さて、今章初めは美鈴の料理についてのお話。
では、ごゆるりと
36話「中華な調理長」
──Hamartia Scarlet──
戦争から1年の月日が流れたけど、未だに周辺地域の事でお姉様が忙しそうにしている。美鈴も仕事があるから、私に構ってくれる人がお姉ちゃんだけになってる。仕方無いとは思うけど、少し寂しい。悲しい事は無いけど、寂しい。違いは自分でもちょっと分からないけど、そう感じてる。
これは、そんな慌ただしいある日の夜。起きたばっかりで眠気に襲われながらご飯を食べていた私の耳に、お姉様の有り得ない言葉が聞こえた。
「美鈴、中華料理じゃなくて、たまには他の料理も作ってみない?」
「え⋯⋯?」
出された料理に手も触れず、そんな事を言ってた。メーリンも聞き間違いかと聞き返してる。お姉様の言葉は、暗に中華料理を食べたくないと言ってるのだ。要は美鈴の料理を否定してるわけだし、美鈴の声色からしても傷付いたに違いない。お姉様がデリカシー無いの、今に始まったことじゃないけど。
「お口に合いませんでしたか?」
「いいえ、そうじゃないの。ただ、何十年も食べてると、流石にちょっと、なんと言うか⋯⋯。たまには変化も必要だと思うの」
「お姉様⋯⋯それ、美鈴の得意料理否定してるの? 美鈴に失礼じゃない?」
「違うわよ。ただ⋯⋯正直に言えばちょっと飽きちゃった」
その場の空気が重くなる。私も思わず食事の手が止まっちゃった。
「言っちゃったよ⋯⋯、こいつ⋯⋯」
「こいつって誰に言ってるのよ?」
「それくらい酷い事言ってるという自覚を持ちなよ。別に美味しいからいいじゃん。ね、ティア」
お姉ちゃんが私に同意を求めてきたので、ただ一言「うん」と頷き返した。私としては、毎日美味しい料理さえ食べれればそれで良い。毎日使われる食料だって微妙に違うし、食の拘りはあるっちゃあるけど、美味しければノー問題。
ついでに言うと、お姉様やお姉ちゃんの血も似たような感じで、何度吸血しても飽きない。でも、最近お姉ちゃん達の血は飲んでない気がする。人間なら食料として出るのに。またあの血を飲みたいな。
「いえ⋯⋯。お嬢様の言葉にも一理あります。幾ら種類が豊富とはいえ、1ヶ月くらいでまた同じ食材に戻りますから、飽きてもおかしくないです⋯⋯」
「いやいや。1ヶ月毎に変わるならいいじゃん。充分じゃん。お姉様の提案なんてどうせ思い付きだから、あまり気にしちゃダメだよ?」
「うー⋯⋯。それを言われると、確かにそうだけど⋯⋯」
本当に思い付きで言ったんだ。ともかく、話は終わったみたいだし、早くご飯食べて、暇潰しに魔術の練習でもしよう。お姉様のお陰で目が覚めたしね。
と思いながら、最後に残ったチャーハンを口の中に放り込む。もうご飯は無くなったけど、まだ食べた気がしない。こういう時はお代わりするに限る。
「メーリン、おかわりー」
「あっ、丁度いいわね。美鈴、ティアに中華料理以外の料理を出してあげなさい。それで美味しかったら、稀に中華料理以外も出す感じで」
「えっ。わ、私はいいですけど⋯⋯」
「妹を実験台にする気か。⋯⋯ま、ティア次第だよ。もう私は何も言わない」
面白い事を思い付いたと言わんばかりの笑顔になるお姉様とは真逆に、お姉ちゃんは呆れた顔をしていた。私にもそうなる気持ちは分かるけど、ちょっぴりだけ、美鈴の他の料理も食べてみたい気がする。
「食べたい。ねぇ、お姉ちゃんも一緒に、ね?」
「⋯⋯もう、姉妹揃って甘いんだから。ティアが良いなら、私も良いよ」
「あら、フランも素直になれば甘いじゃない」
「ち、違うからねっ? というか、お姉様が言うか!」
お姉ちゃんが珍しく、顔を真っ赤にして照れてる。お姉様相手ならそんな顔もできるんだ、と妬ましく感じた。私にも、たまにはそういう顔を向けてほしい。お姉ちゃんだけじゃなく、お姉様も。美鈴が照れるのはなんか違うから、いつも通り笑顔で居てくれればそれで良いかな。
「はー、もう⋯⋯。美鈴、よろしくね」
「はい! できる限り頑張ります!」
「やる気に満ちてるわね。期待してるわよ。食料はある物なら何だって使っていいわ」
「分かりました!」
新たな挑戦に胸が踊るのか、美鈴は元気にキッチンへと向かっていった。その後ろ姿を見ていると、理由は分からないけど、なんだか微笑ましくなる。
