──Remilia Scarlet──
「改めて自己紹介するわ。私はパチュリー・ノーレッジ。若いけどこれでも一流の魔女よ」
若いというか、若すぎるのではないか。見たところ私と背丈が同じくらいだから、人間だと10にも満たない子供だ。いや、魔女だから若く見えるだけなのか。なんて、それはどうでもいい。それより今は⋯⋯。
「⋯⋯そう。で、パチュリー⋯⋯だったわよね? 私の事は誰から聞いたのかしら?」
理由はともかく、どうして私の素性を知ってるのか。どこから漏れたのかくらい知っておかないと、後々面倒な事になる可能性もある。場合によっては、私自身が対処しなければならない。
「私は母から。母は祖母から。ご先祖さまから話だけは受け継いできたわ。憎み、恨み、共に戦った吸血鬼──レミリア・スカーレット。青紫色の髪を持ち、その佇まいは傲慢な貴族のようで、謙虚な淑女のようでもある。村1つ壊滅させる事ができる力を持ちながら、最近はその力を示さない。それと、ついでに妹がいて可愛がってるとかなんとか。そんな人物像と共に、何か困った事があれば貴女に頼れとも言われたのよ。この館の位置情報と一緒にね」
「⋯⋯ついで?」
その言葉にティアは不満そうに口を膨らませる。私でもオマケみたいに扱われたら怒りたくなるけど、今それをされると話が拗れるから、ティアには咳払いをして静かに注意を促した。怒りを抱きながらも私の思いは届いたらしく、不貞腐れながらもティアは私の後ろに下がった。
私の事をそれほど知ってる者は限られてくる。それも恨みを持ち、共闘した者となれば、やはり昔戦った人間の騎士マジョラムしか思い付かない。子孫の命運を私に委ねるほど信頼されてるとは思えないが、他に誰かいただろうか。それとも、彼女の中で何かが変わった結果、私に委ねてくれたのだろうか。いずれにせよ、本人がいない事には真相は不明か。
「1つ聞くけど、そのご先祖さまの名前は分かるかしら? それと流石に生きてないわよね⋯⋯?」
「名前は知らないわ。生死は不明。なんでも、数百年前に突然消えたらしいわ。ただ魔女で王国に仕えてた事だけは知ってる。そのお陰で本来忌み嫌われるはずの
意味深な言葉に「何かあったのね」と聞くと、パチュリーは寂しそうな表情を浮かべて頷いた。そもそも兵士に追われてるというのに、何かないわけがない。
「確かに王国お抱えの魔女が王国の騎士から逃げてるなんて、待遇があまりにも変わりすぎね。何かやらかしたのかしら? それとも⋯⋯王国で何か変わったのかしら?」
半ば質問ではあったが、私の問いは正解だったようだ。パチュリーは首を縦に振った。
「ご名答。最近、王国では神秘の排斥が進んでいるわ。有りもしない噂を流し、逆に有るはずの噂を流さず。その一環として王国配下の魔女達も消されつつある。つい数年前までは私みたいな小さな子供まで手が回る事はなかったけど、つい先日の事よ。私にまで火の粉が飛んできた。私はそれをいち早く察知した母に助けてもらい、なんとか城から逃げてきた。そして、街で貴女の従者と妹に出会った」
近頃の神秘の薄れはやはり王国の仕業か。私達に勝てないと思い、方向性を変えてきたらしい。しかし、効果的だ。もう戦争を起こす気力はないし、するとしてもそれは本当の最終手段だ。何か別の手段があるなら喜んでそっちを取る。もう二度も妹達を危険な目に遭わしたくない。より安全で、確実な方法が必ずあるはずだ。
「そう、大変だったのね。⋯⋯母親はどうなったの?」
吸血鬼である私でも、その質問はまずいと分かっていた。だが、パチュリーには悪いが聞かないわけにはいかない。もし生きてるなら、娘が向かった場所を敵側に漏らす可能性がある。飽くまでも可能性。しかも命を賭してでも助けようとした娘の命を危険に晒す事はないはずだが⋯⋯万が一という事がある。万が一の事があれば、先手を打って攻め込む事はしなくても、防衛を考える必要がある。
「死んだわ。私を庇って、致命傷を受けていた。あの傷じゃ助からないわ」
「⋯⋯分かったわ。その、ごめんなさいね」
「気にしなくていいわよ。いつまでも泣いてるわけにはいかないから」
母親が死んだというのに、全く泣かない。泣く素振りすら見せない彼女は強いのだろう。⋯⋯かく言う私も、母親が死んだ時泣いた覚えはないが。それは私が非情なだけで、彼女とはまた違う。私のは、強さでもなんでもない。
「⋯⋯それにしても驚いたわ。思ってたよりも小さいのね、貴女。吸血鬼が不老不死なのは知ってたけど、本当に全く成長しないのね」
