東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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上手とは言えない戦闘回がありますが、まあ、はい。暖かい目で見てください。
今回は察しのいい人なら気付くかな。とりあえず、お暇な時にでも⋯⋯


14話「武術家な来訪者」

 ──Remilia Scarlet──

 

 フランが狂ってから半年が過ぎた。私は70歳になり、妹達も一番下で60になった。あの出来事があった後も、ティアとフランは微笑ましいほど仲が良い。あの時何をしていたのかは知らないが、少なくとも2人とも怪我をしていたというのに。私なら、度が過ぎる喧嘩をすればしばらく口をきかない。いや、きかないというよりはきけないか。気まずいから、話すこともできない。だが、2人の場合はそうではないらしい。その出来事が起きた次の日はティアを見かけないと思っていたら、いつの間にかティアはフランと一緒に遊んでいた。それも、その日の前日のことが無かったかのように、幸せそうにじゃれ合い、楽しそうに遊んでいた。

 

 フランの方は記憶が無いからまだ分かる。⋯⋯と言っても、全てを察していたけど。だけど、問題はティアの方だ。後日話を聞くと、まるで気にせず、ティアの方からフランを遊びに誘ったらしい。もちろん断る道理もないフランはそれを受け入れ、結果、私が見た楽しそうな光景になったのだとか。喧嘩しているのも困るが、すぐに仲直りするのも反応に困る。これから2人にどう接したらいいか迷っていた私が、本当に馬鹿みたいだ。⋯⋯まあ、仲直りしてくれたと知った時は嬉しかったし、安心したのだけど。

 

「お、お嬢様! 少しよろしいでしょうか!?」

「ええ、いいわよ。どうかしたの?」

 

 満月が浮かぶ夜。それすら見ることができずに、私は自分の書斎で書類仕事をしていた。その最中に、慌ただしい様子で1人のメイドが部屋へと入ってきた。よく見れば、いつもフランの世話を任せている私達に似た蝙蝠の翼を持つ珍しい妖精メイドだ。今は掃除をしているはずの時間だから、エントランスにでも居るはずなのだが⋯⋯。まあ、見るからに何かあったみたいだけど。

 

「門の前で、お嬢様を呼んでほしいという人が居て⋯⋯」

「用件は聞いてる?」

「何でも、決闘を申し込むとかなんとか⋯⋯」

 

 知名度が高いと、稀にそういう奴がいるから困る。危険だから、万が一のことがあるから妹には相談できないし、メイドや眷属も弱過ぎて任せることはできない。よって、私が行くしかない。いつもは仕事などがあるから行かないのだが⋯⋯今回は行く価値があるらしい。先ほど、突然で一瞬のことだったが、そういう未来(運命)が見えた。行けば、何か良いことが起きる気がする。

 

「⋯⋯ええ、分かったわ。すぐに行くから、門の前で待たせてて」

「は、はい!」

 

 とりあえず、ネグリジェで外に出るのは流石にダメだから着替えるか。決闘というからには戦うことになるだろう。戦っている最中に破れる、なんてことがあれば恥ずかしくて仕方ない。それにネグリジェみたいに楽な服はかなり少ない。⋯⋯今度、ティアやフランを連れて、人間の街にでも買い物に行こう。買い物なんて初めてだから、2人も楽しめるだろうし。

 

「⋯⋯さて、楽しそうな奴に会いに行こうかしら」

 

 服をいつものドレスに着替え、意を決して書斎の扉を開き、外へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エントランスから外に出て、門の前へと急ぐ。そこに居たのは相手を落ち着かせている妖精メイドと、決闘を申し込んだ部外者らしい自分よりも背の高い妖怪だった。服は東洋系で緑色。髪は赤く腰まで伸ばしたストレートヘアー。その頭に被る緑色の帽子に付いた星型のエンブレムには、東洋で使われる文字が描かれている。

 

 その者からは魔力といった力は感じず、妖力もそこそこ高いくらいだ。だが、別の力を感じる。妖力や魔力、私の知っている力とは全く違う何か。それが何かは分からないが、警戒する必要があることは容易に理解できた。

 

「あ、お嬢様。こちらが⋯⋯」

「初めまして。(ホン)美鈴(メイリン)といいます」

 

 妖精メイドに紹介される前に、その紅美鈴という女性は礼儀正しく一礼する。まるで決闘を申し込んだ者とは思えないほど綺麗な姿勢だが、その目は戦気⋯⋯戦う意気込みに満ち溢れている。それはここに決闘を申し込みに来るようなおかしな人間や妖怪によくある目だ。

 

「⋯⋯この館の主であるレミリア・スカーレットよ。よろしくね」

 

 私も礼儀正しく返そうと、スカートを両手で持ち、スカートを少し上げる。そして、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままおじぎをする。いわゆるカーテシーと呼ばれる挨拶の一種だ。私が知る限りでは、これが最も礼儀正しい挨拶⋯⋯のはずだ。

