東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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一日に一話ずつ投稿すると言ったが、すまん。あれは半分嘘だ。

というわけで(?)2話目の話。ここから一人称視点となります。
幽閉されたスクリタことハマルティア。これは、それからかなり先のお話です。


2話「救恤な次女」

 ──Hamartia Scarlet──

 

 私はハマルティア・スカーレット。スカーレット家の娘で、緑色の髪と紅い瞳を持つらしい。どうしてか鏡には写らないから、他人の話から判断した結果、こういう容姿になった。髪は切るのも面倒だから、伸ばしたままにしている。爪も切る方法がないけど、ある一定以上からは伸びていないから切る必要はないのだろう。

 そして、私が住んでいる世界のことを、地下という。地下の外にもとても広い世界があるらしいけど、それを見ることはできない。だって私は地下で暮らさないといけないから。お父様にそう言われてるから、きっとそうしないといけないんだと思う。

 

「はあ、もう30年⋯⋯」

 

 今年で私は30歳になる。少し前⋯⋯と言っても日にちで言えば何日か前になるのかな。とにかく少し前に来た人が言っていた。どうして30歳なのかと言えば、産まれてから30年経ったから。なるほど、分かりやすい。でも、30年も退屈な日が続くのはどうしてだろう。遊べるものは何も無く、食べれる物も少ない。たまに来る眷属という人達も私とは遊んでくれない。持ってくるものも退屈な本にべんきょー道具、それと食料だけ。だから退屈。退屈なのとはおさらばしたい。だけどできない。私はここから出ちゃダメだから。誰かに触れることも禁止されている。力を奪ってしまうから。

 

「⋯⋯やっぱり嫌だ。もっと食べたい。もっと遊びたい。何でもいいからもっと何か欲しい」

 

 この世界に居るのは我慢ができない。何もかもが退屈で、窮屈で、つまらない。だから外に出たいけど、お父様が許してくれない。それに嫌そうな目を向けてくるから、やっぱり私は嫌われているのだと思う。これも本で知った言葉だから、好きや嫌いの意味はよく知らないけど。私は好きと嫌いを、食べたいか食べたくないかで置き換えて判断している。私は何でも食べたいけど。で、お父様は食べたくないと同じ意味の目を向けている。理由としては、私が母親という人を殺したから。その母親という人は何か知らないけど、なんだか懐かしい気がする。私の解釈が間違ってるかもしれないけど、聞く相手がいないから仕方ない。どうせ眷属達も相手にしてくれないだろうし、私が殺したからお父様以外は家族というものがいないのだから。

 

「何の音だろう」

 

 最近、外の物音が激しい。最初は眷属かと思ったけど、どうやらそうでもないみたい。あ、でもたまに眷属の叫び声みたいなのはする。多分、誰かと遊んでいるのかな。羨ましい。私は眷属以外誰とも会えないし、誰とも遊べないから。物音の主が私と遊んでくれるような人なら会ってみたい。会って話したり、遊んだり、食べたりしてみたい。きっと私が食べたいと思う人は、優しくて美味しい人だと思う。だけど、触れるのも禁止されているから、やっぱり食べるのは無理かもしれない。

 

「お嬢様! お止めください! ダメです! ご主人様からこちらの部屋に入ってはいけないと⋯⋯!」

「あー、もう! メイドちゃんは黙ってて! どうせ私の前に顔も出さないんだから、父親なんて知るか!」

 

 また声がした。でも⋯⋯なんだろうこの気持ち。初めてのはずなのに、何故か嬉しい。言葉は荒っぽいけど心安らぐ。私の退屈を無くしてくれそう。この声の主が物音の主かな。メイドという人と一緒に居るみたいだけど、どこの部屋に入ろうとしているんだろう。

 

「邪魔するよー」

 

 とか考えていると、急に私の世界の扉が開かれた。大きな音を立てて開いた扉の先には、黄色い髪を持った私と同じくらいの背丈の人がいた。私みたいに翼はあるけど、膜の代わりに宝石みたいにキラキラした物が左右合わせて14つもある。紅いドレスは黒い私のドレスとは少し異なるけど、かなり似ている。髪は横で纏めていて私の長髪とは違うけど、もし鏡があれば私の姿は目の前の人と似ている気がする。本当にどうしてだろう。理由は分からないけど、そんな気がする⋯⋯。

 

「あ、可愛いー! お人形さんみたいな小さくて可愛い娘だね。私はフランドール・スカーレット! フランでいいよ。貴女の名前は? ってか、この部屋何も無くない? 退屈しないのー?」

 

 フランと名乗る人は、元気いっぱいにそう言った。私と違って、楽しそうだから羨ましくて妬ましい。でも⋯⋯会えて嬉しい。それにスカーレット? なら私の血縁者だろうか。可能性は高いと思う。だって、似ている気がするのだから。

 

