邂逅⋯⋯とは少し違うけど、ここから歯車は動くんだとか。
まぁ、お暇な時にでも⋯⋯
──Remilia Scarlet──
我が家に新しい従者がやって来た。名前を紅美鈴、種族は自分でも知らないらしいが、東洋にある国に起源のある妖怪だという。美鈴は強力な妖怪でありながらも妖力は少なく、代わりに『気』もしくは『氣』と呼ばれるものを目に見える形として使うことができるらしい。氣とは体内や自然に満ち溢れているエネルギーのことらしく、言ってしまえば魔力との違いは差ほどない。実際にはかなり違うとのことらしいが、そこを気にする私ではない。要は戦える力があるかどうか。重要なのはそこだけだ。そして、氣は戦える力であり、私もそこに文句はない。
美鈴には私直属の従者として働いてもらうつもりだが、普段は家を守る門番になってもらうことになった。その方が美鈴も戦える機会が増えるし、私としても堅苦しくなくて良い。従者に関してだが、料理はもちろん、家事全般もできるから困ることはない。妖精メイドはサボる者も多いから、頼れる従者ができて私は凄く満足している。
「さあ、お待ちかねの時間よ。次は地下に行きましょうか」
「はい、行きましょうか」
紅魔館の設備から今の状況など一通りの説明を終え、次はいよいよ妹達と会わせることになった。家族以外とは、誰にも会わせたことがないからどのような反応を示すか予測不可能な妹達と会わせるのは少し心配だ。だが、フランは人懐っこいし、ティアは人間以外なら下手に攻撃したりはしないだろう。現に妖精メイドとは話すところを見たことがある。その時はかなり人見知りを発揮していたが⋯⋯。
「着いたわね。⋯⋯すぅー、はあ⋯⋯」
「お嬢様? どうかしましたか?」
「いいえ、何でもないわ。さて、入りましょうか」
視認していない状態で未来を確定させることは難しい。だから、緊張を鎮めるために深呼吸する。そして、息を整えてから、ドアノブにそっと手を触れた。
「フラン、ティア。居るかしら?」
「あ、お姉様」
「お姉様ー!」
「──おっと。⋯⋯少し遅くなっちゃったかしら。待たせちゃったわね」
2人して声を合わせ、ティアに関しては私へ目掛けて飛んできた。突然のことにもできるだけ平気な顔で対応しようと、転ばないようにしっかりと妹を受け止める。フランは後ろの方で微笑ましそうに見ているだけだったが、それが私の救いだった。2人して飛びつかれると私でも受け止め切れない。もし妹を受け止めるのに失敗すれば、それこそ姉の面目に関わる。少なくても妹の前では、しっかりした姉でいたいから。
「お姉様、後ろの人は?」
抱きしめて離れないティアをよそに、フランが美鈴の方を指差してそう問いかける。ティアもフランの言葉にすぐに気が付き、慌ててフランの元へと逃げ込んだ。いつもの積極さは何処へ行ったのか。ティアはフランの後ろに隠れ、警戒した眼差しで美鈴を見ている。
ある意味予想通りと言えば予想通りだが、ティアの行動は思った以上だった。救いなのはフランがティアを撫でて落ち着かせていることか。ともかく説明してみるか。
「私の直属の従者よ。新しく入ったの。名前は──」
「紅美鈴と言います。お気軽に美鈴とお呼びください。これから門番兼従者として働くつもりです。妹様方、よろしくお願いします」
「フランドール・スカーレット。フランでいいよ。よろしくね」
「⋯⋯ティア。ハマルティア・スカーレット。ティアでお願い」
笑顔で礼儀正しく挨拶をする美鈴に対して、フランも笑顔で返す。ティアも
「フラン様、ティア様。これからよろしくお願いしますね。ところでお腹は空いていませんか?」
「そうだねー、もうご飯の時間だしお腹空いたかな。ティアは?」
「⋯⋯お腹減った。メーリン、何か作れるの?」
ティアは目を輝かせ、美鈴にそう聞き返す。
そうだった。この娘は恐ろしいほどに欲に忠実だった。それも、特に食欲は人一倍強い。何か悪いことがあってもご飯を食べると機嫌が戻っているくらいだ。
「ええ、中華料理というものを少し」
「中華料理? どこの地域の料理が得意? 山東? それとも
聞きなれない言葉がちらほら聞こえる。どうやら食にこだわり過ぎて色々と調べていたようだ。てっきり、人間の肉なら何でも美味しいと言う妹だから、食べ物なら何でもいいと思っていた。ただ食欲旺盛なだけだとも。認識を改める必要があるようだ。やはり、美鈴がこの家に来てくれたことは正解だった。妹にちゃんとしたご飯を食べさせてやれるのだから。
「色々な場所を旅していましたから、作れないものはありませんよ。八大菜系、なんでもござれ、ですから」
「本当に!? メーリン、色々な料理食べたい! いっぱい作って!」
