東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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63話「危険な旅行」

 ──Hamartia Scarlet──

 

 楽しい楽しい旅行が始まった。今回同行するのは魔女のウロと竜のイラだけ。ただウロでも魔術でひとっ飛び、というわけにはいかないようで、休憩を挟んでるのもあって移動の時間がとても長い。その間も2人は一緒だから、飽きる事はなかったけど。それでも目的地に着く頃になれば、そっちの方が楽しみになって待ちきれなくなった。

 

「⋯⋯後数時間で極東の国に着く。旅に出てから約1週間。よく我慢できたね、お疲れ様」

「本当? ようやく着くんだね!」

 

 だからこそ、もう少しの辛抱だと知った時はそれなりに嬉しく思った。もう少しで、

 

「極東の国。今の時代はちょうど産業革命とかで、農業から工業中心の国へ変わってる最中、だったかな。わたしもこの時代を生きた事はあったけど、今の私は完全な竜じゃないから記憶は曖昧。まぁ、知ったところで無意味だから忘れてもいい」

 

 後もう少しで着くという最中。イラの背に乗り大空を羽ばたく中、ウロからそんな説明を受けた。もちろんその説明とは今から向かう国の事。ただ今回の目的はズレてるから、気にする事はないらしい。

 

「ただ人間との接触は避けて。現在進行形で認識阻害の魔術を使ってるけど、誰かにバレるのはこの先、計画に支障をきたす可能性がある。絶対に人間とは関わらないようにして。特にティアは」

「はーい。イラも気を付けようねー」

『お前にだけは言われたくないぞ』

 

 どうして私にだけは言われたくないんだろう。やっぱり、私が好きで恥ずかしいからかな。まぁ、イラは俗に言うツンデレだから、仕方ないね。

 

「改めて今回の目的をおさらいするよ。目的は大きく分けて2つ。縁結びと協力の要請。前者はわたしが必要な事だからあなた達は気にしなくていい。ただ後者の方だけど⋯⋯協力を受けれるかどうかは五分五分。大罪の生物だから癖は強そうだし。もし無理そうなら、諦めて力だけでも貸してもらって。もちろん、ティアの能力でね」

「うんっ!」

 

 頼りにされてる。なら、私はそれに応えてあげないと。竜の血が混ざったと言っても、曲がりなりにも私は吸血鬼だから。お姉様のように傲慢に、上の者として応えてあげるんだ。

 

「そろそろ着くよ。⋯⋯この先に見える大きな山。その奥深くに大空洞へと繋がる入り口がある。そこはこの国に幾つかある龍脈の中心地。その中に、そいつが居る」

『大罪の生物は1体とは限らない。ただそれは限らないだけで、1体しかいない生物もいる。今回の目標は、その唯一の生物かもしれない奴らしいぞ』

 

 1人っきりの種族⋯⋯。それを聞くと、なんだか同情してしまう。まるでずっと昔の私みたいだから。お姉ちゃんと出会うまで、私も似たようなものだったから気持ちはよく分かるのだ。

 

「もう少し詳しく言うと、遥か昔にその種族が皆殺しにされた。悪名だけは人間達に語り継がれ、大罪の生物として話されるようになった。ただ皆殺しにされた理由が乱獲とか、神に歯向かったからとか、可哀想な理由ばかり。今回会うのはその生き残りね」

「乱獲? お肉が美味しいとか?」

「ううん。尾から剣が採れる」

「なにそれすごい」

 

 生き物の中で剣って生成できるんだ。いや、この場合は生成される、と言った方が正しいのかな。まぁ、どっちでもいいか。そんな事、気にしたって意味が無い。

 

「もちろん普通は採れない。唯一採られた者は神代に生き、完全に成長を終えた個体らしい。それに、本当は頑丈な骨を加工したものがその剣だった可能性もある」

『要は真偽不明という事だ。その完全に成長を終えた個体も、どこかで生きてるという噂があるくらいだしな。しかし、哀れな種族だ。誤った情報に踊らされた人間に滅ぼされるとは』

