さてさて。ようやく新章ですね。では、ごゆるりと⋯⋯。
56話「運命的な魔女との出会い」
──Hong Meilin──
現在、私は食料調達のために人間の街に来ていた。紅魔館の住人全員分ともなると、相対的に量も膨大になる。加えて、お嬢様やティア様の趣向や気分次第でよく作る料理が変わるので、その種類も様々だ。あちこち回って買い漁り、買い溜め、買い集め⋯⋯両手いっぱいになるまで、ありとあらゆる店に訪れる。これが週に一度あるから、結構な労力を使い大変なのだ。移動はティア様が用意してくださった魔術を用いたポータルを街の近くに設置してあるので、苦ではないが。
そして、今日。運が悪い事に、いつも付き添いで来ていた妖精メイドも今日は都合が合わず来ていなかった。なんでも大掃除らしいが、お嬢様からはそんな話を聞いてないのでサボりの可能性が大いにある。
「メーリン、まだかかル?」
「えーっと⋯⋯いえ、もう最後ですね! 後は野菜だけです、スクリタ様! それと、一緒に付いてきてくださりありがとうございます!」
そんな中、偶然にも都合が合い、ご一緒してくださったのがスクリタ様だった。お嬢様の妹様であるフラン様の半身であり、未だに会話がおぼつかない小さな吸血鬼。見た目は銀髪という事以外、フラン様とほぼ同じだが、その背には翼がないので隠蔽工作をせずとも人間の街に出歩ける。なんとも便利だと言うしかない。
「ううン、暇だったかラ。最近ダレも相手してくれなイ。オネエサマは忙しそうだシ、ティアはいつも何処か行ってるシ」
「皆さん大変みたいですからねー。って、あれ? フラン様は⋯⋯?」
スクリタ様だけ来てくださったのは、もしや不仲になってしまったからなのか。そう言えば最近、一緒に居るところは見ても、遊んでいるところは見ていない。何かきっかけがあって、喧嘩でも⋯⋯。なんて心配をしてると、私の不安を読み取ったのか、スクリタ様は首を横に振った。
「遊びすぎて飽きただケ。フランはいつも同じような遊びだかラ」
「あ、なるほど⋯⋯」
長く生きた事で、あらゆる遊びを遊び尽くしたからこそ出る言葉。正直、まだまだ色々な遊びはあるだろうけど、スクリタ様は飽き性だから似たような遊びも同じとしてカウントされるのだろう。それ故にフラン様と遊ぶのも飽きてしまったのかもしれない。
「おいおい⋯⋯! ありゃあ、王国の騎士じゃあないか⋯⋯?」
「ああ。あいつら、魔女を探してるらしいぞ。なんでも、魔女狩りから逃れた魔女を追ってるっつう話だ。本物かどうかは知らんがな。今時魔女なんて
小さく呟くような声で隣から会話が聞こえてきた。彼らの見る方向に目を向けると、鎧に身を包む騎士が数人。隊列を組んで歩いていた。彼らの言う通り人を探してるのか、その目は周囲をキョロキョロと見回してる。
「メイリン。⋯⋯ワタシの事だと思ウ?」
怪しまれないようにか、私や騎士に目を向けずにスクリタ様に話しかけられる。正直分からないが、魔女狩りから逃げた魔女なら違うはず。スクリタ様も魔力は十二分に保持してるため、彼らが魔力を計るような道具でも持っていれば話は変わるが、どうやらそのような道具は持っていない。とすれば、逃げた魔女の顔を分かって捜索してるのだろう。だから、何もしてないスクリタ様が狙われてるはずがない。
「いえ、違うと思いますよ。しかし、ここに長居しては危険でしょう。もし正体がバレればもう二度とこの街へは行けないですからね。それは避けたいので、野菜はまた別の機会に買うとして、今日はすぐ帰りましょうか」
それにこれだけ両手いっぱいに荷物を持っていれば、逃げるのにも苦労する。中には卵もあるから、割れたら買い直す羽目になる。同じ物を二度も買うのは時間も労力も無駄になる。それにお嬢様に怒られるからそんな事はしたくない。
「分かっタ。裏を通って行こウ。バレないようニ」
「ええ、そうですね。できる限り早く外に出ましょう」
