──Hamartia Scarlet──
「てぃあ?」
確認を取るように、再び声がした。
「⋯⋯うん、ティアだよ。ハマルティア・スカーレット。貴女はだぁれ?」
「すぃすぃあ」
「シーシーア?」
「違う。すぃすぃあ」
そう名乗ったのは、私と同い年くらいの小さな少女。白いドレスを身に纏い、紅の瞳と背まで届く黒い髪を持つ。ちなみに胸は私より一回り小さい。それ以上に印象的なのは身体を包み込めそうな大きな蝙蝠の翼と、真っ直ぐ伸びた2本の黒い角。そして、身長よりも長そうな黒い尻尾。口から僅かに見える牙。
その姿はまるで竜のような出で立ちだけど、『匂い』は吸血鬼のような。とても不思議な娘だ。でも、可愛いからかな。見てると食欲が湧いてくる。
「スィスィア?」
「うん、そう。すぃすぃあ。てぃあ、カワイイ、好き」
「⋯⋯へっ!? と、突然の告白!?」
出会ってすぐに告白されたのは流石に初めてだ。恥じらう姿を見せないけど、冗談で言ってるようにも見えないし、声のトーンから本音のように聞こえてしまう。
「カワイイ、だから、てぃあの血、見たい。遊ぼ?」
「⋯⋯へ?」
ついさっきの嬉しい気持ちが無駄になった気がした。可愛いからチを見たいって事だよね。チって⋯⋯あの血だよね。遊ぼうってのも、もしかして激しい方の遊びかな。それはいいんだけど、出会ってすぐ激しい遊びしたいって⋯⋯変わってるなぁ。
「遊ぼ! てぃあ、勝つと、いいモノあげる!」
「勝てばいいものくれるの?」
「うん! あげる!」
遊び盛りなだけで、意外と良い娘かもしれない。
「じゃぁ、てぃあ。先に、これあげる!」
「えっ!? 積極的──っ!」
そう思った矢先、突然近付いてきて、何をするかと思えばキスをしてきた。それどころか、口移しで何かを無理矢理流し込まれた。いきなりでビックリしたのもあって、吐き出す事もできずに飲み込んでしまう。
「ゴホッゴホッ! んぁ⋯⋯い、いきなりする?」
「⋯⋯あれ? おかしい」
何を不思議がってるのか、スィスィアは頭を傾げてた。
「吸収性、高い? ⋯⋯残念。血が見れる、思ったのに」
「んー、どゆこと?」
「⋯⋯見て」
そう言って、口を開いて舌を見せる。その舌は自分で噛んだのか、歯形が残り、血が滴り落ちていた。そして、その落ちた血は形を変え、刃物らしき金属になっていた。
「アタシの能力。血が変わる。物質でも、エネルギーでも。近くにあれば、変えるの」
「⋯⋯あっ。血を流し込んだの? 私に?」
「うん。血、見たいから」
怖っ。多分、身体が栄養と勝手に判断して吸収したから無事だったけど、そのままだったらお腹の中から刃物が飛び出してたのかな。血が見たいからって、不意打ちみたいな事するんだ。無垢故の危なさを感じる。まるで、昔の自分を見てるようだ。
「⋯⋯頼めば見せてあげるのに。悪い子だね?」
「悪い? そうかな?」
「そうだよ。何も言わずに勝手にやるのは悪い子だよ? ちゃんと言おうね」
「ほー。てぃあ、血、ちょうだい」
早速両手を差し出して、強請る仕草を見せた。食べちゃいたいくらいの可愛い笑顔で、見てるとより一層、食欲が湧いてくる。名前しか知らない相手なのに、全てを食べ尽くしたい。
「⋯⋯血をあげる代わりに、食べてもいい? 見たところ、竜の血を引いてるよね? そういう悪魔じゃなかったら、の話だけど」
「うん。引いてる。親の親、竜だから。食べてもいい。けど、先に血を、ね?」
「⋯⋯まぁ、仕方ないか。ほら、飲むならどうぞ。遠慮しなくていいよ」
自分の左手首を爪で切り裂き、血を流させる。スィスィアは恍惚の表情を浮かべると、私の腕を掴み上げ、傷口を舐め始めた。再生を意識しなくとも、妙な早さで傷が消え去り、私の腕には血の跡だけが残った。口元を血で汚したスィスィアは、嬉しそうな笑みを浮かべると、私に抱き着いた。
「てぃあ、ありがとう。大好き。⋯⋯結婚しよ?」
「そっか、良かっ⋯⋯た? え、ちょっ、今なんて?」
聞き慣れたような聞き慣れない言葉に耳を疑う。会ってまだ数分しか経ってないのに、結婚を申し込まれた気がしたからだ。
「結婚しよ? てぃあ、優しい。アタシ、それ好き。今まで、血をくれた人、いなかった。てぃあ、初めて。何もせずに、くれた人!」
「何もせずに⋯⋯ってか、一応、食べるという交換条件受けたからだよ?」
「それでも、嬉しい! てぃあ、ずっと一緒、良い!」
なんだかめんどくさい事になった気がする。やっぱり、簡単に人のお願い事は聞かない方が良いのかな。聞いたら、こうして厄介な事に巻き込まれる事多そうだし。
「ごめんね。私、好きな人がいるの。だから、スィスィアとは結婚できない」
