東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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65話「用意周到な準備」

 ──Remilia Scarlet──

 

 図書館。そこは今ではパチェ(居候)の住処になっている。彼女は背丈が近い私の服を借りパクし、いつの間にか図書館の司書()のようになっていた。メイド達も私の友達と認識してか、彼女の身の回りの世話をするほどに。ほぼほぼ紅魔館の主と変わらない権力を持っていた。だけど彼女はその権力を振るうわけでもなく、1人図書館に引き篭っていた。

 

「ねえ、パチェ。毎日毎日、一体何をしてるの?」

「研究よ、魔法のね。もう少しで完成しそうなのよ⋯⋯」

「⋯⋯はあ」

 

 引き篭ってばかりの彼女を外に出そうと、私は自分でも鬱陶しいと思うほど構っている。なのに彼女ときたら、平然とした様子で返すばかりで、私はそれを見てため息をつくしかなかった。

 

「貴女も毎日ここへ来て仕事はいいの?」

「ちゃんとやってるわよ。って言っても、戦争の傷痕も癒えて、世界はともかくこの場所は安泰へ近付いてるわ。それ故、仕事()やる事もないわよ。だからこそ、妹が1人旅立って心配だし、暇してるのよねえ」

 

 ティアが旅立ってから3週間も経った。知ってる場所ならすぐ飛べる魔法を持ってるはずなのに、とても長い旅。つまり、それだけ長距離で私も知らないような場所を旅してるという事だ。それを分かって心配にならないはずがない。ただ、それ以上に私は妹を信用している。どれだけ心配でも、自分から探しに行くような妹を裏切る真似はしない。⋯⋯もちろん限度はある。だから、もし1ヶ月も経てば探しに行こう。

 

「他の妹は? フランやスクリタも居るじゃない」

「あの娘達はねえ⋯⋯あんまり相手にしてくれないのよねえ。それに最近、スクリタの体調が悪いみたいで、まともに外にすら出てこないし⋯⋯」

 

 幻想の低下。それが私の妹にまで牙を向き始めている。対策を講じるためにこうして図書館に来て調べ物をするのにも限りがある。あまりにも見つからなすぎて、最近は諦めてパチェと会話する方がメインになってしまった。こういう事に慣れてないというのもあるけど、自分が情けなく思う。

 

「ああ、ところで1つだけ聞いていいかしら?」

「ええ、いいわよ。何かしら?」

 

 毎日邪魔しに来てるからこそ思う事。初めての友達だから考えてしまう疑問。

 

「嫌じゃ⋯⋯ないの?」

「何が?」

 

 意図が分からないのか、パチェは首を傾げていた。妙なところで察しがいいくせに、こういう誰でも気付けそうなところで何故気付いてくれないのか。自分じゃ言い難い事なのに、わざわざ言わなければならないのか⋯⋯。

 

「ほら、私研究の邪魔になってないのかな、って。自分で言うのもなんだけど、凄く邪魔じゃない? 私って」

「ええ、邪魔ね。とても」

「ず、ズバリ言うのね、貴女⋯⋯」

 

 そこまで真正直に言われると結構傷付く。フランもティアもそうだけど、私の周りは嘘偽りなく正直に言ってくる人が多い。それは有難いんだけど、優しい嘘すら言ってくれないのがね⋯⋯。私は傷つきやすい心の持ち主なのに。⋯⋯いや、やっぱりそうでもないわね。

 

「でも、住まわせてもらってる身。何も文句は言えないわ。それに、レミィ。貴女にも『神秘への回帰』で手伝ってほしい事があるから」

「えっ!? も、もしかして、対策が見つかったの!?」

「逆に貴女、何も見つけれなかったの? ここへ来てはこっそり本を漁って調べていたくせに?」

「うぐっ⋯⋯」

 

 パチェはあれなのか。私を虐めるのが楽しいのか。もしかして、フランが私にあたり強いのも私がいじめがいがあるからなのか。⋯⋯あれ、それって舐められてない? 長女としてそれは大丈夫なのかしら⋯⋯。いや、大丈夫なわけないわ。もっとしっかりして、舐められないようにしなければ。特にフランに。

