さて、今回はいつもよりちょっとシリアスで長め。最初の時間軸はレミリアとティアが戦ってる時のお話。
心の準備ができた方は、どうぞ
──Vlad the Impaler──
親友の娘達とともに挑んだ人間との戦争。それが何を間違えたのか、赤い竜との戦いへと変わった。被害は人間との戦いよりも酷くなり、人間と合わせても戦える者は残り300を切っただろう。
思えば何かと竜と縁がある。これももしや、私が招いた運命かもしれない。竜との縁が濃い私が居た影響で、何らかの間違いが起きた可能性も無きにしも非ず。しかし、今どんな愚痴を言おうとも変わりはしない。私は友との約束を守り、この娘達も守る。それが家の長として、吸血鬼としての役目なのだろう。
「ヴラド公! 作戦失敗です! 上空を!」
「何? ⋯⋯なっ!?」
部下の1人が告げた言葉。それを頼りに上空を見やると、誰かと対峙するレミリア嬢とその妹が見えた。作戦通りなら
「がはっ──!」
「な、なんだ⋯⋯っ!?」
突然、隣に紅魔館の門番が飛ばされてきた。どうやら竜の尻尾で飛ばされたらしく、血を吐いて倒れている。加護を付与していたらしい精霊達も力なく近くで倒れていた。慌ててその門番にレミリア嬢の黄色い髪の妹が駆け寄っていた。
「美鈴! 大丈夫!?」
心配そうな顔で彼女を介抱している。しかし、私は目の前の事以外を事を考えていた。
確か彼女は囮役だったはずだ。その門番が倒されたという事は──
「た、助け──あっ」
『グルァァァァ!』
──竜が再び、人間も吸血鬼も見境無く襲いかかるという事になる。早速眷属の1人が踏み潰されたところが目に映る。ここで代わりの誰かが出なければ、更に被害が大きくなるかもしれない。
「くっ⋯⋯は、早く引き付けなければ⋯⋯ごほっ⋯⋯!」
「美鈴! 無理しないで。これ以上動けば本当に死んじゃう」
「で、ですが、私がどうにかしなければ⋯⋯」
いや、誰かがと期待するなど、吸血鬼の名が廃る。
「⋯⋯いや、その役目は私が果たそう。機敏に動けるわけではないが、注意くらいは引けるはずだ」
「ヴ、ヴラドさん⋯⋯」
「⋯⋯大丈夫? 何なら私も手伝うよ」
子供が頑張っているのだから、大人である私も頑張らなければならない。昔の私なら、竜に挑むなど思いもしなかっただろう。しかし、こうして私の目の前で子供が頑張っているのだ。私も負けてられない。
「いいや、貴嬢はトドメ役であろう。最後に備えるのだ。私は一撃必殺というものが苦手でな。その役目ができないからこそ、囮役を引き受けるのである」
「⋯⋯分かった。お願いする。コア! 美鈴を安全な場所に連れて行って」
「了解です!」
「⋯⋯さて、行くとしよう」
槍を構え、竜に向ける。竜はチラリと見るも、すぐに興味が失せたように目を背ける。そして、こちらに目もくれず、近くに居る人間や眷属達を襲っていた。本当に見境無い。それなのに誰も手足が出ない程に強い。
しかし、そんな竜も余裕からか飛び立とうとせず、未だに地面から足を離さない。竜とはいえ、その余裕にこそ付け入る隙がある。以前、修行と称して
「相手にする気もないか。それなら⋯⋯!」
走って竜に近付く。そして、攻撃の射程距離内に入ると、歩みを止め、槍を持っていない方の手で地面に触れる。すると、地面に妖力という名の衝撃が走る。
「喰らえ! カズィクル・ベイ!」
地面を伝った衝撃が、竜の真下で爆発する。爆発が起きたその刹那、その妖力は数多の杭として竜を襲い、竜の鱗を抉った。流石の竜も慌てて飛び立ち、杭から逃れる。そして、竜は脇目も振らずに私の方を睨み付けた。
