どうやら、今度は美鈴と買い物に来たようです。
──Frandre Scarlet──
ティアの盛大な誕生日会からもう10数年の年月が経つ。あれからも、毎日のようにティアは何処か──多分、ウロの家──に出かけてるけど、月に数回だけそこには行かない時がある。それは何かの記念日だったり、私やお姉様がお願い事や頼み事をした時だったり。どれもティアと私達の交流がある時だけ。その真意は分からないけど、少なくとも楽しそうだからとても嬉しい。
「メイリン早クー」
「す、スクリタ様! お待ちくださいー!」
今日もそんな日で、今回はティアに加えてスクリタや美鈴も一緒に、夜の人間の街へ買い物に来た。お姉様は事務作業で忙しいらしく、その代わりに美鈴はお姉様に護衛と付き添いを言い渡されたんだとか。
心配性にも程があるけど、何気に初めて美鈴と買い物に来れたから素直に嬉しい。
「お姉ちゃん。これ持って」
「⋯⋯ん。姉に持たすの? ま、いいけどさ」
「うん、ありがと」
必要な物は既に買い揃え、今は美鈴を中心に自由行動をしている。ちなみに、私達の姿はティアに変えてもらった。置換魔法とかいう初歩的な魔法らしい。教えてもらおうかと思ったら、断られてちょっと悲しい。
「あ、お姉ちゃん! あのお店行こっ!」
「急かすな急かすな。私さ、両手に持たされてるんだよ? 美鈴ー、へるぷー」
「あっ、はいはい、どうしましたかー?」
「片方だけ持って」
「了解ですー」
先ほどまでスクリタの相手をしていた美鈴を呼び戻し、片方の荷物を持ってもらい、ティアの後ろを付いて行く。
「ところで、何をお買いに?」
「あれ。⋯⋯宝石屋さんだね。ティア、最近光る物ばっかり集めてるみたいだし。性格ってか、性質みたいなものでも変わってきたんじゃないかなー⋯⋯」
昔はそれほど光る物が好きではなかった。なのに、最近はずっと部屋の中に宝石を溜め込んでいる。思い当たる節があるとすれば、竜関連かな。
以前、ティアは竜を喰った。その時、歪な竜の姿を取った。竜はキラキラ光る物に目がないというし、ウロの家に行ってるなら、また竜にでもなってるかもしれない。ともすれば、竜へと性質が変わってきてもおかしくない。ただ単に、ウロとかへのプレゼントかもしれないけど。
「えっと、性質⋯⋯?」
「ああ、美鈴には話そうかな。お姉様には秘密ね」
「お姉ちゃん! 早く!」
「急かすなー⋯⋯」
ティアの元へと行くと、綺麗な宝石の並んだ店があった。当たり前だけど、どれも値が張る物ばかりでお世辞にも安い店とは言えない。1つ買うだけでも紅魔館の食料1週間分くらいになりそうだ。
どちらでもティアの出費が大きいというのも驚きだけど。
「お姉ちゃん、見て! 綺麗なダイヤモンドだよー。1個だけ買おうかなぁ」
「そだね。⋯⋯ってかさ、お金足りるの? 絶対足りない気がするんだけど⋯⋯」
「気がする、というか、足りないですね。ここへ来る前の財布のおよそ5倍です。結構余裕を持って来たつもりだったんですけどねー」
お姉様から余れば何でも買っていいと言われたものの、使い切れとは言われてない。むしろここで許せばどんどん甘えん坊になるだろうし、姉として、しっかり断っておく場面では断らないと。
「ティア、流石にダメだよ。お金も足んないし──」
「ん、大丈夫! 自分のお金で買うから」
「⋯⋯えっ」
たまに自分の妹が怖くなる。何故お金を持ってるのか。何よりもどうして宝石を買う額のお金を用意できるのか。後で問いただすべきか。それともお姉様に相談して慎重に見るべきか。ウロにでも貰ってると言われたら、そこまでなんだけど。
「あら、ティアちゃんじゃない。今日も来てくれたのね」
「こんばんは! お姉さん」
不意に知らない女性の声が聞こえて振り返ると、お店の人とティアが仲良さそうに話していた。どうやら今の声はそのお店の人だったらしい。いつもは人間を好んでいる素振りを見せないから、こういった姿を見るのは意外だった。
「いつもありがとうね。ところで、その娘は⋯⋯ティアちゃんのお姉ちゃん? それと⋯⋯」
「ティア様の従者です。名は紅美鈴。よろしくお願いします」
「⋯⋯え? な、何? 知り合い?」
「いつもお世話になってるお店なの。家にある宝石、ほとんどここの店なんだよー」
てっきりウロの家ばかり行ってると思ってたけど、ウロの家とは真反対にある街にも来てるとは。毎日のように出かけてるティアの目的がますます分からなくなる。
