東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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さて、お久しぶりです。罪妹録もいよいよ30話。予定だと三分の一は既に終了しました。まだティアちゃん65歳児なのにね!(

今回は前回の続きから。では、ごゆるりと⋯⋯


30話「強欲な妖怪」

 ──Hamartia Scarlet──

 

 あれから事態を聞きつけた人間達やヴラドが集まり、情報を共有、共闘する事になった。初めて人間と共闘する事になり、眷属達は不満そうだったけど、ヴラドとお姉様がそれを「馬鹿馬鹿しい」と一蹴した。そして現在、ヴラド率いる眷属と忍耐の騎士という人が率いる人間達は協力して竜の足止めをしてくれている。残ったのは囮役の美鈴と美鈴を強化する役の人間達。そして、私とお姉様だけだ。

 

「ティア、作戦通りに行くわよ。美鈴が準備できたら、竜に向かって行くから。途中までは援護するけど、危険だと感じたらすぐに逃げなさいよ?」

「うん、分かった。でも、頑張るね。竜の能力、奪ってみせるから」

「ほっほっほ。良いものですな、吸血鬼とはいえ、家族というものは。さて、私の能力は使い終わりましたぞ」

 

 そう言ったのは『他人を鼓舞する程度の能力』を持つらしい救恤の騎士である白髪のおじさん。美鈴と戦ってたらしいけど、戦局を聞いてすぐさまやって来たんだとか。美鈴に能力を使って鼓舞し、全ての身体能力を上げてくれてる良い人。でも、食べたいとは思わない。

 

『私達も終わったよ! ご主人様!』

 

 マジョラムの小さい生き物達は美鈴の周りを浮かびながら、楽しそうに言葉を発した。よく見るとどれも人の姿に見えるけど、私達のような完全な人ではない。多分、昔本で見た精霊達と姿が酷似してるから、それなのかな。名前は忘れちゃったけど。

 

「という事らしいから、私達のバフもかけ終わった。風、水、火、土。4人の精霊は自然の加護を与えてくれる。レミリア、精霊をその人に付与したから、私には何もできない。だから、後は任せる」

「⋯⋯ええ、分かったわ。ありがとう、マジョラム」

「吸血鬼に⋯⋯しかも貴女にお礼を言われるなんて、なんだかねぇ⋯⋯。私が選んだ事なんだけど」

「悪魔と協力(契約)した時点で貴女の負けよ? もう引き返せないわ」

 

 珍しい。お姉様が私達以外に心からの笑顔を見せるなんて。それ程この人間の事が気に入ったのかな。私も好きになれると思った人だけど、お姉様に好かれるのは許せないな。終わった後、私のお姉様に手を出さないかしっかり見張っておかないと。

 

「あらそう。⋯⋯じゃあ、ここで見てるから。私が死んだら、精霊達も消えちゃうし」

「ええ、分かったわ。⋯⋯美鈴」

「はい! 準備は万端、いつでも行けます!」

「なら、行きましょうか。ティア、貴女も一緒に来なさい」

 

 お姉様に手を引かれ、空へ飛ぶ。温かいお姉様の手。もっとそれを感じたいけど、今はそんな余裕は無い。だから、早く終わらせて、またお姉様やお姉ちゃんと平和な日々を⋯⋯。

 

 それにしても、何故美鈴は走って移動してるんだろう。飛ぶよりも走る方が速い事ってあるのかな。と思ってたけど、私達と同じ速度だから別に気にしなくていっか。

 

「さぁ、ティア。まずはフランを見つけましょうか。ついでに、攻撃できる時に攻撃を! グングニル!」

「うん! リジル、ルイン!」

 

 お姉様に合わせて、両手に剣と槍を生成する。お姉様と違って魔力で作ってる物だから、『同じ』になれないのは残念だ。今はそんな事気にしてる時じゃないんだけど。

 

「フラン! 私が来たわよー!」

「オーケー! 手伝ってー!」

 

