東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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前回に続きシリアスっぽくお届けします。

では、お暇な時にでも⋯⋯


32話「中途半端な吸血竜」

 ──Hamartia Scarlet──

 

『コロセ』

 

 赤い竜を目の前にして、スクリタの言葉が頭から離れない。ただ、何をしたらいいのか分からないから、その声に従うしかない。そうして私は、スクリタの狂気を受け入れていた。彼女に委ねていた。

 

 気付いたらお姉様に庇われていて、気付いたお姉様が血を流して動かなくなっていた。権能を使ってもお姉様が動く事は無かった。人間相手でよく見る光景。こうなったら最後、二度と動く事は無い。何度も見た光景だから、それは確信を持って言える。

 

 だから、本当は分かってる。お姉様が死んだという事も。お姉様に二度と会えないという事も。お姉様の温もりを、二度と味わえないという事も。

 

「グルァァァァ!」

『姿は竜でも、最早獣よな。たった数分で自分の力を制御できぬ状態まで堕ちるか』

 

 だけど、悲しみなんて無い。苦しさも、辛さも、切なさも、狂気も、虚無も、孤独も、喜びも、怒りも、憂いも、哀しさも、感情すらも。何もかも感じない。ただ、衝動的に目の前の竜を喰い殺したい。今の私の目的は、生きる事の原動力はそれだけだった。

 

「グルォォォォ!」

 

 いつもと違う自分の姿には、何故かすぐに慣れた。多分、何も感じてないから、身体の異変を何も思わなかっただけかもしれない。

 

 赤い竜の身体を這いずり回り、迫り来る攻撃を避け、手当り次第に爪で鱗を削る。尻尾で殴り、絡め、自在に操って戦局を有利に変えていく。だが、達成感は無く、心に空いた穴は塞がらない。

 

『すばしっこい小竜め! いい加減捕まれ!』

 

 何度も何度も空を切る音が近くで聞こえる。大きな振動もするし、稀に痛みも感じる。

 

 ──あれ、私は今。何をしているんだろう。何をしていたんだろう。

 

 すぐに解答を見つけた事によって、疑問は解消される。そして、身体の所有権を取り戻す。動き疲れたスクリタが、再び私の中で眠ったらしい。

 

「あ、ああああぁぁぁぁぁぁ!」

『時間切れか。⋯⋯力を使い過ぎて壊れたのか?』

 

 突然、涙が溢れ出てきた。どうしてこんなに涙が流れるのか分からない。どうして悲しいのか分からない。分からない──何もかもが分からない。

 

 あ、いや。分かった。どうしてこんなに悲しいのか分かった。

 

 ──お姉様が死んだからだ。

 

「あ⋯⋯いや、あぁ⋯⋯なんで、お姉様⋯⋯嘘、いや⋯⋯。置いてかないで⋯⋯お姉様!

 お姉様ぁ⋯⋯いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 どうして先に逝っちゃったの。どうして私なんかを庇ったの。どうして一緒に死ねなかったの。私のせいだ。私のせいで、お姉様は死んじゃったんだ。私が居なければお姉様が死ぬ事はなかった。私を庇ったせいで、お姉様は致命傷を負ったのだから。

 

「あ、ああ⋯⋯お姉様、ごめんなさい⋯⋯私の、せいで⋯⋯」

『いよいよ壊れたな、此奴⋯⋯。もう楽になれ』

「させる、かっ!」

 

 何か、温かいモノが私を包み込む。懐かしい気がする何か。涙で視界が霞むも、それには見覚えがあった。私が大好きなもう1人の姉──フラン(お姉ちゃん)だ。

 

「ティ⋯⋯アっ! いい加減、戻ってこい!」

「ぐすっ⋯⋯あ、え? お姉ちゃん⋯⋯?」

『二度も逃げるか!』

「へーん、だ! 逃げるが勝ちだよー!」

 

 どうやらお姉ちゃんに助けられたらしく、私はお姉ちゃんに両手で抱えられて飛んでいた。

 

「ってか、ティア軽過ぎない!? 30無いでしょ、絶対っ! 羨ましっ!」

「うん⋯⋯無いよ。でも、どうして助けてくれるの?」

「は? 助けるのが当たり前でしょ! 妹を守るのが姉の役目よ! もうこれ以上、家族を失うわけにはいかないの! それに、お姉様との約束よ! 絶対⋯⋯絶対絶対! もう貴女を離さない!」

 

 何か、心に来るモノがあった。自分でも訳が分からず、お姉ちゃんの服を握った。そして、ただ一途に、お姉ちゃんへの感謝の気持ちが溢れてきた。

 

