東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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今回は日常回。
まあ、とりあえずお暇な時にでもどうぞ


11話「日常的な団欒」

 ──Hamartia Scarlet──

 

 今日はとっても珍しい日。いつも通り原初のルーン魔法をしているのだけど、今お姉ちゃんは居ない。代わりにお姉様だけが居て、私のことを見てくれている。お姉ちゃんはというと、私達のために食料を調達しに街や村に行ってる。いつもはお姉様とその眷属が行ってるけど、たまには孝行したいとお姉ちゃんの方から行くと言い出したらしい。私も付いて行きたかったけど、起きた時に言われたことだから、行くことができなかった。多分、お姉ちゃんは過保護だから、ここの方が安全だと考えているんだと思う。確かに安全だろうけど、私もお姉ちゃんと一緒に人間狩りしたかった。

 

「なんだったかしら、それ。ああ、思い出した。原初のルーン。それは普通のと何が違うの?」

 

 新しく覚えようとしている原初のルーン魔法。その練習をしていると、横で見ていたお姉様がそう聞いてきた。お姉様は普通のルーン魔法すらも知らないから、区別がつかないんだと思う。私自身も効果が強い弱いの違いしか知らないんだけど。

 

「えーっとね、確かどこかのページに⋯⋯」

「あ、知らないなら知らないでいいのよ?」

「ううん、大丈夫。⋯⋯あった。私がよく使うルーン魔法は現代の魔術師によって原初のルーンを元に編み出した魔法なんだって。だから、どこまで行っても模範的な効果しか出ない。原初のルーンはそれ自体が1つの大きな魔法の元だから、普遍的に広義的な意味を持つことができて⋯⋯あぁもう! 難しいことばっかり書いてる!」

 

 あの竜っ娘、難しい言葉使いたいだけなんじゃないの? と、思うくらいその本には変な言葉が並んでいる。色んな本を読んできたからなんとなくは分かるけど、深く理解しようとすれば本当に何年かかるか分からない。適当に、浅く読まないとすぐに飽きてしまいそうな魔力でも込められていそうだ。

 

「ふふふ、変な娘ね」

「だって難しいことばっかり書いてるんだもん」

「別にいいわよ、丁寧に説明しなくても。少し気になっただけだから。それよりも、原初のルーン? 見てみたいわね」

「うん、分かった! じゃあ、えーっと⋯⋯」

 

 本に目を通し、魔法のことが書かれているページを開く。そして、そこに描かれている複雑な魔法の線を、魔力を込めた指で宙に描いてみた。

 

 その刹那、描かれた模様は光る文字として形を成し、空中で眩しく発光する。そして、空間に歪みを作り、無から植物のツルのような物を出現させた。ツルは急激な成長を遂げて長く伸び、真っ赤な花を幾つも咲かせた。

 

「⋯⋯へぇー、綺麗ねぇ」

「原初のルーン魔法、植物生成。複数のルーンを使って無からの創造を行使する原初の⋯⋯だって。でも、これ何に使うんだろう」

 

 適当に開いて使った魔法だけど、用途が一切思い付かない。植物なんて食べても美味しくないし、お腹も満たせない。そもそも何の植物か分からないから、食べようとも思わないけど。

 

「うーん⋯⋯。何かには使えるんじゃないかしら。例えば、何かを繋いだり、ロープみたいにしてハシゴ代わりにしたり」

「ハシゴはいらない。飛べるから」

「⋯⋯確かにいらないわね。とにかく覚えておいて損はないわよ、きっとね」

 

 お姉様がそう言うならそうなんだろう。⋯⋯多分、きっと、おそらく。いやね、お姉様の言ったことが当たることなんて少ないから。未来も見ることができる運命を操る能力らしいのに、本当に未来なんて見えているのか怪しいことが多い。もしもお姉様の能力を吸収できたら、その真相も分かるんだろうけど⋯⋯お姉様達から力を借りるのは無理だから諦めるしかない。

 

「ただいまぁ⋯⋯」

「お姉ちゃん!」

「ごめんね、1人で行っちゃって。でも、行かなくて正解だったよ」

 

 話をしているうちにお姉ちゃんが帰ってきてくれた。珍しく手間取ったのか、服はボロボロ。その服の傷も、切られたというよりは燃やされたかのような傷ばかりだ。でも、見たところ怪我はしていないみたいだから良かった。お姉ちゃんには私以外に食べられたり、怪我させられたりしてほしくないし。

