──Hamartia Scarlet──
コアと一時休戦し、約束していたお姉様の元へと向かっていた。途中、太陽対策にフードや日傘を取りに行ったりして。いつも感じていたお姉様の魔力を辿り、私達は紅魔館の屋上へとやって来た。
「お姉様!」
「⋯⋯あら、ようやく来たのね。遅かったじゃない」
私達が来た時、お姉様は槍を構えたまま、上空に浮かんでいた。しかし、いつも見るお姉様の姿とは違った。左側にある服は焼け焦げた跡があり、他の部分も若干血に染まっている。だけど、見る限りではお姉様に怪我は無い。それを確認してホッと安心し、お姉様の傍へと近寄る。そして、いつものように抱き着いた。
「良かった! ごめんね、お姉様。すぐに行けなくて」
「別にいいわよ、気にしなくても。でも、抱擁は終わってからにしてほしいわね。まだ戦いは終わってないの。ティア、フラン。好きなように暴れていいわよ。ああ、後そこのメイドもね。戦いたくないなら、援護にでも回ってくれれば良いから」
お姉様は私とお姉ちゃん、そして、コアに向かってそう言った。どうやら、お姉様は未だにコアが悪魔だと気付いていないらしい。鈍感なお姉様らしいと言えばらしいけど、どうして気付かないのかな。実は、気付いていて、知らないフリをしてるとか? ⋯⋯なわけ無いか。お姉様だし。
「分かりました。では、いつも通り、自由気ままに戦わせていただきますね」
「ティア、日傘だと戦いづらいでしょ? フードとかコートとか、邪魔にならない服着よっ?」
「うん、分かった。お姉ちゃんも私とお揃いの服を着てよ? じゃぁ、私は⋯⋯」
日光に当たらないようにコートを着て、フードを深く被り、日傘を捨てて弓を召喚する。弓の名前はミストルティン。弓自体は飛距離を伸ばすためにルーンで強化してるだけで、他には何も細工をしてない。効果があるのは矢の方で、魔力で作り出した矢にルーンで効果を付けている。
「
「できれば食べないでほしいわね。それと、あまり殺さないように。正当防衛なら良いけど」
「お姉様、それ絶対過剰防衛になるやつ。ま、適度に戦闘不能にさせれば良いんでしょ。⋯⋯私はそんな手加減できないけど」
お姉ちゃんも私と似たような服を羽織り、フードを深く被った。見た感じ怪しい魔法使いみたいだけど、顔が見えれば仮装をしている可愛い女の子にしか見えない。流石お姉ちゃん、とでも言うべきかな。可愛過ぎて、食欲が抑え切れない。今にもお姉ちゃんの首をこの場で噛みちぎって喉を潤したい。⋯⋯まぁ、もちろん今は我慢するけど。後で人間でも食べて気を紛らわせよう。
「さて、貴方達が行くなら私も出ようかしら。ちょっと強めの騎士が居るから気を付けなさいよ」
「はいはい。コア、貴女も一緒に行くよ。⋯⋯というか、1人にさせるの怖いし」
「はいはーい。1人1人、確実に潰して行きますねー」
「心配だなぁ⋯⋯。ま、いいや。レーヴァテイン。久しぶりに暴れれるから嬉しいな!」
お姉ちゃん達は戦いが繰り広げられる地へと降り立つ。逆に私は上空へと舞い上がり、できるだけ大勢が居る場所を狙って弓を構えた。そして、矢を魔力で形作り、そこにルーン文字を刻む。
「
矢を放つ。練習はあんまりしていないから、思った通りには飛ばないけど、それほど狙いはズレていない。
矢は地面に当たると、音を立てて小さな爆発を起こす。そこから大きな炎が吹き溢れ、それは周りに居る人間を飲み込みながら、徐々に広がる。人間を食い荒らすようにも見えるそれは、竜のような大きい生き物にも見えた。多分、ウロが竜になったら、こういう風に一方的な戦いをするんだと思う。
「もーえろよもえろーよー、炎よもーえろー」
『ティア、後ロ!』
「ん──やっ!?」
突然、スクリタの声が聞こえたと思ったら、背後から何かに右腕を噛まれた。その痛みで弓を落としてしまうも、とっさに右肩を破壊して、前へと飛び逃げる。正体を確かめようと後ろを見ると、そこに居たのは竜だった。私の2倍くらいの大きさだけど、手が翼と一体化している。私がよく知る竜の姿じゃないけど、ワイバーンとか言う竜なのかな。
