東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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はい、作者のrick@吸血鬼好きです。初めましての人は初めまして。そうでない人はご無沙汰しています。
今回のみ三人称となります。それと、私の処女作とは一風変わった話ですが、それでも楽しめたら幸いです。







第1章「罪深く強欲な悪魔」
1話「罪な妹」


 罪とは一体何か。それは規範や倫理に反することを指すという。

 

 しかし、本来は宗教的観念であり、ある行為を罪とするには意図的かどうかで変わる。また、罪に対する「後悔ともう二度と犯さないとの決意を表現する」懺悔と「過去に犯した行為への贖い」の代償が必要ともされる。

 

 では、罪を犯したのが悪魔であればどうなるのか?

 

 神に意思表明する懺悔や代償が受け入れられるのだろうか。

 

 

 

 もちろん神には受け入れられない。しかし、それ以外には受け入れられることもあろう。悪魔には悪魔の罪がある。しかし、その罪が人と違うものかと問われれば、そうでもない。人と同様に、いやそれ以上に厳しく代償を求められ、懺悔を迫られる。

 

 

 

 

 

 罪を忌み嫌う時代、ある場所にその悪魔の少女は生まれた。その少女は幼さ故に禁忌を犯し、罪深きことにありとあらゆるものを欲した。存在が許されるはずはなく、赦されるはずもなく。

 

【それでも少女は、罪を犯して生きていく】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Remilia(レミリア) Scarlet(スカーレット)──

 

 これは過去の話。

 

 そこは中世のヨーロッパ。紅い館、名を紅魔館。割と安直な名前なのだが、その名は国をまたいで知れ渡っている。理由は1つ。そこには吸血鬼という悪魔が住むからである。その悪魔は近隣地域を支配し、妖精メイドや眷属を増やしながら勢力を伸ばし続けていた。それに対抗するように周囲の人間達は徒党を組むも、そこは人と人以外の差。数で押そうが関係なしに、人間達は呆気なく散っていく。まるで子どもと大人の争いが何年も何十年も続き、いつしかその悪魔は大陸の半分近くを支配していた。

 

 

 

 その館の主の名はスカーレット。現当主ドラキュラ公。その妻であるマリアンヌ。勢力を拡大している途中に出会い、2人はめでたく結ばれることになる。そして、2人の出会いから数年後、ドラキュラとマリアンヌの間に第一子が生まれる。

 

「マリアンヌ! 赤子の声がした。もう産まれたのか!?」

 

 部屋の前で待つドラキュラ公の声が廊下でこだまする。あまりに大きな声に、近くに居た妖精メイド達は驚き一瞬だけ仕事の手を止める。声の主が分かると、怒られないように再び仕事を再開した。

 

「ええ。もう入ってきてもいいですよ」

「やはり産まれたのか! 男か! それとも女か!?」

 

 声を上げて部屋に入る。するとその声にビックリしたのか、母親の腕の中にいる赤子は負けじと大きな声で泣き叫ぶ。

 

「ええ、ええ。産まれましたから静かにしてください。それと可愛い女の子ですよ。ですから名前はレミリアにします」

「お、女か⋯⋯。できるならば男が良かったのだが⋯⋯」

「レミリアの前でそんなことは言わないでください。可愛い子ですからいいじゃないですか。ね、レミリア」

 

 レミリアと呼ばれた赤子は、母親の言葉を聞いて泣き止む。母親の顔を不思議そうに見た後、笑顔になって母親の手に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Frandre(フランドール) Scarlet(スカーレット)──

 

 レミリアが生まれて5年後。スカーレット家に第二子が産まれる。この時、父親のドラキュラ公は更なる勢力拡大のために不在。出産を手伝った妖精メイド達も家族水入らずの状況を作るために部屋から出ている。その場には母親とレミリア、そして母親が抱いている赤ちゃんしか居なかった。

 

「レミィ。この娘が貴女の妹のフランドール。フランよ」

 

 母親の手の中には小さな赤子がいる。しかし、その悪魔の象徴たる翼は普通のそれではなかった。翼の骨組みに七色に光る宝石のようなものが付いており、キラキラと輝かせている。その赤ちゃんにとっては運の良いことに、母親姉はそれを忌み嫌うような人達ではなかった。

 

「いもーと?」

「ええ。妹よ。可愛いでしょう?」

 

 母親の言葉にレミリアはフランの顔を覗き込む。すると、姉の顔だと分かっているかのように、嬉しそうに微笑んだ。その顔にレミリアもたまらず笑顔になる。

 

「ふふふ、かわくてきれい。フラン、ありがとう。わたしのいもーとになってくれて」

 

