さて、閑話というか、説明兼(私の)欲望回。
それでも良い方は、まあ暇な時にでもどうぞ。
──Remilia Scarlet──
お父様が死んで1週間が経った。あれから正式に私が紅魔館の主となり、領地の統治を任されることになる。しかし、お父様が生きていた頃のようなとてつもなく広い領地ではなく、兵を下がらせかなり縮小させている。そうしないとまだまだ未熟な私では治めきれないし、何かあった時に対応が遅れる。自分の力に合わせて領地を狭めるのは致し方ない。というか、そうしないと領地を抑えることも治めることも不可能だろう。いつか反逆者が現れ、革命されるのが関の山だ。現に、私が当主なのを不服に思った眷属達が暴動を起こしたり、暗殺を企てたりしている。もちろんそんな奴らは例外なく殺したが。それにしても、私の能力を知らずに暗殺するのは身の程知らずにも程がある。
「お姉様! 見て見て! お姉様と同じ槍の召喚魔法だよ!」
「ええ、上手にできているわ。流石私の妹ね」
私が当主になったことで幾つか変わったことがある。その1つが妹2人の扱いだ。もはや2人を縛るモノは何もなくなり、彼女達は自由を手にした。しかし、自分の身を守るためや、もし私が死んだ場合に備えて戦いの知識だけは教えている。それ以外はかなり自由にさせたい気持ちもある。だが、長年会っていなかったことが、私の中で哀しいという感情で肥大化していたらしい。少し、ほんの少しだけ束縛したい気持ちがある。だから、魔法の練習や妖力の練習⋯⋯つまり戦闘訓練の時間だけは1日のどこかに設けてある。もちろん2人が心配だから、私の見える範囲に置いておきたい、というのもある。
「へぇー、初めてティアの槍見た。名前は決めてあるの? というか、いつの間に召喚魔法を覚えたの? 私知らないんだけど」
「私が教えたわよ。暇だったから」
「うわー、私の楽しみをお姉様が邪魔するー。私がじっくり教えるつもりだったのにー」
フランがわざとらしく頬を膨らませる。いつの間にか私のことを姉として認めてくれていたが、ちょっとだけ舐められている気もする。フランがそういう誤解させやすい性格なだけかもしれないが。それに対してティアは素直で分かりやすい。素直すぎたり、食欲が旺盛過ぎるのも悩みものだが。その中でも食欲に関しては数が尋常ではなく、
「この槍の名前は『ルイン』だよ。『
「発想が怖いや、私の妹。っていうか、私と同じ剣は?」
「もちろんあるよ。『
「やっぱり3つ創ったんだねぇ⋯⋯」
先ほどから『奪う』という字が入っているのはわざとなのか。案外、武器を介して能力を奪うことを前提としたものだろうか。⋯⋯いつか戦闘狂にでもなりそうだ。その時は姉として、しっかりと導いてあげないと。
「ねぇ、お姉様。もう終わってもいいんじゃない? 早くお風呂に入って寝ようよー」
「私もお姉ちゃんと同じー。ご飯食べ終わった後に動くとすぐ眠たくなるー」
「わがままな妹達ね。まあ、いいわよ。今日はそろそろ終わりましょうか」
ティアもフランも最初に会った時よりもかなり打ち解けてきた。このまま幸せな生活が続けばいいけど、どうやらこれから先の
練習の終わり、食事を終えた私達はお風呂に入る。最近は3人で一緒に入ることが習慣になっているが、妹2人が元気に遊んだりはしゃいだり、とにかく入っている時はいつも疲れる。それも可愛い2人を見ていたら満足感の方が高くなるからいいのだけど。今はそんな騒ぎが落ち着き、湯船に浸かっていた。
「はぁー⋯⋯。落ち着くわぁ⋯⋯」
「貴方達のせいで落ち着けない私がいるんだけど? まあ、いいけど」
「え、なに? ツンデレ?」
「べ、別にそんなんじゃないわよ!? ⋯⋯ねえ、ティア。大丈夫? 熱くない?」
「話逸らしたのかな?」
ツンデレ度合いで言えばフランの方が高かったくせに。⋯⋯ああ、いけない。私は姉なのだから、落ち着かないと。喧嘩するほど仲がいいとは言うけれど、やっぱり喧嘩しない方が世のため人のためだ。別に他人のことなんてどうでもいいけど。
「熱くないよー。逆にお姉様は大丈夫?」
「大丈夫よ。⋯⋯って、近いわね。ああ、離れて、って言ってるわけじゃないから安心して」
「うん、分かってるよ」
