東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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ちょっとだけ戦闘から脱線する回。
ではまぁお暇な時にでも⋯⋯


26話「予想外な援軍」

 ──Remilia Scarlet──

 

 紅魔館に再び平和が訪れた。帰ってきた妹達に返り血はあっても目立った怪我はなく、眷属も八割近く残ってる。逆に人間達は半分近く戦闘不能にまで追い込んだから、こちらの勝ちだと言っても過言ではないだろう。だが、それも一時の平和に過ぎない。人間達は再びここに訪れる。それも、数日も経たないうちに。こちらもそれに備え、態勢を立て直す必要がある。

 

 だが、それを心配する必要は無い。こちらに運が回ってきたようだ。援軍として、父親と仲が良かったルーマニアの吸血鬼、ヴラド・串刺し公(ツェペシュ)が来てくれた。恐らくはスカーレット家以上に名高い吸血鬼であり、地元では英雄としても讃えられる珍しい吸血鬼である。それ程の知名度から、最初は支援すら貰えるかどうか疑わしかったが、自ら援軍として500近い軍を率いて来てくれた。人間達が撤退する原因を作った彼には、感謝という言葉しか出ない。

 

 人間達が撤退してから数十分後。私は書斎にヴラド公を招き入れた。ちなみに、館の外はヴラド公の眷属達が防衛してくれるらしいから、美鈴には休みを取らせている。

 

「ヴラド公。改めてお礼を。貴方のお陰で人間達を退ける事ができましたわ」

「いいや、お礼はいい。私は貴嬢の父、ドラキュラ公との約束で貴嬢らを守りに来ただけに過ぎない。お礼なら、今は亡きドラキュラ公に言ってくれたまえ」

 

 父親は表向きには人間達によって殺されたという事にしている。だから、ヴラド公も何の疑いも無く手伝ってくれてるのだろう。もし、私が殺したと知れば、やはり怒るのだろうか。それにしても、父親が私達を守るよう、ヴラド公と約束していたとは。⋯⋯なら、どうして。どうして、妹達を忌み嫌うような真似をしたのか。

 

 フランはまだ分かる。能力が危険だから、自分で操れるようになるまで幽閉する。最終的には狂気に支配されて危険という見解に変わったが、最初の頃は私も仕方無いと思っていた。が、ティアは違う。母親を殺した罪⋯⋯いや、過去があるとはいえ、周りに影響を及ぼさない事もできる能力だ。なのに、父親は許さなかった。赦す事も無かった。母親を殺した事をそんなにも憎み、恨んでいたのだろうか。⋯⋯それでも、自分の娘なら⋯⋯赦す事くらいはしてほしかった。

 

「それに、私にも貴嬢らと同程度の息子と娘がいる。同情と言うには差し出がましいが、その苦労は賞賛に値する。よく今まで耐えきたな、レミリア嬢よ」

「そう、ですか。お褒めの言葉、ありがとうございます」

「気にする必要は無い。それはそうと、戦いの準備は済ませておいた方が良い。敵は明日にでも再びここへやって来るだろう」

「あ、明日?」

 

 半分以上の数を戦闘不能にし、ほぼ壊滅状態に追いやったはずだ。それに、戦力ではこちらが上回った。人間達はそれでもまたここにやって来ると言うのだろうか。そんな自殺行為のような事も、人間達は自ら進んでするのか。奇妙な生き物だ。流石にそれは気持ちが分からない。誰であっても、自分の命は大切にするべきなのではないか。

 

「そうだ。あれはまだ全軍ではない。敵にも増援があると思って良いだろう。それに、敵の中に奇妙な術を使う者も居る。人は神の奇跡と呼び、瞬時にどんな傷や疲労も治すという」

「それは⋯⋯真っ先に始末したいですね。その者の居場所は?」

「残念だが、敵のど真ん中だ。しかし、戦場には来るだろう。金髪の女性だ。人間達の中に女性は少ないから、一際目立つだろう」

 

 金髪の女性か。私は戦場では見なかったかな。後で妹達にでもその女性を見たかどうか聞いてみよう。美鈴は休ませてるから、無理に起こして聞くのも悪いしね。

 

「では、レミリア嬢。私はこれで失礼するとしよう。明日に備え、しっかりと休み、この戦いに勝つのだぞ。これが終わったら、貴嬢らと我が息子達を会わせてみたい気持ちもあるからな」

「それは楽しみ⋯⋯ですね。この戦いが終われば、是非ともお願いします」

 

