東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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61話「朧気な少女」

 ──Frandre Scarlet──

 

 暇を持て余し、何もする事がなかった今日。私はいつも通りティアの部屋に居た。2人っきりでベッドの上。なのに姉妹だからか、残念ながら何も発展する事はなく、それぞれ気ままに本を読んでいた。ただその距離は近くて、座って読む私の膝に、ティアの頭が乗っていた。私の呼吸と共に頭が浮き沈みし、時々面白いのかクスクスと小刻みに揺れている。

 

 ただ最近、ティアの様子がおかしい。

 

「くるくるくるくる⋯⋯ドア。行き着く先は⋯⋯」

 

 読書中もどこか上の空で鼻歌交じりに何かを口ずさんでるかと思えば⋯⋯。

 

「せっ⋯⋯あれ、違うか。なんだっけ? ⋯⋯まぁ、いっか」

 

 すぐに飽きたようで無言に戻る。普段なら楽しそうに歌い続けるか、私に当たり障りのない適当な話題を振るのに。それで退屈を紛らわしていたのに。最近はそれもない。まるで私に隠し事か何かを悟られないようにするために。

 

「ねー、ティアー」

 

 今日になって我慢できず、また隠し事をしてるのかと思わず妹の名前を口にした。すると、ティアは「んー」とこっちへ首を向けて聞き返す。またその仕草が、赤ちゃんみたいで可愛らしく愛おしい。

 

「⋯⋯最近どうしたの? なんか変だよ? ってか、読みにくくないの?」

「別になんでもないよー。お姉ちゃんと一緒に読んでるだけで、私は充分だから」

「⋯⋯ふーん」

 

 ティアの癖。隠し事をする時、必ず笑顔で誤魔化す。これは私達と話す時の嬉しそうな顔じゃなく、あからさまな満面の笑み。これは嘘だ。特に前半部分。満面の笑みを浮かべてるのに、何もないわけがない。それを隠すという事は、そういう事だ。

 

「ねー」

「なぁに?」

 

 体を動かして無理矢理ティアを起こす。そして、真正面。真向かいに座り込むと、その髪色とは真反対の紅色の瞳を見つめる。ティアも同じように、真っ直ぐと私の目を見つめていた。

 

「私、嘘つきって嫌いなんだよね」

「嘘ついてないよ?」

「誰もティアが嘘ついてる、って言ってないんだけどなー」

「あっ⋯⋯いや、だってそういう風に言ってるじゃん」

 

 生意気にも揚げ足を取るんだ。昔は私に言われる事、否定すらしなかったのに。ほんと、成長したなー、って思う。自分の、自分だけの目標とか感情とか持ってるんだから。それが今では悪い方向に成長してる気もするけどね。って、今目の前にある大きいのも悪い方向の成長なのかな。遺伝とかじゃないよね。私やお姉様は⋯⋯はー、やめよう。妹を妬むなんて自分が悲しくなってくる。

 

「へー。妹のくせに姉に口答えするんだ」

「あっ! お仕置きする?」

「⋯⋯普通さ、お仕置きされる側って嬉しそうにしないと思うんだよね。それご褒美になるし」

「えー!」

「ほら、やっぱり。残念そうな声⋯⋯普通逆じゃない?」

 

 私が言うのもなんだけど、ティアってちょっと変わってると思う。私がやる事、普通嫌がる事も含めて全部嬉しそうにするし、私ですら狂気に感じる事も普通にやっちゃうし。そこが可愛い部分だし、それだけ私の事を好きって事だからいいんだけど。⋯⋯お姉様に負けてないといいな。

 

「ま、いいや。そうだなー⋯⋯。隠してる事喋ってくれたら、やってもいいかなー」

「えーっ! ずるい!」

「やっぱり。その反応、何か隠してるんだね?」

「むぅ⋯⋯ケチ」

 

 ケチで結構。そんな事より、秘密を洗いざらい話してもらう事の方が重要だ。私に今後、秘密を作らないように。隠し事なんて、妹に下に見られてる気もするしね。ま、それ以上に⋯⋯妹に信用されてないのは、嫌だから。