「そういやさ、お姉様。いつ遊べるようになるの?」
「あら、私と一緒に居れなくて寂しいの? 嬉しいわね」
「いや、別にそういうのじゃ無いからっ。ただティアもお姉様居ないとなんか物足りないよね?」
「うん、物足りない」
お姉ちゃんの言いたい事は分かる。要は、お姉様の言う通り寂しいからお姉ちゃんは聞いてるんだと思う。お姉様もお姉ちゃんも、やっぱり素直じゃない。もっと心を曝け出せば良いのに。スクリタみたいに。
『イヤ⋯⋯それは五感共有してるせイ。別に曝してなイ』
なんか心の中で聞こえた気がするけど無視しよう。どうせ夢の中で会話できるんだし。
『⋯⋯むゥ。後で覚えてテ』
「物足りないって言われてもねぇ。まだもう少しかかりそうなのよね。後始末に掃除に、条約締結とか。特に後者は一向に進まないから、後1年くらいはかかりそうよ」
「そっかー⋯⋯。ま、仕方無いか。終わったらいっぱい遊ぼうね? ティアも美鈴も⋯⋯みんなで」
「ええ、そうね」
多分、お姉ちゃんが溜めた言葉の中には、スクリタの事も入ってるんだろうな。お姉ちゃん、気配りは上手だから。⋯⋯良かったね。心配してもらえて。
「⋯⋯にしても、たまには良い事を言うのね、フラン」
「お姉様はいつも一言余計だね?」
「あら、それはお互い様じゃない」
「お姉様、お姉ちゃん。喧嘩は後でして。メーリンの邪魔になる」
お姉ちゃん達が喧嘩してるのは、本人達も半ばじゃれ合い状態だし、見てて楽しいけど、すれば周りが散らかるし、うるさくなる。そうすれば、気になったメーリンがご飯を作るのを中断してしまうかもしれない。ご飯を食べるのが遅れれば、食べる気も失せてしまう。
「⋯⋯末っ子の妹に言われたら世話ないわね」
「そうだね。ゆっくり待ってよっか。お姉様、時間大丈夫なの?」
「1時間くらいは大丈夫よ。ちょっと試食したら、仕事に戻るわ」
「なんだ。やっぱりお姉様も食べるんだ。じゃ、美鈴来るまで待とっか」
その後は静かになった2人と一緒に、談笑を続けながら美鈴が戻ってくるのを待った。
「ティア様、お待たせしましたー!」
しばらくして、キッチンワゴンに大量の料理を積んだ美鈴が戻ってきた。そこにある料理は見える限りだと、お寿司にカルボナーラ、トムヤムクンと、中華料理以外の様々な国の料理だ。どれも本でしか見た事の無いから、とても食欲をそそる。
「少し妖精さん達にも手伝ってもらい、色々作りましたよー」
美鈴は話しながら食卓に料理を並べていく。並べられた料理は本当に色々な国の料理で、見てるだけで絵本の世界にでも居るかのような気分になれる。
「メーリン、ありがとっ!」
「いやいや。作り過ぎ。張り切り過ぎ」
「言い出した私が言うのもなんだけど、こんなに作らなくて良かったのよ?」
お姉ちゃん達は作ってもらったのにどうして嬉しそうにしないんだろう。おかしなお姉ちゃん達。それよりも、気になる事がある。準備時間は50分も経ってない。それなのに──妖精メイドに手伝ってもらったとしても──どうしてそれ以上かかりそうな料理があるんだろう。明らかに、調理時間が1時間以上かかりそうな料理あるんだけど⋯⋯。
「せっかくですし、色々試したい気持ちがありましたので」
「まあ、それならいいけど⋯⋯。で、これは何? ピザ?」
「それはエスフィーハ。またはラフマジュンとか呼ばれる食べ物だよね? メーリン」
「大当たり! 流石ティア様ですね!」
名前を聞いてもお姉ちゃん達はピンと来ないらしい。お姉様に至っては「ピザと何が違うのよ」と不思議そうに呟いてた。私もそれを聞かれると詳しい説明はできないから、お姉様の疑問には答えられそうにない。トルコ料理版のピザがエスフィーハと言っても過言では無いから。
「じゃ、こっちは何? 作った美鈴はともかく、ティアはこれも知ってるのー?」
「うん、知ってるよー。カルボナーラだよー」
「はぇー。流石食いしん坊。何でも知ってるね!」
「うんっ! ⋯⋯うん?」
勢いに騙されたけど、お姉ちゃんの言葉、褒めてない気がする。というか、馬鹿にされてる気すらするんだけど⋯⋯。
「別に名前なんて何でもいいんだけど、結局味のところはどうなの? ティア、早く食べてみて」
「時間が無いからって急かさないでよ、もぅ。まぁ、いいよ。いただきまーす!」