「ありがと、スクリタ。それにしても⋯⋯あーぁ。腕が無くなっちゃった。それに不意打ちだなんて。酷い事するね。あの竜」
『ティア、よく見て。背中に誰か乗ってル』
「⋯⋯本当だ。貴方はだぁれ? 私はティア。ハマルティア・スカーレット」
竜の背に乗る甲冑を身に纏う人間の男に向かって、そう聞いた。男は竜の手綱を引き、片手に持つ槍を構えながらも、口を開く。兜の隙間から見える赤い目は、怒りか何かに支配されているようにも見える。
「オレは節制の騎士、アルバート・アスター。しかし、罪という名を持つ吸血鬼か。名前に相応しいな。貴様らは生きている事が罪。よって、今ここで! オレが! 貴様らに審判を下そう!」
「⋯⋯うるさいなぁ。黙って喰われて。それと、その竜ちょうだい。ウロより美味しいのか、試食してあげる」
「はっ! ここで死ぬ貴様に、その試食は無理だな。さあ、永久に口を閉じてもらおうか!」
竜の手綱を引き、節制の人は真っ直ぐこちらに向かって突進してきた。慌てて横に避け、権能を使って超高速で右腕を再生させる。そして、愛剣のリジルを召喚して手に取り構える。
「ほぅ、回復も早いか。しかし、その回復にも限度が──」
「だからさ、うるさいって。
ルーンを描き、熱光線を発射させる。流石に手袋をしてないから太陽から手は防げてないけど、ちょっと熱いくらいだから問題は無い。熱光線は節制の人の肩を貫き、遥か彼方へと飛んでいった。その輝く様は流れる星のようだった。
「ぬわぁ!? な、い、今のは!?」
「ルーン魔法、
続けてルーン文字を描き、熱光線を放つも、それが節制の人に当たる事は無かった。とっさに後ろに逃げたのが幸いしたのか、頭の兜を掠めただけで、相手に当たる事無く消え去った。
「あ、危ない⋯⋯っ!」
「はぁーぁ。いい加減にしてよ。早く当たって、私に竜をちょうだい」
何も言わずに
「⋯⋯あ、れ?」
熱光線は敵の頭に向かって進んだ──はずだった。なのに、気付いたら、私がそれを認識した時には、熱光線は
「あ、がぁ⋯⋯っ」
熱さと痛みでどうにかなりそうだ。よく見れば、ルーン文字を描いた私の右手も人差し指や中指が消えている。傷口は何かに焼かれたような⋯⋯その怪我の原因は間違いなく私の魔法。ただ真っ直ぐ飛ぶなら分かるけど、どうしてなんだろう。その熱光線は、私の額に真っ直ぐ向かい、その直線上にある指を焼いた。それだけじゃなく、額に命中した後、脳内を掻き乱すかのように曲がったらしく、傷が簡単には治らない。
私でも曲げるなんて器用な事できないのに、何故かそれは曲がった。一度じゃなく、何度も。
「ま、間に合ったか。やはり、聞いた通り、そのままの効果なのだな」
「⋯⋯何をしたの? 暴発させたとかなら、頭の中で何度も曲がらない。自由に魔法を操作できる? それとも、私から操作権だけ奪ったの?」
「ふん、敵に自らの手の内を晒す者がいるか」
「あっそ。なら、魔法を使わずに殺してあげる。いっぱいいっぱい、斬ってあげる!」
空を蹴り、剣を構えて真っ直ぐに突き進む。それを見た節制の人は、僅かに竜を下がらせ、私に狙いを定めて槍を構えた。
「バカめ! バカ正直に真っ直ぐ来る奴がいるか!」
「──そうだね」
ぶつかる寸前、空中にルーン文字を描いた。描いた文字は
「な⋯⋯にっ!」
「今度こそ、死んじゃおっか」
節制の人を狙って、力強く剣を振り下ろす。剣は肩から食い込んで背中を切り裂き、真っ赤な血を噴き出させた。多少服に返り血が付いたけど、竜は無傷だ。乗り手は死んじゃったし、これで気兼ねなく竜を奪える。
「あ、ぐっ⋯⋯!」
「あれっ」
殺したと思った節制の人がどうやら生きてたらしい。竜から転げ落ち、地へと真っ逆さまに落ちた。乗り手を失った竜は自分の意思を失ったかのように、翼を動かすのをやめ、乗り手と同じように落ちてしまった。
「あーぁ。残念。代わりに今度ウロでも食べよ」
落ちていく乗り手と竜を見ながらそう呟く。間もなく、竜とその乗り手が墜落して血を──
「墜落して、死ぬ。とでも思ってたんですかぁ?」
「⋯⋯もう何も驚かないよ。今度は何?」