 

「で、どんな秘密を教えてくれるのかなー?」

「⋯⋯じゃぁ、さ」

「うわ、お仕置きだけじゃ飽き足らない? 何要求するつもり?」

「違うよ? 違うからね?」

 

 首を振り、手を振り。体全体を使って否定する。その姿は子供みたいで、微笑ましくなるほど可愛らしい。私達、特にティアは心身ともにまだ子供だけど。

 

「⋯⋯私ね、しばらく紅魔館(ここ)離れるの。数日か、数週間かな。ウロとの約束で、極東の島に行ってくる」

「ウロ⋯⋯? ああ、あの竜娘ね。⋯⋯どうしてそこまで協力するの?」

 

 前々から気になっていた疑問。いつ知り合ったとかじゃなく、なぜ協力するのか。毎日のようにあいつの家に行って、稀に怪我でもしたのか薄汚れて帰ってきて。飽き性なティアが、珍しいなんてものじゃない。何か弱みを握られてるのかと心配だ。もし握られてるとしたら、それを知らなかった私は姉として恥ずかしい。だから、知りたい。ティアの隠してる事を。

 

「お姉様を救ってもらったから、だけじゃないよね? 毎日毎日、飽きもしないで。私の目を見て答えてよ?」

 

 私だけを見るように、そして嘘かどうかを見定めるために、片手でティアの頬に触れる。真っ直ぐと目を見て

 

()()()()()()?」

()()()()()

 

 間髪入れずに返される言葉。感覚的だけど、半分本当で半分嘘かな。弱みを握られてるような心配はしなくて良さそうだけど、隠し事を全て打ち明けてはくれないようだ。とても残念。ティアに秘密がある以上、()()⋯⋯。

 

「はー⋯⋯信じるからね?」

「うんっ!」

 

 だけど、こんなにも明るい笑顔で言われると、本当に大丈夫なんじゃないかと思ってしまう。思わされてしまう。巧みな表情の変化とお姉様よりは上手な話し方。彼女はどこで覚えてしまったんだろう。見本なんてお姉様しかいないと思ってたのに。

 

「⋯⋯で、他に喋っておく秘密はある?」

「ないよー。でも、言っておく事はあるかな。私が居ない間、お姉様とスクリタを頼むね。お姉様には友達と旅行に行くって言っとくから、心配はしないと思うけど」

 

 妙なところで安直な妹だなー。多分嘘だとバレるだろうけど、初めての旅行でお姉様が心配しないわけないと思うんだけど。現にティアが友達と旅行に行くって考えただけで、私も心配になるし。私は大切な人をできる限り近くに置いておきたい人だしね。

 

「ささっ、全部話したから、お仕置きしよっ?」

「えー、どうしよっかなー」

「えー、じゃないよ! ねぇねぇ、約束破るの⋯⋯?」

悪魔(吸血鬼)だから約束は破れないって知ってるでしょ? でも、どうしてかなー。そんな拘束力感じないんだよね、この約束に。普通は破ろうと考えただけでも窮屈感っていうか、拘束力を感じるのに」

 

 つまりは嘘だと確定したわけだけど。

 

「へー、どうしてだろうねっ」

 

 ティアもそれを分かってるはずなのに、笑顔を崩さない。こんな状況でも表情を変えない妹が少し恐ろしい。可愛いのは変わりないけど。

 

「⋯⋯お仕置き、何してほしいの?」

「やっとする気になってくれたんだね! えーっとねぇ⋯⋯やっぱり、うーん⋯⋯」

 

 お仕置きとはやはり建前で、嬉しそうに何をしてもらおうか考えてるようだ。最早言った事と真逆の事をすれば、それがお仕置きになる気がしてきた。というか、お仕置きだしそうしよう。

 

「そうだ! 私の事、食べて! ゆっくりじっくり、丁寧に⋯⋯。あっ、痛くしてもいいからね! お仕置きだから!」

「いやいやいや。冗談も行き過ぎると⋯⋯って、冗談言わないか、こういう時は⋯⋯」

 