 

「見つけたわよ、対策⋯⋯いえ。対策と言うにはあまりにも弱い。ある意味では逃げの手ね」

「⋯⋯? どういう事?」

「今から話す行為はこの場所を捨てる事になる方法よ。それでも聞きたい?」

 

 この場所を捨てる、とはどこまで指してるのか。それによっては、その方法を諦めなければならない。今まで共に生きてきた我が家。そう簡単には捨てられない。可能ならこれからもずっと、この家で暮らしたい。だけど、それでも私は聞かなければならない。みんなの命を預かる、当主として。

 

「ええ、もちろん。聞かせてちょうだい」

 

 私は頷き、そう言った。パチェにも私の気持ちが伝わったのか、ゆっくりとした丁寧な口調で話し始める。私を無闇矢鱈に心配させないためだろう。そんな心配、しなくていいのに。

 

「今のところ、調べた限りでだけど⋯⋯神秘を維持する方法はないわ。もはや神秘が薄れた薄れつつあるこの世界で元の神秘が溢れる世界へ戻すには、世界そのものを変える必要がある」

「⋯⋯無理ね。私でも、世界を変えるなんて事はできない。精々、国1つが限界ね」

「ええ⋯⋯ええ? ま、まあ。だからこそ、この場所で神秘を取り戻す事はできない。つまり、ここに居ては貴女の妹も元気になる事はないわ。絶対に、ね」

 

 そこまで断定的に言われるとは。現実を突き付けられるとは思いもしなかった。我が家を手放したくない。だけど、私はそれ以上に妹の方が大切だ。

 

「要は家を捨てろ、って言ってるわけ? そうすれば彼女が助かると?」

「短絡的ね。話は最後まで聞くものよ。そうしないと、短気だと思われちゃうわよ」

「うっ、うるさいわね」

「⋯⋯まあ、一番手っ取り早いのがそれなんだけど」

 

 結局最初ので合ってるじゃない! ⋯⋯いや、慌てるな私。一番手っ取り早い方法が家を捨てる事であって、この言い方はまだ他に方法があるという事。ここでまた短絡的に話してしまえば、パチェに馬鹿にされるわ。ここは落ち着いて⋯⋯。

 

「で、詳しく話しなさいよ。その神秘に至る方法を」

「⋯⋯幻想郷。そう呼ばれる世界は、今の時代になっても神秘が薄れてない唯一の場所らしいわ。大きな結界に遮られ、隔たれたその地は神代に近い神秘を誇るという」

「確かに、そんな場所に行ければスクリタの調子も戻るかもしれないわ。ただ、問題はその場所ね。一体何処にあるの? ここからどれだけ離れてるのかしら?」

 

 純粋な疑問を口にする。移動するとしても、何処にあるかくらいは把握しておかないと。そこに潜む危険なども調べておく必要があるからだ。

 

「そうねえ⋯⋯。極東の島にあると聞くから、大体8000km⋯⋯いえ、もっと距離があるかしら?」

「⋯⋯想像できないわ。そんなの言われても」

「でしょうね。つまり、途方もない距離って事よ。さっき一番手っ取り早い方法とは言ったけど、この身1つで向かうにしても難しい。そもそも、私が知る情報も文献伝聞の域を出ない。だから、明確な位置も分からないわ」

 

 ここまでの情報を調べてくれただけでも喜ぶべきか。私だけだと恐らく、その名前すら見つけられずに終わっていただろう。⋯⋯パチェが家に来てくれてよかった。

 

「そして、もう1つの問題。2つ結界があるらしいけど、片方はこちらの世界で否定された妖怪や物体が流れ込みやすくなってるらしいわ」

「それの何が問題なの?」

「最近になってできたもう1つの結界があまりにも強力で、通る事が困難らしいわ。貴女が通れたとしても、今の私や弱った貴女の妹じゃ超える事は難しい」

「ダメじゃない⋯⋯」

 