「いや、殺したのは神らしいよ。⋯⋯と、そんな話をしてるうちに着いたね。それじゃぁ、わたしはここで別れるから。くれぐれも人間との接触は控える事。いいね?」

「はいはい。大丈夫だよ」

 

 何度も念を押さなくても分かるのに。ウロは心配性だなぁ。というか、もし接触しても後で消しちゃえば問題無さそうなのに。そこまで危惧するような事なのかな。分かんないや。

 

「⋯⋯心配しかないけど、時間は無駄にできない。どんな奴かわたしも詳しく知らないけど、下手に種族が皆殺しにあったとか、昔の事は話しちゃダメだよ。逆鱗に触れても知らないから」

「はーい。任せてねー!」

『我がいる。安心してくれ』

「⋯⋯まぁ、そうだね。じゃぁ、ここでお別れ」

 

 ウロは人の姿のままイラの背から、仰向けに飛び降りる。そのまま宙で静止すると、私達を見据えて一言。

 

「また明日。約束の場所で」

 

 そう言って、遥か彼方へ飛び去ってしまった。特徴的な赤髪を持つのに小柄だから、見えなくなるのは早かった。

 

「ばいばーい。⋯⋯2人っきりだねっ」

『ああ、嫌だな。そして、そうこうしてる間に着いたみたいだ』

 

 イラの見る方向には人が並んで3人は入れそうな大きな洞穴。まるで何かの生き物の口みたいで、少し怖い感じがする。例えるなら、竜の口の中に自ら入ろうとする時みたいな。食べるのはともかく、あんな大きな口で食べられるのはちょっと怖い。

 

『降りろ。この巨体で入り口なぞ入れん』

 

 ただ幾ら広いとはいえ、イラのサイズには敵わなかったようだ。

 

「やっぱり大きいのも不便だねぇ」

『ふんっ。お前に言われるとなんだか嫌味に聞こえるな』

 

 えっ、なんで。そう一瞬思ったけど、よく考えれば人型は私よりも小さいから嫌味に聞こえるのか。身長的にも、バスト的にも。私、今のは純粋な気持ちだったんだけどなぁ。()()()()()()()、というのは勘違いを引き起こして大変だね。利用してる私が言うのもなんだけど。

 

「グルァァァ⋯⋯さァ、行くぞ」

 

 私が降りたと同時に、イラの姿形が小さな身体へと移ろい行く。鱗と同じ赤の髪を持ついつも通りの少女へ変わる。そして、イラはその赤い髪を靡かせて、私を急かすようにそそくさと洞窟の中へ足を踏み入れた。それを見て置いていかれまいと、私も急いで後へ続く。⋯⋯それにしても、若干格好付けてる気がするのは⋯⋯私だからかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とても暗い洞窟。私じゃなきゃ真っ暗で何も見えないんじゃないかと思うほど真っ暗。奥は深く、吸血鬼特有の暗視でも先は見えない。まるで深淵に向かっていくような。先の見えないゴールへ向かってるような。そんな不安が胸を過ぎる。

 

「イラぁ⋯⋯本当にこんな場所に居るのぉ?」

 

 ただその不安も今はイラが一緒だから幾分か抑えられてる。もし1人でこんな場所に来たら、不安でいっぱいになって、絶対にすぐ帰ってる。そもそも1人で居るのは嫌いだし、こんな場所、来ようとも思わないけどね。

 

「龍脈とは別の大きな魔力、それも我やお前と同じ質の魔力をウロが感知してる。情報収集も入念に終えたから、間違いなくここに大罪の生物が居る。恐らくは最深部に」

「それならいいけどさぁ⋯⋯。ここまで来て無駄足とか嫌だからね?」

 

 面倒な事は嫌い。無意味な事はもっと嫌い。せめて何かしらの成果がないと、それまでの努力が報われない。そんなの、やる気が出なくなっちゃう。それだけは本当に嫌だ。

 