 お仕置きだから、と聞いては見たものの、どんな性癖だそれ。我が妹ながら変な娘。食べてほしいなんて、そんな⋯⋯いや、まさか。そ、そんなわけないよね。もしかして、本当にそっちの意味での⋯⋯いやいやいや。ティアはまだ子供だし⋯⋯って、実は私が思ってるより⋯⋯? ないないない。ティアだし、私の妹だし⋯⋯。で、でも、本当にそっちの意味なら、私は⋯⋯。

 

 や、やめよう。変な妄想を働かせるのは。もし違ったら、恥ずかしさで自決する気がする。もう二度と元の関係に戻れなくなる未来が見えるし。

 

「そ、それじゃ、また食事の時にね」

「えっ!? お仕置きは!?」

「貴女の言った逆の事をしようと思ってたから。それにお願いとはいえ、妹を食べるなんてできないからね? ま、吸血くらいならしてもいいけど」

「ならそれでもいいからさぁ」

 

 甘えた声で抱き着かれ、上目遣いで体を揺さぶられる。正直ここまでかと思うほど盛った甘え方だけど、目を合わせれないほど可愛い。このままおねだりでもされたら、為す術もなく聞いてしまうかもしれない。

 

「もぅ⋯⋯仕方ないなー。また今度、家に帰った時してあげるね」

 

 抱き着く妹を引き剥がしながら、ベッドの上に座り込む。おねだりによって、自分を見失うのは姉として恥ずかしい。だから、今はまだおねだりを聞けない。

 

「その代わり、絶対に無事に帰ってきてよ?」

「⋯⋯うん! 絶対だからね!」

 

 ああ、この顔を見れるだけでも充分幸せ。⋯⋯もし帰ってきた時、ティアにまだその気があれば、私も本気でそれに応えようかな。ふふっ、そんな事があれば、お姉様より一歩先に行っちゃうけど別にいいよね。奥手なお姉様が悪いという事で。

 

「⋯⋯じゃ、暇を潰せたし、もう戻るから。また食事の時にね」

「うん! またね! それと、今日一緒にお風呂入ろうねー」

「はいはい。いつも通りね」

 

 妹に別れを告げ、1人立ち上がると部屋を出る。

 

「また後でね」

 

 そして、ひと目妹を見てから扉を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯で、こっちの妹は元気かなー?」

 

 ティアの部屋を出た後、向かった先は隣にある自分の部屋。ベッドで横たわるもう1人の妹、スクリタの様子を見に来た。

 

「元気。いつも通り⋯⋯ネ」

 

 最近、スクリタの調子が優れない。病気というわけでも、生命維持に必要な魔力が足りてないわけでもない。ただ、不調。お姉様の話を聞く限り、恐らくはこの世界に満ちる神秘(マナ)が少ないから。要はどうしようもない。ティアの中に戻りさえすれば、体調も幾らかマシになるとは思うんだけど⋯⋯。スクリタ自身、何故かは分からないけど嫌がってるから強要はできない。ティアに言えない秘密があると知った今は尚更だ。スクリタが嫌がるような何かを、ティアは持ってる。

 

「⋯⋯そっか。食事の時間まで、一緒に居るよ。誰か来たら強がるのも大変でしょ?」

「ふン⋯⋯ありがとウ」

「気にしないで。姉だもん」

「フラン、違ウ。ワタシ、姉⋯⋯」

「ああ、はいはい」

 

 さて、どうやってスクリタの不調を治そうか。ティアに知られたら、無理矢理にでも中に戻されるだろう。相反する2人の妹の意見を汲み取るなんて、私にはできない。だから、ティアにバレないように不調を治す方法を探さないと。それも、ティアに気付かれないように、誰にも知られないような方法で、私とスクリタの2人だけで。

 

「⋯⋯大変だなー」

 

 何か方法を探さないといけないけど、とても大変そうだ。だけど、頑張らないと。最近やって来た魔法使いの手を借りたり、ティアの友人の手を借りたりしてでも。これが悪化しないように、私がなんとかしないと。⋯⋯妹のためにも、ね────

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