 幻想郷へ行く理由が力を取り戻すため、スクリタの体調を戻すためなのに、肝心の彼女が来れないのでは元も子もない。『幻想郷』へ行くにしても、全員一緒に。それが私の求める大前提だ。

 

「そこで考えたのがある方法。準備に時間はかかるけど、これは確実な方法よ」

「どんな方法よ? 勿体ぶらずに教えなさいよ」

「⋯⋯はあ。さっき話した通り、こちらの世界で否定された物体も流れ着きやすいのよ。幻想郷は」

「だから長いってば。もっと手短に話してよ」

 

 段々と話を聞く集中力も切れ始めてきた。

 

「物体が流れ着きやすい。なら、私達を物体と思わせればいい。物体の中⋯⋯つまりこの館の中に潜んで結界を誤魔化せばいいのよ」

「そ、そんな事できるの!?」

 

 彼女は館ごと結界内部へ転移するつもりなのか。それは願ったりもない話だが、本当にそんな事が可能なのか。もちろん、やるにしてもかなりの手間がかかるのだろうけど⋯⋯難しそうな話だ。

 

「ええ、できるわ。この館全てを囲う転移魔術に、内部を認識させない遮断魔術。これだけ広大な魔術を用意するだけでもかなりの年月が必要になる。それに成功する確率は五分五分ね。あっち側に縁がないから、転移するのも難しい⋯⋯。よくて数十年⋯⋯下手すると数百年もかかる偉業ね」

「長いわね、あまりにも」

 

 それだけの年月が経てば、手遅れになる可能性も捨てきれない。そうなる前になんとか、辿り着きたいものだけど⋯⋯。そう簡単に行きそうでもないね。

 

「まあ、さっき言った通り、準備は貴女にも手伝ってもらうから。素材の用意に魔力の調達。遥か彼方、極東の地へ行くにはこれだけ用意するにしても数十年はかかるでしょうね」

「⋯⋯任せなさい。吸血鬼、スカーレット家の当主レミリア・スカーレット。その名に恥じぬ結果を出してみせましょう」

 

 やるからには全力で。それがこの館の当主である私の当然の義務。できる限り早く、それでいてしっかりと準備しよう。そうすればきっと⋯⋯妹を救える。今度こそ、私が。

 

「ところで、どうしてそんな事を知ってるの?」

「書物、そして城に居た時の伝聞。⋯⋯さて。そろそろね」

「あら、どうしたの?」

 

 パチェは読んでいた本を閉じると、ゆっくりと立ち上がった。何処へ向かうのかと思えば、図書館の奥にある小部屋のようだ。

 

「今の時刻、分かる?」

「え? えっと⋯⋯2時くらいかしら」

「ええ、そうよ。今はちょうど2時。その時間、幻想郷がある場所だと悪魔の力が強まるというわ」

 

 扉を開けば、そこにあったのは部屋を埋め尽くすほど大きな魔法陣。真っ赤な文字で描かれたそれは、多量の魔力を含んでいた。

 

「え、それって⋯⋯!? 幻想郷への⋯⋯?」

「いや、悪魔召喚の魔法陣。幻想郷の話をしたのはそういう話もあるってだけよ」

「ややこしっ!? はあ、なんだ⋯⋯」

 

 勝手に期待したのは私だけど、それでも期待させるような話をされると、ね⋯⋯。

 

「⋯⋯この時間なら大丈夫ね。召喚準備は万端。少し離れてなさい」

「ああ、召喚するのね。⋯⋯悪魔なら私がいるのに」

「⋯⋯⋯⋯」

「はあ⋯⋯全く」

 

 私の愚痴も聞かず、パチェは静かに召喚の詠唱を唱え始める。それと同時に、魔法陣が淡い光を伴い始めた────




あまり物語に関係ありませんが、現時点だとパチュリーはレミリア同程度の背丈しかありません。
なのでロリパチェです(
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