ティア(小竜)に引き続き、貴様もすばしっこいな! 先ほどの喪失は何処に行った!? その小竜を置いて何処かに立ち去れ!』

「誰がするか! これでも喰らっとけ! 遅延(ニエド)!」

『軟弱なルーンなど効かぬ!』

「あっそ。⋯⋯無意味か」

 

 お姉ちゃんは私を抱えたまま器用に飛び回り、竜の攻撃を躱している。竜の方もいつの間にか付いた──というか多分、私が無意識に付けた──大きな傷が原因で、思うように体を動かせないらしい。四肢は立ってるのもやっとなくらいの酷い傷で、身体中には細かな抉られた傷が付いている。あれは多分、私が齧った跡なのかな。

 

「お姉ちゃん⋯⋯ぐずっ、うん、ごめんなさい⋯⋯」

「謝るのは後で! 今はそれより、生きて無事に逃げ切る事が大切なのよ! ま、ここから逃げれないようになってるみたいだけどっ!」

 

 お姉ちゃんに言われて初めて気付く。いつの間にか、紅魔館から大分離れた場所に居た。周りを見回しても、生きてる人は見えない。ただその場に居る人達は死んでるか、気絶してるのかのどちらかだけだ。

 

「あー! もう鬱陶しいなー! イラ! 付いてくんな!」

『気安く我の名前を呼ぶでない!』

 

 名前を呼ばれ、怒り狂った竜の前足が飛んでくる。逃げてるお姉ちゃんはチラリと後ろを見て、恐怖で顔が引き攣る。怖いという感情に鈍感な私から見ても、それは恐怖を感じるような、避けようのない大きな攻撃だった。

 

「やばっ! やっぱ、竜からは⋯⋯。ティアだけでも⋯⋯っ!」

「だ、ダメ⋯⋯!」

 

 お姉ちゃんの服を握り締める。二度も私のために誰かが死んでほしくない。だから、離されないように、離さないように、お姉ちゃんの服の裾を力強く握った。服の上からでも分かる柔らかい肌と硬い骨の触感。それには生きている人特有の温もりがあった。

 

「な、なんで⋯⋯!」

「⋯⋯もう、逃げない。離さない」

「ティア⋯⋯」

 

 お姉ちゃんと目を合わす。そして、次の瞬間。大きな音とともに──

 

『⋯⋯何?』

 

 ──竜の足が私達の居る場所スレスレに落とされた。その衝撃で強い風が起き、砂埃が巻き上げられる。

 

『ちっ⋯⋯貴様か。邪魔をするのは』

「──間に合った。フラン様! ティア様! お待たせしましたっ!」

 

 その直後、私達の元に元気な姿の美鈴がやって来た。見たところ怪我は無く、活気に満ちている。今まで何処に居たのか知らないけど、無事で良かった。でも、お姉ちゃんは驚いた顔のまま、ピクリとも動かない

 

「美鈴!? け、怪我は大丈夫なの!?」

「大丈夫です! 偶然出会った通りすがりの魔女に治してもらいました! って、ティア様⋯⋯?」

 

 美鈴は私の姿を見て、疑問と驚愕を隠せないでいた。無理も無いと思う。今の私は半分竜。中途半端なこの姿に驚かない方がおかしい。

 

「何その胡散臭い人⋯⋯。ああ、気にしないであげて。大丈夫だから⋯⋯ね?」

「⋯⋯うん、大丈夫」

 

 お姉ちゃんに笑顔を向けられ、不思議と耳が熱くなる。恥ずかしさを抑えきれず、照れ隠しにお姉ちゃんの服に顔を埋めた。

 

「誰が胡散臭い人だ。わたしはどっかの妖怪みたく胡散臭くないよ」

「⋯⋯え、誰?」

『⋯⋯次から次へと湧いて出てくるな』

 

 声の主が巻き上げられた砂煙の奥から姿を表す。お姉ちゃんには見覚えが無い人物らしく、頭にハテナを浮かべた顔をしていた。私も誰なのか知ろうと、その方向に目を向ける。

 

「あ、私を助けてくれた人ですよ」

「通り道に傷だらけで居たから元に戻しただけ。別に助けたわけじゃないから、お礼はいいよ」

「え? ⋯⋯どうして、居るの? ⋯⋯ウロ」

 

 そこに居たのは、私に権能を譲渡してくれたウロだった。いつもの血に染まったかのような真っ赤な髪に、黒く曇った瞳。肩には見慣れない大きな袋を担いでる。服もいつもと違う魔女とは言い難い格好で、黒っぽいドレスを着ていた。

 

