東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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仮題をそのまま使っていたのでタイトル変更しました。ご了承ください


62話「新たな友達」

 ──Hamartia Scarlet──

 

 誰もが寝静まる夜明けの時間。吸血鬼の私には無縁の時間。だけど、私個人には多少の縁もある時間。お姉様達を邪魔する太陽なんて嫌いだけど、いずれは浴びる恵みの光だから。⋯⋯これから私は旅に出る。誰も知らない場所に。誰も知らない誰かに会いに。それも全てお姉様達、私の家族のために。

 

「着替えは持った。ネックレスもある。武器は⋯⋯ないけどオドは充分。⋯⋯スィスィアとイラの血もあるから竜化は可能。準備よし」

 

 そこは、まだ誰も居ない静かなエントランス。ここまで静かだと、本当にここにみんなが居るのかと不安になる。でも、不安になんてなってられない。きっと大丈夫。門には美鈴が居る。中にはお姉様やお姉ちゃん、少し心配だけどパチュリーやメイドの妖精だって居る。だから、心配ない。⋯⋯心配なんてしてるのがバレたら、お姉ちゃん達に怒られるしね。しっかりしないと。

 

「⋯⋯じゃぁ、いってきまーす」

 

 誰に言うわけでもなく別れを告げて、私は1人、友達の家に向かった。縁を求め、力を求める旅に出るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Remilia Scarlet──

 

 最初にそれに気付いたのは彼女の部屋に行った時だったの。普段は扉を開ければ飛び付いてきてたのに、部屋に入っても何も反応がないと思ったら部屋には誰も居ないし。

 

「ティア? もう行ったんじゃないかな。私はスクリタと遊んどくから、邪魔しないでよー」

 

 フランに聞いても、既に別れの挨拶を済ませたのか、心配なさそうだし⋯⋯。

 

「ティア様ですか? それなら今朝方、出ていかれましたよ。いいですよねー、旅行。私もたまには──」

 

 って、美鈴に聞いたら旅行に行っちゃった事確定しちゃったし⋯⋯。今、私はとても悲しいのよ。 末妹に無言で出ていかれて、次女には適当に流されて、あまつさえ門番には知らされもしないで。

 

「ああ、もう⋯⋯! 私に何も言わないで出ていくなんて⋯⋯!」

 

 もちろん私は怒ったわよ。でも、それ以上に悲しくて辛かった。何も言わずに出ていくなんて、ホント──

 

「──酷いと思わない?」

 

 ティアが「旅行に行く」と言ったのがつい昨日の事。そして、朝起きてみればティアが既に居ないと知ったのがついさっきの事。あまりにも早すぎる行動と実行力に私は驚愕した。ただそれ以上に、日程を教えず挨拶もしない妹に怒りと悲しみを感じた。あれだけ私の事を好きだ好きだと言ってたくせに、こんな時だけ私に何も言わない事に。それに加えてフラン達は遊んでくれないし、美鈴は仕事があるから相手にできないし。

 

「ねえ、パチュリー?」

「ええ、そうね。普通は一言あるわね」

 

 というわけで、唯一暇であろうパチュリーが居る大図書館にお邪魔していた。もちろんこの部屋も私の所有物だから「お邪魔する」という表現はおかしいけど、今は貸し与えてるから、あながち間違いでもないだろう。

 

「最愛の姉に、何も言わずに旅行に行くだなんて。一言か二言、いやもっと言葉があってもおかしくないのに。あの娘⋯⋯ティアは私に、何も言わずに旅行に行っちゃったのよ⋯⋯」

 

 話す内容はどれも愚痴。なのにパチュリーは私の話を聞いてくれた。それも文句を言わずに。肯定も、否定すらもしてくれるから会話が弾む。正直、話した瞬間に会話をする事自体、拒否される覚悟はしてたのだけど。思った以上に優しい性格の持ち主だった。

 

「数週間ほど出かけると言ってたから、しばらく会えないのは分かり切ってる事なのに⋯⋯。いつから出るのか聞かなかった私も悪いけど、ティアったら、私に何も言わないで⋯⋯」