 母親は娘2人を微笑ましく思いながら見つめ、静かにこの風景を楽しんだ。レミリアもこの時、妹の笑顔で幸せな気持ちになった。そして、恐らくはこの時に彼女は妹を好きになり、自分にとって大切な存在だと自覚したのだろう。レミリアは跡継ぎの第一候補だというのに、その日は時間さえあれば、終始妹の姿を見ていた。

 

 

 

 しかし、異変が起きたのはそれから数日後のことだった。

 

 父親が帰ってきたその日に、フランの能力が暴走した。最初は小さな物だったのだ。誰も触れていないのに音を出して破裂した。それからというもの、辺りの物を無差別に破壊し続けた。それがフランの能力のせいだと気付くには遅すぎた。

 

「マリアンヌ! 大丈夫か!?」

「ええ、私は何とか⋯⋯」

 

 話を聞きつけ、父親が母親の元に訪れるも時すでに遅し。フランは傍に居た妖精メイドの1人を(破壊)した。妖精メイドの立っていた場所には血溜まりと肉片だけが残り、他の妖精メイド達は恐ろしさのあまり逃げ出してしまったのだ。

 

「まさか、この娘にこんな力があるとは⋯⋯。稀に能力を持つ者が産まれることがあるとは聞いていたが、迷信だとばかり思っていた⋯⋯」

「今、この娘は寝ています。恐らくは力を使い果たしたせいで眠ったのかと⋯⋯」

 

 まだ罪の意識がないフランは、すやすやと気持ち良さそうに寝ている。父親はその顔を見て、安心や恐怖、愛情が入り混じる複雑な思いを抱いていた。

 

「⋯⋯仕方あるまい。俺は君に死んでほしくはない。しかし、この娘を殺すわけにもいかない」

 

 父親は苦渋の決断をする。これ以上は誰も死なせない。母親とフランの顔を交互に見つめ、そう心に誓った。

 

「フランは地下に幽閉する。妖精メイドか眷属に交代でフランを見させる。レミリアには必要以上に心配させるわけにもいかないから、容態が良くないとでも言って、近付けさせないようにしよう」

「え、ええ、分かりました⋯⋯」

「大丈夫だ。フランも能力を自由に扱えるようになれば、自由に外に出ることもできる。それまでの辛抱なのだから」

 

 そうして、フランは地下に幽閉されることになる。母親はフランを地下に連れて行くまで、我が子を苦しそうに、悔しそうに見続けていた。叶わぬ思いを願いながら。

 

【そして、誰もこの時から歯車が狂い始めているとは夢にも思わなかった】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Hamartia(ハマルティア) Scarlet(スカーレット)──

 

 フランの事件からもう5年も経った。小さかったレミリアも今や10歳。紅魔館当主の跡継ぎとして、日々努力を惜しまない。空を自由に飛ぶ訓練に、槍を扱う練習。さらには妖力を扱う訓練も欠かさず、その上達ぶりには周りの大人達も感服していた。最初は女であるというだけで周りからはおこがましく思われていたが、今では跡継ぎはこの娘しかいない、と持て(はや)されている。しかし、魔法だけはあまり上達せず、本人はそれだけが不服なのだとか。

 

 そんな彼女にも心配していることがあった。

 

「お母様。身体はどう? 何もない? 大丈夫?」

 

 それは母親の容態である。現在、母親のお腹の中には3人目の子ども⋯⋯すなわちレミリアの弟か妹がいる。レミリアはフランの一件のことは詳しく知らないが、地下に居るという妹を心配して訓練に身が入っていないらしい。それで元気づけるために加えて、父親が周りの目を気にして男の跡継ぎが欲しいらしく、頑張ったようだ。

 

「まあレミリアったら心配性ね。⋯⋯私は大丈夫よ。それよりも聞いて。今貴女の妹がお腹を蹴ったのよ。ほら、貴女も触ってみて」

「え? ⋯⋯あ、本当だ、私も分かったよ!」

 

 母親のお腹に手を触れ、レミリアは本当にその中に弟か妹がいるのだと実感する。しかし、同時に出産の疲れからか、はたまた元気のない母親を心配した。口では大丈夫と言っても、娘であるレミリアには大丈夫には見えなかった。明らかに無理をしており、倒れそうなほど顔からは疲れが見て取れる。

 

「ふふふ。⋯⋯もうすぐ産まれるのよ。名前は何がいいかしら」

「可愛い名前がいいなぁ。お母様は何か案はないの?」

「そうね⋯⋯。男の子ならアレティ。女の子なら⋯⋯スクリタかしら」

「アレティとスクリタ⋯⋯。素敵な名前! はあ、早く産まれてくれないかなぁ」

 

