──Remilia Scarlet──
「お嬢様、少しいいですか?」
いつものように作業と化した書類仕事を進めていると、ノックをする音と共に美鈴の声が部屋の外から聞こえてきた。
私がこの時間、仕事中なのを美鈴は知ってるはずだ。それに普段は買い物が終わって調理の支度をしている時間帯。ならば、急ぎの用事だろう。そう思った私は「いいわよ。入りなさい」と外にいる美鈴に声をかけ、部屋へ入るように促した。
「失礼します。⋯⋯あの、お嬢様」
「あらあら。買い物へは1人で行ったとばかり思っていたわ」
「す、すいません⋯⋯。勝手に部外者を館に招き入れた事をお許しください」
部屋へ入った美鈴の腕には茄子のような紫色の髪を持つ少女が抱かれ、その横にはスクリタが立っている。いつも付き添いの妖精メイドはどうしたのか、なんて無粋な質問はやめておこう。どうせサボりだ。今はそれよりも増えた者を注視しよう。
それにしても、この姿。何処かで見た記憶がある。もう400年近く生きてるから、似たような者など幾らでも見た事はあるが。
「まあいいわ。で、その娘は何? 人間にしては些か奇妙な力を感じるわ」
「そ、それが魔女らしくて⋯⋯衛兵達に追われているところを偶然出会い、保護しました」
「魔女⋯⋯? そう⋯⋯まだ完全には消えてなかったのね」
魔女が、それも
一番手っ取り早い対策としては、人間を襲いその力を誇示する事。しかし、私は先の戦争で無闇矢鱈に人を襲うような野蛮な真似はしたくなくなった。襲えば復讐を呼び、報復しようものなら再び復讐を生む。所謂『負の連鎖』だ。連鎖に絡め取られれば、もう二度と戻れない。それは困るから、別の方法を考えていたところだった。そう簡単に思い付くはずもなく、難航していたのだが。
「その娘が本当に魔女なら外の話を聞いてみたいわね」
魔女の話次第では、対策が思い付くかもしれない。思い付かなかったとしても、予想していたよりも時間の猶予が伸びるかもしれない。
「美鈴、隣の部屋が空いてるからそこで休ませなさい。もし起きたらすぐ知らせてちょうだい。スクリタも暇なら見てあげてほしいのだけど、大丈夫かしら?」
「大丈夫。どうせ暇してるかラ」
なんだろう、この素っ気ない態度。最近遊んであげれてないから怒ってるのだろうか。もしそうなら可愛いけど、最近構ってあげられず申し訳ない。だからといって仕事を放置する事もできないから、可能な限り時間を作れるよう努力しよう。そうしないと、溜め込み過ぎて爆発するかもしれない。あの時みたいな狂気を再来させるわけにもいかないから、それだけは回避しなければ。
「⋯⋯心配そうな顔だネ。大丈夫だヨ。しっかり見てあげるかラ」
「え、ええ。よろしくね」
「ああ、美鈴。少し待って」
「は、はい! なんでしょう⋯⋯?」
私に引き留められた美鈴は怒られるとでも思ったのか、少女を抱えながらも身構えて畏まる。今この状況で怒るほど私も厳格ではないというのに、どうしてそこまでするのか。私ってそんなに怖いのかな。
「勝手に部屋に連れて行かずにまず私のところへ来たのは褒めてあげるけど、こういった非常事態なら断りなく部屋へ連れて行ってもいいわよ。危険かもしれないからね」
「り、了解です!」
「はあ⋯⋯。そんな畏まらなくていいから。もう行っていいわよ」
いつになく緊張している美鈴をスクリタと一緒に追い返し、足音が遠のき1人になったところで思考を巡らす。
「本当に誰だったかしら、あの娘。絶対に知ってる気がするのに⋯⋯」
あの娘を一目見た瞬間から、懐かしいように感じていた。『何が』と聞かれれば答えようがないが。だけど、しっかりとした感覚で、私はその正体を知ってる。長く生きていたが故に、薄れていく記憶の奥深くで。私はその名前を覚えているはずだ。
「そうだ⋯⋯。確か、あの時の戦争にいた──」
後もう少しで思い出せそうだったその時、突如として『ドンドン』と大きな音を立てて扉が叩かれる。集中していたからか、ビックリして思わず身体が震えてしまった。そして、その音のせいで何を考えていたか忘れてしまった。後ちょっと、というところで邪魔されるのは流石の私でも腹が立つ。
「はあ⋯⋯何か忘れ物でもしたの? めい⋯⋯あら。帰ってたのね、ティア。おかえり」
「うんっ! ただいま、レミリアお姉様!」
想起の邪魔をしたのは従者ではなく、緑髪の少女──最愛の
「レミリアお姉様! アイツが居たよ! あ、ちょっと姿は違ったから違う人かもしれないか。って事で、訂正するね! アイツに似た奴がいた!」