『グルァァァァ! 貴様か!』
その声は
「ようやく見たか! 竜よ!」
それでも必死に手足を、口を動かす。そうして1歩、前に出た時だった。
『納得した。⋯⋯
「──っな!?」
いつの間にか。その言葉が適してるのだろう。ただ瞬きした一瞬のうちに、赤い竜は私の真上に浮いていた。
『我を傷付けし者よ。その力を認めよう。しかし、我を傷付けた事を償え!』
竜は怒りを露わにした。空中で回転したかと思えば、次の瞬間、大きな尻尾が自分の身体に触れていた。
「ぐぁ!?」
どれだけ飛ばされたのか分からない。ただ、身体が動かない。右半身は何も感じず、目を開ける事さえままならない。
『そこで寝ていろ。同族の
屈辱的な言葉を受けながらも、私は何もできず、そのまま目を閉じた────
──Frandre Scarlet──
美鈴に続き、ヴラドも倒された。本当に数秒の事だった。ヴラドも竜を傷付けるなど倒す貢献はしたけど、それも致命傷じゃない。美鈴も色々な支援を受けてたはずなのに、数分程度で倒された。最初は調子が良かったのに、いつの間にか逆転されていた。たった1匹の生物に。本当に文字通り、為す術が無い程強い。
「どうして⋯⋯どうして目が見えないの⋯⋯。見えれば、1発だったのに⋯⋯」
私には力無く叫ぶ事しかできない。今攻撃しに行っても、2人や他のみんなのように軽く
「お姉ちゃん! お姉ちゃんっ!」
何処からともなく、愛する妹の声が聞こえた。
「え、ティア──わふっ!?」
「良かったァ!」
その方向を見る前に、身体全体で柔らかい感触を感じる。こんな時でも、いや、こんな時だからこそ。無事な姿を見て安心したのだろう。ティアが抱き着いてきたらしい。
「ティア、それは後でにしなさい」
「あ、うん⋯⋯分かった」
続けてお姉様もやって来た。ティアと違い、落ち着いている。
「さあ、これ以上被害を広げるわけにはいかないわ。⋯⋯ところで、美鈴はどうしたの?」
「⋯⋯倒された。でも、まだ生きてる。ヴラドも倒されて生死不明。他の人達もどんどん⋯⋯」
「──そ、っか。分かったわ。なら、尚更早く終わらせないとね。フラン、貴女も来てちょうだい。ここでトドメを刺すわ。ティア、援護するわ。だから、お願い」
「うん! 分かってるよ!」
元気な、しかし決意の篭った声を出して、ティアは真っ直ぐと竜の元へと飛んでいく。ティアに続くように飛び立ち、剣を構えて竜の周りを飛ぶ。
『やはり、分からぬ。力の差を知り⋯⋯』
脳内に直接、竜の声が響く。気にせず翼を狙って剣を振るうも、鱗には浅い傷しか付けれない。
『己の無力さを知り⋯⋯』
「お姉ちゃん! そこ退いて!」
「っ──分かった!」
ティアがヴラドが傷付けた足を狙って特攻する。が、竜はそれを見つけたのか、竜の尻尾がティアの目前にまで迫った。
『尚も我に立ち向かうのか』
「させるか!」
しかし、ティアに当たるよりも先に、その尻尾に大きな妖力の塊がぶつかる。その反動で尻尾は半ば強制的に退かされた。竜は憎々しげにその妖力を──槍を放った
「妹に手は出させないっ!」
「ありがとっ!」
ティアはお姉様の助けもあって、傷付いた後ろ足まで辿り着く。そして、手に剣を召喚し、傷口に力強く差し込んだ。ティアはそれでは飽き足らず、差し込んだ剣を拗じり、引き抜いた。が、肝心の竜は何も反応を示さない。まるで、刺された事すら気付いてないかのように。
「奪っ⋯⋯た! じゃあねっ!