「好きな人⋯⋯? だから、何?」
ドスの効いた低い声。その口調からは怒りというより、寂しいという感情を感じる。誰にも相手にされなかったけど、ようやく光を見つけれた。そんな悲しくて、既視感ある気持ちを、スィスィアは今感じてるのかな。⋯⋯気持ちは分かる。
「好きな人、関係無い。アタシ、てぃあ、好き! だから、ずっと一緒、良い!」
「⋯⋯そっか。でも、結婚はやっぱりダメだよ。私はお姉ちゃん達が好きだから」
「むぅ⋯⋯」
「代わりに、友達から始めよ? 友達なら、遊んだり、ただ一緒に居る事もできるよ?」
「友達⋯⋯? うん、友達! てぃあ、友達!」
その言葉にスィスィアはとても嬉しそうに飛び跳ねる。見てると昔の自分を思い出す。
「元気だね。⋯⋯そろそろ、食べてもいい?」
「うん! ⋯⋯あっ。てぃあ、誕生日プレゼント、持ってきた」
そう言って、スィスィアは自分の指を舐めて、その指で空中に何かの文字を描く。すると、窓のような小さな入り口が現れ、そこから歪な形をしたケーキを取り出した。
というか、どうして私の誕生日知ってるんだろう。⋯⋯もしかして、お客さんだったりしたかな。まぁ、交換条件受けちゃったし、今更食べないという選択肢は無いけど。
「誕プレ? って、何今の凄っ」
「仲良くなりたい、思った。だから、持ってきた! 食べて!」
用意周到だね。そこまでして、誰かも分からない私と仲良くしたかったんだ。悲しいな。辛そうだな。本当に昔の私とよく被る。見てると構いたくなって、可愛がりたい気持ちになる。例えるなら、
「ふふっ、ありがとう。それは後で一緒に食べるとして、先にスィスィアを食べていい? ちょっと焦らされ過ぎてもう我慢できないし」
「いいよ! どこ、食べる?」
「え、うーん⋯⋯」
こうも潔く話が進むと、逆に気乗りしない。いつもは内蔵を要求してるけど、お客さんなら服を汚せないし、本当にどうしよう。でも、我慢できないし、吸血だけしようかな。
「⋯⋯首、いい?」
「また遊ぶ、約束するなら」
「友達だし、全然いいよ。じゃぁ、力を抜いて、気を楽にして。すぐ終わるから⋯⋯」
スィスィアの肩を掴んで、動かないように固定する。そして、その首筋に牙を押し込み吸血した。口の中に血の匂いが広がり、潤いを与えてくれる。あまりの心地良さに、血が少し零れていても気にならないくらい夢中になれる。
「ぁ、てぃあァ、もっと⋯⋯気持ちいい⋯⋯」
スィスィアも吸血からの快楽からか、うっとりとした表情を浮かべていた。だけど、これ以上続ければ文字通り吸い尽くしてしまう。そう思い、首から口を離した。
「ん⋯⋯ごふっ、ごほっ。⋯⋯ぷはぁ、美味しかった。ありがとうね、スィスィア」
「えっ、もっと⋯⋯!」
「ダーメ。これ以上やったら、スィスィアは一緒に居れなくなるよ? 死んじゃうからね。⋯⋯でも、たまにならできるから、これからも家に遊びに来てね。⋯⋯何処に住んでるのか知らないけど」
「ルーマニア! お父さん、ルーマニアの吸血鬼!」
凄い聞き覚えがある気がする。もしかして、というか、確実に知ってる人の娘だ。
「お父さんの名前、ヴラド?」
「うん! でも、好き、違う。ふつー」
「ふーん。別に悪い人じゃなさそうなのに、変なの。⋯⋯ん? ってことはさ、ヴラドも来てるの? うわぁ、絶対待たせてそう。スィスィア、行こ? お姉ちゃん達にも会わせてあげる」
「うん! 行こー!」
元気な声を出すスィスィアと一緒に、みんなが待つであろうパーティーホールへと戻る。
「改めて、すぃすぃあ・つぇぺしゅ! おねえちゃん達、よろしく!」
「ええ、レミリアよ。よろしく。先にティアに会ってたのね。もう仲良さそうで良かったわ」
「うん、レミリア、よろしく!」
「ふーん。尻尾あるんだ。へー」
お姉ちゃん達と合流してから、スィスィアは改めて自己紹介を交わした。第一印象は良かったのか、お姉ちゃん達にも笑顔で受け入れられている。お姉ちゃんだけは、何か思うところがあるようだけど。
「言葉足らずな部分が些か目立つが、仲良くしてやってくれ。純粋過ぎて、少し困った事をやらかす事もある。⋯⋯フラン嬢には話してなかったか。私は竜の血を引き、娘の代にそれが色濃く反映されたのだ」
「竜⋯⋯。へー、竜の⋯⋯可愛い尻尾だね。触っていい?」
「いいよ!」
なんだか和やかな風景。ウロが意味深な事言ってたけど、あまり気にする必要は無さそうだ。
それと、予想通りヴラドも来てたけど、もう1人知らない子も来てる。見たところスィスィアと似てる気がするし、多分、息子さんかな。とか思ってると、こっちに歩いてきた。緊張してるのか動きが硬い。それに顔もほんのり赤いし、大丈夫なのかな。
