──Hamartia Scarlet──
面倒だ。とてつもなく面倒。どうしてお姉様は、私が嫌いだと知ってるはずなのに、
「ねえ。名前なんて言ったっけ?」
紅魔館の廊下を歩く最中。後ろを歩くパチュリーが気安く話しかけてきた。そう言えば、自己紹介してない。お姉様に名前を呼ばれた気はするけど、自分から名乗ってない。相手がどれだけ嫌いだろうと自己紹介しないのは失礼だ。
「まだ名乗ってない。私はハマルティア・スカーレット。ティアでいいよ」
「よろしくね、ティア。私の事はパチュリーと呼んでちょうだい。⋯⋯あら」
ティアでいいとは言ったけど、気安く呼んでいいとは言ってない。それに会話してあげようとも思ってない。パチュリーを無視して先を急ぐと、パチュリーも無言のまま私の後を追ってくる。
「⋯⋯もしかして、私の事嫌い?」
急いで付いてきたかと思えば、ただ一言、パチュリーはそう質問した。私のあからさまな態度からそう察したらしい。
「さぁね」
だがそんな事、答えられるわけがない。彼女の先祖がお姉様と仲良くしてたから嫌いだなんて。彼女自身もお姉様と仲良くしそうだから嫌いになりそうだなんて、恥ずかしくて言えない。もし言ったら私は嫉妬心の塊だと露呈する。吸血鬼は誰にも弱みを握らせてはいけない。お姉様達を守るなら、尚更だ。⋯⋯あでも、シスコンってバレてるならいいのかな。いや、やっぱり恥ずかしいから言わないでいっか。
「⋯⋯着いた。ここが食堂ね。それで、あの奥の扉が図書館の入り口」
「図書館? 図書館があるの? 家の中に?」
不自然な単語を聞いたからか、パチュリーは目を丸くして驚いていた。私も間違ってるとは思うけど、お姉様達が『大図書館』と呼んでるからそれが正しいのだ。間違いがあるはずがない。
「うん。図書室じゃないのは、多分大きいからじゃないかな。詳しくはよく知らない」
「ちょ、ちょっと中覗いてもいい?」
あれ、思ってた反応と違う。素っ気ない態度で「へー」とか「そっか」とか、適当に返されて終わりだと思ってたのに。なんというか、うずうずしてるような、興奮してるような。なんとも言えない雰囲気だ。
「いいよ。行こっか」
「ええ⋯⋯!」
そんな奇妙なパチュリーを連れて、私は図書館へ足を踏み入れた。中へ入ると途端にパチュリーは身動き1つせず立ち止まる。まるでイラの魔眼を受けたかのように、静止してしまった。
「こ、これが図書館⋯⋯!? なんて広さなの!? 城にあった図書室の10倍⋯⋯いや、もっと⋯⋯それこそ国内にある図書館並の大きさだわ⋯⋯!」
そして、動いたかと思えば静かに騒いだ様子で興奮気味に口を開いてた。
「好きなの? 図書館」
「え? ええ、まあね。これだけが唯一の楽しみだったから。と言っても、まだ10年も生きてないけどね」
「ふーん⋯⋯え? ちょ、ちょっと待って。い、今は何歳なの?」
「7歳だけど、どうかしたの?」
「ななっ⋯⋯!?」
思った以上に若い。こんなにも落ち着いて、しっかりしてるのに、10にも満たない幼子だっただなんて。人間⋯⋯というか、魔女は見かけによらないんだ。ウロもそうだけど、やっぱり
「そんなにビックリする事かしら⋯⋯。見た目だって年相応でしょう?」
「いやいや。魔女だから見た目は当てにならないし。そ、それに⋯⋯しっかり、してるし⋯⋯」
「あら、認めてくれたのかしら」
「別に認めてないし。さあ、気が済んだら次行くよ、次。それとも、何か読みたい本でもあるの?」
「そうねえ⋯⋯召喚魔法に関する書物があれば読みたいわね。あるかしら?」
「召喚魔法? ⋯⋯好きなの?」
私との、意外な共通点。召喚魔法にも様々な種類があるから、一概に同じものが好きだとは思わない。だけど、それでも。同じ事が好きな人が増えるのは嬉しい。