「⋯⋯ん? ねぇ、イラ。これ⋯⋯行き止まりじゃない?」

「なに?」

 

 進んでいると壁にぶつかった。岩なのか硬いけど、若干ヒンヤリしてる。岩が冷たいだなんて、かなり地下深くまで来たのかな。それとも雨でも降って冷たくなってるとかかな。

 

「おかしい⋯⋯。この近くに住む者の話によると、大空洞があるという話だったのだが⋯⋯」

「充分深い場所まで進んだし、大空洞っちゃ大空洞だったよ? でも、行き止まりで終わりなんてつまんないなぁ」

「うーむ⋯⋯」

 

 イラはしばらく考え込んでいた。けど、すぐに顔を上げ、壁をじっくりと観察し始めた。何を考えていたのかその数秒後、イラは深く息をする。

 

「おい! 憤怒の竜だ! 居たら返事をしろ!」

 

 大声で叫んだと思えば、彼女はしばらく耳を澄ませていた。なんとも不可思議な行動だけど、何か理由はあるみたい。しばらく経っても何も起きない事を確認すると、諦めた顔でこっちを見た。

 

「⋯⋯仕方ない。ティア。その壁、力いっぱい殴るか刺せ。黙殺など腹立たしい」

「どういう事?」

「いやな、その壁我が思うに⋯⋯」

「あぁ、なるほどね! 可能性はあるね。じゃぁ、少し離れてー」

 

 指に魔力を集中させて小さく文字を描く。

 

太陽(シゲル)宿命(ウィルド)。貫け光線!」

「聞いたからには最後まで聞けっ!」

 

 描いた文字を壁に押し当て光の魔力を放出させた。が、壁は傷1つ付かない。人間1人程度なら貫通させるくらいの威力はあるのに。やっぱり、普通の壁じゃないみたい。

 

「ありゃ、頑丈だねぇ。⋯⋯本気でやって、怒られないかな?」

「むぅ⋯⋯。まぁ、いいのではないか? 話ができぬから帰ったなど、ウロに会わせる顔がない。むしろ命令を聞かす方針に変えた方がいいかもしれぬな」

「そっか。じゃぁ⋯⋯本気でいくね」

 

 ガラスの小瓶を取り出す。親しい友達の血液が入った小瓶。それを()()()()口の中へ放り込む。と、その刹那。身体が瞬く間に変わり行くのを感じる。頭や腰から異物が生えてくるのを感じ、自分が自分じゃない何かに包まれる。

 

「⋯⋯我の血を吸いすぎだ。もうほとんど赤か黒じゃないか」

「んぅ⋯⋯っ。はぁ⋯⋯。そ、そう? ううん、そうだね⋯⋯」

 

 私も歪な竜になってから大分経つから、最初と姿も多少変わってきてる。尻尾は相変わらずウロと同じ細長く棘の付いたもの。けど、ウロと同じ白い部位はそこだけ。角と翼は完全に真っ黒になって、それ以外は全てイラの赤い鱗に覆われている。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫⋯⋯。流石に飲み込むのは大変だね。ただ、これで⋯⋯」

 

 私の力は『私を強化し得る力を吸収する』というもの。ここで言う『力』はエネルギーだったり物質だったり、とにかく私に持ってないものならなんでもいい。

 

「ガラスの剣。うん、作れるね」

 

 手から先ほど吸収したガラスを生成する。文字通り生えてくるのはなんとも言えない触感だけど、気にしてたら次のステップに進めないから気にしない。それに「気にしたら負け」なんて言葉もあるしね。

 

「そんな物、役に立つのか? 脆いぞ? 普通に召喚魔法とかいうので作った方が早いぞ?」

「これは実験だからいいのっ! それに今は使わないからっ!」

「⋯⋯中身はいつまで経っても変わらんな」

 