ティアはルーン魔法で即座にお姉様の元へと戻っていた。それを見て成功を確信した私は、レーヴァテインを握る力を強める。更に魔力も妖力も全てを注ぎ込み、特大サイズのレーヴァテインを構築した。
「さぁ、こっちを見て、
『我が名を気安く──む?』
ティアが出会った時に一度だけ聞いた名前を叫ぶと、竜は鋭い目でティアを見た。そして、ティアと竜の目が合った。その瞬間、竜は怪訝な声を出して歩みを止める。
「お姉様、お姉ちゃん。お願い!」
「任されたっ!」
ティアの声を聞き取り、傷付いた足を狙って突撃する。最接近した瞬間に、動かない竜の足を斬り下ろそうと、剣を振り上げ──
『⋯⋯なるほど。つまらぬ』
「──え?」
一瞬の出来事だった。
「ティアァ!」
竜は何事も無かったかのように動き出し、手始めにティアを狙って前足を振るった。だが、その一瞬の間に、ティアを守るようにしてお姉様が飛び込んだのが見えた。しかし、それでも視界の端で、血に染まり、首が曲がって落ちていく2人の姿が見えた。
私はそれを見ただけで、全ての力が抜ける感じがした。
『次は貴様だな』
「ぁく──っ!?」
竜の死の宣告とも言うべき言葉に我に返る。せめて刺し違えようと慌てて剣を振り下ろすも、力が入らず致命傷とは行かない。それでも、それなりに深い傷を負わせる事ができたが、もう竜の尻尾が目前に控えてた。
「⋯⋯⋯⋯はぁ」
終わりを確信した私はその場で動きを止める。力を抜き、羽ばたく事をやめる。
私には何もできない。何をしても意味が無い。姉も妹も、守る事さえできずに何処かに消えた。せめて最後くらい、お姉様とティアと、みんなで一緒の場所に居たかった。でも、最早叶う事は──
『これで終わりだな』
「いいえ、まだ⋯⋯まだです!」
誰かに押された。と同時に、目の前で強い風を切る音が聞こえた。何かがぶつかり、潰れたような気味の悪い音も聞こえた。それに、身体に生温かい液体がかかった。
「え⋯⋯? あっ⋯⋯!?」
それが何を意味する音なのかは、飛ばされたモノを見てすぐに気付いた。
『⋯⋯戦意喪失。そうだ、それが普通だ。手間をかけさせるな。良かったな、小娘。
竜が私に興味を無くしたかのように立ち去る。が、竜の声が脳内で
「なんで⋯⋯? なんで、私を庇ったの? 貴女が死ぬ必要は無いのに⋯⋯! 答えてよ⋯⋯コア!」
目の前でコアは血反吐を出していた。竜の尻尾に殴られた衝撃か、それとも地面に叩き付けられたせいなのか。いつも見るコアの姿とは全く違う。胸は砕け、手足は変な方向に曲がり、見るも無残な姿で横たわっていた。
「お、思ったより、効き、ますね⋯⋯。でも⋯⋯良かっ、た。無事で⋯⋯。美鈴は、ご心配なく⋯⋯今は、紅魔館の中、で⋯⋯」
「喋らないで! 今、何とか、何とかするから!」
とは言ったものの、私は回復魔法なんて使えない。いつも壊してばかりだったから。挙句の果てに、能力も破壊する事しかできない。私には、傷付ける事しかできない。私に人は救えない。
──いや、違う! 私は何を考えているのだろう。どうしてこんなに、ネガティブな事ばかり考えているのだろう。とにかく、コアに魔力を注ぎ込んで、何とか⋯⋯。
「ダメ⋯⋯です。私は、もう⋯⋯」
「バカ! 無理かどうかなんて言う前に、生きる努力して! 私が言えた事じゃないけど、もう⋯⋯私の目の前で死なないで⋯⋯!」
「⋯⋯い、え。大丈夫⋯⋯です。フラン様⋯⋯ティア、ちゃん⋯⋯生きて、ますから⋯⋯」
「⋯⋯え?」
頭が真っ白になる。さっきお姉様と一緒に、血だらけで飛ばされていたはず。それどころか、曲がってはいけない方向に首が曲がっていたはずだ。あれで助かるはずなんて無い。
「ここから⋯⋯あっちに、真っ直ぐ⋯⋯」
コアは最後の力を振り絞り、ある方向を指差した。
「わ、分かったからもう喋んないでよ! ⋯⋯お願いだから、これ以上は⋯⋯喋らないで⋯⋯」