魔女だろうが騎士だろうが、出会えばどちらでも悪い事が起きそうだ。これ以上時間がかかり、更に面倒事に巻き込まれたと知られれば、お嬢様の機嫌を損ねてしまう。
願わくば、何も起きずに家へのポータルに着いてほしい。
私は別に起きてほしいなんて思ってフリで言ったわけじゃないし、むしろ起きてほしくないから言ったつもりだった。なのに想像し得る最悪の出来事に今、直面していた。
「⋯⋯スクリタ様、どうしましょう」
「ワタシに聞かないデ。どうしようもなイ」
その答えが返ってくる事は予想できていた。ただ聞かずにはいられなかった。どうすればいいのか、私にも分からなかったから。
裏路地を通って街の出口へ向かっていると、1人の少女がそこに倒れていた。お嬢様よりも小さく、お嬢様よりも長い紫色の髪。薄汚れているが、それなりに高そうなドレスを着ている。
「見たところ王族かナ? 高そうな服。でも高い魔力を感じル。珍しい人間ダ」
「食べちゃダメですよー? 恐らくは先ほど話していた魔女でしょうけど⋯⋯どうしてこんな服を着ているのでしょう?」
「⋯⋯さァ? 分かんなイ」
もしや騎士が追いかけているのは、魔女狩り以外にも理由があるのか。例えば⋯⋯王族から服を盗んだとか。それなら高貴な服を着ている理由も分かるし、騎士に追われる理由も分かる。ただ、それなら何故この娘が魔法を使えると騎士が知ってるのか、という疑問が残る。魔法を使って窃盗したとしても、バレるような魔法を使うのだろうか⋯⋯。
「とにかくこのコをどうするカ。放っておくのハ、フランが知れば怒ると思ウ」
「あはは、それはイヤですねー⋯⋯。では、仕方ないですね。連れて帰りましょうか」
これだから、私はよく苦労する。お嬢様達は自分から厄介事を持ち込んでくるのだ。けど、他のどの組織や団体よりも優しく、心温まるから私はお嬢様達に仕えるのをやめられない。
「さて。帰りま──」
「おい! そこで何をしているッ!?」
「⋯⋯最後まで面倒事に巻き込まれるんですね、今日は」
少女を抱え上げたと同時に、騎士と鉢合わせてしまった。今はまだ1人だが、仲間を呼ばれてはお嬢様に迷惑をかけてしまう。なんとかして誤魔化すか。それが無理なら⋯⋯ちょっとだけ痛い目に遭ってもらうしかない。
「おっと⋯⋯! そいつから離れてもらおう! そいつは魔女狩りから逃げた魔女、王国に所有権がある! そいつを奪おうものなら──」
「うるさイ」
「──ぁぐっ⋯⋯!?」
一切躊躇がなく、戸惑いがないスクリタ様の手刀が騎士を襲う。圧倒的な速さに騎士は反応はできず、圧倒的な力に為す術もなく地に伏せる。容赦のない一瞬のうちに終わった攻撃に、私はただ唖然としていた。
「さァ、今度こそ帰ろウ。邪魔が入る前ニ」
「は、はい⋯⋯っ!」
スクリタ様と一緒なら、物事がすぐに片付く。私1人だと戸惑って、すぐには終わらなかっただろう。一緒に付いてきてくださって本当によかった。これならお嬢様に心配されずにすぐ帰れそうだ。
「⋯⋯この魔女、何か覚えがあル」
「え、そうなんですか?」
「うーン⋯⋯気のせいかもしれなイ。正直記憶が曖昧。フランにティア、どちらか一緒に居た時の記憶かモ」
「なるほど⋯⋯?」
「⋯⋯無理に返事しなくていいヨ」
分かっていない事が筒抜けだったらしい。そんなに分かりやすい返事をしてしまったのかな、私。
「れ⋯⋯み⋯⋯」
「あら、どうしたんでしょう。何か呟いて⋯⋯」
「メイリン。早ク」
「は、はいっ!」
急かされ、慌てて先を行くスクリタ様の後を追う。⋯⋯少しくらい、荷物を持ってほしいなぁ。少女を抱えながら、心を読まれないよう密かにそう思う────
オリキャラ生存or死亡ルート(詳しくは50話で)
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生存ルート
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死亡ルート