーは激しく弱体化しているはずだから下位世界を丸ごと滅ぼすことはできないだろうし、活動限界も近いはずだ。問題なのは……。
「それまで、どれだけ被害が出るかね」
その場の四人から溜息が零れる。ベヅァーがトリッパー抹殺を目的としている以上、その被害は目も当てられない筈だ。
「みこ、どうにかならないの? 例えば貴女の能力でベヅァーを倒せるだけの能力を手に入れるとか」
「簡単にいってくれるわね。そう上手くいかないわよ」
相手を超える力を手に入れて倒す。一見簡単そうに見えるが、実は問題がある。
例えば『ドラゴンボール』のフリーザは自分の生まれ持った強大な戦闘力に体が耐えきれてなかった。だからフルパワー、つまり全力で戦うと僅か一分程度しかもたないという事態になった。これはパワーコントロールが未熟だったという理由もあるが、いきなり強大な力を持っても自滅するだけということを示していた。
またサイヤ人が超サイヤ人になるために最低でも戦闘力100万を超えないといけないというのも、それだけないと強大な力に体がもたずに自滅するからリミッターがかかっているのだろう。
「どうしてもというのなら、なくもないけどね」
「あるの!?」
「ええ、『ドラゴンボールGT』で孫悟空とベジータがサイヤ人特有の気であるサイヤパワーやブルーツ波を過剰吸収して超サイヤ人4の限界を超えた超フルパワー超サイヤ人4になったのは知っているでしょう? ならば膨大な数の下位世界からブルーツ波と気を集めた上で、その気をサイヤパワーに変換してミズナに過剰供給してやればパワーアップできるわ」
超サイヤ人4がサイヤパワーかブルーツ波のいずれかを過剰供給することによって大幅にパワーアップするのであれば、両方とも過剰供給してやれば超フルパワーサイヤ人4を超えた超々フルパワーサイヤ人4になれるだろう。問題はそんな膨大な力を、一個人が制御できるかだけど。
「でも膨大なパワーを制御できずに自滅する可能性が大きい。一応ミズナには私が送り込む気をサイヤパワーに変換する能力を与えておいたけど危険だよ」
足りないのなら余所から足せばいいが、使い手がそれに耐えきれるかはわからない。
「かまわないわ。あいつを始末しなければ気がすまない」
弟のブロリーは、もう生きていないだろう。弟とトリッパーの仲間を殺された敵討ちをする。そう考える一方で、お前がそんなことを言えるのか? と心の中で自問してしまう。これまでミズナは都合の悪い事からは目を背けて来た。それは、そうしなければ生きにくかったからだ。
そもそも始まりからして、既に問題があった。ミズナが転生したサイヤ人は、お世辞にも善良な種族とは言えない。宇宙の悪党と言うべき存在であり、実際ミズナが成長してある程度動けるようになった時期には沢山の星の住民を殺していた。
ミズナは、同族達の行いを苦々しく思いながらも、決して止めようとはしなかった。そんなことをすれば、異端視されて粛正されると恐れたからだ。
成長すると、星の地上げという悪事を行うように言われたが、それを断らず行った。ミズナは、自己保身を優先した。他人を犠牲にするぐらいなら、自分を犠牲にするという精神の持ち主ではない。他人を犠牲にすることで利が発生するというのなら、選択値として考える人間だ。結果として、地上げで多くの罪もない者を殺した。下位世界の者ならば、地獄に落ちる罪。
次に父親を含めた同族のサイヤ人たちや、第二の故郷とも言える惑星ベジータも見捨てた。これも保身のためだ。あの時点でフリーザに勝つことなど出来はしないから、他のサイヤ人を囮にして生き残った。ミズナは未来を知りながらも、サイヤ人にそれを知らせて助けようとはしなかった。そんなことを言っても、誰も信じないだろうし、助ける意義すら持てなかった。父親にしても、邪魔だからという理由で意図的に見殺しにしている。余りにも自己中心的であった。
そんな自分が、ブロリーの敵討ちなどと言えるのだろうか? いや、もはやそんなことは、どうでもいいのだろう。殺したいから殺す。その為なら、手段を選ばない。それだけで十分だ。
そこにいきなり、ベヅァーが次元転移してきた。
「なっ!?」
「べ、ベヅァー!!」
いきなり現れたベヅァーに驚愕する。
「トリッパーが一、二、三、四。四人もいるとわな。くくくっ」
愉悦を含んだ笑い。それが無性に腹が立つ。