「はい、お任せください!」
食べ物のこともあってか、ティアはすっかり心を開いてくれた。不安の種も消えて嬉しい限りだ。これで気兼ねなく、美鈴に留守番を任せることもできる。
「メーリン、貴女の料理、期待してるね!」
「おぉ、プレッシャーかけていくねぇ。じゃ、私も期待してるから」
「は、ははは⋯⋯。期待を裏切らないように頑張りますねー」
ただ、1つだけ心配事ができたか。美鈴の苦労が大きくならないかだけが心配だ。
そう思いつつも、私は半ば諦めた状態で食堂へと向かった。
食堂に着いてすぐ、美鈴は調理室で料理を作り、あまり時間を待たずに食事をとることになった。
「メーリン、おかわり!」
「はいっ!」
肝心のティアはというと、 次々に出てくる料理を絶えず食べ続けていた。その量は明らかに1日に摂取するエネルギー量の何倍、十何倍まで膨れ上がっている。あれだけ食べても太らない、それどころか痩せたままのティアが羨ましい。私は吸血鬼の中でも少食だからか、最初の一品目で満腹になった。フランも先ほどまでは食べていたはずだが、いつの間にかティアの食べている光景をただ見ているだけになっている。
「いつものことだけど、よく食べるわねぇ。食料の在庫って大丈夫かしら⋯⋯」
「そろそろヤバそうだよね。美鈴ー、次ので一旦休憩でー。このままだと、ティアが全部食い尽くしてしまいそう」
フランの言葉は比喩のように聞こえるが、決して比喩などではない。むしろ言い得て妙、という方が近いだろう。このまま満腹になる前に、食料庫の方が尽きてしまう。ティアは美味しそうに食べたり、美鈴は楽しそうに作っているが、いつかは止めないと後々困ることになるから仕方ない。
「お姉ちゃん、まだ食べれるよ?」
「だから、食べれたら困るの。食欲旺盛なのはいいけど、全部なくなると困るでしょ?」
「うーん⋯⋯それもそっか。お姉ちゃん、食べ終わったら遊ぼうね!」
「いいけど⋯⋯そんなに食べてよく動けるねー」
フランも流石に呆れているようだ。元気なのは良いが、本当にあれだけ食べて遊べるのだろうか。動き過ぎて気分が悪くなったりしないかが心配だ。まあ、大事に至ることはないだろうし、本人が遊びたいと言っているから、止めようとは思わないのだが。もし気分が悪くなった時は、それ相応の処置を施すだけだ。
「ティア様、最後の料理をお持ちしました」
「ありがとうっ! いただきまーすっ」
苦しそうな素振り1つせず、ティアは笑顔で最後に出てきた麻婆豆腐に食らいつく。ティアは遊びたい一心なのか、勢いよくガツガツと食べていき、たった数十秒足らずで平らげてしまった。流石に早すぎるその食らいつきに、その場に居た誰もが驚いていた。美鈴に至っては喜びと驚愕が混ざっておかしな表情になっている。
「早くない? ね、ティアのお腹の中どうなってるの?」
「解体して見てみる? お姉ちゃんにならそうしてもいいよ?」
「ごめん、それは遠慮する。さ、片付けて遊びに行こっか」
「うん! 美鈴、貴女も一緒に行こっ?」
ティアは美鈴へと手を伸ばし、笑顔でそう言った。いつもの人見知りの態度は消え去り、すでに家族として美鈴を捉えているようだ。こんなに短時間で仲良くなるとは思っていなかったが、先の心配がなくなって嬉しい限りだ。それにしても、ティアの食への愛は物凄いものだ。
「嬉しいですが、仕事が⋯⋯」
「いいわよ。今日は私と妖精メイドとでやるから。⋯⋯行ってきなさい」
ここで遊べるほど仲良くならないといつなれるか分からない。こういうチャンスは逃すべきではないと思っている。父親に引き離されていた時のいつかの私みたいに、仕事で何年も遊べなくなる、なんてことになることは避けたい。誰であろうと遊べる時に遊べた方が良いに決まっている。
「は、はい! では、行きましょうか。妹様方」
「うんっ! お姉ちゃん、どこで遊ぶー?」
「地下か外かでいいんじゃないかな。今の時間は」
「じゃぁ、外で! さぁ、行こっ! あ、お姉様も終わったら来てね!」
「ええ、分かってるわよ」
楽しそうに3人は手を繋ぎ、月が照らす外へと出かけていった。
その後、私が遊びに行くと、疲れ果てていた美鈴が居たのは言うまでもないだろう────
前回に続いてですが、誤字報告や一言付き評価など、ありがとうございます( *・ ω・)*_ _))ぺこり
稀に変な誤字脱字に気付かずに投稿してしまうので、報告してくださるのはとても嬉しいです。本当は自分で確認する時に気付かないといけないんだけどね(
ともかく、おかげさまでモチベが上がっています。⋯⋯せめて20話辺りまでは1、2日おきのペースで書き続けたい。
ちなみに次回は14話辺りで予定していた話だとか