さて、前置きはここまでにして本編どうぞー
──Remilia Scarlet──
ティアを探して、今は亡きヴラド公の吸血城へ辿り着いた。まだ夜が明けてすぐだからか、昨日来た時よりも閑静で、制圧された場所だからなのか、人通りはとても少ない。
私達はそれを気にせず、憎き太陽の下で、深くフードを被って門を開ける。私にフランやスクリタ、更にはスィスィアやミフネアも、ここに居る全員吸血鬼。それ故に太陽は苦手なはずなのだが、ミフネアだけはフードどころか傘すら差さずに付いてきてる。彼曰く、少し痛むも急ぐために位置をズラしてる、と訳の分からない事を言ってるが、大丈夫そうなので放っておいてもいいのだろう。
「お姉様! ぼーっとしてないで早く行くよ! ティアをいつまでも1人にできないし⋯⋯!」
「⋯⋯え、ええ」
街の違和感にも気付かずに、フランはただ一心不乱に妹を心配していた。私もしてないと言えば嘘になるが、どうしてもこの街の現状が引っかかる。少なくとも、昨日来た時はここまで静かではなかった。もしかしたら、既に制圧されて住民が居ないから、という単純な理由かもしれないが⋯⋯。
「ティアさん! 何処に居ま⋯⋯うッ!?」
そんな時、吸血城の扉を開いたミフネアの驚く声が聞こえた。
「ミフネア!? 何かあったの!?」
慌ててミフネアの元へ向かうと、驚いた理由が理解できた。吸血城の中は一面、人間の血で真っ赤に染まっていた。それは全て侵入者らしき者達で、人外はただの1人も存在しない。死因はどれも斬殺。何かで一刀両断されたり、突き刺されたりして殺されている。槍か剣か、あるいは両方か。
「⋯⋯お姉様、これ見て。1つだけ、干からびた死体があるよ。これって、間違いなくティアの能力だよね? 生命エネルギーか何かを奪って、衰弱死させた、って事だよね?」
「ええ⋯⋯そうみたいね」
似たような能力は探せば幾らでもあるだろうが、剣や槍を使い、相手を衰弱死させるような能力を持つ者なら限られるだろう。そして、ここへ来て人間を殺す理由があるとなれば、最早それはティア以外有り得ない。
「てぃあ、この先居る。この先から、てぃあの匂いがする」
「確定ね。ティアはここに居る。理由は⋯⋯検討がつくわね。あの娘、本当に無茶するわ。帰ったらしっかり怒らないと⋯⋯」
もうこれ以上、危険を冒さないように言いつけないと。人間だろうが吸血鬼だろうが、死ぬ時は呆気ないのだから。現に、私がそうだったように。
「そうと決まれば急ぐわよ。恐らくは玉座に居るはず。あの女狐と⋯⋯対面してるでしょうね」
「ティア!」
「ティアさん!」
扉を思いっきり開いて玉座へ入った私達は
「⋯⋯え?」
「ティア? ⋯⋯何やってるの?」
と同時に、その光景に圧巻した。まるで頭から全身に血を被ったような、そう思わせるくらい真っ赤に染まったティアが居た。衣服は所々破けているが、怪我は見たところ全くない。そして、彼女は悠々と玉座に鎮座し、王のような風格を漂わせていた。
そして、その玉座の周りには、死体がないのに血の海が広がっている。妖狐の姿が見えないからこの血は彼女のものだろうけど、あまりにも奇妙な光景に、理解が追い付かない。
「ん? あっ、お姉様っ!」
ティアは声で私達に気付いたらしく、私を視認すると脇目も振らずに私に飛び込んできた。衣服に付着した血はまだ温かく、この惨劇がつい先程起きた事を実感させられる。
「お姉様、来てくれたんだね。でも、大丈夫だよ? 見ての通り、私は1人でも、無傷で全員倒せるから」
何かがおかしい。
「でも、だからって⋯⋯!」
「お姉様、見て? 私の顔見て? ほら、傷も痣も、何もないでしょ? 私は本当に大丈夫だから」
いつものティアじゃないような。いや、そもそも私はティアの何を知ってたのだろう。1人で制圧できるほど強いと、
「そういう問題じゃないわよ! 今は無傷でも、こんな事続けてたら⋯⋯!」
「んー、でもさぁ⋯⋯私が一番強いんだし、大丈夫だと思うよ?」
嘲笑的な笑顔。全てを分かって、理解してその言葉を口にしてるのだろう。自分がこの中で一番強く、そして、私もそれを知ってると分かってるのだろう。
「⋯⋯姉を、心配させないでよ」
私には何も言えない。妹よりも強く、守れるように強くと願って修行していたのに、その妹に追い越された私に、言い返す資格はない。それに、何か言い返して、今の関係が崩れるのが怖い。妹に嫌われるのが恐ろしい。
「ううん、全部お姉様達のためだよ? お姉様達を心配させないために、やってるこ──へ?」
突然割り込んできたフランがティアの胸ぐらを掴み、怒りの表情で言い寄った。
「ティア! お姉様を困らせるような事しちゃダメでしょ!?」
「えっ、あ、で、でも⋯⋯」
「でもじゃない! 私も心配したんだからね!? 今度私達を困らせるような事したら、本気で怒るから! いいね!?」
フランの凄い剣幕に気圧され、ティアは何も言えずにただただ悲しそうに静まる。珍しく怒られたからか、若干涙目になってるようにも見える。そして、勇気が出ない私にできない事をやってのけるフランが羨ましく思えた。
「もう怒って──」
「あ? 何?」
「⋯⋯お姉ちゃん怖い。⋯⋯意地悪っ」
「ふふっ、意地悪でいいよ」
