東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

4 / 98
今回は2人の視点。フラティア側とレミリア側のお話です


4話「運命的な少女」

 ──Hamartia Scarlet──

 

 今日はハマルティア・スカーレットこと、ティア()の50歳の誕生日。でも、私の誕生日を祝ってくれる人は1人だけ。フランお姉ちゃんだけしか私の誕生を祝ってくれない。本当ならお姉様も祝ってくれたかもしれないけど、今は祝ってもらうことはできない。もし姉妹3人一緒に暮らせる時が来れば、祝ってくれるのかな。それまではお姉様を信じて我慢しないと。⋯⋯我慢するのは嫌いだけど。

 

「ティアー! お誕生日おめでとう!」

「うん! ありがとう、お姉ちゃん!」

 

 ともかく、今日は1年の中で一番大好きな日。誕生日だからといって特別なことは何もないけど、お姉ちゃんがいつもより長く甘えさしてくれる。それに、誕生日プレゼントと言って、いつも何かをくれる。今まで貰った物は本棚とかの家具や、オモチャなど多種多様だ。お姉ちゃんと会ってからの約20回の誕生日。お姉ちゃんはいつも忘れずにプレゼントをくれた。そのお陰で、今まで何も無かった部屋に彩りが生まれた。だからこそ、飢えも渇きも満たせたし、お姉ちゃんに会えない時間も我慢することができた。

 

「お姉ちゃん、今日のプレゼントはなあに?」

 私はこの時間が楽しみで堪らない。プレゼントを貰えることも楽しみだし、お姉ちゃんが何を持ってきたのか想像するのも楽しみだから。

 

「もー、せっかちだなぁ。ま、気持ちは分かるよ。はい、今日はこれだよ」

 

 お姉ちゃんは懐から幾つかの丸い石と本を取り出し、見えやすいように床に置く。石には何かの模様が刻まれており、本は『Elementary Rune Magic』と題名が彫られた古臭いものだった。

 

「えれめんたりー⋯⋯るーんまじっく?」

「よく読めました。読み書きは苦手だったのに、成長したね」

「えへへー」

 

 褒められて頭を撫でられて、とても嬉しい気持ちだ。⋯⋯って、あれ。お姉ちゃん、私のことを触ってもいいのかな。力を吸い取るから、いつも注意されてたのに⋯⋯今日はメイドちゃんがいないからかな。

 

「不思議な顔をしてるけど、どうしたの?」

「私を触っても平気? 力無くならない?」

「⋯⋯あー。そう言えばそうだった。結構前から分かってたのに言い忘れてたよ」

 

 そう言って、改めて向き合ったと思った瞬間に抱擁される。全く理解が追いつかなかったけど、その温かさに満足感を得る。そして、しばらくの間、私もお姉ちゃんの背中に手を回して抱きしめ合った。

 

「あー、やっぱりあったかーい。この温もり大好き⋯⋯。このまま噛んじゃいたい」

「お、お姉ちゃん? どうして⋯⋯力を吸われないの?」

「うーん、分かんない。でも、どうしてか分からないけど、私は他の人みたいに貴女に力を吸われない。実は最初の時からもしかして、とかは思ってたんだけどね。妖力も魔力も貴女に吸われている感覚は全くしないし、自分の力が減っている気も全くしないから」

 

 お姉ちゃんの言う通りなら、私の言われていた能力は無くなったのかな。でも、無くなるなら無くなるで、何かしらの前兆があると思うけど⋯⋯。それに気が付かなかったのか、それともお姉ちゃんにだけ効かない理由があるとかかな。

 

「あ。お父様に力が無くなったのを言ったらダメだよ。言わば、ティアの能力は抑止力みたいなものだから。下手に言ったら、何されるか分かったものじゃないし。それに⋯⋯本当に無くなったかどうかはまだ分からないから」

「⋯⋯うん、分かった」

「さ、私に効かないと分かっただけでも大きな収穫だし、話を戻そっか。この本、貴女にプレゼントするね。大事にしてよ?」

 

 そう言って手渡された本と模様の描かれた石。お姉ちゃんのことだし、何か面白い仕掛けがありそう。でも、この本と石にどういう関係があって、どう使うのかは想像できない。

 

「ところでティア。魔法って興味ある?」

「魔法⋯⋯? う、うん。でも、眷属に私の魔力は少ないって言われた。だから、魔法を使っても危険性はないと思う」

「⋯⋯ふーん。後でその眷属の名前だけ教えてね。ま、それは置いといて。この石はルーン魔法に使う物なの。魔力が低いのは見ていて分かったし、魔力が低くても比較的扱いやすい魔法道具を用意したの」

 

 お姉ちゃんが魔法を使えるのは何度か聞いたことがあったけど、まさか教えてくれるとは思ってなかった。だって、この地下(世界)で戦う必要はないし、魔法を使う意味もないと思っていたから。

 