そう言えば、最近スクリタやお姉様が邪魔してティアと2人っきりになれてないし、今度2人で何処かに行こうかな。ついでに、その時にティアの秘密も全部聞いてみよう。答えてくれるかどうかは知らないけど。
「そうなのよ。いつもお世話になってます」
「あ、こちらこそ妹がお世話になってます。⋯⋯ん? あれ、スクリタは?」
いつからなのか、スクリタの姿が見えない。そう言えば、美鈴を呼び戻した時、1人そのままにしちゃった気がする。どうせ気付いてるだろうと話しかけなかったのが失敗だったか。後で怒られるし、何よりも心配だから早く探さなきゃ。
「ティアちゃんの妹さんが居ないの? それなら早く探した方がいいわよ。最近、行方不明事件が多発してるそうだから。特に夜中に1人になったところで行方不明になる事が多いらしいし⋯⋯」
「⋯⋯マジか。ティア、スクリタが心配だし、宝石はまた今度にしよう、ね?」
「え? う、うん。分かった」
不本意そうな顔をするティアの気持ちも分かる事には分かる。スクリタも吸血鬼だし、家の方向くらい覚えてるだろうから、大した心配はしてない。だけど、万が一の事もあるし、心配するに越した事はない。
そう思い、早速探そうとしたのを、美鈴が手で制して止めた。
「⋯⋯フラン様、ティア様! スクリタ様の気を掴めましたので、先に入り口で待っていてください!」
「え? もう? 早くない? 私の心配が一瞬で無駄になっ⋯⋯行っちゃった⋯⋯」
何かを聞くよりも早く、美鈴は全力疾走で大通りを走っていった。しばらく呆気に取られてたティアも、しばらくすると私の裾を引っ張りながら顔を覗き込んだ。
「⋯⋯お姉ちゃん、宝石屋に戻っていい?」
「ん? うーん、そうだなー⋯⋯やっぱダメ。ティア、一緒に歩こ?」
「えぇ⋯⋯」
「露骨に嫌そうな顔しないの。昔はあんなにお姉ちゃんお姉ちゃんって言ってくれたのに、反抗期は辛いなぁ」
本当に、ティアも昔と変わった。昔はずっと一緒に居たのに、最近は寝る時やお風呂に入る時くらいしか一緒に居ない。昔は表裏を感じずに甘えてくれたのに、今ではずっと何かを隠してるみたいだし。
一体いつからこうなったのか。もちろん、私は知ってる。何故こうなったのか。
「⋯⋯ティアってさ、今でもお姉様が死んだの、自分のせいとか思ってる?」
「急にどうしたの?」
「いいから黙って聞きなよ。で、どうなの?」
「むぅ⋯⋯⋯⋯」
やっぱり、図星かな。ティアのせいなわけないのに。どうせここまで引きずるんだろう。お姉様も無事だったし、今更振り返ったところで意味が無いのに。お姉様がもしも死んでたら、私もこんな考え浮かばなかっただろうけど。
「何も言いたくないなら、それでいいよ。⋯⋯あーあ。残念だなー。お姉ちゃんなのに、妹に信用されてないんだなー」
「えっ。あ、ち、違うよ! 信用してないんじゃなくて⋯⋯」
「はーあ。本当に残念。私って妹からの信頼ゼロなんだなー。辛くて死にそうだわー」
「え、あ、その⋯⋯」
自分でも下手と思うくらいの演技だからお姉様になら「あっそ」と一蹴りされて終わりだろうけど、ティアにはこれが一番効く。現に、今ティアは迷ってる素振りを隠さない。迷いを悟られる事にまで気が回ってないのだ。
後もう一押しすれば、いとも容易く話してくれるに違いない。
「⋯⋯本当はどうなの? 教えてくれるなら⋯⋯そうだなー。今度、2人っきりでデートに行ってあげるよ? いつも私を放ってウロのとこ行ってるしさ、たまには独り占めしたいしねー」
「え⋯⋯本当に? 約束する?」
「約束するよ。さっきの質問に答えてくれるならね」
まだ少し迷う仕草を見せるも、すぐに迷いを打ち消したのか、決心した表情になる。そして、面と向かって口を開いた。
「思ってる。だから、もう二度とあんな事が起きないように強くなろうとしてる。⋯⋯お姉様には秘密だよ。まだ知られたくない」
「それはどうして?」
「⋯⋯お姉ちゃんの質問には答えたよ。だから、これ以上は答えないもん。でも、約束は守ったし、デートはしてね?」
ティアはそう言って、悪魔のような、もしくは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
してやられた。そう思っても、後悔先に立たず。悪魔の
「ティアもやるようになったじゃん。そういうの、嫌いじゃないよ?」
「お姉ちゃんが勝手に勘違いしただけじゃない?」
