どうやらティアは、1人で部屋に居るみたいですが⋯⋯?
──Hamartia Scarlet──
お姉様との魔法練習を終えて、ご飯を食べて、お風呂に入って⋯⋯。いつもの習慣を一通り終えた私は、すぐに部屋へと戻ってきた。たまに1人で寝る時があるけど、隣の部屋はお姉ちゃんだし、何かあったらすぐに来てくれるから怖い事は無い。それに、今は1人じゃないから。
昨日になって初めて、私から孤独という文字は消えた。お姉様やお姉ちゃんと一緒に居ない時でも、私は1人じゃなくなった。今、私の中には狂化お姉ちゃんが居る。狂化お姉ちゃんは常に心の中で生きていて、私に話しかけてくれる。動けない狂化お姉ちゃんの代わりに、私は五感と思考を共有してあげている。だから、困ることは無いと思う。一緒に遊べて、感じて、思考して。あれほど望んでいたお姉ちゃんとの共有が、ようやく叶った。私の願いが、新たに1つ叶ったのだ。本当に嬉しい。今もこの感情を、お姉ちゃんと共に感じることができるなんて⋯⋯なんて幸せなんだろう。
『ああ、うん。そうだネ。ティアの思考、複雑過ぎて読ムの疲れル』
「そうなの? ありがと、読んでくれて。お姉ちゃん、もっと共有しようね!」
『なら、ワタシにもカラダ動かさせてヨ。アナタに委ねるのも良イけど、自由過ぎてワタシが不自由』
お姉ちゃんの中に居る時と違い、心と身体を共有していても、身体の所有権は私が握ってる。だから、狂化お姉ちゃんは私の意識が無い時くらいしか身体を自由に動かせないらしい。私としては、どこかに行っちゃう心配や、誰かに奪われる心配が無いから良いと思うんだけど。
『もうティアとは
「だーめ。お姉ちゃんは私だけのモノだよ? いっぱい束縛しちゃうんだから。でも、今束縛する代わりに、後で自由な身体をあげるから、ね? 今は我慢して」
『⋯⋯破ったら、内側から
権能を全て扱えるようになったら、きっと狂化お姉ちゃんのことも自由にすることができる。本当は離したくないけど、そうしないと温もりが無いから仕方ない。⋯⋯それにしても、言い難い。それにややこしくて不便だな、お姉ちゃんの名前。
『フランでいいヨ?』
「それじゃぁ、区別付かないじゃん。もっと分かりやすい⋯⋯あ、スクリタとかどう?」
スクリタは元々私の名前になるはずだった名前だと、昔お姉ちゃんに聞いた。『ティア』の方が呼ばれ慣れているから名前を変えようとは思わなかったけど、今なら名乗っていいかもしれない。今私は、狂化お姉ちゃんと身体を共有して、1人で2人の状態だから。スクリタ・ティア・スカーレット⋯⋯。1人で2人だからこそ、名乗ろうと思える素敵な名前。ハマルティアなんて名前、好きじゃないしね。これを機に変えようかな。でも、勝手に変えたら怒られるかな。今はハマルティアのままでいっか。いつか、2人の名前を名乗ってみたいなぁ⋯⋯。
『スクリタ⋯⋯。ふ、ふふっ。良イヨ、その名前デ。気に入ったカラ』
「良かった! じゃぁ、これからよろしくね、スクリタ」
『よろしくネ、ティア。⋯⋯ところで、どうしてソレが見えてるノ?』
「⋯⋯さぁ? スクリタのせいだと思う。スクリタを吸収した時、くっ付いて来たんじゃないかな」
今、私には奇妙なモノが見えている。それは、昔お姉ちゃんに教えてもらった物体⋯⋯『目』だ。物体の最も緊張している部分であり、お姉ちゃんはそれを手の中に移動させて握ることで、破壊することができているらしい。今私にはその目が見えているんだけど、触っても特に何か起きる事は無い。恐らくはモノの目が見えているだけで、破壊とか移動させるとかはお姉ちゃんの専売特許なんだと思う。隠れているモノが見える事もあるらしいし、有って困る事は無い⋯⋯はず。
『ワタシのせい? あ、ふーん。イイんだ、そんな事言っテ』
