それと、久しぶりの三人称視点となります。
久しぶり過ぎて若干下手になってるかもしれません⋯⋯(
──???──
悪魔の住む紅の館。そこから随分と離れた、とある人間の街。表通りは露店で賑わうも、その通りから少し外れただけで、別世界のように静寂とした裏路地。その2つの差は貧富や地位などによって分けられる。
しかし、最近その2つに分け隔てなく伝わる噂がある。
夜中。表も裏も関係なく、1人で出歩く者は生きて帰れない。もし出歩けば、強欲な悪魔に骨まで吸い尽くされる。悪魔に遭遇すれば生還はできない。もし夜中、1人になったら⋯⋯神に祈れ──と。
もちろん、噂は噂。誰もが信じたわけでもなく、人によってはただ刺激的で面白そうだから広まった、と考える者もいた。
「はぁー⋯⋯。今日も遅くなっちまったなァ⋯⋯」
この黒髪の男もそうだった。噂をただの噂と思い込むどころか、意に介さずこの街を暮らしていた。普通はそれが正しい。正常で、普遍的な価値観による判断。しかし、この世界ではそれが異常だった。
普通とは、大多数による価値観の押し付け。少数に回った時、それは異常となる。
「⋯⋯お兄さん、おかしい人だね。こんな夜中に1人だなんて」
黒髪の男性の前に現れたのは、金色の長髪と赤く輝く瞳を持つ小さな少女。高貴なドレスを身に纏い着こなすその姿は、まるで貴族のようだった。否、綺麗で整った容姿故、もしかしたら本当に貴族なのかもしれない。
「あァー? なんだお前ェ? 貴族様が貧民街に何のようだァ?」
黒髪の男もそう思ってたようで、嫉妬からか敵対心を滾らせていた。貧富の差が激しい社会、貴族が妬みや恨みを買われるのも無理はない。
「へへっ、従者も付けずに1人でいるんだ。何されても文句はないよなァ?」
だから、貴族が1人で、それも夜の貧民街を歩けば襲われるのも周知の事実。幼い子供でもそれは分かってるはずなのに、この少女は何故か1人でいた。月明かりだけが頼りな闇の中、その輝く瞳は真っ直ぐと男を捉えながら。
「⋯⋯覚えてるわけないか。違うもんね。まぁ、覚えてても関係ないけど」
「あァ? 何言ってんだお前ェ?」
少女は1歩ずつ、着実に男との距離を詰めていく。男はそれを誘いの肯定と受け取ったのか、自らその少女へと近付いていく。
「おぉ、そうだそうだ。早くこっちへ──」
「戦争のせいで、無差別に人を殺すのにも抵抗を覚えてるみたいなの。だからね、今日だけはその代わり。いつもは糧だけど」
「何を訳の分からない事を言ってんだァ? 早く俺と──あェ?」
手が触れ合うほど近付いたその刹那、男の右腕がその場で
「ひ、ひぇぇぇ!! な、何をするんだァーッ!」
「え? 手始めに右腕を破壊しただけだよ。『目』が見えなくても、権能による破壊と再生は慣れてきたからね。触れれば飛ばせるようになったの」
「ま、まさか、悪魔⋯⋯?」
「⋯⋯ふふっ。ふふふふふ!」
その呼び名に、少女はクスクスと笑い始めた。必死に堪えようとするも、その笑い声は漏れ出し、静かな街に響き渡る。
「恐怖に引き攣った素敵な笑顔! そうだよ、私は悪魔だよ! で、どうする? 神頼みでもする? ふふっ。でも、残念。神様なんて居ないよ? 貴方は惨めに、ここで虚しく死んじゃうの!」
「や、やめっ⋯⋯! 助け──」
男は腰が抜けたのか、その場で這い蹲って助けを求めた。無様な姿を晒してでも、助かりたいという
「な、何でもする! だ、だから、命だけは⋯⋯!」
「ふはははっ⋯⋯! 信念も信条も、理念も何もかも! 貴方は自分が無いんだね。ほらほら、最後まで必死に祈れば? 人間だもの。祈るのが好きなんでしょ? だからさ、祈ろっ? 助かりますように、逃げれますように、ってさぁ!」
少女の嬉々とした笑い声が静かな街中に響き渡った。しかし、周りからの反応は一切ない。叫び声と笑い声が上がる奇妙な空間が広がってるというのに、不思議な事にそれに対する干渉が全くなかった。
「くっ⋯⋯だ、誰かァ! 助けてくれェ!」
「無駄無駄。意味無いよ? それにさ、どうせあの時私に誘惑されたって事は、いずれお姉ちゃん達にも手を出す可能性あるよね? だから、絶対に助けないよ。本当は眷属という手もあるけど、貴方に選択肢はない」
先ほどまでの嬉々とした表情は消え、少女は一転して冷たく蔑むような顔を男に向けた。その顔は正しく悪魔という言葉が相応しい。
「お、お願いだ⋯⋯! お願いだから、命だけは⋯⋯!」
