東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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さて、最近まともにティア視点やってなかったですね。
今回はそんなティアちゃん視点です。


35話「(元)狂気な妹」

 ──Hamartia Scarlet──

 

 人間達との戦争が終わり、1週間くらい経った日の事。戦争の後、色々といざこざがあったらしく、お姉様が忙しそうにしてたけど、それも今では大分落ち着いてきている。まだまだ大変らしいから、心配されるだろうし、無闇に外も行けない。ウロの場所なら文字通り、一瞬で行けるのに、話が長引くだろうからと、それができないから困る。

 

 一先ず、お姉ちゃんだけでも落ち着いたみたいだから、いよいよ予定してた事を実行しようと思う。そのために私は、お風呂上がりにお姉ちゃんに頼み込んで、1人で部屋に居てもらってる。部屋に1人で居る、というのは私の願いでは無い。だけど、私としてもお姉ちゃんが1人の方が都合が良いし、それ以上に他の人に勘違いされそうだから。

 

「緊張する? それとも、怖い?」

「⋯⋯両方。しない方が、おかしイ」

 

 予定してた事とは、スクリタの身体のお披露目会。戦争の時にウロに届けてもらった人形を使ってね。ウロから貰った人形はお姉ちゃんにとてもよく似ている西洋人形。違いは髪の色。こっちの人形はお姉ちゃんとは対照的に銀色。それと、何故か宝石の付いた翼が無い。ウロはお姉ちゃんの容姿を知らないはずなのに、ここまで似た人形を作るなんて、奇跡としか言えない。肌の質感もかなり本物に近く、違いは温度くらいだった。

 

 お姉ちゃんの半身とも呼べる別人格のスクリタを私が取り込んでから、何年くらい経ったんだろう。2、3年かな。何にせよ、スクリタは数年ぶりに、身体を持つ事ができた。だけど、久しぶりなせいか、それとも別の理由か。スクリタは私無しだと歩く事もままならないけど。それはそれで、何だか嬉しい気持ち。

 

「もしモ拒絶されたラ、どうしよウ。その場で壊されるかナ」

「むっ。お姉ちゃんがそんな事するわけないじゃん」

 

 確かにスクリタはお姉ちゃんに色々迷惑をかけたよ。だけど、それでお姉ちゃんが(スクリタ)を嫌いになるわけない。だって、お姉ちゃんは私達姉妹に優しいし、思いやりがあるから。もし、お姉ちゃんがスクリタの事を拒絶するなら、私はスクリタの味方になるつもりだ。もちろん、そんな事にならないように頑張るつもりだけど。

 

「ティアは知らないからそう言える。ワタシが表に出る時、フランを無理矢理内側に押し込めてた。だから、嫌われててもおかしくない。⋯⋯胃が痛イ。やっぱり、会わなくていイ?」

「だーめ。それにまだ身体が馴染んでないから、胃が痛いわけないじゃん。嘘つきは泥棒の始まりだよ?」

「吸血鬼は略奪してナンボ。奪われる方が悪イ」

「それお姉ちゃんに言ったら、怒られると思うから言わないでね」

 

 話す前から仲が悪くなる予感しかないから怖い。お姉ちゃん達、お姉様も含めて、妙に人間っぽい事を言う時がある。だからなのか、思考も人間に似ている部分がある。スクリタがお姉ちゃんの思考と真っ向から対立しようものなら、絶対にろくな事にならない。

 

「言わなイ。まだ壊れたくないカラ」

「ふーん。それならいいよ。さぁ、おんぶしてあげるから、お姉ちゃんの部屋に行こ」

「肩を借りるだけにすル。おんぶなんて、惨めな姿見せたくない」

「惨めかな? 私はお姉ちゃんにおんぶされるの好きだけどなぁ」

 

 感情的な部分を抜きにしても、人に頼る事を私は惨めとは思わない。誰だって1人では生きていけないと思うし、孤独に耐えれる程、私は強くないから。だから、1人で居れない人を惨めとは思えない。

 

「妹に手を借りるだけでモ、かなり屈辱的なノ。だけド、まだ歩くのも難しいかラ、甘えてあげル」

「ふふん、素直じゃないなぁ。いいよ。お姉ちゃんが手伝ってあげるね!」

「だから違ウ。ワタシが姉」

「はいはい。スクリタ、掴まって」

 

 スクリタに肩を貸して、隣のお姉ちゃんの部屋へと向かう。

 

 

 

 

 

 すぐ近くだからあまり歩かないけど、それでも慣れない事をしてるから、着くのに1分くらいかかった。部屋を開けて中を見ると、お姉ちゃんは待つのに飽きた様子で、ベッドに寝転がってた。

 