「悪い意味じゃないから良いのー。そう言えば、私の中にちゃんとスクリタの目もあるんだね。⋯⋯頭じゃなくて、心臓辺りに居るんだ。変なの」
『ワタシがどコに居るかなんテ自分でも知らなかっタ。でも、ココロに響くなんテ言葉があるから、そこに居てもおかしくないんじゃナイ?』
よく分からないけど、心という言葉は好きかもしれない。脳じゃなくて、心で⋯⋯。うん。確かにそう言われると、スクリタが心に居てもおかしくないかも。
「⋯⋯スクリタ、お姉ちゃんと話してみたいって思う時ある?」
『ナイ。会うのイヤ。フラン、絶対にワタシの事嫌いだから⋯⋯』
「そうかなー? 私は嫌いじゃないと思うけど⋯⋯」
お姉ちゃんなら狂化の原因だったスクリタも受け入れると思うけど⋯⋯。お姉ちゃんは優しいし、お姉様と違って柔軟な対応もできるし。だから、一度くらい会ってみるのも悪くないと思うんだけどな。
『思考共有しテるって、分かってテ思ってル? 性格悪イ。⋯⋯カラダを手に入れたら、イヤでも話すことになル。だから、その時に話ス』
「うん、分かった。大丈夫、絶対に仲良くなれるよ。お姉ちゃんは優しいから」
『⋯⋯ティア、今スクリタと違って、って思ったでショ』
やっぱり、思考共有は面倒かもしれない。読まれたくない思考が読まれるし、多分、スクリタも読みたくない思考を読んじゃうっぽいし。⋯⋯あ、でも。それはそれで良いかも。自分の全てを受け入れさせることができるし。
「⋯⋯思ってないよ? スクリタの事好きだから。それに私、まだスクリタしか食べてないし。お姉ちゃんも一応はあるけど、意識がスクリタに乗っ取られてたし」
『論点ズラしてル。やっぱり思ってるジャン。しかも、思った以上に酷イ』
「そう? でも、スクリタは受け入れてくれるよね、私の事。あ、受け入れなくても、ずーっと束縛してあげるから、絶対に好きになると思うよ」
『⋯⋯⋯⋯』
あれ、どうして黙っちゃうの? 照れてるのかな。⋯⋯想像したら可愛いな。お姉ちゃんの顔で照れるなんて私得。顔が見れないのが本当に残念。
『ティアって、ワタシ以上に狂ってるっテ、言われナイ?』
「ううん、言われないよ。だって、普通だから。あっ、お姉ちゃんがおかしいってわけじゃないからね?」
『ソレは分かってル。ティアの事、好きになれるけど、その狂愛は怖いヤ。愛されたら、絶対に逃げれなイ。そんな気がすル』
「何言ってるの? 逃げたらダメだからね? スクリタはもう、私のモノだよ」
『えェ⋯⋯』
冗談のつもりだったのに、めちゃくちゃ引かれてるような⋯⋯。どうして本気にしちゃうんだろう。逃げないで、って少しでも思っちゃったからかな。逃げて欲しくないのは、誰でも同じだと思うのに。
「スクリタ、誤解しないでね? 普通に好きなだけだからっ」
『その普通が怖イ。でも、カラダを持てたら、ワタシはティアから逃げナイヨ。その時は、いっぱい
「うんっ! 楽しみだね、前は最後までできなかったし、次はどっちか倒れるまでする?」
『イイヨ。どうせティアが先に倒れると思うけド』
「えーっ! 私の方が食べ慣れてるし、スクリタの方が先だと思うよー」
いつもは部屋で1人だと寂しくて、飢えと渇きがして辛いのに⋯⋯私の中にスクリタが居るから、まるで妹ができたみたいで嬉しい。お姉ちゃんやお姉様と一緒に居るのもいいけど、たまにはこうして、部屋で1人居るのもいいかもしれない。だって、新しい
『うん、ちょっと待っテ。妹じゃない、お姉ちゃんネ?』
「はいはい。分かってるよ。強がるスクリタも可愛いねっ」
『絶対分かってナイッ!』
あぁ、早くスクリタの身体を作りたいな。ちゃんと温もりがあって、抱き締めると心地良い身体。そんな身体を作りたい。⋯⋯今度、時間ができたらウロ辺りにでも相談してみようかな────
次回は今章最後の日常回。ちなみに次次回から次の章に入る予定。