「だからさ、無理だって。⋯⋯ごめんね。恨むなら、お姉ちゃんを馬鹿にして、私のデートの邪魔をした自分を恨んで」
少女はふわりとその場で宙に浮く。右手を上げ、何処からともなく槍を出現させる。
「冥土の土産に教えてあげる。私は大罪の1つ、傲慢な吸血鬼。私は吸血鬼だから、人間である貴方の命も自由自在。じゃぁね、バイバイ。──地獄で会おうね」
「やめっ⋯⋯やめてくれ⋯⋯やめろぉぉぉぉ!」
槍は男の上半身を吹き飛ばしたかと思えば、その場で眩い光と大きな音を出して破裂する。男の四肢は跡形もなく消え去り、その場には灰だけが残っていた。
「⋯⋯お姉ちゃんを馬鹿にするからだよ。糧にも眷属にもなれない愚かな人間め。⋯⋯これで次は邪魔されないね、お姉ちゃん⋯⋯。あぁ、次が楽しみだなァ」
少女は妄想に耽りながら、1人、夜の街を進む。ついさっき人を殺したとは思えないほど、嬉しそうにスキップしながら。
金髪少女の帰り道。彼女は月明かりだけが頼りの夜道で、自分よりも若く、小さな女の子を見つけた。自分と同じ髪色で、手には大事そうに小さな袋を抱えていた。
「あれ、お嬢ちゃん、1人でどうしたの?」
「へ? だ、誰ですか⋯⋯?」
「えっ、あー⋯⋯ふ、フランティカリー。ティカとでも呼んでちょうだい」
男に見せた冷たい笑みとは真逆に、少女は幼女に優しく微笑みかける。まるで天使のように。
「で、どうしたの? 私で良ければ相談に乗るよ? 女の子が、それもこんな夜中に1人だなんて普通じゃないからね」
「⋯⋯お、お姉ちゃんが、病気なの⋯⋯。だから、薬を買いに⋯⋯!」
「こんな深夜に? ⋯⋯ふふっ、偉いね。でも、今空いてる薬屋さんなんて、貴族御用達の高い場所ばかりだよ? ⋯⋯そうだ。今ちょうどね、人間によく効く薬を持ってるの。お金は要らないから、そのお姉ちゃんのところに案内してくれない? あ、えーっと、名前は?」
「て、ティア⋯⋯てぃーあいえーで、ティア」
その名前を聞いたティカと名乗る金髪の少女は、何を驚いたのか黙り込んだ。が、それは1秒にも満たない短い時間で、幼女が気付いた様子は一切ない。
「なるほど、
「ほ、本当に⋯⋯?」
「うん、本当だよ。神に誓ってあげる」
「⋯⋯つ、付いてきて」
幼女は少女の手を掴み、夜の街を駆ける。何も見えない闇の中で仄かな光を見つけたかのように、幼女は必死に、希望を胸に、夜の街を走っていく。
「ど、どう? 大丈夫そう⋯⋯?」
今、彼女達の目の前にはティアという幼女に似た女の子がベッドに横たわってる。それを心配そうに幼女は見守り、少女は額に手を当てたりと、その娘の容態を見ていた。
「⋯⋯うん、これなら安心していいよ。これさえ飲めば、すぐに治ると思う」
「あ、ありがとうございます。⋯⋯ティカさん、これは何?」
手渡された小瓶に入った赤い液体を見ながら、幼女は不思議そうに頭を傾げる。生きてる年代がまだまだ短いとはいえ、幼女の記憶と知識に、赤い液体の薬など全く無かった。そして何より、姉に見ず知らずの物を飲ませるわけにはいかなかった。
「どんな病気にも効く万能の薬。名前は⋯⋯シナバル」
「しなばる⋯⋯? 聞いた事ない⋯⋯」
「ん。まぁ、東洋の薬だからね。⋯⋯毒とかじゃないよ? その証拠に⋯⋯」
少女は先ほど渡したばかりの赤い液体を取り上げると、それを開き、少しだけ手のひらに流す。それを幼女に見えるようにして飲み干すと「ね、平気でしょ」と言わんばかりの笑みを浮かべた。
「⋯⋯うん、分かった。ティカさんの事信じてみる」
幼女は意を決し、渡された赤い液体を姉の口に流し込んだ。次の瞬間、僅かに幼女の姉の身体が発光する。幼女は有り得ない光景に一瞬目を疑ったが、ものの数秒程度でそれ以上の驚きによって支配される。
「あ、れ⋯⋯あたし⋯⋯ティア⋯⋯?」
「お姉ちゃんっ!」
幼女の姉は何事も無かったかのように起き上がる。幼女は嬉しさのあまり、人の目も気にしないで姉に抱き着いた。
「良かった⋯⋯良かった⋯⋯っ!」
「ふふっ、いい光景だね。やっぱり、こういうのも好きだなぁ」
「あ、ティカさん、本当に、本当にありがとう! 1人じゃどうしたらいいか分からなかったから⋯⋯本当にありがとう!」
「単調ねぇ。まぁ、それくらい嬉しいって事か。じゃぁ、もう行くね。私も家族を待たせる事になりそうだし。バイバイ、ティアちゃん」
「う、うん! ありがとうございますっ!」