「⋯⋯やっぱ嘘。お姉様に似てきたね? お姉様みたいな傲慢で揚げ足ばっかり取る人を見ると、負かしたくなるんだよねー」
「でも、好きなんでしょ?」
そこまで言って、何かを察したようにハッとして口を閉じる。手遅れなのに、まだ隠し通せるという幼稚な考えは可愛くて好きだ。それでも、ティアはお姉様に似てほしくないけど。
「⋯⋯好きだよ。ティアも同じくらいね。だけどさ、帰ったら覚えときなよ?」
「うん、楽しみ!」
「お仕置きだからね? あいや、それでも喜ぶか。ちょっと感性ズレてるなー。ま、いいや」
こういう風になったのも、私の責任が大きいだろうしね。それに、どんな感情でも、感覚でも、私を好きでいてくれるのは間違いない。その気持ちさえあれば、私には何もいらないし、後はどうだっていい。
「帰ろっか。美鈴とスクリタも待ってるだろうしね。あ、そうだ。帰ったらさ、洗いっこしよー」
「いいよー。お姉ちゃんの、どれだけ大きくなったか見てあげるね!」
「ん? ⋯⋯ティア、今なんて?」
「⋯⋯ごめんなさい」
威圧したら、すぐさま表情を暗くした。翼でもあれば、もっと分かりやすいんだろうけど。
「よろしい。次言ったらガチのお仕置きだからね」
「はい⋯⋯」
「⋯⋯もう。そんな分かりやすく落ち込まないでよ。帰ったらいっぱい甘えていいからさ」
「本当に? ありがとっ!」
訂正。翼無くても結構分かりやすい娘だ。そして、私はそんなティアが好きらしい。それからも談笑を交わしながら、ティアと一緒に街の入り口へと向かった────
──Hamartia Scarlet──
お姉ちゃんとお風呂に入り、上がった後の事。
「ティア、疲れたシ、もう寝るネ」
お風呂で遊び疲れた私は1人で先に部屋に戻り、スクリタを自分の中へと迎え入れた。未だに1日中人形の姿でいる事が辛いらしく、休む時は私の中で寝た方が効率が良いんだとか。私も夢の中でスクリタとあんな事やこんな事ができるし、1人で寝るよりも2人で寝た方が楽しいからね。文句は無い。
「うん。じゃぁ、お姉ちゃんが来る前に、済ましちゃおっか。キスする?」
「しないかラ。早くしテ」
「むぅ。つまんないの。寝た後でいっぱい楽しもうね?」
「怖ッ。楽しまないかラ。早く寝させテ」
スクリタは乗り気な時と乗り気じゃない時の差が激しいから困っちゃう。常に乗り気なら私も接しやすいのに。わがままな妹も良いとは思うけど、しっかり言う事聞いてくれる方が私は好きだ。
そんな事を思いながら、スクリタを自分の中へと移動させた。
『⋯⋯
身体の中に戻った瞬間、
それでも、持っていかれると困る記憶があるから仕方無い。身体を共有した時に起きる感覚共有がこういう形で仇になるとは思わなかった。
「ふふっ。怖い怖い。でも、私の言う事聞いてくれるんでしょ? 好きだよ、そういうの」
『聞いてるじゃなイ。
「うん、嫌だよ。絶対に怒られるから。特に必要以上の殺しを嫌ったお姉様にはね」
私はお姉ちゃんにも、お姉様にも話せない秘密がある。強くなるためだし、お姉様達のためだけど、きっと分かってくれないから。絶対に止められるけど、今はまだ止められたくない。
準備ができてからじゃないと、絶対に負けるから。
『⋯⋯後悔するヨ』
「しないよ。しないために、してるから。全部、必要な犠牲なの」
『⋯⋯私が言えた義理じゃないシ、アナタがいいならそれでもいイ。けド、どうなっても知らないからネ。⋯⋯本当に辛い時、お願いだから頼っテ』
「⋯⋯⋯⋯」
スクリタは感覚を共有してるから、何も言わなくてもバレてしまう。寂しさを紛らわしたいから、敢えて会話してだけど、今回ばかりは何も言いたくない。
『⋯⋯バカ。もう寝ル』
「あっ⋯⋯うん。おやすみなさい」
『オヤスミ』
それっきり、スクリタの声は途切れてしまった。それからお姉ちゃんが帰ってくるまで、私は静かに項垂れていた────
とまぁ、しばらくは日常(?)が続きますね。
お風呂で何があったかはご想像にお任せします。
最近マンネリ化を感じたので、ティアフラデートの前にやりたかった事を先に⋯⋯。
それとようやく37話に押絵を追加しました。
オリキャラ生存or死亡ルート(詳しくは50話で)
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生存ルート
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死亡ルート