ティアが徐々に近付いてきて、ついには肌が触れ合うほど近くなる。彼女は何がしたいのか分からないが、そこまで近付いたところで、ふと視線を下に向ける。どうして姉妹でここまで差がつくのだろうか。何がとは言わないが、何故ティアは私の妹なのに微妙に私よりも大きいのか。もちろん成長していることは嬉しいことだ。しかし、何故その部位だけは私よりも勝っているのか。普通は姉である私の方が大きいはずなのに。それでもフランよりは勝ってるからいいのだけど。負けてたら色々と煽られそうだし。
「え、何この空気。あとね、お姉様。今凄く失礼な視線を感じたのだけど?」
「え? 気のせいじゃないかしら。別に『ああ、小さくて可哀想ね』とか思ったりしてないから安心して」
「できるか! っていうか確信犯じゃん! それに私の方が大きいから! ギリ勝ってるから!」
必死に否定しようとしていることが、余計に嘘っぽくなる。妹が姉に勝つなんて夢物語、あるはずがないのに。もちろんティアは例外だけど。ティアは素直だからセーフ、ということで。
「なんの話をしてるの?」
「ん、ああ。胸の話よ。あ、この際ティアに決めてもらおう。私とお姉様、どっちが大きいと思う?」
「もちろん私よね、ティア?」
「うーん⋯⋯私から見たら、どっちも変わらないかな。⋯⋯え、お姉ちゃん? 何何?」
これが強者の余裕か。ティアにカチンときたのか、フランはティアの両腕を掴んで拘束する。そして、顔を近付けて正しく悪魔のように小さく甘い声で呟いた。もちろんフランも悪魔だから、これはものの例えだが。
「ティア? もし私の方が大きいって正直に言ってくれたら、貴女がしてほしいこと何でもしてあげるよ? 遊んでも、新しい魔法を教えても──」
「お姉ちゃんの方が大きい」
「即答したわね⋯⋯。でもまあ、そんな甘言に惑わされた言葉に意味は無いわ。姉である私の絶対的優位は変わらないわね」
「ティアに一回り二回り負けてるんだよなぁ」
「ぐっ⋯⋯」
それを言われると何も言い返せない。本当にここまで差がついた理由は何なのか。この歳だから遺伝とか、そんな根本的な理由な気もするが。お母様はそれなりに大きい方だったから、私達にももちろん希望はある。大きくなるまで待つしかないか。それが後何百年先のことになるのかは分からないが。
「お姉様。私は、小さなお姉様でも大好きだよ?」
「ティア、それフォローになってないと思う⋯⋯」
「全くだわ。でも、好きなのは嬉しいわね。それで今までの無礼は許しましょうか」
「おっ、当主っぽいねぇー」
当主っぽいのではなく、当主なのだが。それはまあ、言葉のあやとして許そう。ティアもしっかり私をフォローしようとしてくれた辺り、そして、大好きと言ってくれる辺り本当に可愛い妹だ。素直な娘だから、その言葉は本心から来る疑いようのないものだ。何十年も悪く言えば放ったらかしにしていた私を好きでいてくれる妹なのだから、これからも守り通さなければ。
ふと、もしティアが結婚するとしたら、と思ってしまった。その時は私達よりも伴侶を選ぶのだろうか。⋯⋯いや、きっとその時は
「⋯⋯のぼせそう。お姉様、お姉ちゃん。私、先に上がるね」
「あ、私達も上がるよ。だから、一緒に行こっか。ね、お姉様」
「ええ、そうね。長話し過ぎちゃったせいか、私ものぼせそうだしね」
とか適当に言ったが、本当は妹を1人にしたくないだけだ。それはフランも同じだから、私に『一緒に行こう』と促したのだろう。もし1人の時に私を嫌う眷属が私の妹を襲うかもと考えたら、いつ何時もティアやフランを1人にはさせれない。そもそも、今まで『独りぼっち』だった2人をまた1人にはさせたくない。
もちろん、ティアばかり過保護になっているが、フランにしてもそうだ。フランは強いからそういった感情は隠しているが、彼女も1人は嫌に決まっている。⋯⋯なんて言って、1番嫌なのは私かもしれない。2人を手離したくない。そんな気持ちが、日に日に増していくのを感じる。もしそれが最高にまで達したら、私はどうなるのか。⋯⋯今はまだ、考える時ではないか。
「そうなの? じゃあ、一緒に行こー!」
「あ、ティアー! 走っちゃ危ないよー」
フランは、元気よく走るティアを追いかけ、先に外へと出ていった。さて、私も急いで追いかけよう。今日はもう寝るだけ。最近は地下で寝ることが多いが、妹2人と一緒だから苦ではない。むしろ嬉しいことだ。あれほど夢にまで思い描いていた平和で幸せな日々を暮らすことができているのだから。さあ、これからが忙しくなる。2人を守りながら当主の雑務をこなし、家や領地を守る。大きく分けてたった3つのことだが、それが大変だ。