「フラン様⋯⋯私は、嬉しいです⋯⋯。フラン様に、会えた事⋯⋯。お嬢様に、仕えれた事⋯⋯。そして、ティアちゃんとも、本性を現し、た数日だけ、だけど⋯⋯楽しく話せ、た事⋯⋯」
目の前の妖力が消えていく。妖力は妖怪にとって命と同義。それが消えるという事は、同時に命も消えるという事。
「⋯⋯やめて。やめてやめてやめて! 消えないで⋯⋯! ずっと、一緒に居てくれたじゃん! 生まれた時も、ティアと初めて会った時も! 今までずっと! なのに、どうして!」
「い、いえ。違い、ますよ⋯⋯? 消える、とは⋯⋯ちょっと⋯⋯違います⋯⋯」
そう言いながらも、コアは辛そうに咳をし、血を吐いた。
「フラン様⋯⋯。これは一時の別れ⋯⋯バイバイ⋯⋯」
「コア! コアっ!」
最後にそう言い残し、コアは静かに目を閉じた。
「あ、ああぁ⋯⋯っ。なん、で⋯⋯! う、ぐすっ⋯⋯うあぁ⋯⋯」
自然と瞼が熱くなり、涙が零れる。声を、感情を押し殺して目を擦る。
しかし、だかと言って、これ以上何も失うわけにはいかない。
「あ、あぁ⋯⋯! てぃ、あ⋯⋯っ!」
立ち上がって、無理矢理足を動かす。最後にコアが示してくれた方向へと急いで飛んだ。
「あ⋯⋯ティア!」
「⋯⋯⋯⋯」
コアが死んだ場所から少し離れたところ。竜の近くに、血の海の中心で静かに横たわる姉と、その目の前で力無く座り込むティアの姿を見つけた。ティアもお姉様と同じように血に濡れ、髪や服、手が真っ赤に染まっていた。顔からはいつもの笑みが消え、初めて出会った時以上に感情の無い目をしていた。
そして、横たわるお姉様はと言うと、生力の無い爽やかな顔で眠っていた。
「え、あ⋯⋯。てぃ、ティア、大丈夫? ね、ティア⋯⋯」
私が話しても反応を示さない。何故かは分かる。お姉様が動かないからだ。竜の爪をモロに受けたのか、胸部から腹部にかけて服が裂けていた。服は裂けていても、見たところ傷跡は無い。だが、呼吸をせず、いつもは耳を澄ませば聞こえるはずの心臓の鼓動も聞こえず、ピクリともしない。
「⋯⋯おかしいね。私、ウロからいっぱい貰ったのに。不老不死にもなれる力を貰ったのに。お姉様、起きてくれないの」
「うろ⋯⋯? な、何言ってるの?」
ティアは淡々と言葉を発する。その言葉に何も感情は感じず、まるで機械のように、与えられた言葉を発してるだけにも思えた。
「⋯⋯私だけなの、起きたの。お姉様に権能を使って、傷を治したはずなのに、どうしてなんだろう。どうして⋯⋯お姉様は起きてくれないんだろ? もう、傷は無いのに。こんな時でも、私を驚かせたいのかな? なら、もう驚いたよ。だから⋯⋯」
「ティア! もう、やめて⋯⋯」
聞いてるだけで辛くなる。もうこれ以上は聞きたくない。そう思って、ティアに近付く。
「ティア、聞いて。多分、お姉様は、もう⋯⋯」
「多分? 何言ってるの? お姉ちゃん、大丈夫だよ。心配しないで。⋯⋯すぐに治すから。お姉様を起こしてみせるから」
「違うの。お姉様が治せないんじゃなくて⋯⋯!」
私の言葉が聞こえないのか、ティアはお姉様に頬に触れる。触れている手に何かの力を集中させ、そこからその力を注ぎ込んだ。すると、裂けていた跡すらも消え、
「お姉様。ねぇ、お姉様⋯⋯。起きて、ね? 起きよ? もう起きる時間だよ?」
「ティア⋯⋯お願い、聞いて! お姉様は、もう⋯⋯死んで──」
「あ⋯⋯うあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ティアは突然耳を手で塞ぎ、体を丸める。その姿は胎児のようだった。
「違う、違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ違ウ──違ウッ! お姉様は死んでなイ! まだ、まだ生キテる! ただ起きナイだけなノ!」