「え、ノックもせずすぐ開けるノ? 心の準備とカ──」

「お姉ちゃん! お待たせ、見て!」

「んー。ようやく来たの? 何? 見せたい、もの⋯⋯って⋯⋯え?」

 

 どうやら、お姉ちゃんとスクリタの目が合ったらしい。蛇に睨まれた蛙のように動きを止める。無理も無い。お姉ちゃんとスクリタは鏡みたいな瓜二つなんだから。

 

「ごめン⋯⋯」

 

 両者しばらく固まってるかと思えば、先にスクリタの方が動き出した。それも、出口に向かって。でも、1人で無理に歩こうとしてその場で転けそうになっていた。慌てて腕を掴んで難を逃れたみたいだけど、もうこれでスクリタに逃げ道は無い。

 

「えーっと。初めまして。⋯⋯それとも、お久しぶり?」

「え⋯⋯ッ!?」

 

 いつの間にか近付いてたお姉ちゃんはスクリタにそう語りかけた。明らかに察してるような言葉。お姉ちゃん、とても勘が鋭くて怖い。スクリタも予想外の言葉だったのか、目を丸くして驚いてた。

 

「あー、やっぱり、(フラン)なんだ。最近声が聞こえないなー、って思ってたんだよね。外に出れたんだ。⋯⋯どう? 私が居ない世界。楽しい? それとも、悲しい?」

「⋯⋯今は、スクリタと言ウ。フラン、ごめんなさイ。ワタシ、自分の事ばかり考えてタ。もう、アナタを悲しませないシ、関わらなイ」

 

 お姉ちゃんの真剣な眼差しに、スクリタは言葉を間違えれば破壊される、という恐怖に震え、怯えた声で話す。2人の会話を黙って聞いてた私だったけど、いつの間にか。本当に自分でも気付かないうちに、スクリタとお姉ちゃんの間に割って入ってた。

 

「え、ティア? どうしたの?」

「⋯⋯お姉ちゃん。スクリタを虐めないで。スクリタも反省はしてると思うの。だから、壊さないであげて」

「あ、あれ? 何か勘違いしてない?」

「⋯⋯え? そうなの?」

 

 さっきまでとは打って変わって、頭を傾げるお姉ちゃんに、私も同じように頭を傾げていた。

 

「あー、なるほどね。嫌味で言ってるわけじゃないよ。ただ、素直に感想聞いただけだから。スクリタ? も怖がらないで。私は貴女に悲しまされた事は無いし、関わらないでほしいと考えた事も無い」

 

 私を避けてスクリタに至近距離まで近付くお姉ちゃんに、彼女は後ろへ下がろうと後ずさる。が、思うように身体が動かなかったようで、結局はお姉ちゃんに捕まった。そして、何をされるかと思えば、お姉ちゃんはスクリタの頭を撫でた。その居心地が良いのか、スクリタは逃げようとはしなくなった。

 

「私ね、寂しかったんだよ。貴女が居なくなって。そりゃあ、ティアやお姉様を傷付けたと知った時は怒ったよ。でも、本人達が気にせずにまた接してくれたから、私もあまり気にせずに済んだの。それに元はと言えば、貴女を創って辛い思いをさせてしまったのも私だから⋯⋯」

 

 スクリタ誕生の衝撃の事実。スクリタもこの事は初めて知ったようで、声を殺して驚いてた。

 

「あっれ。知らなかった? 私が能力の制御をできずにみんなを殺しちゃって、それで1人になって哀しくて。その時は私も心を病んでたのかな。コアが来るまで、ずーっと1人だった。だから、祈ったの。壊れなくて、ずっと一緒に居てくれる友達が欲しいって、ね。多分、そのお陰で、スクリタが生まれたんだと思うよ。それからだから。狂気云々言われ始めたの」

 

 私が初めてお姉ちゃんと出会ったのは30歳の時。という事は、それよりも前からスクリタは生まれてる事になる。でも、時間的に10年ちょっとで生まれるとは思えない。やっぱり、私が姉という事でいいよね。妹確定したの嬉しいな。

 

「スクリタはスクリタで、外に出れなくて不便だったんだよね。だから、鬱憤を晴らすために暴れて⋯⋯こちらこそごめんね。辛い思いをさせてごめん。これからは、もう私に縛られなくていいからね。もう自由にしていいの。でも、できるなら、もっと私と居てほしいな。今度こそは、もう1人の私としてじゃなく、友達として、家族として。もちろん、嫌なら嫌でいいからね。私に拒む権利は無いから」

「あ⋯⋯うん⋯⋯」

 

 お姉ちゃんの神妙な面持ちに、スクリタはたじろぎ、言葉を濁す。だけど、数秒で気持ちを整理したのか、決心した顔で話し始めた。

 