「この石には小さな魔力を入れておくことができて、好きな時に込められた魔法を使えるの。その魔法は描かれた模様によって効果が違うよ。模様さえ覚えれば幾つでも作れるし、一度使っても魔力を込めれば再使用可能! 素敵だと思わない? ま、私は魔力そこそこあるし、召喚魔法をよく使うけど」

「む。それなら、召喚魔法を覚えたい。お姉ちゃんと一緒がいい!」

 

 魔力の低い私は今まで魔法なんて使おうとは思わなかったけど、どうせ教えてくれるならお姉ちゃんと同じ魔法がいい。お揃いの方が仲の良い感を出せるし、もっと仲良くなれるだろうし⋯⋯。

 

「まずはルーン魔法を覚えてからね。これを覚えないと、私と同じ魔法は覚えれないよー?」

 

 お姉ちゃんが悪戯っぽく吸血鬼の象徴である牙を見せて笑う。いじわるな言い方だけど、本当にそうしないと覚えれないから言っているのだと思う。多分、半分くらいは冗談も交じっていると思うけど。

 

「分かった。頑張るね!」

「ふふっ。私と同じになれたらいいね。そうなった時は⋯⋯もっと色々教えてあげるよ。魔法以外のこともね」

「楽しみ⋯⋯。お姉ちゃん、そうと決まったら早く魔法を教えて!」

「はいはい。本当にせっかちだねぇ。ま、意欲あることは嬉しいけど。⋯⋯あ、そうだ」

 

 突然、何かを思い付いたらしく声を上げる。そして、こちらを見ると、今までにないほどの笑顔で口を開いた。

 

「私に能力が効かないと分かったことだし、今日は一緒に寝よっか。地下は寒いしね」

「え⋯⋯? う、うん! ありがとう。お姉ちゃん大好き!」

「ふふふ。いいよいいよ。お礼なんてなくても」

 

 生まれて初めて、これほど能力が効かなくて嬉しかったことはない。自覚して能力を使ったことはないから、そもそも効く人はまだ見たことがないのだけど。私がまだ自覚もなかった頃に殺したらしい、お母様は例外として。

 

「さ、言いたいことも言えたし、一緒に魔法を覚えよっか」

「うん!」

 

 お姉ちゃんの言葉に肯定の意を込めて力一杯頷き、ルーン魔法の書かれた本を開く。そして、その日は夢のような時間を過ごすことになった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Remilia Scarlet──

 

 今日はティアが生まれてちょうど50年になる。そう、今日はティアの誕生日だ。しかし、あの一件以来、さらに厳しく監視されている私に彼女と会うことは叶わない。最後に会ったのは確か20年近く前だったか。最後に会った詳しい日は覚えていないが、誕生日だけは忘れたことがない。6月6日、言わずと知れた悪魔の日。何とも吸血鬼に相応しい日に生まれてきたものだ。だからこそ、幽閉されていることが悔やまれる。力を吸い取るという悪魔らしい能力を持っているのに、危険だからといって父親には認められない。同じ悪魔だというのに、それで幽閉されているのだから、何とも生きづらい世の中だ。

 

 そう言えば、初めて会った時も、運動不足なのか弱々しい印象を受けた。地下だから動けないのも仕方ないが。それに、しっかり食べれていないのか、年齢の割に痩せすぎているのも見て取れた。妹のためにも、早く強くならなければ。この世界では強くなければ生きていけない。強くなければ⋯⋯誰も守れはしないのだから。

 

「レミリア。何をボーッとしておる。早く周りの村を制圧してこい。急がねば騎士団が来るぞ」

「⋯⋯分かってるわよ」

 

 父親とは一緒に居たくない。そう思い、逃げるようにその場を立ち去った。

 

 私は今、人間という種族と戦っている。頭数は多いが吸血鬼よりも脆く、個々としての力は弱い。しかし、一度(ひとたび)集まればその力は何倍にも成り得る危険な存在だ。お父様達、大人の吸血鬼は人間を見下しているが、私はそのような傲慢な気持ちにはなれない。もちろん威厳を保つために、人間の前ではそのような態度も見せるが。しかし、決して油断してはいけない存在だとは思っている。

 

「⋯⋯あれね」

 

 私に課せられた命令は、お父様が周辺地域の吸血鬼と協力して城を堕としている最中、周りの村──私はその内の1つ──を制圧すること。援軍や補給を断つことが目的だ。村が1つだけとはいえ、私1人にそのような役目を任されるのは気が重い。しかし、負けるつもりはない。魔術師が居ようと騎士が居ようと、私は吸血鬼だ。負けることは許されない。

 

「あらやだ。やっぱり居るじゃない⋯⋯」

 

 村の入り口は強固な扉で塞がれ、村全体を囲むように壁が形成されている。それはもはや村というよりは砦だ。城を守るために村を改造した砦。そして、中には弓兵を始め、騎士や魔術師らしき者達が居る。本当に私1人に任せるなんて、父親は気が狂っている。

 