 

「ご丁寧にありがとうございます。⋯⋯失礼ですが、本当にこの館の主なのでしょうか?」

「本当よ。確かにまだ子どもだけど、今年で70になるわ」

「なるほど、やはり見た目で判断してはいけないと。これは失礼しました。噂を聞く限り、大男だとか、凶暴だとかで、てっきりもっと怖い人なのかと思ってましたから。⋯⋯それが、こんなに可愛げのある少女だったとは」

 

 初めてそんな噂を聞いたが、私を見てどうやってそのような姿を思い付くのか。どこからどう見ても、ただの少女でしかないはずなのに。悪魔の翼や牙は目立つとして、百歩譲って凶暴という噂は良い。良くないけど。だけど、大男というのはどうなのか。噂に尾ビレが付くのは常識だが、ここまでだとは思ってもいなかった。

 

「ありがとう。でも、そんな可愛げのある少女に勝負を挑もうとしているのでしょ? まず初めに、どうして挑むのか聞かせてほしいわね」

「あははは⋯⋯。実は私、祖国を出て修行の旅をしていまして。様々な場所で色々な方に決闘を挑んでいます。そんな時、近くの街でこの館に住む強力な悪魔の話を聞きまして⋯⋯」

「それで自分の力を試したいから、噂を頼りにここに来たと」

 

 近くの街ということは配下の街だろうか。これが終わったら、変な噂を流させないようにしないと。何度も挑戦者なんて来てたら、仕事が進まないし、妹達とも遊べなくなる。特に後者の方は無ければストレスが発散できないから、絶対に欠かせない。

 

「それで、外まで来てくれたということは、もちろん受けてくれますよね?」

 

 美鈴は早く戦いたいのか、それとも長話で心配になったのか、そう確認する。私としては本当は受けたくないのだけど、これも1つの運命的な出会い。私は相手を視認し、未来(運命)を確定できたからそれを知っている。私の能力は相手の姿が見えているほど、その相手に使いやすい。これは誰でも同じだろうが、私の能力はより確実性を増すことができる。

 

「受けてあげるわ。でも、1つだけ条件がある」

「何でしょうか? 条件次第ですが⋯⋯私は戦えるなら何でもいいですよ」

 

 やはり、根っからの戦闘狂か。それとも戦うことを生業とでもしているのか。どちらにしても、私としては都合が良い。条件を飲んでくれて、礼儀正しい人で、尚且つ強いとなれば⋯⋯安心して家を任せることもできる。

 

「私に負けたら、この家の門番になりなさい。貴女、見るからに強そうだし」

「⋯⋯え?」

「私に負けたら私の従者になりなさい」

 

 聞こえていないのかと思い、もう一度そう話す。が、美鈴は口を開いたまま頭を傾けていた。

 

「あ、あのぉ⋯⋯本当にいいんですか? 信頼とか、忠誠心とか⋯⋯そういうのって大丈夫なんですかね。いえ、私が負けた前提で話すのもおかしいですけど⋯⋯」

「心配ないわ。私には未来が見える。⋯⋯貴女が負けて、信頼のおける部下になるのは間違いないわ」

「は、ははは⋯⋯。褒められているのかそうじゃないのか分からないですね⋯⋯。ですが、私は負けませんよ」

 

 美鈴の目は真っ直ぐと私を捉えている。その目は本気だ。戦わないという選択肢はないのだろう。もちろん私も負ける気はない。いや、そもそも負けるはずがない。私は運命を操ることができ、身体能力も高い吸血鬼なのだから。

 

「そう、だといいわね。さて、そろそろ始めましょうか。メイド、貴女は下がってなさい」

「は、はい!」

 

 妖精メイドを下がらせ、美鈴と改めて顔を見合わせる。

 

「優しいんですね」

「それはもちろん、私の大事なメイドの1人だから。さあ、どこからでもかかって来なさい」

「はい、では遠慮なく⋯⋯」

 

 その言葉を最後に、辺りには静寂が訪れる。美鈴はゆっくりとした動きで構え、真剣な眼差しで私を見据える。

 

「──はぁっ!」

 

 と、美鈴はその姿勢のまま一瞬にして間合いを詰め、真っ直ぐと拳を放った。

 

「っ⋯⋯!」

 

 とっさに身構えるも、間に合わずに数mほど後方に飛ばされる。お腹と背中、両方が痛む。特に殴られたお腹の方は一瞬の痛みに留まらず、今も尚、鈍い痛みは続いている。

 

 その痛みを我慢し、相手に悟られないようにできるだけ平気な顔をして立ち上がる。

 

「すいません、少し強過ぎましたかね?」

「ふんっ、このくらいどうってことないわよ」

「そうですか、では──」

 

 美鈴は再び拳を構え、まるでそよ風のように静かに、一瞬に距離を詰める。

 