「はいはい。それは分かったから何度も強調しないで。何も言わずに出ていかれて悲しかったのね。私も分かるわ」

「本当に!?」

 

 全く知らないからこそ「話が合わない」とか「気が合わない」と思ってた。それが意外と話してみれば共通点が見つかり、知らないとは怖いものだと考えさせられる。話は合う。それどころか、仲良くなれそうな娘と話もせず、このまま友達にも発展せずに終わるところだった。

 

「ええ。こう見えて私も昔は貴族の端くれ。いえ、箱入り娘の方が正しいわね。ともかく、何も言われず、1人置いていかれるなんて日常茶判事だったから」

「えっ。あ、その⋯⋯ごめんなさい⋯⋯」

「どうしてそこで謝るのよ。気にしないでいいわよ、自虐だから」

 

 いや、それでもすごい気まずい。知れば知るほど可哀想⋯⋯いや、辛い生活を送ってた事が明るみになる。それでも今は平気な顔してるから、その精神力は人並み以上に強いのかしら。恐らくは、私以上に強いのでしょうね。

 

「⋯⋯パチュリーってまだ若いよね?」

「ええ。まだ10と少し。それがどうしたの?」

「いえ⋯⋯強いなあ、って。そんな若さで1人で決断して逃げてきて、名前しか知らない悪魔の家に住もうだなんて。普通思い付かないわ。いえ、思い付いても実行しないわね」

 

 ただ命の危険を感じたからと言っても、それだけでは説明が付かないほどの行動力。何を思って行動し、ここまで来るほどの力を使ったのか。1つ言えるとすれば、運だけはとてもよかったのだろう。そうでなければ今生きてはいない。

 

「褒め言葉として受け取っておくわ。でも、名前しか知らなかったわけじゃないわよ?」

「あら、そうなの」

「性格や戦い方も聞いてたわね。どういうつもりだったかは知らないけど」

 

 明らかに戦う前提で話されてるようで少し悲しい。あの魔女、私と友達だったはずなのに⋯⋯。あっ、そう言えば、復讐心露わにしてたし違うのかな。最終的に和解した気もするんだけどなあ。

 

「それを知ってても、あまり変わりはしなかったけどね。ここに来る時、私は気絶していたから」

「そうだったわね。でも、知ってるから話しやすいでしょう?」

「微妙。そもそもあまり話さないから分からない、というのもあるけど」

「うーん⋯⋯それを言われちゃねえ。私もこの館の主として、もっと話すべきかしら?」

 

 あまり話さない人に対してこの質問。答えにくい質問だと分かってるけど、どうしても聞きたくなった。私は家族以外からどう見られてるのか。どう見えているのか。その2つに対する知的好奇心が勝ったからだ。それに当主として、風評を聞かないわけにもいかないだろう。

 

「私の事を知りたい。もしくは自分の事を知らしめたいならそうするべきね。私はどちらでも構わないわ」

「吸血鬼に対してその言い草。私を恐れもしないのね、貴女⋯⋯」

 

 今は家族である美鈴ですら、敬意と畏怖が込められた対応で接してくるのに。この娘ったら、まるで友達のように接してくる。上から目線じゃないだけマシだけど、400歳近く歳の離れてた関係だとは思えない。

 

「だって気心知れてるから。でも、そうね。妹から聞いてるかもしれないけど、今私は召喚魔法の研究中よ。それを邪魔しないなら、いつどんな時でも話してくれていいから」

「むう⋯⋯本当に貴族みたいな物言いねえ。まあ、それも気に入ったわ。私を恐れないでここまで平等に話そうとする人なんて、今まで居なかったから。むしろ好きね、そういうタイプ」

 

 妹であるフランを除き、平等に接しようとする人は今まで居なかった。居たとしても、この娘の先祖らしいあの魔女くらいだった。だからこそ、内心少し嬉しい。自分からではなく、相手の方から同じ目線に立とうとしてくれるなんて。まるで、噂に聞いた友達みたいだ。

 