「⋯⋯悪いことは言わないわ。抵抗を止めて降伏しなさい。そうすれば死なずに済むわよ?」

「紅い悪魔が来たぞ! 耳を傾けるな! 弓を引け!」

「傾けてよ⋯⋯。はあ、面倒な生き物だわ。聞かなくてもいいけど、これだけは言っておくわ。私に戦いを挑んだ者は殺す。私に攻撃したら殺す。⋯⋯ついでに私の妹を馬鹿にしても殺す。もちろん名前なんて知らないでしょうけど。それを覚えてなさい」

 

 私は唯一使える魔法を使い、紅い槍状のモノを手に取る。名前はグングニル。スピア・ザ・グングニル。純粋な魔力でできているわけではなく、妖力と魔力を併せて創った強固な槍のような何か。便宜上、槍として扱ってはいるが、実際は槍の形をした妖力と魔力の塊である。

 

「暴力は嫌いだわ。⋯⋯中途半端に喧嘩を売った者は、潔く死を選びなさい」

 

 そう言って、私は頑丈な扉に槍を放った。

 

 

 

 

 

 私は人間のことを油断してはいけない存在だとは言った。集団だと強いとも。しかし、だからといって吸血鬼より強いとは言っていない。吸血鬼に勝つとなれば、それは結局、個々の強さが関わってくる。もしそのような強い者がいないとすれば──

 

「⋯⋯どうして人間は、自分の命よりも王が大切なのかしら」

 

 ──結果的にこうなる。村は1時間もかけずに制圧した。私に戦いを挑んだ人間は死に絶え、生き残っているのは戦いを挑まなかった臆病者(命を大切にする者)か、戦いを拒んだ村の人間だけだ。残りの者は宣言通りに全て殺した。戦争に慈悲など必要ない。それに、悪魔に慈悲などあるはずがない。

 

「お母さん⋯⋯! お母さん!」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 村を制圧した後、まだ潜んでいる騎士がいないか探すために村を歩いていた。そして、出会ったのがここでは珍しい紫色の髪を持った10歳前後の1人の少女だ。その娘は瓦礫の下敷きになって死んでいる者の傍で、泣いて叫び声を上げている。私にはその光景が、懐かしいように思ってしまった。

 

「お母さ⋯⋯ん? あ、紅い悪魔⋯⋯!」

 

 視線でも感じたのか、少女は突然振り返って恐怖と怒りの篭った目で私を見つける。少女がそう思うのも仕方ない。恐らく母親が死んだ原因は私なのだから。

 

「よくも⋯⋯よくもお母さんを!」

 

 少女は近場にあったガラスの破片を手に取り、ナイフのように駆使して私へと突進した。もちろん甘んじて受け入れる気もなく、少女の腕を掴み上げ、折れない程度に強く握る。すると、ガラスの破片は少女の手から落ちていった。

 

「あ、っ⋯⋯! お前のせいで⋯⋯お前のせいで⋯⋯!」

 

 涙目になりながらも強く訴えるその姿に、私は多少の同情と哀れみを感じた。母親の死に悲しみはしても、涙すら流せなかった私が、この娘のことをどうしてそう感じているのかは分からない。しかし、私はそう感じざるを得ない。

 

「⋯⋯可哀想にね。運悪く私の槍でも飛んできて下敷きになったのかしら。でもね、ごめんなさい。私はまだ死ねないの」

 

 妹達を助けるまでは誰にも殺されるわけにはいかない。もしそれが終わっても、死ぬつもりは毛頭ないのだが。私も妹達とは一緒に暮らしたい。それが、他人の幸せや自由を踏みにじる結果になったとしても。

 

「その代わりに、私を恨み続けなさい。憎み続けなさい。そして、母親の分まで一生懸命に生き続けなさい。さっき攻撃したことは不問にするわ。だから、私は貴女を殺しはしない。⋯⋯でも、いつか私を殺しに来る時があればそれ相応の覚悟はしなさいよ?」

「う、うぅ⋯⋯」

 

 少女の目には決意が見える。そして、彼女の運命(未来)はすでに過去のそれとは違う、数奇なものに変わっている。

 

 ここでようやく、私は自分の能力を確信することができた。私は未来を見ることができる。もしその未来が気に食わず、不可避のモノでなければ、ある程度は操作することもできる。私はこれを『運命を操る程度の能力』とでも名付けよう。まだ正確に自分の能力を把握しているわけではないが、想像していることは本当にできる気がする。

 

「さ、私を倒せるくらい強くなってみせなさい。今のままでは傷1つ付けれないから。次に会う時を楽しみにしているわ」

 

 そう言って少女を見逃し、村を後にする。もはやこれ以上村を探索する必要はない。それに、そろそろ戻った方が良さそうだ。何故なら、私の能力がそう告げているから。

 

 そうして、私は制圧した村を後にした────




ちなみに、紫髪の子ですが、パチュリーではありません

フラティアのおやすみシーンも要望が多ければ番外編として出すかもです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。