「みこ!!」
「わかっているわ!」
みこは能力を使って、最初に下位世界に存在する星や草木や動物たちから少しずつ元気を分けて貰い、それをミズナに流し込む。ミズナは外部から供給される気をサイヤパワーに変換する能力によって、問題なく供給された気をサイヤパワーとして取り込む事に成功した。だが、これだけでは力が足りないだろう。他の気だけでなくブルーツ波も下位世界から集めないといけない。
「とっとと死ね!」
ベヅァーが襲いかかるが、それをミズナが防いだ。
「なにっ!?」
今の一撃は、本来のミズナの戦闘力では、とても防ぎきれる物はない。しかし、下位世界からサイヤパワーに変換した気を取り込んでいる今ならば可能だ。
「どこから、そんな力が!?」
「ベヅァー……」
ミズナの感情の高ぶりに応じて、ミズナの全身を覆っている金色のオーラの勢いが激しくなる。
「お前は……。お前だけは絶対に許さない!?」
気の爆発。そう表現するしかないだろう。恐ろしいまでの気の大きさだった。
「おのれ! なめるな!?」
ミズナに向けて突撃するベヅァーと、それを迎え撃つミズナ。ここに最強のトリッパーと最凶の破壊神との戦いが起きた。
シドゥリside
激戦。それはそう表現するしかなかった。拳が、蹴りが、凄まじい速度でぶつかっていく。それは光速を超えており、常人にはまるで見えず、ただ戦いの余波のみを感じるだけあった。それは戦いだった。至高の強さを持つ者達の戦い。
それを見るシドゥリとカリンは、次元違いの領域に圧倒されていた。二人はトリッパーとして強力な能力を持っており、十分に強者と呼ぶに相応しい実力者。しかし、そんな彼女たちをしても、目の前の戦いは次元の違いを突き付けられるものだった。これは魔導師がどうとかいう、そんなレベルの戦いではない。神々をも超えた超越者たちによる戦いだ。
「ミズナ…」
それはあまりにも早く、あまりにも激しすぎた。シドゥリには戦いの様子がよくわからない。
「なんという凄まじい力のぶつかり合いなの。これが気ではなく魔力であればとっくに大規模次元震が起きていたわ」
『魔法少女リリカルなのは』の魔力は、次元震を誘発させやすい。ある程度の強さがあれば、簡単にそれを起こしてしまう。だからジュエルシードのような小さな石程度の物が、複数の世界をも破壊しうる力を持つのだ。
『陛下、その世界は危険です。急いで退避してください!?』
帝国からの通信が開いた。近隣の世界で、これだけ凄まじいエネルギーの衝突が起きているのだ。彼等が気付いて当然だろう。
しかし、ここで逃げても追撃されるだけだ。下手にブリタニアに逃げ込めば、ベヅァーがブリタニアを破壊するかもしれない。ならば、ここでヤツを消滅させるしかない。
「貴方達は、ブリタニアで待機しておきなさい。予は、ヤツを始末しなければなりません」
そういって通信を遮断する。
「拙いわシドゥリ。ミズナが押されている」
「……そうね」
カリンが指摘しているように、ミズナがベヅァーに押されている。どうやら、みこが送り込んでいる気が足りないのだろう。更なる気を送り込むにしても、時間がかかる筈。
「みこが他のエネルギーを集めるまで、時間を稼がないと……」
ベヅァーを相手に、時間を稼ぐ。それは至難の業というよりも、すごい無理ゲーだよと嘆きたくなるが、それしかない。
「まあ、いいでしょう。予が死んでも後継者はいるしね」
シドゥリの血を引く皇位継承者たる皇女は二人いる。つまり、ここでシドゥリが倒れても、取り返しの付かないことにはならない。あの二人も、監察軍やトリッパーの重要性は知っているのだから、上手くやっていくだろう。
「……シドゥリ、死んでも良いなんていうべきではないわ」
「……そうね。どうかしていたわ」
死んでも良い。そんな弱気な事を考えた自分を叱咤する。
「予はブリタニア帝国皇帝。押しも押されぬチートオリ主よ。例え破壊神だろうが早々容易く殺されてたまるもんですか!? いくわよカリン!」
「ええ」
シドゥリの言葉にカリンは笑みを浮かべる。カリンの背に二対の翼が出る。それは『絶望 -青い果実の散花-』における天使と悪魔の力を兼ね揃えた天魔の翼。天使だけでなく魔性をも手に入れた翼は、暴力的なまでに美しかった。
そして、二人の少女が空をかける。一人は全身に虹色の魔力光を放ち、もう一人は二対の美しい翼をはばたかせて。