 家族以外で、更には同年代の吸血鬼とは会った事が無い。会うのは楽しみだが、妹達の反応も気になるところだ。同じ種族で近しい年齢、『友達』に成り得る者と出会った時、2人はどういう反応を示すのか。⋯⋯見てみたいな、あの2人が楽しそうに遊ぶ姿を。だから、私はまだ死ねない。謎の敵という不安はあるが、この戦いに圧勝して、また平和な毎日を過ごしたい。

 

「その時は仲良くしてやってくれ。では、今度こそ失礼する」

「はい。また、明日⋯⋯」

 

 ヴラド公の対応を終えた私は、緊張の糸がぷっつりと切れる。そして、倒れ込むようにして机に突っ伏した。戦いの傷は癒えたけど、体力の消費は大きい。再生にも槍を創造するのにも、妖力とともに体力が少なからず減ってしまう。いや、むしろ体力より精神力の方が減ってるか。今日は色々とあり過ぎた。夜だけとはいえ、癒されるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、それで? 私のところに来たの?」

「ええ、悪い?」

 

 癒すといえば、やっぱり私には妹しか居ない。だから、夜遅くにフランの部屋にお邪魔した。もう寝ようとしていたのか、ベッドの上で寝転ぼうとしていた。運の良い事に、今日はティアが来ていないようだ。癒しを求めてここに来たなんて、私のプライド的にも知られたくない。

 

「悪くないけど⋯⋯そこはティアじゃないの? あっちの方が癒し度高そうだけど」

「姉が寂しいから一緒に居て、とか言えないでしょ。それも一番下の妹によ? プライドが許さないわ」

「無意味な矜恃だなぁ。ってか、私は良いの? なんで?」

「そらまあ⋯⋯妹で、素直になれる相手とか貴女くらいだし」

 

 ティアが私を慕う気持ちは常々身に染みて感じてる。ティアは純粋に私の事が好きらしいし、それは非常に気分が良い。だが、それは──言い方は悪いが──まるで足枷だ。心地良い足枷なんて、聞いた事無いけど。その気持ちの重圧は凄まじい。それも全て、私の姉としてのプライドが強いせいなのだが。

 

 それに対して、フランは少し違う。妹というよりは気軽に話せる友達⋯⋯いや、親友のようなものだ。姉妹と言っても5歳しか違わないし、当たり前の成り行きかもしれない。

 もちろん、フランに対しても少なからず姉としてのプライドは持ってる。が、フランはそれをぶち壊して話してくるのだ。1人の吸血鬼としては有り難いが、姉としては舐められてる気がして複雑な気持ちだ。

 

「素直なお姉様とか珍しい。写真撮って良い?」

「写らないし、そもそも持ってないでしょ」

「写真写らないのってほんと不便だよね。ティアやお姉様の可愛いところいっぱい撮りたいのに」

「それは分かるわ。⋯⋯って、え? 私?」

 

 有り得ない言葉が聞こえた気がして聞き返したが、フランは平然と「うん」と言って頷く。そして、不思議そうな顔を浮かべて口を開けた。

 

「なんでそんな顔してるの? もしかして私の事別に好きじゃないからって、私もお姉様の事好きじゃないとか思ってた?」

「そんな事無いわよ、普通に好きよ? 苦手なだけで。貴女も妹なんだから」

「えー、私の事苦手なのー?」

「私にその態度で話すのって貴女くらいじゃないかしら?」

 

 普段は敬われ、畏れられる立場の私だが、どうしても妹達の前ではそうはならないらしい。それ程、私達姉妹は仲が良いという証拠なのだろうが。畏れなくて良いから、敬うくらいはしてほしい。ティアはともかく、フランは少し私に対しての礼儀を知らないから。

 

「別に良いじゃん。私達姉妹だよ? もっとフレンドリーにしても良いと思うんだ。珍しくティアが居ない。だからさ、この際もっと自分の感情、さらけ出しても良いんだよ?」

「⋯⋯ふんっ、いつも通りが私の素よ?」

「はー、つまんないのー。ティアの前だともっと可愛くなるのに。素直じゃないなー」

 

 フランは話すのに飽きたのか、1人で毛布に包まる。そして、私に背中を向けてそっぽを向いた。見るからに機嫌が悪くなったようだ。ちょっと質問に答えなかっただけで、怒らなくても良いと思うんだけど。本当、短気でわがままな妹だ。でも、このままにするわけにもいかない。

 

「はあ⋯⋯。フラン? 何を怒ってるのよ」

「別に怒ってないよ。明日も早いかもだし、早く自分の部屋で寝たら?」

「うーん、それも良いけど⋯⋯」

 