フランはティアを、その小さな身体を、優しく抱擁した。それで安心したのか、ティアは嬉しそうに頬を赤らめていた。
「貴女を守れるなら尚更ね」
「⋯⋯やっぱり、これは好きかも。悪い事しても許してくれるんだね、お姉ちゃん」
「悪魔だからね。⋯⋯って、やっぱり悪い事って自覚あるんだー、ふーん⋯⋯」
「あ、いや。それは言葉のあやで⋯⋯あ、その。そんな怒った顔しないで⋯⋯ねっ、ね?」
これはいつもの事だが、フランが怖い。私ができない事を軽々とやるのは凄いけど、その裏には悪魔らしいものが見え隠れする。それはティア以上に読みにくい。
「ま、何れにせよ帰ったらお風呂入ろうね。髪までティアのじゃない血がベッタリ付いてるから。ティアのだったら⋯⋯ふふっ。⋯⋯それはそうと、ティアが大丈夫ならもう帰りたいんだけど。本当はまだ眠いし⋯⋯」
「そうね。今も外では日光が照らされてるし⋯⋯久しぶりだわ、こんなに早起きしたの」
早起きは三文の徳なんて言葉が東洋にあるけど、得した気が全くしない。やはりと言うべきか。信じるべきは自分か姉妹、後は従者くらいだ。
「起きたの本当に早かったからネ、ティアのせいデ」
「ごめんねー。スクリタにも迷惑かけちゃったね。今度何かお詫びするから」
笑顔で謝るその姿は、反省など微塵もしてないように見える。元々純粋無垢というか、悪いという感情が他の人より薄いから、いつも通りの事ではあるが。
「ミフネアとスィスィアもごめん。何も言わなかったから心配かけたね?」
「えっ、あの──」
「ううん! 大丈夫だよ、てぃあ! いつも遊んでくれてるから!」
「⋯⋯そっか。それじゃぁ⋯⋯迷惑をかけたお詫びに、これからも、いっぱい遊ばないとね」
さっきまであれだけの数を殺してたはずなのに、もう遊びの約束とは恐れ入る。本当に、私の知ってる妹じゃないみたいだ。姿形、声や仕草すらよく知ってる妹のはずなのに。あの惨劇を、1人でやったと知った今では。
「⋯⋯あっ。そうだわ。ミフネア。貴方はこれからどうするつもりなの?」
「どうするって、何をです?」
色々な事が起きすぎて混乱してる、と言うならいいのだが。まさかまだ自覚がないわけではあるまい。ヴラド公が死んだ今、彼は吸血城の当主。即ちここを管理する責任があるという事を。
「ここの管理よ。ティアのお陰で一先ずは取り戻せたけど、このまま野放しにしてたら⋯⋯」
「ああ、その事ですか。もちろん、僕は父を継いでこの城を守りますよ。そのためにも、今日にでも眷属達をここへ戻して復興作業をしなければなりませんね」
「そう⋯⋯良かったら手伝うわよ?」
元を辿れば私達とあの女狐の因縁から始まったようなものだし、彼らとは可能な限り友好関係を築き上げたい。ティアも彼らとは仲の良い友達みたいだし。
「いえ、大丈夫です。お姉さんの手を煩わせるには──」
「まだそこまで許してないわよ」
「は、はい⋯⋯」
友達は許しても、まだ恋人は許してないから。これから先も、余程の事がない限りは絶対に許すつもりなんてないけど。ティアがもしその気になれば、話は別だが。
なんて、私がその気にさせるわけないけど。
「てぃあ、敵の大将、倒せたの?」
「⋯⋯うん、倒せたよ。だからね、安心していいよ。スィスィア」
「へー、あの狐をねー。ま、私は会った事ないから嫌いそうな奴程度にしか知らないけど」
ティアの話が本当なら、もうあいつにちょかいをかけられる心配も、邪魔される懸念も存在しない。これからは本当に、自由に暮らせるだろう。
「そうそう、ティアってさ、玉座になんで座ってたの? お姉様の権力を奪った後のシチュエーションとか?」
フランはさらっと怖い事を口にする。流石にそんな事をティアが考えないとは思うし、うちに玉座なんて存在しない。だが、座る理由も思い付かないからそれは気になる。
「ううん、違うよ。お姉様の権力には興味無いしね。ただ、一度座ってみたかったの。座り心地も気になってたしね!」
「純粋かつ最もな理由⋯⋯好奇心だったんだ。あーあ、つまんないの。ティアとお姉様が権力を争ってー、とか思ってたのになー」
「どんな想像してるのよ⋯⋯」
我が妹ながら闘争心が激しいな。ティアも喧嘩に興味を持ったりするし、吸血鬼なら当たり前の感情なのだろうか。私は平和が一番だから、そんな感情はあまり持ち合わせてないけど。
「⋯⋯オネエサマ、そろそろ眠いかラ、帰ロ?」
「私はしばらくここに居るわよ。ミフネアの復興のお手伝いをするから。復興はすぐにでも始めた方がいいでしょう?」
「はい、お願いします。おね⋯⋯レミリアさん」
「はあ、もう⋯⋯。というわけだから、先に帰ってなさい。大丈夫、もう危険はないみたいだから。私の能力がそう言ってるわ」
その言葉を聞いて安心したのか、みんなは不満は言わずに家へと帰って行った。それを見届けた私は作業を開始する。
この時、私が大きな過ちを犯したとは、全く気付かずに────
GW中に、もう一話はあげたいですね、これ以上ブランクは⋯⋯ですし
オリキャラ生存or死亡ルート(詳しくは50話で)
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生存ルート
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死亡ルート