 レミリアは母親のお腹を見つめ、そう呟く。妹が産まれるのを待ち遠しく思っているようだ。その時はまだ、母親も肯定の意を表すように笑って頷いていた。

 

 

 

 

 

 今日はスカーレット家3人目の子どもが産まれた日。それは同時に、スカーレット家にとって最悪の日でもあった。

 

「急いでくれ! 禁術でも何でもいい! 早くマリアンヌを治すんだ!」

 

 3人目の娘が産まれたその時、レミリア達の母親は死の淵に立たされていた。意識は僅かに残っていたが顔はやつれ、息も絶え絶えになっている。母親の容態に慌てる父親の顔には焦りが見える。産まれたばかりの赤ん坊も母親の容態を知ってか知らずか、大きな声で泣き続けていた。しかし、母親はそんな状況でも赤子を離すことはしなかった。

 

「頼む、急いでマリアンヌを助けてくれ⋯⋯! 何かの病気なら魔法で和らげることも可能だろう⋯⋯?」

 

 威厳をなくした素の口調で、吸血鬼である父親は魔法を使える眷属の1人にそう尋ねる。しかし、返ってくるのは否定の意を表した首を横に振る動作だけだった。

 

「魔法で病気を抑えることは可能です。しかし⋯⋯」

「しかし? どうしたと言うんだ! マリアンヌはもう長くは持たんぞ! 何を渋る必要が⋯⋯」

「マリアンヌ様の容態が悪い原因は病気ではありません。どうやら妖力の枯渇です」

「よ、妖力だと?」

 

 眷属の言葉に改めて母親を見つめ、その言葉が真実であることを確信した。妖力とは即ち、妖怪の力の源。空を飛ぶにも弾幕を使うのにも使い、それは生命の源と同じものである。つまり、それが枯渇しているということは死を意味する。

 

「ど、どうしてそんなことが起きている!? 新手の呪いか? それとも新種の病気とでも言うのか!?」

「⋯⋯⋯⋯」

「教えろ! 何故黙るのだ!?」

 

 眷属は口()もるも、ドラキュラに迫られ、言いづらそうに口を開く。その言葉は父親であるドラキュラにとって、死刑宣告に近い響きを持っていた。

 

「赤子の影響かと思われます。先程確認のために私も触れました。すると、案の定魔力を()われたので間違いありません。どうやら自分の力に変換するようですが、その変換した力の効果時間はかなり短い。それに量はさほど多くはなかったです。しかし、お腹の中に居る時から吸っているとすれば、吸血鬼であるマリアンヌ様でも恐らくかなりの⋯⋯」

「言うでない! ⋯⋯その赤子を無理矢理でもいい。マリアンヌから引き離せ。そうすれば、あるいは⋯⋯」

「⋯⋯アナタ。アナタ、聞いて」

 

 赤子を引き離そうとすると、マリアンヌが口を開いた。その声は今にも消えそうなほど小さく、生気を感じさせない。しかし、眷属達が幾ら引き離そうとも、赤子を離すことはなかった。

 

「マリアンヌ! ダメだ⋯⋯お願いだ⋯⋯。もう喋るんじゃない⋯⋯! その娘を離せ。そうすればまだお前は助か──」

「いいえ。それは違います。この娘を離したところで死から逃れることはできません。良くて遅めるだけ。なら少しでも長く、この娘を抱いていたい⋯⋯。こうなることは、この娘を産むと決めた時から覚悟していました⋯⋯」

 

 引き離そうとする眷属達を物ともせず、マリアンヌは話し続ける。どうせ死ぬなら、最後まで娘を抱き続けたいと思っているようだ。

 

「ドラキュラ⋯⋯この娘をどうか恨まないで。この娘はフランのようにまだ自覚がないだけ。2人とも、能力を制すれば偉大な吸血鬼になるでしょう。しかし、私は能力など持たぬ元人間の吸血鬼。天秤にかけるなら、私よりもこの娘達を選んで」

「嫌だ⋯⋯。まだ死ぬには早過ぎる!」

「吸血鬼ならそうでしょうが、私は充分生きました。これからはこの娘達の世代です」

 

 マリアンヌは最後の力を振り絞り、精一杯の笑顔を見せる。あまりにも爽やかで、あまりにも鮮やかな笑顔。それはこれから死ぬ者とは思えないほど活気のある顔だった。

 