手近にあったカルボナーラをフォークで絡め、口に放り込む。と、歯に弾力性のある柔らかい麺が当たる。口の中に広がるソースはとろけるような美味しい味がする。中華料理程じゃないけど、一言で表すなら──
「美味しいよー。でも、中華料理の方が好きかな、私は」
「あらま。そうですか⋯⋯。でも、美味しいのなら良かったです。不味い料理を食べさせるわけにはいきませんから」
「美鈴は優しいねー。⋯⋯うん、確かに美味しい。これ、何だっけ?」
お姉ちゃんがお寿司を口に放り込みながらそう言った。私が名前を伝えると「ふーん」と聞いた割には興味無さそうに答える。私と違って、お姉ちゃんはそこまで食べ物が好きじゃないらしい。多分、栄養くらいにしか考えてないのかな。残念。
「でもやっぱり、私は中華料理派だなー。美鈴の中華料理に勝る料理は無いねー」
「⋯⋯結論としては、中華料理の方が美味しいって事でいいみたいね」
お姉様もお寿司を手に取りながら口にする。どうやら、お姉ちゃん達は満場一致で中華料理の方が気に入ってるみたい。という事はだ。
「美鈴。やっぱり毎日、中華料理でいいわ。下手に変えるよりは同じ方がいいわね」
「とほほ⋯⋯。わ、分かりました」
「私はこの料理も好きだよ? また作ってほしいなぁ」
「そ、そうです? では、お言葉に甘えてまた作りますね!」
メーリンは嬉しそうに笑顔で答える。こんなメーリンを見てたら、料理が楽しい事に見えてくる。私も美味しい料理を作ったら、お姉ちゃん達に褒めてもらえるのかな。今度、ひっそり作ってみよう。幸いにも、料理を作るのに丁度いい日がある。
「あら、もう時間だわ。みんな。私は行くわね」
「うん! 今日も頑張ってね!」
「無理はしないでよー」
「ええ、心配無用よ」
お姉様はそう言い残して食堂から立ち去った。私も本当に、切実に、お姉様が無理し過ぎないように祈るばかりだ。
「では、私も失礼して。一応、門番の仕事がありますので。ティア様。食器は水に浸けててくださいね」
「うん。美鈴もまた後でねー」
お姉様に続いて、美鈴も部屋を後にした。残ったのは私とお姉ちゃんだけ。そのお姉ちゃんだけど、何をするわけでもなく、私の真向かいの席に座ってる。
「⋯⋯ティアはどうするー?」
「私? 私はまだ食べてるよ。お姉ちゃんはどうするの?」
「んー? ティアを見てるよ。ティアの美味しそうに食べる姿、好きだから」
お姉ちゃんの爽やかな笑顔。お姉ちゃんに限らず、いつも色々な顔を見てるけど、私はこの顔が一番好きだ。だって、可愛くて⋯⋯私に向けてくれる事が多いから。これからもずっと永遠に、この顔を他の誰でもない、私にだけ向けてくれると嬉しいな。
「⋯⋯そっか。お姉ちゃんも食べる?」
「ううん。全部食べていいよ。私はお腹いっぱいだから。⋯⋯ホント、ティアって沢山食べるよね。それなのに痩せてるし、栄養が胸にだけ行くのは妬ましいけど」
「あ、あははー⋯⋯」
今度は笑顔だけど、怖い笑顔。嫉妬心を隠さないから、下手な言葉を言うと怒られそうだ。笑って誤魔化そう、そうしよう。
「⋯⋯ふふん。ま、いいや。私も成長すれば大きくなるしっ。ティア、食べ終わったら今日もスクリタの『慣れ』を手伝おうね」
「うん!」
今日は一日中暇だったし、スクリタの身体を慣れさせる練習くらい手伝おっかな。それにしても、どうしてこんなに食べても強くなれないんだろう。やっぱり、もっと栄養あるの食べないといけないのかな。
なら、お姉様が落ち着いて、ウロから残りの権能を貰ったら、栄養あるの、食べに行こうかな。全てを吸収できるような、美味しい生の血肉⋯⋯楽しみだなぁ────
ちなみにティアちゃん、稀に美鈴呼びとかしますが、基本はメーリン呼びです。
それとレミフラがよく言い合っていますが、別に仲が悪いわけじゃないです。逆に仲は良いです。フランは姉の相談役兼ストッパー役としての自覚があるため、強く当たってますが、本音を言う時はかなり甘えます。要はツン度高めのツンデレです。ティアに対してはデレ度高めのツンデレと、使い分けてる様子。
オリキャラ生存or死亡ルート(詳しくは50話で)
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生存ルート
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死亡ルート