「あ、あの! ミフネア・ツェペシュです! よろしくお願いします!」
「うん、よろしくね。ハマルティア・スカーレット。ティアって呼んでね」
スィスィアみたいで元気な人。やっぱり兄妹だからかな。凄く似てる。
「は、はい! ティア⋯⋯さん」
「ティアでいいよ? さん付け、余所余所しいからねぇ」
ヴラドとか、一部例外はあるけどね。年齢もあんまり変わらなさそうなのに、さん付けはしてほしくないからね。まだまだ若いし。
「うん。ちょっと失礼。ミフネア、聞きたい事が1つあるんだけど」
「え? あ、あの。レミリアさん?」
滅多に見ない感情の篭ってない怖い笑顔。怒ってるのを隠そうとしてる時くらいじゃないかな、そんな顔するの。ミフネアもそれを読み取ったのか、凄く怯えた顔してる。
「いいから。⋯⋯ティアは作ってもらったケーキを食べてなさい」
「う、うん。お姉様、どうして怒ってるのか知らないけど、ミフネアに怒っちゃダメだよ?」
「怒ってはないわよ。⋯⋯え、そんなに顔に出てた?」
確信犯じゃないか。そう思いながらも頷くと、顎に手を当てしばらく考える仕草を見せるも、すぐに元に戻ってミフネアを離れた場所に連れて行った。
「てぃあ、終わった? 一緒に、食べよ?」
「ん、うん。いいよ。⋯⋯お姉ちゃん、スクリタ。それ気持ちいいの?」
何故か、今もずっとスィスィアの尻尾を撫で続けてる。傍から見れば変な行動だけど、まるで小動物を愛でてるようにも見える。
「温かいんだよ、この尻尾。結構感触もいいし」
「てぃあ、触る? いいよ?」
「ふーん、いいの? ⋯⋯あ、ホントだ。あったかい。それに、美味しいよ。このケーキ。ありがとうね、スィスィア」
「ありがとう、嬉しい!」
ケーキを頬張りながら、触り心地の良い尻尾を触る。その時改めて、私は至福の時間を感じる事ができた────
──Remilia Scarlet──
「で、どうなの? 私と会った時とは違った反応を見せてたわよね?」
ミフネアを連れ出し、そう質問してみる。ヴラド公を含むみんなは空気を読んでくれてか、私達の近くに寄ろうとする人はいない。ティアとか、一部分かってもいない人もいるが。
「え、えっ? そ、そうですか?」
この動揺を見て、私の予想は確信へと変わった。ティアを外の誰にも近付けさせずにいたのは、こうなる事も分かっていたからだ。ミフネアの事を変な奴だとは思わないが、それでもティアを手放したいとは思わない。
「⋯⋯ティアの事、どう思ったの? 正直なところ、どう思おうが貴方の自由よ。でも、あの娘はまだまだ子供。もしそういう気持ちがあっても、もう少し大人になるまで待ってちょうだい」
「と、という事は、お姉さんから許可を──」
「誰がお姉さんだ! ⋯⋯もう、やっぱり、そうじゃない」
「⋯⋯あっ」
しまった、という顔をして、黙り込む。最早確信どころではない。やはり、ティアはミフネアに好かれてしまった。ティアの事は子供として見てたから、まさかティアが一目惚れされるとは思わなかった。ある意味では運命か。嫌な運命だ。
「ティアももうそういう年頃なのねえ。大人っぽい魅力はあるし、分からないでもないけど。ともかく、何事も急ぎ過ぎないでよ。仲良くなろうとするのは⋯⋯はあ。姉が決める事じゃないわね。貴方の自由になさい」
「ほ、本当ですか!? は、はい! ありがとうございます!」
「⋯⋯妹を傷付けたら、ただじゃおかないわよ? それと、許可するまで絶対に告白なんてしない事。破れば知らないわよ?」
「も、もちろんですっ! 必ず幸せにしてみせます!」
とても複雑な気持ちだ。だが、種族繁栄のために、いつかこうなる事も予想していた。ヴラド公の目的、恐らくはこれも想定していたのだろう。後継者のためにしてる事だろうから分かるが、見た目に反して意外と狡賢いようだ。好きではない。
「勝手に息巻いてるところ悪いけど、まだ決まったわけじゃないからね? 仲良くするのはいいってだけだから。まあ⋯⋯それもこれも、結局はティア次第なのだけど」
結論としてはそうなるから、困ったものだ。そう思い、私は頭を抱えた────
ちなみにスィスィアちゃんの句読点多い話し方は今回限りです。読みにくいので⋯⋯(
さて、今回で誕生日会は終了ですね。下準備は終わったので、次回からまた日常です
オリキャラ生存or死亡ルート(詳しくは50話で)
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生存ルート
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死亡ルート