 これ自体は魔力を持たず何の変哲もないただのガラス。ただできるという事に意味がある。

 

「さて、それじゃぁ⋯⋯」

 

 生成したガラスを右手に集め、棘のように尖らして纏う。さながらそれは針のグローブ。そのガラスに不変の権能である完全性と永続性を重ね、魔力を込めて⋯⋯より強固なガラスへと変質させた。

 

「ヨーグパンっ!」

 

 適当な掛け声と共に精一杯、力を込めて真っ直ぐ右ストレート。無心に放った一撃だからか、威力は思ってた以上に出た。ガラスは砕け、代わりに壁は僅かにひび割れて凹み、そのひびから赤黒い液体が流れた。

 

『アァァァァァァ!!』

 

 そして、壁が動き、甲高い声が辺りに響き渡る。空洞が崩れるのではないかと思ってしまうほどに地面が揺れる。

 

「動いたね。でも、これは⋯⋯」

「ああ、面倒だな」

 

 その壁が動いた先は、竜になったイラが余裕で入れそうなほどの巨大な地下空洞。こんなに広いとは思わなかった。ただそれ以上に驚きなのが、相手の大きさ。

 

(わらわ)の眠りを邪魔するなと、あれほど⋯⋯いや。其方人等(そちとら)、ヒトではないな』

 

 その姿は蛇だった。よく絵本とかで見る緑色の蛇。ただ大蛇と呼んでいいのか迷うほどの大きさ。この地下空洞のほとんどを支配し、その真っ赤な瞳をこちらに向けてる。蛇睨みという言葉があるけど、今まさにその状態みたいだ。睨まれてる私達はピクリとも動けない。

 

『もしや竜か? 面妖な⋯⋯。異国から妾に如何様か』

 

 体長はどれくらいあるんだろう。イラと同程度の大きさに見える。彼女は体長70m。という事は、70mくらいなのかな⋯⋯。どうやって相手をしよう。いや、ほとんどが蛇に埋め尽くされてる空間。イラが竜になれば空洞が崩れるのは確実。私が相手しようにも、こんな巨体に敵うとは思わない。渾身の一撃であるさっきのパンチも少し凹んだだけ。しかも当の蛇は気にしてないみたい。

 

「協力しろ。この国のどこかにある幻想郷。そこへの侵略を」

『幻想郷へ侵略だと⋯⋯? はっ、笑わせるな。あの地は妾の友がいるのじゃ。協力すると思うておるのか?』

「では、力だけでも貸せ」

『断ればどうなるというのじゃ?』

 

 辺りが冷たい空気に覆われる。ピリピリとした感情が伝わる。これは⋯⋯怒りかな。

 

「力で屈服させる」

『竜らしい思考だな。そこの娘。其方の考えを聞いておらぬが? 怖いなら、逃げ出しても良いのじゃぞ? 見たところ、其方は竜と呼ぶには些か歪なようじゃからなぁ』

 

 私に目が向く。私の答え? そんなの決まってる。お姉ちゃん達のために⋯⋯安住の地を。そして、平穏な生活を。最早100年程度で暮らす事ができなくなるこの大地に別れを告げ、平和を勝ち取らなければ。それが奪ったものだとしても。

 

 だから私は、幻想郷という安住の地を奪いたい。

 

「もちろん、イラと同じ。貴方を無理矢理従える。それが嫌なら力だけ借りるね! それなら協力はしても貴方が手を貸した事はならないだろうしっ」

『矛盾しておるぞ。まぁ、よかろう。若い芽を摘みとうないが⋯⋯』

 

 蛇がゆっくりと顔を持ち上げる。鋭い眼光を向けたかと思えば、その右目が淡く光る。

 

『嫉妬の大蛇(だいじゃ)オロチ。友のため、我が力思う存分見せてやろう!』

「──え?」

 

 そして、その目を見ていたはずの視界が右半分ほど黒く塗り潰される。その時、私は気付いた。私の右目が無くなったのだと────

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