 

「何かあったの? あ、おかえりなさい」

「初めて会った人間が竜に乗って炎吹かせてた。あいつのせいであんまり人間を調達できなかった。ただいま、お姉様」

 

 竜? ウロかな。でも、今は竜じゃなくて魔女らしいからやっぱり違うか。というか、もしも敵だったら勝てなさそう。倒せはしそうだけど、永遠に復活するゾンビみたいで面倒くさそう。

 

「なにそれ怖い。とにかく無事で良かったわ。今日はもうゆっくり休みなさい」

「悪いけどそうさせてもらうよ。はぁー、今日はもう疲れたわ。ティア、風呂行こー?」

「うん! 今日は何して遊ぶ?」

「あー⋯⋯。今日は騒ぐのなしでお願い。代わりに明日は好きなことしていいから」

 

 お姉ちゃん、今日は本当に疲れているみたいだ。あまり何か言うのも嫌われるし、今日は早くお風呂に入って、早く寝ることにしよう。

 

「うん、分かった。遊ぶのは明日にするね」

「ありがとう。じゃ、お姉様。行ってくるね」

「え? 私も行くつもりだったんだけど⋯⋯」

 

 私もそのつもりだったけど、お姉ちゃんは「え?」と首をかしげる。でも、この様子だと知っててわざと言ってるみたいだ。お姉ちゃん、いたずらとか人をからかうの大好きだから。

 

「たまには2人きりにさせてよね? 姉妹水入らずということで」

「私は貴方達の姉なんだけどねぇ? まあ、いいわ。好きになさいよ」

 

 お姉様はそれを冗談だと分かってても、何故か話に乗っている。こういう互いに分かってるのに話す意味がちょっと分からない。話すのが楽しいからなのかな。まぁ、仲良さそうだからなんでもいっか。

 

「⋯⋯ふふっ。冗談なのに本気にしちゃって可愛いー」

「ふん、別にいいのよー、誘ってくれなくても」

「もぅー! 冗談だって! 私が悪かったから早く行こうよー!」

「⋯⋯はあ、分かったわよ。全く、仕方のない妹だわ」

 

 話しているうちに元気を取り戻したお姉ちゃんは、お姉様の手を引いて連れて行こうとする。お姉様もやぶさかでない顔して、嬉しさを隠しきれていない。私もあの輪の中に入りたいけど、凄く気まずくて入れそうにない。

 

「⋯⋯? ティア、どうしたの? 貴女も行くんだよ?」

「不思議な顔しちゃって、何かあったのかしら?」

「ううん、なんでもないよ! 早く行こっ!」

 

 2人だけの空気を作っていても、私のことを気にしてくれる。昔みたいにもう1人じゃないんだな、って実感できる。この日常がずっと続けばいいのに。そんなことを考えて、私はお姉ちゃん達と一緒にお風呂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お姉ちゃんの居ない日。最近、食料調達をお姉様の代わりにお姉ちゃんがしている。仕事を分担して、少しでもお姉様を楽にさせたいらしい。私も何か手伝おうとしてみたけど、お姉様に「一番下の貴女は何もしなくていいのよ。されたら姉の面目がなくなるわ」と断られた。私にも私の面目があるのに、お姉様達は私を子どもとして扱いすぎている。私もいつかは大人になるのに⋯⋯。いつか、大人になったら、お姉様達を見返してみたい。長く生きてたら、きっといつか⋯⋯見返せる時も来ると思う。

 

「⋯⋯今日は帰りが遅くなると言ってたわね。ティア、先に寝てましょうか」

 

 お姉ちゃん、たまに楽しみ過ぎて帰りが遅くなる時がある。私も楽しみたいから付いて行きたいと言ってるのに、どうしても連れて行ってくれない。私を心配してくれてるのは分かるけど、私が弱いからって連れて行ってくれないのは違うと思う。本当に⋯⋯もっと強くなりたい。お姉様達よりももっと、もぉっと⋯⋯。

 

 それはともかく、初めてお姉様と2人っきりで寝ることになる。お姉ちゃんとは地下に居た時からずっと一緒だったけど、お姉様の方は地下に居た時はお父様のせいで一緒に居れなかった。だから、もう60年近く一緒に居るのに今日が初めてだ。あ、いや。生きてるのは60年だけど、会ったのから数えたら15年くらいか。でも、1人よりもお姉様達と一緒に居る方が長く感じる。