「まあ⋯⋯好きか嫌いなら好きかしら。さっき話した私のご先祖さまが使い魔として4体の精霊を付けてたらしいから。私も精霊とまではいかなくても、使い魔の1人や2人欲しいのよね」
使い魔と聞いて一番に思い出したのは憤怒の竜イラ。彼女は契約からか、ウロの使い魔みたく彼女に奉仕していた。そして、次に思い出したのが色欲の悪魔コア。今はもういないけど、その姿はお姉ちゃんに献身的で、使い魔と呼ぶに相応しい悪魔だった。⋯⋯どうしてかな。思い出すと、少し寂しい。
ともかく、私が知ってる使い魔の前例から、あまり良い印象はない。前者はわがままでろくに命令を聞いてくれないし、後者は自由気まま過ぎて勝手な事を始めそうだし。簡単に御する事はできないイメージだ。
「使い魔ねぇ⋯⋯。武器とか召喚して戦えばいいじゃん」
「武器? ⋯⋯もしかして、武器が好きなの?」
「うん! 中でもミストルティンとか、神話をモチーフにした武器が好きだよ! 神話に近付けようと無理に凝って、概念武装やら概念付与やら、他の魔法も組み合わせちゃうんだけどね。だから、純粋に召喚魔法だけ、ってのは使った事ないかも」
「⋯⋯楽しそうに話すわね」
なんだか哀れみのような嫌味を言われた気がして、後ろを振り返ってパチュリーを睨み付ける。と、パチュリーは物怖じせずに首を横に振った。普段なら見た目が幼い私だろうと、人間は一瞬でも迷いや恐怖を見せてくれる。なのにこの魔女ときたら。私が怖くないのかな。全く驚かないなんて、変わった魔女だ。
「ああ、変な意味じゃないわよ。私、病弱で激しい運動できないから、貴女みたいに武器を作って楽しい、という感情がいまいち理解できなくて⋯⋯」
「病弱? 見たところそんな風には見えないよ?」
今も普通に歩いてるし、美鈴や本人の話によると、街で力尽きたとはいえ、そこまで騎士を振り切って逃げていたはずだ。それなのに病弱だなんて、信じられない。けど、逆に嘘をついてるようにも見えない。
「今日は調子がいいだけ。悪い時は喘息が酷くて動けないのよ」
「ふーん⋯⋯大変なんだね。でもさ、召喚魔法じゃなくて体調を治す魔法を探したら解決すると思うけど、しないの?」
「治らないのよ。どうやってもね。生まれ持った体質だから、かしら。普通に罹った病気を治すのは簡単なのに、病弱な体質だけは治せないのよね」
つまり『治す』魔法がそれを対象として見ていない、という事だろうか。前に誰かが話していた「壊れてないモノは直せない」理論と同じかな。もしそうなら、私でも治せない。そもそも、治す義理なんてないけど。って、いや。違うか。お姉様のお客さんだし、これから住むらしいから義理はあるか。⋯⋯面倒だけど、仕方ないか。
「さあ、こんな暗い話は後でにして、早く本を見つけましょう。どうせここに住むなら、この図書館近くに部屋を借りてゆっくり探してもいいけど」
「なら今はそうしよっか。お姉様に頼まれたのはここの案内だけだしね。それ以外の事は面倒だから、また今度。私が暇な時にでも面倒見てあげる、ね?」
「あら、やっぱり認めてくれたのかしら?」
パチュリーは得意気にほくそ笑む。それは嬉しさから来るものなのか。それとも、優越感からか。
「さぁ、どうだろうね。それよりご飯の時間が迫ってるよ。早く終わらせて、食堂に行こっ!」
どちらにせよ、最初出会った時よりは煩わしい気持ちが薄れてるのは事実。彼女が今、どんな気持ちにせよ、紅魔館に住む事くらいは認めてあげよう。私は心の中で、密かにそう決めた────
オリキャラ生存or死亡ルート(詳しくは50話で)
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生存ルート
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死亡ルート