「フラン、本当にワタシの事嫌いじゃないノ? アナタはワタシよりも姉妹を大切にすル。だから、姉妹を傷付けたワタシの事、本当は嫌いじゃなイ?」

「んー、嫌いじゃないよ。だって、姉妹だもん。仲の良い姉妹でも、喧嘩する時はするよ。それでも仲直りして、また喧嘩して。それが私達じゃん。ティアとはまだ喧嘩した事無いけど、お姉様とはよくするよ。主に意見の不一致でね」

 

 言われてみれば、お姉ちゃんと、ましてやお姉様と喧嘩した事は無い。『喧嘩する程仲が良い』とは言うけど、お姉ちゃん達と喧嘩すれば、今まで以上に仲良くなれるのかな。喧嘩しても、負かされる気しかしないけど。なら、やっぱり、喧嘩したくないな。私の場合、それでも仲良くなる方法を探した方が良い気がする。

 

「⋯⋯分からなイ。どうしてそんなに好きになれル。どうしてそんなに仲が良イ。理由は何? 好きになる理由」

「いやいや。そんなの無いよ」

「えっ? 無いの⋯⋯?」

 

 お姉ちゃんの意外な答えに思わず声が漏れる。ハッと我に返り、話を遮ってしまったと口に手を当て閉じる。

 

「無いよ。妹を、家族を好きになるのに理由なんて要らないよ。親愛なんてそんなもの。家族だから、好きになれる。理由なんてそれだけだよ。逆に理由がある方が不安じゃない? 例えば、賢いから、可愛いから。そんな具体的な理由がある時点で、安心できなくなるよ。それが無くなった時点で嫌う、って言ってるようなものだしね。あ、可愛いから好きって言うのを否定してるわけじゃないからね? 気持ちは分かるし」

 

 なんだか新鮮な気持ち。お姉ちゃんがそう考えてたと初めて知って、嬉しいような悲しいような。私の考えと違うけど、それでも私を好きと言ってくれた事は嬉しい。でも、スクリタの方は違うらしい。納得したような、清々しい顔。

 

「そっカ。分かっタ。なラ、これがワタシの答エ」

 

 スクリタはそう言って、お姉ちゃんの肩を掴んで首に噛み付く。少し驚いた表情を見せたお姉ちゃんだったけど、次の瞬間には気まずい顔で不思議がる。

 

「スクリタ⋯⋯私を受け入れてくれたという事は分かったよ。でも、申し訳ないなんだけど⋯⋯痛くないし、吸血特有の快楽も無い⋯⋯」

「⋯⋯牙が無いシ、フランの皮膚を貫ける程硬い歯も無かったみたイ。それに、慣れない身体のせいか、もう動かなくなっタ。ごめン、続きはまたいつカ。ティア、ワタシを身体の中に戻しテ」

「ほえ? う、うん。分かった!」

 

 微動だにしないスクリタをお姉ちゃんから引き離し、その腕を掴んでスクリタを自分の中へと吸収する。すると、人形は生気を無くし、その場で動きを停止する。ただの人形へと戻ってしまった。

 

『もうしばらく中に居ル。吸血鬼は長生きだから、稀に練習しテ、ゆっくり慣れる事にするネ』

「⋯⋯という事らしいよ」

 

 スクリタが私の中に居る時は、私以外に声が聞こえない。だから、私がスクリタの言葉をお姉ちゃんに伝えた。それを聞いたお姉ちゃんは納得した表情で頷いていた。

 

「そっか、ずっとティアの中に居たんだ。という事は、最後に狂化した時に取り込んだのかな。良い事考えるねー、ティアも。ありがと。貴女のお陰で、またスクリタに会えた。⋯⋯ちなみに、五感とか共有してるの?」

「うん、してるよ。だから、痛い事はあまりできないの」

「ふーん⋯⋯そっか。良い事聞いたなー」

『⋯⋯慣れない身体で疲れたかラ、先寝とク』

 

 その言葉をお姉ちゃんに伝えると、残念そうにお姉ちゃんは項垂れる。気を取り直し、お姉ちゃんと今夜一緒に寝る事で妥協した。その夜、お姉ちゃんはただの人形と化したスクリタの身体を抱き枕代わりにして、私と一緒に寝ていた────




あれ、お気に入りや評価してくださった方が増えすぎじゃあないですか?
⋯⋯はい、すごく嬉しいです。ご期待に添えるよう、これからも頑張ります。
読者の皆様、ありがとうございます!(*・ω・)*_ _)





今回で第3章は終了です。次回はちょっとだけお休みして、今章までのキャラの設定集や裏話を公開しようと思います。実は回収しようにも物語の都合上、回収できなかった伏線とかあるらしい()

では、また次回。お会いしましょう。
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