せめて家を守ってくれるような、信用できる部下が欲しい。眷属達は信用できないし、メイドだと心もとない。だが、それは望んでも叶うわけではない。ただ、祈り待つしかできないだろう。いつか、そんな人が来ることを────
──Hamartia Scarlet──
少し前、お姉様に連れられて初めて館の外を見た。外に出るという望みが叶った瞬間だったけど、私はただただその広さに圧倒された。その世界は図書館とは比べ物にならないほど広く、空を飛んで遥か彼方を見つめてもその世界の行き止まりは見えない。そんなに広いという知識は本で知っていたが、改めて自分の居た世界がとてつもなく狭く、小さなものだったと自覚した。
こんなに広い世界なら、もっと色々なモノを求めてもいいかもしれない。そう思ったのも、私には強い吸血鬼の血が流れているから妥当、求めるのも当然だから。逆に今の今まで世界は小さすぎた。別にお父様のように領地拡大とか求めたくないけど、これだけ広いなら少しくらい望んでもいいかもしれない。それに、ただの食料である人間が我が物顔で支配しているのだから、私だって領地を望んでもいいと思う。
でも、そのためにはまず強力な力が必要だ。全てを支配して、お姉様やお姉ちゃんを守れるような強力な力。いつも守られてばっかりな私だけど、お姉ちゃん達は私のものだから、誰にも渡したくない。私の傍にずっと居てほしい。だから、手始めにお姉様よりも強くならないと。動いたりするのは面倒くさいけど、動かないとお姉様よりも強くなれない。私の好きな憧れのお姉様。そんな人を超えるのは大変なことだけど、私の夢のためには超えないといけない。そのためにも図書館で本を漁っているのだけど、いいものはなかなか見つからないものらしい。
「ティア。眠れないの?」
真横で寝ていたお姉様が、目を開けていた私を見つけてかそう言った。お姉ちゃんはすでに夢の中で、お姉様とは逆の位置を陣取っている。寝相が悪いのか、私を抱きしめて寝ている。あ、もしかしたら、お姉ちゃんも寂しいとか思っているからかもしれない。それならそれで可愛い。めちゃくちゃ食べたいけど、寝ている時に吸血したら怒られるから我慢しないと。
「ティア、眠れないなら⋯⋯眠れるようにしてあげる。私の腕の中で寝なさい⋯⋯」
「あ、んぅ⋯⋯」
お姉様はそう言って、私の首の後ろに手を回して抱きしめてくれた。お姉様の胸の鼓動がとても近く聞こえる。いつもなら絶対にしないから、多分、寝ぼけているんだと思う。お姉様、寝ぼけていると可愛くなって食欲をそそ⋯⋯ああ、ダメだ。あまり深く考えると抑えきれなくなる⋯⋯。
とりあえず、お姉様を強く抱きしめて感情を発散させる。後ろにはお姉ちゃん、前にはお姉様。手は出せないからこんな状況、生き地獄でしかない。もし私に後先考えずに手を出す勇気があったら、どれだけいいものか。私は嫌われたくないから、今は抑えるしかない。
「ティアぁ。甘えて、いいからね⋯⋯」
「っ!? ⋯⋯あ、寝言⋯⋯?」
突然お姉様が口を開いてそう言ったから、心でも読まれたのかと焦った。でも、寝言でもそれは本心っぽい。この場合はどうしよう。全て夢オチと思わせてとか⋯⋯ダメかな? ダメか。食べたら布団が汚れるし、痛かったら気付くだろうし。流石に夢オチじゃ限度がある。
それにしても、どうしてここまで私の食欲をそそらせるのかな。もしかして、わざとやってたりする? もしそうなら逆に、食べてもいい、という意味だとは思うけど。それでもやっぱり試すのは怖い。私にとって嫌われたくないというのが1番だしね。あ、でも──。
「お姉様、お姉ちゃん。大好き。その首筋にかぶりついて食べたいくらい好き。私は⋯⋯一生離さないよ。だからね、ずっと、ずっと⋯⋯一緒に居てね」
思ったことを口にするくらいはいいかな。そうでもして発散させないと感情が爆発して、自分を抑えれなくなるしね。仕方ないよね。思ったことを口に出せたし、ようやく眠たくなってきた。はあ⋯⋯ようやく眠れる。
私はそう思い、願い、望み⋯⋯祈る────
一応、これで1日1話+αと1章はお終い。次回からは2章と番外編となります。
平和な日々を手に入れた次に彼女が望むのは、姉を守り、全てを手に入れれる強大な力。それを手に入れる日は来るのか。そして、レミリアの願い通り、家を任せれるような信用のおける部下は現れるのか。
いやぁ、本当にどうなるんでしょうね(他人事)