「私はハマルティア・スカーレット。⋯⋯もしかして、私の家族?」

「え? ⋯⋯えぇっ!? ちょ、ちょっとメイドちゃん! 私に2人目の姉妹がいるとか聞いてないけど!?」

「そ、それは⋯⋯その⋯⋯」

 

 2人目⋯⋯? ならもしかして、この人以外にもいるのかな。私と似ていて、食べたいと思える人。もしそうなら、その人とも会ってみたい。少なくとも、お父様よりは食べたい、という目をしてくれるかもしれない。

 

「はっきり答えて、ね? じゃないとどうなるかは⋯⋯」

「お、お嬢様の妹様ですっ! お嬢様同様に能力が危険と判断され、同じように地下に幽閉されていましたっ!」

「冗談だったのに本当に答えてくれるとは⋯⋯。でも、ふーん。妹かぁ」

 

 フランは私に近付き、まじまじと見つめる。その目は不思議で、食べたいとか食べたくないとは違った意味が込められている気がした。

 

「⋯⋯ふふふ。かわいっ! ハマルティアって言うのね! 私、貴女のお姉さんだよ!」

「え⋯⋯?」

「あ、ああ! お嬢様! 触っては⋯⋯!」

 

 フランは私を食べたいという目で見ると、突然抱擁してきた。温かく、なんだか幸せな気持ちになる。私の退屈が、飢えが、引いていくのを感じる。私が欲しかったのはこの温もりだったんだ。この幸せな気持ちだったんだ⋯⋯。しばらく身を委ねていたいけど、能力があるからそうにもいかない。私は泣く泣く、フランを引き離した。

 

「あ、ごめん。嫌だった?」

「ううん。でも、私に触れないで。力を吸い取ってしまうから。⋯⋯でも、フラン。ありがとう」

「え、力を? ⋯⋯ま、良かった、嫌いじゃないみたいで。こちらこそありがとうね」

 

 こんなに幸せで嬉しい気持ちになったのは初めてだ。抱擁されていた時は渇きも飢えも無くなり、ただされている間だけが何も要らなくなった。今回ばかりは食料とかよりも、さっきの時間が欲しい。フランを食べてみたい。でも言ったら、食べたくないって目で見られそうだから言いたくはない。もう少し、フランと仲良くなってからじゃないと⋯⋯許してはくれなさそう。

 

「あ、呼ぶ時はフランじゃなくてお姉ちゃんだよ? 私がお姉さんなんだから。その代わり、私も貴女のことをティアって呼ぶからおあいこということで。だって名前長いしね」

 

 交換条件になっていない気もするけど、ハマルティアよりは響きがいいから良しとしよう。それに⋯⋯ああ、好きという気持ちが何となく分かった気がする。フランを好き。フランを食べたい。多分同じ意味なんだと思う。やっぱり好きと食べたいは同じだったんだ。

 

「分かったよ。⋯⋯お、お姉ちゃん」

「⋯⋯ふふふ! やっぱり可愛いっ! 好きなだけ呼んでいいからね! 私、貴女のこと好きになったから!」

「え? ⋯⋯嬉しい。ありがとう、お姉ちゃん」

 

 触れないでと言ったからか、さっきみたいに抱擁はしてくれないけど、とてつもなく嬉しいのは伝わる。フラン⋯⋯いや、お姉ちゃんに今にも飛び付かれそうで、それが少し楽しみになっている。

 

「いいのいいの。私は貴女の姉なんだから。好きなだけ甘えていいからね! って、ティア。しっかりご飯食べてる? 見たところ、かなり痩せてるけど」

 

 私の痩せ細ったお腹を見て、お姉ちゃんはそう聞いた。確かに改めて見ると確かにお姉ちゃんよりはかなり痩せている。やっぱり人間5人程度じゃ足りないんだ。もっと食べて、お姉ちゃんみたいになりたい。

 

「メイドちゃん! ティアにご飯は出してないの!?」

「い、いえ! そんなことは⋯⋯! 毎回足りないと言われるので、毎日フラン様の3倍は出しているはずです」

「え、さっ⋯⋯!? じゃ、じゃあさ。ティアって毎日5、6人くらい人間を食べてるの?」

「うん。でも足りない。後10人くらいは欲しい」

 

 想像以上の量だったのか、お姉ちゃんは驚いた顔をやめない。もしかして、普通はそんなに食べないものなのだろうか。だとすれば不思議なものだ。お姉ちゃんよりも食べている私がここまで太らないなんて。

 

「うーん⋯⋯バランス的な問題なのかな? とりあえず、今の状態をキープして、人間以外の何かも食べれたらベストかな。野菜とか果物とか。色々あるしねぇ⋯⋯」

 

 お姉ちゃんは私のために真剣な表情で考えてくれている。やっぱり、姉という存在は優しいものなのだろうか。そう言えば、お姉ちゃんがもう1人の姉妹の存在を言っていたが、その人はどうなのだろう。お姉ちゃんみたいに優しいのかな。

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃん。私とお姉ちゃん以外の姉妹はどういう人なの?」

 