「それと、この娘の名前ですが⋯⋯。そうですね、女の子ですからスクリタ⋯⋯善という意味です。この娘が吸血鬼を善き未来へ引っ張ってくれると信じています」

「だ、ダメだ。逝くな⋯⋯。マリアンヌ、まだ逝かないでくれ⋯⋯」

「⋯⋯ドラキュラ。これからの時代を引っ張っていくのは子ども達であることを⋯⋯忘れないでくださいね」

「そんな⋯⋯嘘だ。まだ私にはお前が必要なのだ⋯⋯! お願いだ! 戻ってきてくれ、マリアンヌ⋯⋯」

 

 ドラキュラ公の言葉が虚しくこだまする。マリアンヌは死んだ。自分の愛する娘の能力によって、彼女は死んだのだった。無意識とはいえ能力を行使した当の本人はまだ泣いていた。何かを求めるように。それは何だったのか。母親が死んだ今となっては、すでに与えられるモノではなかったのかもしれない。

 

「⋯⋯そのムスメを地下に幽閉しておけ。誰も触れるな。誰も関わるな。そして、私の目の前には絶対に出すな」

 

 父親の目付きが変わったのだ。娘を見る目は以前のような愛情の混じったものではない。他人を殺したのと、母親を殺したのでは似て非なる。怒りと憎しみ、負の感情だけがその子には注がれていた。しかし、その娘は気にもせず泣いていた。それが父親の⋯⋯ドラキュラの神経を逆撫でる結果となる。

 

「は、はい。では、恐れながらスクリタ様をお連れいたします」

「そいつは善き娘(スクリタ)ではない。⋯⋯罪人の娘(ハマルティア)だ。これからそいつは、ハマルティアという名前にする。早く連れて行け!」

 

 ドラキュラに怒鳴られ、眷属は大慌てでハマルティアという名の娘を連れて行く。そして、扉の前で赤子を待ち遠しく待っていた姉のレミリアは異変に気付く。妹を連れた眷属とすれ違うように、亡き母親が居る部屋へと入ってきたのだ。

 

「お父様⋯⋯? お母様は? それに、赤ちゃんも⋯⋯」

「母親は死んだ。お前の妹が殺したのだ。あいつはフラン以上に危険な能力を持つ。強欲にも母親の妖力を奪った。今は亡き母親の願いから殺しはしないが、これからは地下に幽閉する。絶対に近付いてはならぬ。お前は私の跡継ぎなのだから」

「え、え? そ、それはどういう⋯⋯っ!」

 

 一度に入る情報が多過ぎて狼狽えるも、安らかに眠る母親を見て話が真実だと確信する。そして、フランや未だ名前も分からぬ妹が、何らかの能力を持っていることも理解した。その2人を地下に幽閉しているという事実もだ。

 

「⋯⋯どうして? どうして嘘をついたの? フランは病気じゃなかったの? それに、私の妹⋯⋯スクリタは──」

「スクリタなどではない!」

 

 ドラキュラは大きな声で怒鳴り、母親が付けた名前も、意味も全てを否定する。そして、その父親の様に、レミリアは僅かな恐怖を感じた。

 

「あいつはハマルティア。罪深き悪魔だ。幼くして親殺しなどという禁忌を犯した。あいつは最早真っ当には生きぬ。次女も能力を制御できず不安定な存在だ。対してお前はスカーレット家の運命を握る完璧な跡継ぎなのだ。だからこそ、近付くのではない。⋯⋯分かったら戻れ。母の葬儀は後日行う」

 

 その時はまだ父親に反抗する力も度胸も持ち合わせていなかったレミリアは、父親の言うがままに立ち去った。そして、その日の朝は母親や妹のことを思い涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、悲劇の日から20年が経った。今も尚、2人の妹の幽閉は続いている。

 

「お腹空いた⋯⋯。もっと欲しい。もっと食べたい」

 

 絶対に月の光が差し込まない地下の世界。そこで夕食を食べ終えた緑髪の少女はそう呟く。背に人ならざるものの証明として翼を持ち、面倒くさがり屋だからか髪も好き放題に伸ばしている。そして、産まれた時からずっと、彼女は何かに飢えていた。

 

「後10人は欲しい。5人じゃ足りない。もっと、もっと⋯⋯欲しい」

 

 大人でも多い量を食べておきながら、彼女は尚食料を欲する。母親を殺したと父親に言われ続けても、母親や父親という意味は何かも知らない少女は悪気なく、まるで求むこと自体が彼女にとっての自然法則であるかのように全てを欲したのだ。

 

 しかし、幾ら望むも望むものは与えられず。少女は名前に従うように生きていく────

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