そう言って、少女は笑顔で立ち去る。それを幼女は手を振って見送った。とても嬉しそうな笑みを浮かべながら。
「え、ティア、あの人誰?」
「ティカさんっていう⋯⋯あれ、何の人なんだろう? でも、お姉ちゃんに薬をくれた優しい人だよ!」
「⋯⋯なんだろう。あの人見た事ある気がする。その時は金髪じゃなくて緑だった気もするけど⋯⋯。まぁ、いっか。それよりティア、今日も1人で外に出たでしょ? 危険だから次からは私に言ってよ? 病気でも何でも、絶対に付いていくから」
幼女の姉は夜中に悪魔が出るという噂を信じて妹を心配する。だが、当の本人は幸福の余韻からか、あまり話を聞いてる様子はなかった。
「ただいま」
「ここあなたの家違うからね。わたしの家だから」
金髪の少女が帰った先に居たのは、紅の髪を持つ2人の少女の家。片方は虚ろな目を持つ地味な服装の少女。もう片方は鋭い目を持つメイドという、対照的な2人だった。
「なんだ、お前か。⋯⋯髪色が違うな。例の置き換え魔法か?」
「ん、あぁ、戻してなかったね」
そう言う少女の髪色がどんどん変化していく。金色だったその髪は、いつしか鮮やかな緑色へと変わっていた。誰もそれを見て不思議には思わず、普通の事として認識していた。
「⋯⋯不変の権能を渡されたくせに、変化を望むか。見事に矛盾した、正しく歪な生き物だ」
「まーたちょっかい出して、弄ってほしいの? いいよ。楽しい事する?」
「誰がするか! こういう時にしかできないからやってるんだ!」
虚しい言葉に、緑髪の少女は堪えきれずに笑い出す。そして、満面の笑みで鋭い目付きの少女へと近付いていく。
「ふふっ、なんだか最近、可愛く見えてきたなぁ、イラの事。もう数百年経つし、そろそろ食べ合いたいし、契約破棄してもいいんだけどなぁ」
「なら遠慮なく破棄していいぞ。我も遠慮なく喰ってやるからな」
「お姉ちゃん達の事もあるし、まだダメだよ? ちゃんと行けたら、その時に破棄してあげる」
悪魔らしい笑みを浮かべる少女に対して、鋭い目付きのメイドは舌打ちしながらも、若干後退る。どうやら、口では対抗しながらも、本能的に恐怖を感じてるらしい。
「ところで、
「⋯⋯うん。
「おぉ、こわいこわい。作戦に支障が出ないようにバレなきゃいいんだけどさぁ」
虚ろな目の少女は、呆れはしても咎めはしない。まるで興味無さそうに、目的さえ達成すれば後はどうでもいいという考えらしい。
「あ、そうだ。病気の娘にシナバル飲ませたんだけど、別にいいよね? また採れるし」
「うん、いいよ。イラのだしね」
「我、それ良くないと思うぞ」
「でも、強いて言えば、可哀想になるって事かな」
「ウロ、聞いてくれ⋯⋯。我の思いを伝わってくれ⋯⋯」
虚ろな目の少女は、不思議と虚ろな目が鋭くなり、表情が悲しそうに強ばる。これからの少女の運命を知ってるかのように。
「⋯⋯へ? な、なんで?」
「シナバル⋯⋯まぁ、要は竜の血だね。人間が浴びたり飲めば不老不死になる。病気もかからず、年も取らずに、人間よりも遥かに長生きする。⋯⋯分かってる? 普通じゃなくなるの。周りと違う存在になる。多分、辛い思いするだろうね」
「⋯⋯その娘、妹さんがいるんだよね。うん、それは確かに可哀想。何とかしてあげないとね」
本当にそう思ってるのかと思うほど明るい顔。何も悪く思ってないのか、かなり清々しい笑顔だ。
「本当に思ってるのか? 関係無いからと、何も思ってないのではないか?」
メイドもその気持ちを感じ取ったのか、思った事を嫌味を込めて言い放った。
「ううん、違うよ。いい事思い付いたんだ。干渉はしないけど、案内はしてあげようと思ってね! 喜ぶだろうなぁ。仲良く2人でずーっと⋯⋯ふふふ」
「⋯⋯はぁ。嫌な予感しかしない。あぁ、そうだ。
「はーい。じゃぁ、早速忘れないうちに行ってくるね!」
少女は新たな血の入った小瓶を受け取ると、嬉々とした表情で立ち去った。そして、再び先ほどまで居た街へと飛んでいく。新たな考えを、実行するために────
これから先、直接関わる事がなくとも⋯⋯変わってしまった運命はいずれ⋯⋯。
オリキャラ生存or死亡ルート(詳しくは50話で)
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生存ルート
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死亡ルート