 お姉ちゃんの声を聞き取ったお姉様は、竜の背後から槍を投擲する。が、鱗が硬すぎるのか、いとも容易く弾かれる。それどころか、竜は全く意に介さず、お姉ちゃん達の方を見続けていた。

 

「ちっ、流石にただ投げるだけじゃ効かないわね」

 

 問題のお姉ちゃんはどうやら竜と対面してるらしく、竜の大きな身体を挟んで向こう側には大きな火柱が見えた。多分、正確には火柱じゃなくてお姉ちゃんのレーヴァテインかな。とても荒々しく吹き荒れてる。

 

「ティア、先に能力を奪いに行きましょう。フラン達に注意が向いてるうちに」

「分かった。お姉様、付いてきて。剣が刺されば⋯⋯奪えるはずっ!」

 

 剣を突き出した状態で竜の背中に向かって飛びかかった。

 

 ──その瞬間、視界の隅にあの金髪の女性が映った。

 

「っ!? ティア!」

「あ、お姉様──」

 

 その刹那、私を庇おうとしたお姉様が私の前に入ってくる。しっかりと剣は避けてる辺り、流石としか言いようがない。そして、それとほぼ同時に、お姉様の先に黒い渦が見えた。急に止まる事ができなかった私は、お姉様にぶつかり、巻き込んでその渦の中へと入ってしまう。

 

「はい、()()()、ごあんな〜い」

 

 金髪の女性の声が聞こえたと思うと、先ほどまでの景色と一変する。場所は変わって赤い竜の真上。だが、周囲は球型の薄く白い障壁か何かに囲まれている。大きさは半径50mも無さそうだけど、広く感じる。

 

「⋯⋯あ! お姉様、ごめんなさい! 大丈夫!?」

「ええ、大丈夫よ。⋯⋯ティア、そんな悲しそうな顔しないの。傷なんて付いてないから。それより⋯⋯目の前の敵に集中しましょう」

 

 お姉様の睨む先には金髪の女性──ヨーコが浮かんでいた。何が面白いのか私達を見て気味の悪い笑みを浮かべている。鬱陶しいし、私とお姉様だけの空間に割り込んでる気がするから、速攻殺さなければ。それに、いつまでも閉じ込められるわけにはいかないし。

 

「あら〜。もう少しお話してもいいんですよ? 私は見てますので〜」

「貴女の目の前で? 嫌よ、そんなの。どうせ時間稼ぎが目的なんでしょ? 動きを止めれるであろうティアの。それに、私達を化かしてる相手に、これ以上そんな隙を見せると思う?」

「⋯⋯初対面で看破できます? 化け物ですね〜」

「むっ。お姉様に向かって何を──」

 

 飛び出そうとすると、お姉様に手で制された。顔はいつになく険しく、その目はお姉ちゃんと喧嘩する時よりも鋭く怖い。初めて、お姉様に畏怖という感情を抱いたかもしれない。この人を敵に回したら絶対に負ける。敵対してないのに、そんな錯覚をした。

 

「ティア、安っぽい挑発に乗らないの。それより、早く正体を現しなさい。貴女から私と似た妖気を感じるわ。微量だけど。でも、人間じゃないでしょ?」

「⋯⋯やはり、厄介ですね。力量が近い()()な吸血鬼は。いいでしょう。貴女に免じて、姿を見せましょう。まぁ、本当は偽る必要が無いからなんですけどね〜」

 

 金髪の女性の姿が変わる。頭から2つの金色の耳が生え、大きくてモフモフな先だけが白い金色の尻尾が1本、腰から生える。その瞬間、今まで封じてたものを一度に解放したかの如く、一瞬で強力な妖力がその空間に満ちた。そして、金髪の女性は鋭い牙を見せるように、こちらに笑顔を向ける。だが、まるでその顔は何もかも嘲笑って、見下すかのようなものだった。

 

 触れる妖力は冷たく、何も感じない。まるで心が無いかのように。お姉様とはまた違った意味で畏怖を感じる。

 