 

「ティア? ティアー?」

「あ、うん! 一緒に寝よー」

 

 考えごとに集中していると、お姉様達の話が聞こえてこない時がある。ボーッとしているわけじゃないけど、人間狩りの時とかは気を付けないと。

 

「⋯⋯ティアはフランと寝る時、いつもどんな感じなの?」

「どんな感じって?」

 

 ベッドに潜り込み、毛布を被り、お姉様を抱きしめていると唐突に質問された。私はお姉様の背中側から抱きしめているから、表情が見えず、その意図を読むことはできない。でも、私の手を握ってくれているそのお姉様の手は、とっても温かい。その手から、優しさが伝わってくる。

 

「そうねー⋯⋯あったかいとか、楽しいとか。貴方達のことだから、寝る前にも遊んでるんでしょ?」

「うん。遊ぶ時も多いよ。でも、静かな時がほとんど。静かな部屋で、2人っきり⋯⋯。温かくて、落ち着く世界⋯⋯」

「ふーん⋯⋯? 騒がしい方が好きだと思ってたけど、静かな方も好きなのね。意外だわ」

「知らないのも仕方ないよ。お姉様と会ってから、まだ10年ちょっとしか経ってないから」

 

 それでも、長く生きていたら1人で居る時よりも、みんなで居る時の方が長くなる時が来る。吸血鬼みたいな不老に近い命や、それこそ人間みたいな短命じゃなくて⋯⋯永遠を生きることができれば。

 

「⋯⋯確かにそうね。でも、1人で居る時と私達と居る時⋯⋯今思い出してどっちの方が長く感じるかしら?」

 

 意味も分からずそう言われて、素直に思い返してみる。⋯⋯ああ、そう言えば、1人で居る時はつまんないことが多かった。でも、覚えていることはあんまりない。意味のない、つまらない記憶は単調すぎて、すぐに忘れてしまうから。逆にお姉ちゃんと出会って、お姉様と一緒に暮らすことになってからの記憶は楽しいし、嬉しいし、温かい⋯⋯。そんな複雑で幸せな記憶が多いから、1人で居る時よりも覚えていることが多い。

 

「⋯⋯お姉様達と一緒に居る時の方が長く感じる」

「でしょ? これからもっと長く感じることになるわよ。これからもずっと一緒に暮らすのだから。だからね、これからも私が知らないことを色々と教えてちょうだい」

「⋯⋯例えば? 例えばどんなこと教えてほしいの?」

 

 お姉様ともっと仲良くなるのは私も嬉しい。お姉ちゃんと同じように、お姉様も食べてみたいから。不変の権能や私が強くなりたいというのは、まだ知られたくないけど。まだ絶対にできるという保証もないし。

 

「そうねぇ⋯⋯。ああ、ごめんなさい。そう言われると思い付かないわ。ゆっくりと時間をかけて教えてもらうことにするわね」

「分かった。⋯⋯お姉様、こっち見てくれる?」

「ええ、いいわよ」

 

 お姉様は私の要望を聞き入れ、身体をこちらへと向けてくれた。その表情は穏やかで、優しさに満ち溢れている。きっと、今なら、この時なら⋯⋯どんなお願いでも聞いてくれそうだ。⋯⋯はぁ、それでも言えない。私にそんな勇気はない。お姉様を愛し(食べ)たいことを、告白するなんて⋯⋯今の私にはできない。せめて、不老不死になった辺りがいい。一生、文字通り永遠にお姉様達と一緒に暮らすことができるんだから。そうなった時は、何も隠す必要がなくなるから、気兼ねなく言えるだろうなぁ。

 

「顔を見てる方が落ち着くの?」

「うん。お姉様のこと、好きだから」

「ふふふ、そう。嬉しいわね。⋯⋯はあ、今日も疲れたわね。そろそろ寝ましょうか」

「うん。おやすみ、お姉様⋯⋯」

 

 お姉様の温もりをもっと感じようと、強く抱きしめる。そして、その温もりに眠気に襲われ、私はそっと瞼を閉じた────




日常回、何故か思い付くのが危ないものばかりなので、何か提案があれば個チャか活動報告の方か、Twitterで送ってくれると嬉しいです(
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