 気になったからとりあえず聞いてみる。この精神は意外と大切だと思う。聞かないと一生分からないことも多いから。まあ、今まで聞く相手なんていなかったんだけど。そう考えればお姉ちゃんが初めて聞く相手になるのか。

 

「え? あー⋯⋯。名前はレミリア。私達の姉だよ。そう言えば貴女の歳は知らないけど、35の私の5歳上。だから、今レミリアは40だね」

「40⋯⋯私の10個上。私は今30だよ」

「5歳ずつなんだね、うちの姉妹。話を戻すけど、多分薄情な姉だと思うよ。会いに来てくれないし、昔一度だけ会いに来てもあんまり話してくれなかったし。ま、もしかしたら気まずいから話せないだけかもしれないけど? あいつってこの家の跡継ぎだしね。気まずくなるのも分からなくないけど、もう少し打ち解けてもいいと思うんだよねー」

 

 姉のことに対して複雑な気持ちを持っているのか、早口でそう言い放つ。本当にレミリアという姉は薄情な姉なのだろうか。会ったこともないから分からないけど、お姉ちゃんみたいに優しくて食べたいと思えるような姉であってほしい。じゃないと、お姉ちゃんしか私の飢えと渇きを癒してくれる人がいなくなるから。欲を言えば、お姉ちゃんやレミリア以外にも私の飢えと渇きを癒してくれる人や物が欲しい。じゃないと退屈して、死にたいと思うようになっていただろうから。お姉ちゃんが居てくれて良かった。生きていたら、もっと嬉しくて幸せな気持ちになれる気がしてきた。

 

「って、ティア? 聞いてる?」

「うん。聞いてるよ」

 

 まだ喋り続けていたらしい。半分以上聞いてなかったけど。本当のことを言ったら嫌われるから言わないでおこう。これからもずっとお姉ちゃんと一緒に居たいし。

 

「そ。それなら良かった。もし聞いていなかったら、こちょこちょの刑だからねー?」

「お、お嬢様! ですから触ってはいけないと⋯⋯!」

「もう! 冗談だからメイドちゃんは黙ってて! 記念すべき姉妹の初対面なんだから。監視はしてていいけど、口出しはしないでね。ま、口出しされても聞きはしないけど」

 

 お姉ちゃんは悪びれもせずに宣言する。こういうのは本で見たことがある。反抗期というものだったはず。お姉ちゃんは反抗期なのかな。

 

「ねぇ、ティア。何かして遊ばなーい? 吸血鬼ごっことか、お人形さんとかで!」

「で、ですがお嬢様。もうすぐご主人様が来られるかと⋯⋯」

「えー! またあいつ来るの? ちっ、面倒だなぁ」

 

 お父様が地下に来るんだ。私はお父様に嫌われているし、食べたいとは思えない。だから、私もお父様のことが嫌いなのだと思う。何も教えてくれない人だから、眷属と同じような存在としか思わないけど。

 

「ですが、もしここに来ていることがバレれば──」

「あー、はいはい。分かったよ。⋯⋯ごめんね、ティア。もう少し居たかったんだけど⋯⋯帰らないといけないみたい」

「⋯⋯うん。分かった」

「あっ⋯⋯もちろん明日も来るからね! もし、貴女が良かったらだけど⋯⋯」

 

 お姉ちゃんは照れくさそうに許可を求める。私もそれは願ったり叶ったりだけど⋯⋯大丈夫なのかな。お姉ちゃんもお父様には逆らえないみたいだし⋯⋯。

「もちろんいいよ。でも、大丈夫? ここに来たら、お父様に怒られない?」

「え? ふふん。バレなきゃ大丈夫大丈夫。ね、メイドちゃん?」

「え、は、はい⋯⋯」

 

 私これ知ってる。脅しというものだ。何かと引き換えに、相手の反抗を抑圧する行為。この場合、引き換えの何かはメイドという人の命かな。恐怖になのか、少し震えているように見えるし。

 

「もー。言わなかったら何もしないんだから、そんなに怖がらないでよ! うちのメイドはこんなのばっかりだなぁ。じゃあね、ティア。また明日会おうね!」

「うん!」

 

 お姉ちゃんは手を振って、メイドと一緒に私の世界から出ていった。また寂しくなるけど、昨日までよりはマシだ。飢えも渇きもまた復活したけど、また明日、お姉ちゃんと会えると分かればそれも耐えれる。お姉ちゃんと会えれば飢えも渇きも無くなるのだから。これからは、毎日が楽しみになる予感がする。お姉ちゃんと出会ってようやく生きたいと思える目的を見つけた。飢えも渇きも癒してくれる、そんなお姉ちゃんが居てくれる。なんて幸せなことなのだろう。そして、願わくば⋯⋯お姉ちゃんともっと仲良くなって、()()()()()()()()()()()()

 

 さあ、早く寝よう。お姉ちゃんに少しでも早く会いたいから────




ちなみに読みたい人がいれば、フランと出会うまでの自暴自棄ティアちゃんの番外編出します(
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