「あら。余計なお世話よ。不老不死なわけじゃないわ。ただ長寿なだけ。人間よりずっとね。だから不老不死に見えるというだけよ。私も後数千年くらいすれば、ないすばでぃーな大人の女性になるのよ」
「⋯⋯途方もない年月ね。私には理解ができないどころか、認識すらできないでしょうね」
強がってはみたものの、私もまだ400年くらいしか生きてない。だから、本当にそれだけ生きたら『ないすばでぃー』になるのか分からない。⋯⋯なれたらいいな、本当に。私の背中に隠れるティアをチラリと見て心底思う。まず私よりも大きなくせに、なんで後ろに隠れ続けてるのか。可愛い妹だから許すけど。
「⋯⋯1つ聞いていい?」
「いいわよ。何かしら」
「私は生きるためにここに来た。王国から私を助けてくれる? お礼も何もないし、ここに置く事で危険が増すかもしれない。それでも、私が助かる道は1つしかない。私のために、私を助けてくれるかしら?」
なんとも強欲で、傲慢な質問だ。だが、面白い。こんなにも吸血鬼に抵抗がなく、恐怖を抱かずにすんなりとそんな質問ができるとは。肝が据わってるというか、命知らずと言うべきか。とても私好みの人間だ。もちろん恋愛的な意味じゃなく、『
「私はいいわよ。⋯⋯妖精メイドはともかく、今この場に居る人には聞いておこうかしら。貴方達は助けるか見捨てるか、どっちがいいかしら?」
「オネエサマと同じデ。ワタシはどっちでもいいかラ、オネエサマの方針に依存はなイ」
「私は従者ですので、スクリタ様に同じく依存はございません」
いち早くスクリタが、それに続いて美鈴がそう話す。2人とも発言内容は控えめながらもその意思は強い。我ながら、従者や妹に信頼されてるようでとても嬉しい。
「⋯⋯あれ、ティア?」
「私は⋯⋯なんか気に入らないから本当は嫌だけど、お姉様がいいなら、私も⋯⋯うん。別に、いいかな、って⋯⋯。その代わり、許可する代わりに、後で一緒に遊んでくれる?」
「ちょっと『代わりに』って部分が分からないけど、いいわよ。仕事が終わったらね」
「ふふっ、ありがとっ!」
この娘は甘えん坊だが、何かズレてるような⋯⋯。まあ、気にする事もないか。それよりも何が気に食わないのか気になるが、なんとなく想像はつくので聞くのはやめておこう。話が拗れる運命が見えた。
「⋯⋯姉妹全員がシスコンって話、本当なのね」
「へ? えっ!?」
なんて噂が流れてるんだ。そう思い、反射的に驚いた。もしこの噂が王国に知れ渡っていれば、私の弱みを握られているのも同然ではないか。い、いや。流石にそれを心配する必要はないか? 私までとはいかずとも、この娘達も強いのに変わりないし。人間くらいなら、大丈夫か。
「ああ、ごめんなさい。思った事はすぐ口に出しちゃう性格なのよね。悪い意味で言ったわけじゃないから許してちょうだい」
「そ、それはいいけど⋯⋯」
「シスコンの何が悪いの。別にいいじゃん」
「ティア、ステイ。落ち着きなさい」
口を膨らませ怒るティアを戒め、頭を抱える。この2人、犬猿の仲まではいかないが、なかなか相性が悪い。この関係をどうやって解消するべきか。はあ、頭痛がするほど悩ましい。
──ああ、こんな未来があるのか。ならば、そうしよう。
「⋯⋯ティア、私と遊びたいなら、私が仕事をしてる間、パチュリーに紅魔館の案内をお願いできない?」
「えっ⋯⋯えぇー⋯⋯」
案の定、物凄く嫌そうな顔だ。少し荒治療になるが、可能性は高いからこの運命に賭けるしかない。もしダメでも、時間はたっぷりある。なら、他の選択肢に切り替えればいいしね。
「あら? 私と遊ぶの嫌なの? 貴女が案内してくれないと、遊ぶ時間を削るしかないのよねえ⋯⋯」
「うー⋯⋯分かった。パチュリー! 案内するから来て!」
「ええ、よろしくね」
怒りっぽいティアとは対照的に落ち着いた態度のパチュリー。心配しかないが、私が見た運命を信じるしかない。善は急げとも言うし、後は運命に任せるとしよう。
「⋯⋯オネエサマ、大丈夫なノ?」
「ええ、大丈夫よ。⋯⋯五分五分だけど。ああ、そうだ。美鈴。あの娘の案内が終わったら食べれるように、パチュリーのために夕食を作ってあげて」
「了解です!」
美鈴を見送り、スクリタに別れを告げ、私は1人部屋へ戻る。その後私は、成功を願い⋯⋯ゆっくりと目を閉じた────
オリキャラ生存or死亡ルート(詳しくは50話で)
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生存ルート
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死亡ルート