 ──が、動きは見切った。

 

 美鈴の拳を片手で横に逸らし、もう片方の手で手刀を作って首を狙う。

 

「っと、危ないですね」

 

 まるで読まれていたかのように、美鈴は私の手首を受け止め、すんでのところで攻撃を回避する。

 

「はぁっ!」

 

 防がれたのを見てすぐに蹴りを入れるも、美鈴は殺気でも感じ取ったのか追撃を受けないように後ろへ飛び退いた。それを好機と見て間髪入れずに地面を蹴って近付く。

 

 そして、引っ掻くように手を薙ぎ払うも、美鈴は頭を引いてそれを躱した。爪は美鈴の鼻先を掠めるだけに留まり、浅い傷だけを残した。だが、妖怪だからその程度の傷は意味がない。

 

「あ、危ないですねー」

「やぁっ!」

 

 相手が油断している隙に、勢いよく土を蹴って相手の顎目掛けて蹴り上げる。

 

「っ!?」

 

 しかし、それが決まることはなく、私の蹴りは空を切る。美鈴は慌てて距離を取り、拳を前にして身構えた。

 

「ほ、本当に危なかったんですが⋯⋯」

「あら、吸血鬼との戦いに油断なんかしちゃダメよ?」

 

 とは言ったものの、私の攻撃は全て躱すか受け流されている。渾身の力を込めたはずなのにだ。相手が素手である以上、武器を使うのは卑怯な気もする。なら、どうするべきか。技術面で勝るわけがない。⋯⋯身体能力にかまけた圧倒的な力と手数で押し切るしかないか。

 

 そう考え、再び美鈴との距離を詰める。今度は隙を与えないように、わざと少し逸らして殴り掛かる。当たり前のように軽々といなされるも、手数が多く避けるのに精一杯になった美鈴の動きはある程度予測することができる。そこに、運命操作でさらに制限をかけ、未来を確定させる。

 

 半ば卑怯な方法だが、手っ取り早く勝つためにはこれしかない。

 

「ここっ!」

 

 何度目かの拳を避けた直後に、その避けた方向へと渾身の力を込めた足で蹴り上げた。

 

「え──はぐっ!?」

 

 とっさのことに反応できなかった美鈴は、素早く力強い蹴りに数mほど浮き上がり、その場で倒れ込む。起き上がる前に勝負を決めようと、倒れた美鈴の首元に触れるように爪を押し当てた。

 

「あー⋯⋯これは降参した方がいいですね。まだ年端もいかない吸血鬼に倒されるとは思ってもいませんでした。私の負けです」

 

 意外と呆気なく終わったが、美鈴もそこまで本気ではなかったようだ。最初から倒されたら降参しようとでも思っていたのか。要は、まだまだ本気ではないが、仕えることに異議はない、ということだろう。

 

「さあ、約束は守ってもらうわよ。たとえ本気で戦ったわけじゃなくてもね」

「いえいえ、本気は本気ですよ。ただ、従者になるのも悪くないかなー、って思ってただけで」

 

 大体は予想通りだが、あまりにも潔い。もう少し戦っていれば、私も危なかったかもしれないというのに、どうして簡単に諦めるのだろうか。

 

 そう思って問いただすも、美鈴は首を横に振って私の疑問を否定した。

 

「私は戦うのは好きです。ですが、誰かを殺したいとか、そのような非情にはなり切れません。それに戦いを通じて分かりました。貴女は噂に聞くほど悪い妖怪ではない。だから、仕えてみたいと思ったのです。もちろん悪い妖怪だったりしたら、倒そうとか思ってましたけどね」

 

 美鈴はそう笑ってみせた。それは決して嘘などではなく、本心から話しているのだと分かる。この人は私の従者になる妖怪の中では、最も信用できる人になる気がする。

 

「面白い奴だわ。紅美鈴。今から貴女は私の従者よ。その命が尽きるまで、私の従者として働きなさい。⋯⋯あ、料理とかできる?」

「中華なら一通りは⋯⋯」

「よし、決まりね。明日からは中華料理よ。とりあえず部屋を決めるから、一緒に来て。その後、私の家族を紹介するわ」

 

 ようやく、私の夢は1つ叶った。家を守ってくれるような信用のできる部下。その初めての従者が紅美鈴となった。これでまた運命の歯車は動き出した。備えも充分。以前見えた大きな分岐点、それは残り5年を過ぎた。せめてそれまでは、幸せな日々が続きますように。

 

 誰にも悟られないようにそう願いながら、私は紅魔館の扉を開いた────




戦闘描写、特に近接戦闘とか難しいんじゃあ(

あ、それと評価バーに色がつきました。評価してくださった皆様、ありがとうございます。
それと、今まで読んでくださっている方のお陰で続けてこれています。今後ともよろしくお願いします( *・ ω・)*_ _))ぺこり

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