「はいはい、分かったから落ち着きなさい。話が見えないわ。誰がいたっていうの?」
「あれ、この部屋から出てきたと思ったけど違うのかな。マジョラムだよ、昔戦争の時、レミリアお姉様と仲良さそうに話してたアイツ」
言い方が断言的でその言葉の端々からは嫉妬や憤怒を感じる。まるで自分以外と話す事を許さない、みたいな欲深い感情。私の妹はいつの間に、こんなに独占欲が強くなっていたのだろうか。
それはそうと、ティアのせいで忘れてしまった旧友の名前を、ティアのお陰で思い出せた。名前をマジョラム・ノーレッジ。かつて人間の軍の一員としてやってきて、竜退治でのみ協力関係を築いた小さな復讐者。あの後どうなったかは知らないが、彼女を含む騎士達の噂は一切聞かなくなった。だからこそ、すぐさま処刑されたとばかり思っていたが、もしあの娘が血族ならば、そうではないらしい。
「なんでここに居るの? ねぇ、連れ込んだの?」
その目が虚ろに、光が消えたように見えた。そんなにマジョラムの事が嫌いだったのか。というか、ティア自身別にマジョラムとの仲は悪くなかった気がするが。⋯⋯反応を見る限り、気がしてただけか。私の目も頼りない。
「ええ、美鈴がね。どうも衛兵に追われてたらしいわ。美鈴もお人好しよねえ。放っておけば朽ちる命を、救って来たんだから⋯⋯」
先ほど対面した時にチラリと見えた少女の運命。一瞬だけでも幾つも枝分かれした運命が見えた。そのほとんどは
「⋯⋯そっかー。よかったっ! ねぇ、アレ本当にマジョラムかな? ちょっと違うかな?」
「さあ、どうでしょうね。でも、ただの人間なら生きてるはずがないわ。だから、例え本人だったとしても、もはや別人でしょうね」
「本人なのに別人? それって矛盾してない?」
ティアは顎に手を当て、首を傾げる。分かりやすい疑問の動作だ。可愛らしくて、しばらく眺めていたい欲求に駆られる。
「矛盾してないわ。ティア、覚えてなさい。人間なんてものは不完全で、時間と共に変わるものなのよ。だからこそ、不変を、不死を望んでいる。まあ、確かマジョラムは魔法も使えてたから、ただの人間ではないでしょうけど」
「うーん⋯⋯そうだね」
マジョラムの名前を出すとあからさまに不機嫌な顔になる。そんなにも嫌いだったのか。それとも、敵対してた頃の印象が強いせいなのか。どちらにせよ、これ以上彼女の話をするのはやめた方が良さそうだ。
「お嬢様! 起きました! あ、ティア様。おかえりなさいませ」
「うん、ただいまー」
今回は急いで来てくれたのか、ノックも忘れて美鈴が部屋へ入ってきた。突如として現れた美鈴に、ティアはビックリする事もなく反応する。実は分かってたのかもしれない。彼女が部屋に入ってくる事を。なんて、わけないか。
「あら、案外早かったわね。隣の部屋よね? 今行くわ」
「⋯⋯私も行くね!」
「いいけど、変な事しないでよ?」
「うん!」
心配しかない。そんな私の思いも虚しく、愛するが故に簡単に諦め、同行を許す事になった。
私達が部屋へ入ると、部屋の中にはスクリタと、もう1人。先ほどの紫髪の少女がベッドの上に座っていた。その汚い服とは裏腹に容姿端麗。年齢は若く見えるが、その立ち振る舞いは年齢以上のものを感じる。彼女は私にすぐ気付くも、じっと見つめるだけで何か言おうとはしない。逆に私が何か言おうとした途端、先に美鈴が口を開いた。
「こちら、パチュリー・ノーレッジという名前の魔女らしいです。本人もお嬢様と会いたいと申しておりましたので、すぐ伝えに行きました」
「説明ありがとう、美鈴。⋯⋯ふーん」
思い出してみれば、やはりマジョラムと何処と無く⋯⋯いや、かなり似ている。容姿だけじゃなく、中身であるちから──恐らくは魔力すらも。ただ、本人でない事は分かった。なんとなく、といった曖昧な実感と、改めて見て思った事。マジョラムよりも少し小さい気がするから。
「貴女はパチュリーっていうのね。私はレミリア・スカーレット。この館の主にして高貴なる吸血鬼で──」
「説明は不要。知ってるよ、私は貴女に会いに来た。生きるためにね」
その顔に冗談の欠片はなく、偏に真面目に。その態度は私に必死さを伝えているようにも思えた。小さいながらも、その必死な様に、彼女にとって重要な事だと私は理解できた────
オリキャラ生存or死亡ルート(詳しくは50話で)
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生存ルート
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死亡ルート