「⋯⋯聞いた事があるわね。最大9本、尻尾の数によってその力が変わるという東洋の大妖怪。名前から察してはいたけれど⋯⋯天狐、もしくは妖狐と呼ばれる者ね。というか、隠す気無いでしょ?」

「ありませんよ〜。それなのに、私の言葉を素直に信じる人間達ときたら⋯⋯無様で面白くて⋯⋯笑いがこみ上げてくるかと思いました〜。まぁ、笑えませんでしたけどね」

 

 クスクスと嘲笑う口元を手で隠す。いかにも上品そうに笑ってはいるが、それが嫌悪すべきものである事は、私でも分かる。お姉様は相変わらず鋭い殺気を放っているが、相手がそれに押されてるようには見えない。

 

「ティア、こいつは厄介よ。逃げるわよ。いいわね?」

「う、うん⋯⋯!」

「⋯⋯大丈夫そうね。グングニルッ!」

 

 私が返事するとすぐさま槍を構え、誰居ない方向に向かって力強く槍を投げつける。

 

 ──が、周りの球型の障壁は壊れず、お姉様の槍は儚く散った。

 

「なっ⋯⋯!? 今のは全力よ!?」

「⋯⋯クスッ。残念ですね〜。全力でも壊せなくて」

「このっ⋯⋯!」

 

 お姉様の顔が怒りで歪む。妖狐の挑発にかなり怒ってるようだった。でも、お姉様の気持ちも分かる。私だって、お姉様を馬鹿にされてムカついてる。

 

「ティア、やっぱり予定変更。この元凶を殺して、ここから脱出する!」

「お、お姉様! 落ち着いて! 冷静に⋯⋯ね?」

「あら、私はいつだって冷静よ? グングニル、死ねっ!」

 

 容赦ない一撃が妖狐を襲う。が、素早い妖狐を捉えきれず、槍は空を切って障壁に当たって砕けた。それを見た妖狐は、更に酷く見下した笑顔を見せる。

 

「あらあら〜。怒りで狙いがブレてますよ〜?」

「あの女狐⋯⋯!」

 

 煽られて頭に来たのか、お姉様は三度(みたび)槍を作り出して、妖狐に特攻する。

 

「あ、お姉様! 行っちゃ⋯⋯あれ?」

 

 そう言えば、この障壁、前に止められた物と同じじゃないのかな。前の時は透明だったのに、どうして白い色なんだろう。いや、流石に私の武器とお姉様の武器を止めれるような物、幾つもあるわけない。なら、きっと同じはず。それなのに、何故違うのか。⋯⋯もしかして、お姉様を罠に──

 

「っ! お姉様、私が先に行く!」

 

 それに気付いた時、私はお姉様の服を掴んで後ろに突き出し、我先にと妖狐に突っ込んでいた。

 

「え、ちょっ⋯⋯!?」

「⋯⋯おっと?」

 

 そして、ある一定まで近付いた瞬間、前に出していた槍に見えない壁のような感触を感じた。

 

 やっぱり、特攻したお姉様を嵌めようとして、わざと白い障壁を張ってたんだ。目に見えたら、無意識に目に見える物だけに集中する。だから、初めて戦うお姉様相手に策を講じていた。⋯⋯でも、お姉様の話通りなら、妖狐は私を狙ったはず。それなのに、どうしてお姉様の対策なんかできたんだろう。

 

『ティア! その15cm程左、攻撃しテ!』

「──はぁっ!」

 

 突然脳内に聞こえたスクリタの声。我に返った私は訳も分からず、その指示通りに障壁に剣をぶつける。すると、ガラスのような音を立て、障壁はバラバラに崩れ落ちた。

 

「な、何──っ!?」

「⋯⋯ありがと、愛しい妹(スクリタ)

『ティア、妹違ウ。姉』

 

 小さな声で話を交わしながらも、すぐさまお姉様の方を振り向く。

 

「お姉様!」

「ええ──はぁっ!」

 