「あ、もしかしてティア? 何その姿、コスプレ? まぁ、いいけど。取りに来るの遅かったからね。自分から来たの。でも、うん⋯⋯」

 

 ウロは竜と私達を交互に観察する。それで何か察すると、ため息を付いた。

 

「何かあったんだ。それなら頼ってくれても良かったのに。⋯⋯それと、初めまして、フラン。ナテラ・ウロボロス・カーレストです。気安くウロとお呼びください」

「え、う、うん⋯⋯」

 

 呆気に取られるお姉ちゃんにお辞儀をして、担いでいた袋を私達の目の前に置いた。ウロは私達を見て何か思ったのか、頭を傾げる。

 

「そう言えば、レミリアは?」

「⋯⋯そう言えば、居ませんね。珍しい。お嬢様って今何処に⋯⋯?」

 

 美鈴は私達の顔を見てすぐに察したらしい。それ以上、何か言う事は無かった。

 

「お、お姉様は⋯⋯⋯⋯」

 

 それでも後で何か語弊が無いように真実を伝えようと口を開くも、それ以上言葉が出てこない。言おうとしても、喉につかえる。言いたくない。認めたくない。そんな気持ちが、まだ私にはあった。

 

「⋯⋯死んだよ。さっきね。誰かは知らないけど、美鈴を助けてくれてありがとう」

「あー⋯⋯なるほど。だから⋯⋯。ねぇ、死体はあるの?」

「う、うん。あるよ。ティアのお陰で、綺麗な姿で⋯⋯」

「そっか。フラン、ティア、頑張ったね。ありがとう。でも、大丈夫。あまり多くは語れないけど、希望を持って、願って。大体の事情は察したから、わたしは──」

 

 ウロの姿が変化していく。「グチュグチュ」という気味の悪い音とともに、ウロの身体は変化していく。数秒経たぬ間に、ウロは全長3m程の白い蛇のような何かと化した。鱗など竜には似てるけど、イラとは似ても似つかない。手足も短いし、翼も無い。何処から尻尾か分からないけど、尻尾に相当する部分の背中側には、鋭い刃のような棘が複数付いている。

 

『──こいつを⋯⋯。ああ、痛いっ。魔女の身体でやるとやっぱり痛いな、これ。あ、待ってくれてありがとうね、竜』

『ふん。最後の談笑くらい、大目に見てや⋯⋯え? ウロ⋯⋯ちゃん?』

『あれ? 何処かで会った事ある? でも、ごめん。それはわたしじゃない』

 

 ウロは突き放すように、冷たく言葉を言い放った。イラが呆然とウロを見ていると、雷のように、瞬く間にイラの真上を取る。

 

『もし別のわたしと友達とかだったりしても、今のわたしとは敵だ。だから、手加減はしない。慢心もしない。ただ一心に、お前を削り倒す』

 

 ウロはイラの上で弧を描いたかと思えば、躊躇無く尻尾を振り下ろした。ムチのように撓るそれは、鱗の硬さや棘もあってか、とんでもない威力になったらしい。イラの顔の左側を直撃し、左目と鱗を負傷させた。

 

 流石にそれには堪えたのか、竜は半歩後ろへ下がる。しかし、竜はそれ以上には下がらず。残った方の目で憎々しげに、そして何故か嬉しそうにウロを睨み付けていた。

 

『ウロ⋯⋯そっちがその気なら、我は手加減しない。⋯⋯後で泣き付くなよ』

『泣く程の感情はもう無い。⋯⋯竜の闘争本能剥き出しだね。そんなに戦うの好きなの? ⋯⋯それとティア、見てて。わたしの戦い方、勉強になるかもしれないから』

「う、うん⋯⋯」

 

 明らかに姿が違うけど、本当に勉強になるのかな。それに、お姉様の事、大丈夫って。ウロはもしかして──

 

「ウロ! ⋯⋯お姉様、治せる⋯⋯?」

 

 自分でも驚く程に乾き、悲しそうで、震えた声。お姉様の事になれば、私はこんな怯えた声も出せるんだ。そう思った直後、ウロは笑顔をこちらに向けた。もちろん竜の姿だから、そう見えたのは錯覚かもしれない。

 

Attendre et espérer(待て、しかして希望せよ)!』

 

 白い竜からその言葉が発せられる。意味も分からず私が頷くと、ウロは安心したのか、イラへと目を向けた────




『』と「」の違いは竜が喋ってるかそれ以外かというだけです。特に深い意味はありません。
ちなみにイラさんは雌竜です。

最後のセリフ、元ネタとは少し違いますが、元にしたのはFateのある方の宝具の名称です。ちなみに、その宝具は珍しく⋯⋯?
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