「死んでるよ! お姉様は、死んでるよ⋯⋯。心音もしない、呼吸もしない。ただ形だけがそのままで、中身は空っぽな死体よ! これのどこが死んでないの!? ちゃんと現実を見て! ⋯⋯もう、貴女まで⋯⋯壊れないで⋯⋯!」
これ以上、誰かが死ぬのを、壊れるのも見たくない。初めて奪われる側の気持ちが分かった。今まで私がしてきた事の意味が分かった。なら、これは天罰か。それならもう充分だ。失う事の、喪う事の重大さに気付いた。だから、もう⋯⋯私から妹を⋯⋯。
「⋯⋯違うのニ、
「え⋯⋯。ど、何処に行くの? ちょっと待って!」
「⋯⋯付いてこないで。お姉ちゃんはここに居テ。お姉様が目覚める時、邪魔な奴が居ちゃいけナイの。だから、喰い殺す。嫌いな奴ヲ」
「な、何言って──」
私が言い終わる前に、ティアは姿を消した。いや、正確にはルーン魔法で高速を使って移動したらしい。
「あ、あの娘っ!」
慌てて竜の方へ目を向けると、血で真っ赤に染まった妹が、竜と対峙していた。
『懲りぬな。⋯⋯小娘』
「⋯⋯お姉様が起きるまでに、うるさいのは消さないとダメなの」
『姉⋯⋯? それは貴様を庇って死んだ姉の事を言って──』
「うるさい」
私の声が届く範囲に着く頃には時既に遅し。ティアは真っ向から竜に立ち向かって戦闘態勢に入っていた。しかし、竜は相手にもしてない様子で、ただ鬱陶しい虫を手で払い除けるかのように、前足を振るう。
『その小さな身体で何ができる? いい加減、消えろ』
「⋯⋯
一瞬にして、再びティアの姿が消える。竜は気付いてないようだが、傍から見れば、ティアが何処に行ったのかはすぐに分かった。その場所とは──
『ど⋯⋯ぁっ!? な、何を⋯⋯!?』
──さっき私が傷付けた竜の後ろ足だった。ティアは傷口に顔を突っ込み、肉を噛みちぎって有言実行する。お姉様の死でおかしくなったとしか思えない行動だ。だが、次にティアの姿を見た時、その思考が間違っていた事に気付かされた。
『⋯⋯な、なんだ、その姿は⋯⋯まさか』
「グルゥ⋯⋯もう、逃げない。もう、お姉様も、お姉ちゃんも奪われない。不変の権能を受け取った時、血を貰った。それが今でも私の中で、力として流れている。それが切っ掛けだった。あの人は自分の事を魔女と言っていた」
「ティア⋯⋯やめて。お願い、もう戦わないで。帰ってきて⋯⋯」
私の声も虚しく、ティアは
「だけど、権能は竜の力。全てを引き出すには不十分だったんだ。本人か、それに近い本物の竜の力が必要だったんだ。そして、今⋯⋯イラ。お前の血肉を貪った。私の『力を吸収する程度の能力』は、自分を強化し得る力なら、なんだって吸収できる。それは、力でも──
『貴様も、我と同じ
「ううん、ちょっと違うよ。──私はこんな姿でも、吸血鬼だから」
今のティアの姿は、一言で言えば
まるで複数の竜から力を吸収したかのようで、正しく寄せ集めのような姿だ。しかし、そのティアから感じる魔力は普通ではない。上がったと思えば下がり、下がったと思えばまた上がる。魔力が不自然に何度も反復し、その振れ幅が徐々に広がっている気がした。
「お姉様が起きるまでに、全部喰ってやるから覚悟しろ」
『⋯⋯ほう、面白い小竜に成り代わったな』
「ティア⋯⋯」
しかし、そんな姿を見て、私はティアが何処か遠くに行くような気がしてならない。だからこそ、小さく、力強く祈る。声に出そうと語りかけるも、その時既にティアは声が届くような距離には居なかった。
「貴女まで──」
──居なくならないで。
その言葉を口に出すよりも早く、ティアは再び竜に立ち向かった────
話が姉妹中心過ぎて、空気になっていく騎士達悲惨。
ちなみに説明する間がありませんでしたが、ヴラドの杭は吸血鬼が蝙蝠や狼、霧に身体を変換させるのと原理は同じです。そう簡単にできる代物ではないですが。
では、また次回。