「妹に飽き足らず居候にまで手を出すつもり? やめてよね、私そっちの気はないから」

「ちちち、違うからね!? 手を出した事なんてないわよ!?」

「否定するならそっちよりも後者の方を否定してほしかったわ⋯⋯」

「っ⋯⋯! もうっ、違うから!」

「ふふっ」

 

 あれ、笑った。珍しい⋯⋯ううん。初めて見たかもしれない。ここに来てからずっと、食事の時も図書館に来た時も。常に無表情だった。感情を失ってるように。そもそも感情というものを知らなかったように。それが初めて、笑って微笑んでくれた。

 

「貴女、本当に面白い人ね。ご先祖様が貴女を教えてくれた事の意味、分かった気がするわ」

「あら、それはどうしてかしら?」

「どうして⋯⋯って、感覚的なものよ?」

「それでもいいから教えてほしいわ。気になるもの」

 

 あの魔女が⋯⋯マジョラムが、どういう気持ちで自分の子孫に、私の事を教えたのか。とても興味がある。私が復讐者(彼女)の目にどう映ったのか。彼女の心は、どうなったのか。復讐を諦めた結果、どう変わったのか。それが知りたい。

 

「気を許せる人を見つけろ、と言いたかったのだと思うわ。つまりは⋯⋯」

「えーっと、え? つまりは?」

「はあ⋯⋯友達になれ、って事だと思うわ」

 

 ほう、それは⋯⋯思った以上に、成長してるのかな。もしパチュリーが感じた感覚そのままなら、マジョラムは救われたという事になる。彼女があれからどういう生活を送り、どういう人生を過ごしたのか分からない。ただ、それは恐らく充実したものなのだと、パチュリーの言葉から感じた。

 

「なんて、ね。正直、ここまで年の差がある人と──」

「あら。私は別にいいわよ?」

「へ?」

 

 珍しく顔を傾け驚いた顔をするパチュリー。今日は彼女の珍しい顔を見る日なのだろうか。

 

「⋯⋯予想外の反応ね」

「そうかしら。私、今まで友達と呼べる人はできなかったのよ。同じ吸血鬼もティアやフランばかりと仲良くなって、私は保護者みたいな役回りに⋯⋯ああ、ごめんなさいね。また愚痴言っちゃったわ。ともかく、明確に友達と呼べる存在はいなかったのよ」

 

 それもこれも、多忙な仕事と親愛なる妹に付き合ってるからか。それ以上に外界との接触をあまりしなかった事が影響するのか。意外と引きこもりだからなあ、私。好きで引きこもってるわけじゃないけど。

 

「そうねえ⋯⋯。せっかくだから、友達になりましょうか!」

「そ、そんな簡単に⋯⋯?」

「友達なんてなる時は簡単なものでしょう? 私はほら、当主だからそこまでが難しいだけで」

「⋯⋯まあ、いいわよ。縁を結んでおいて損はないだろうし」

 

 理由が失礼な気がするけど、まあ気にしないでおこう。いちいち気にしてたら、私のプライドに関わる。

 

「これから、改めてよろしくね」

「ええ、よろしく。パチュ⋯⋯友達でも名前が長いと省略したりするのかしら」

「さあ? でも、確かに呼びにくいのも問題ね。じゃあ、私の事はパチェとでも呼んでちょうだい」

 

 おおー。家族以外で初めて愛称というものの許可を得た気がする。それがどれだけ珍しくて喜ばしい事なのかは分からないけど、とても嬉しいのは確かだ。

 

「⋯⋯ふふっ。分かったわ、パチェ。私の事はそうねえ⋯⋯レミィ、とでも呼んでちょうだい。それが一番呼びやすいでしょう?」

「ええ、そうね。レミィ。⋯⋯確かに呼びやすいわね」

「ふふふ。それならよかったわ」

 

 その言葉が嬉しくて嬉しくて、初めてできた友達がとても嬉しくて。実感は少ないけど、この感覚は忘れ難い喜ばしさがある。⋯⋯いつか、パチェ以外にも友達ができたらいいなあ。と、私はそんな事を密かに思った────

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