 お姉様は私の合図に呼応して、すぐさま槍を投擲する。放たれた槍は、今度こそ妖狐に命中した。しかし、慌てながらも避けようとした結果か、致命傷を避けるように、槍は左肩に当たったらしい。そのまま槍は肩を貫き、障壁にぶつかって砕け散る。妖狐の左肩は抉られたが、まだまだ余裕そうではあった。

 

「ちっ⋯⋯。流石にここまでは()()ませんでしたね。私とした事が、失敗失敗」

「⋯⋯()()? まさか、予知でも使えるのかしら?」

「さぁ、どうでしょうね? ともかく、もうしばらく遊んでもらいますよ? どうやってその娘が私の結界を破ったのかは知りませんが、二度も同じ手は喰らいません」

 

 先ほどの嘲笑う顔は何処へやら。一変して真剣な眼差しでこちらを見ている。どうやら、もう油断はしてくれないらしい。周りに満ちる妖力も殺気を感じる程濃く、鋭くなっている。

 

「⋯⋯ここからが本番かしら? でも、妹を傷付ける奴らに手加減無用。こちらも⋯⋯本気で行くわよ」

 

 お姉様は再び槍を召喚し、その矛先を威嚇するかの如く敵へ向ける。妖狐はそれを見ても大きな反応は示さず、ただ偏に私達を見つめていた。いや、観察していたと言った方が正しいかもしれない。実際、妖狐の目は疑り深く探るような目に見えた。

 

「⋯⋯ティア、私が気を引くから、貴女は周りの結界を破って」

「わ、分かった。頑張る⋯⋯」

「ええ、頑張りなさい。じゃあ、任せたわ」

 

 お姉様は目立つように大きく旋回しながら、槍を薙ぎ払うようにして妖狐に放つ。が、妖狐は見切っていたのか、いとも容易く片手で受け止めていた。

 

『ティア、目的に集中しテ。右後ロ。1箇所だけ脆い部分があル。というか、多分アレが目』

「う、うん⋯⋯」

『⋯⋯オネー様なら大丈夫。心配ハ無用。今は目の前の事ニ集中』

「わ、分かった! ⋯⋯ありがとうね、スクリタ」

 

 スクリタのお陰で、迷いなく目的を実行する事ができる。1人だと不安な事も、2人なら安心して実行できそうだ。現に、今もその状態だから。

 

「お礼はいイ。先に、オネー様のために目的を遂行、ネ」

「うん!」

 

 スクリタの言った場所に急いで向かい、詳しい場所を聞いて、見て、発見した脆い部分に剣を振るう。すると一瞬だけ大きな金属音が響き、振動が伝達するようにして障壁を走る。ヒビらしき物は見えないけど、その魔力から、障壁は明らかに不安定な状態だと分かる。

 

「貴女、私の結界に手を──」

「残念! 貴女の相手は私よ!」

「ちっ⋯⋯!」

 

 妖狐が攻撃しようと手を出したみたいだけど、お姉様が止めてくれた。今のうちに結果を出さないと。お姉様が頑張ってくれているのが無駄になる。それだけはダメだ。お姉様が報われないなんて結果は、絶対にしたらいけない。

 

「リジル──砕いて!」

 

 再び剣を振り上げ、結界に突き刺した。今度こそ剣は深々と結界に突き刺さる。それを合図に、結界はガラスの割れる音とともに跡形も無く砕け散った。

 

「お姉様! やったよ!」

「ナイスっ! 残念ね、そろそろお暇させていただくわ」

「この状況で厄介そうな貴方達を──っ!? 次から次へと⋯⋯! いいでしょう。ここは見逃してあげますわ」

 

 妖狐は一言、そう言い放つと、空中に黒い渦を作って入り込み、姿を消した。お姉様も私も深追いしようとはせず、急いで竜と戦いを繰り広げる下へと目を向ける。

 

「な⋯⋯ティア、急ぐわよ! 作戦通りに!」

「う、うん!」

 

 目下の戦場では、信じ難い無残な光景が広がっていた────




次回はこれまでの比じゃない程内容濃いので、すいませんが、もう少し先になるかもしれません。三日以内には書ききりたい⋯⋯(願望)
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