 フランのベッドに潜り込み、毛布を引っ張って自分も入り込む。私がそんな行動を取っても、それでもフランはそっぽを向いたままだ。これでもダメなら、一層の事⋯⋯。

 

「今日は疲れたから、ここで寝るとするわ。それに、まだ癒されてないのよね、私。⋯⋯せっかくだから、フランが私の事癒しなさいよ」

 

 背後から妹を抱き締める。それには驚いたのか、フランは身体を動かし、呆気にとられた表情でこちらに向き直る。が、すぐさま嬉しそうな笑顔になった。そして、フランは私の背中に手を回して、私と同じように抱き締めた。

 

「⋯⋯何? 珍しく積極的だね。夜這いのつもり?」

「っなわけないからね!? そもそも微妙に意味合い違うからっ」

「何慌ててるの? もしかして、図星だったかな?」

「べ、別に⋯⋯! ⋯⋯ふふっ、なんだか楽しいわね。こういうのも」

 

 怒るのもバカバカしくなり、逆に笑えてくる。腹は立つが、いつもの調子に戻ったみたいで何よりだ。お調子者だが、それもまた可愛い一面である。ティアとは違ったその可愛さが、私をシスコンにさせた原因の1つでもあるだろう。姉としては、もう少し正しい道に進ませた方が良いのだろうが⋯⋯まあ、仕方無い。何もかも、私をシスコンにさせた可愛い妹が悪い。

 

「お姉様、私も(おんな)じ気持ち。戦いが終わったらさ、お姉様もプライドなんか捨てて、ティアも入れてみんなで一緒に寝よっ? あ、時間があれば、美鈴も一緒に入れて良いかもね。楽しいだろうし」

「⋯⋯ええ、そうね。たまには良いかもしれないわね。さあ、明日も早いわよ。一緒に寝ましょう?」

「うん、そうだね。⋯⋯なんだかティアに悪いなー。明日はティアと一緒に寝よっと」

 

 薄暗い部屋の中、妹の温もりを感じながら目を瞑る。

 

 

 

 

 

 ──最後くらい、楽しい夢が見れたら良いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めの朝。夜に寝て、朝に起きるなんて人間みたいだ。だが、今回ばかりはそうも言ってられない。

 

「フラン様! あれ、お嬢様も? と、とにかく急いでください! ヴラド公がお呼びです!」

 

 妖精メイドに起こされ、途中ティアを起こし、ヴラド公が待つらしい書斎へと急いだ。

 

「レミリア嬢。やはり人間達が来た。数はおよそ1000。四方から攻められている。⋯⋯この館の主は貴嬢だ。ここは私も、その眷属も、貴嬢に従おう」

 

 ヴラド公が援軍として来てくれたのは有り難い。もし来なかったら、1000という数を半分にも満たない数で相手をするところだった。私達姉妹や美鈴が幾ら強いとはいえ、流石に数で抑えられる。一度流れ込んだ水はそう簡単には止まらない。負けていた可能性もあったかもしれない。

 

「ありがとうございます、ヴラド公。では、それぞれに強い者を向かわせ、数の利は全てに同じ数の眷属達を置いて抑えましょう。北には館の門番、美鈴を向かわせます。ただの人間相手なら、私達同様抑えれる事でしょう。そして、東にはヴラド公、貴方にお願いします」

「御意。西と南はどうするのだ?」

「西は私が。南は妹2人に任せます。人間相手に後れを取るような鍛え方はしてませんので。⋯⋯いいわよね、2人とも?」

「うん、任せて。ティアは絶対に守るからね」

 

 フランの返しに頷き返し、話へ戻る。もし妹達に何かあったとしても、ヴラド公や私がすぐに行けるような配置にした。美鈴は心配無いだろうが、念の為、妹達と同じように何かあっても、すぐに行けるような位置にした。

 

「では、向かうとしよう。貴嬢らも気を付けるのだぞ」

「ええ、分かりました。ヴラド公も、また後で」

 

 ヴラド公はそう言い残して部屋を後にした。私達もそれに続き、部屋を出て、戦場に向かう。

 

 この選択をしても、妹達には死の未来が見えない。なら、危険な場所は私のところだろうか。それなら良いのだが。⋯⋯死なないとはいえ、妹達にこんな危険な事をさせなければいけない世の中。そんな時代に生まれてきた事を呪うべきか。それとも、これ以上酷い世の中じゃない事に安堵すべきか。それは、これから分かるのだろう。私が死んでも、どうか、妹達だけは⋯⋯。最早私には、それを祈るしかできない────




久しぶりに姉妹百合書けて満足な著者でした(
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