下に落ちていたはずの節制の人が消えた。竜は地に落ちて綺麗な真っ赤の海に沈んでるというのに。気付いたら、節制の人だけが消えていた。そして、背後で声がする。さっきみたいに、また誰かが飛んでるんだな。そう思って、静かに後ろを振り向いた。
「純潔の騎士、ヨーコ。神秘を使う人間、とでも名乗っておきますね〜」
背後には、何の力も感じない、スタイルの良い金髪ロングヘアーの女性が浮いていた。その目は私やお姉様と同じような赤い目だ。だが、似てるだけで、その奥からは全く別の光を放ってた。そして、さっき落ちたはずの節制の人を抱えている。
それにしても、不思議な人間だ。何の力も使わずに飛ぶなんて、明らかに普通じゃない。何か仕掛けはあるんだろうけど、それが何か分からない。それに、直感だけどこの女性は危険な感じがする。直感でも危険な感じがするから⋯⋯今ここで殺さないと。
「ふーん。初めまして。⋯⋯
敵が何か動きを見せる前に、すでに何度も使ってる移動魔法で背後を取り返す。敵は気付いてないのか、振り返らない。だけど、念には念を入れよう。そう思って、ルーン文字を描いて剣を振り上げた。
「──
「いえいえ。まだ早いと思いますよぉ?」
「⋯⋯あらま」
──が、剣が人間達に当たる事は無かった。剣は金属音を立てて人間達に当たる一歩前で空中で静止し、その場で固定されたかのように動かなくなった。どれだけ力を入れても動かせない。諦めた私は、そっと剣から手を離して消し去る。そして、再び剣を召喚した。
見る限り、遅延の魔法も効いてないらしい。やっぱり、何かがおかしい。
「ここで戦うのも良いですが、目的のためにも一旦おさらばしますね〜。また、会いましょうね、傲慢の吸血鬼さん」
「逃がすか!
槍にルーン文字を描いて純潔の人に投げつける。お姉様みたいに上手くは投げれないけど、そこはルーンに補助させた。描いた文字は
「わっ、危ないですね〜」
「⋯⋯ちっ」
槍は人間達に当たる直前で、見えない何かに弾かれるようにして曲がった。私の攻撃は全て、何かしらの力で通用しないらしい。あと私にできる攻撃手段といえば、近付いて力を強奪するくらいかな。多分、それしか方法が⋯⋯。
「さっきも言いましたが、私は逃げに徹しますからねぇ? それに、もう今回の戦争はすでに終わったようなものですし」
「一体何を言って⋯⋯」
『⋯⋯ティア、下見て。人間達が逃げていく』
「え⋯⋯?」
スクリタの声を聞き、地上を見る。確かに、戦闘しながらも人間達は逃げていた。みんな一定の方向に逃げてるから、戦略的撤退、みたいなものだろうか。とか考えてると、地上に居る者達の声が聞こえてきた。
「敵の援軍だ! 一時撤退しろ! 態勢を立て直せ!」
「まさか、ルーマニアのアイツが来るとは!」
「串刺し公が援軍に来たぞ! これで我らの勝利は確実!」
敵味方の声が入り交じって聞こえるが、何が起きたのか分かりやすい。どうやら、味方の援軍が来て、態勢を立て直すために一時的に撤退してるらしい。という事は、また来るつもりなのだろう。結構な被害を受けてるはずなのに。人間達とは末恐ろしい。命を無駄にするためだけにここに来るなんて。
「気付いたみたいですねぇ。では、またお会いしましょう。ばいば〜い」
「あ、待──っ!?」
私が止める暇も無く、純潔の人はその場で煙のように突然消えた。まるで、東の国に居るとされる『NINJA』みたいだ。もしかして、NINJAの1人だったりするのかな。それだったら、とても強そうだ。
「ティアー!」
自分の名前を呼ぶ親しい人の声がする。慌てて声のするほうを見ると、予想通り、やっぱりお姉ちゃんだった。何やら慌ててる様子で、
「お姉様から伝言! 1回戻って、だって。一緒に戻ろっか」
「あ、お姉ちゃん! うん、分かった。そうするね」
お姉ちゃんに手を引っ張られ、私は館の中へと戻った────
ちなみに、レミリアで使ってる漢字をティアで使っていない事もありますが(咄嗟とか)、それは仕様です。レミリアよりも子供っぽい感じを出してるだけです故。
ちなみに正月に番外編が三話投稿されます。⋯⋯投稿されるのはこっちじゃないけど(