──Remilia Scarlet──
地下へと続く長い長い道を降りていく。そこはかつて牢獄として扱われた妹達の部屋がある場所。隣合った2つの部屋。しかし、彼女達はお互いのことを数十年も知らなかったという。それは分厚い壁のせいなのか。それとも2人とも外への関心が少なかったからなのか。恐らくはそのどちらもなのだろう。
そして辿り着いたフランの部屋。窓が無く光の差さない薄暗い廊下は、まるで悪魔に誘われてるかのようで。実際その先に居る妹も悪魔なわけだが。
「フラン。……入ってもいいかしら?」
「お姉様? うん、いいよ。大丈夫」
扉を叩くと、フランの声が聞こえてくる。いつもより元気がなく、抑揚のない声。その理由は想像に難くない。
「……スクリタ、大丈夫?」
部屋に入ると、まず目に入ったのはフランのベッドで横になるスクリタ。そして、それを座って見守るフランの姿だった。姿は相変わらず容姿の整った綺麗な少女。だけども、その顔は両者共に疲れが見える。片方は、眠っているから分かりづらいが。
「大丈夫……とは言い難いかな。ご飯はちゃんと食べるけど、やっぱり本調子には戻らない。簡単な運動はできるけど、戦闘行為は多分できないくらい、かなぁ。……お姉様。ごめんね、無茶言って」
「いいわよ。妹の無茶くらい、ね。……むしろ嬉しいわ。無茶なんて、信用してる相手にしか言わないでしょう?」
しばらく前の話。私はフランから相談を受けた。スクリタの状態が不安定で、それをティアに知らせたくないというもの。最初は誰にも言わないつもりだったらしいが、不可能と判断したらしく私に話してくれた。当主の私に隠し事をしても、いつかは必ずバレてしまう。下手に隠して拗れるよりは、と素直に話してしまうことを選んだらしい。ただ、どうしてティアに知らせたくないのか、理由は話してくれなかったが。
「いや別にそういうわけでもないと思うけど」
「えっ。そ、そうなの?」
「うん。ああ、信用はしてるから、そこは安心してよ? お姉様」
そう言って、冗談っぽく笑顔を見せるフラン。
「あら。ありがとう」
ティアと違って、歳が近いせいか軽口を言い合う仲である私とフラン。それでいて信頼して、幼い妹のために一緒に頑張って。そんなフランが何故スクリタをティアから遠ざけたがっているのかは分からない。ただ、何かあるのだろうと察することしかできない。正直なところ何が正解なのかは分からないが……ティアが居ない今は、フランの願いを優先しよう。
「……スクリタ、絶対に戻るよね。まだまだ遊び足りないよ、私」
「大丈夫よ。……方法はある。準備も進めている。あとは、それが完成するまで待つだけよ」
パチェから聞かされた幻想郷の話。そして、そこへ行くための方法。準備さえ整えば、いつでも向かうことができる。あとは待つだけだ。……下手すると100年以上かかるかもしれないが。それでも、完成するまで待つ他道はないのだから。
「それで? ここに来たのって、スクリタの容態を見に来ただけじゃないよね。お姉様、それだけで来ることないし」
「あら失礼ね? 私だってスクリタの姉なのよ? 妹のためだけに来ることだってあるわよ」
「……その言い方だと今回は違いそうだけど?」
「違うわけじゃないわ。スクリタの容態を見に来たついでにちょっとした用事を、ね」
「どっちがついでなんだか……。で、何の用事だったの?」
呆れた表情を浮かべつつ、フランはそう尋ねる。
「『こあ』って名前は知ってる?」
「コア……?」
「パチェが召喚した悪魔なんだけど、彼女が貴女に会わせろってうるさくてね。ああ、容姿は赤い髪に……って、フラン?」
妹の呆れた表情が、いつの間にやら驚いた表情へと変わっていた。まるで、死んだと思ってた人と再開した……。あれ。これ本当にそういう意味の顔かしら。なんだか見覚えがある気がするわ。
「……お姉様。今もこの館に居るの? コアって」
「ええ。パチェの召使いとして召喚されたのよ。そして、仕えることを契約した。恐らくは貴女が居ると知ったから、かしらね」
「そ、っか……。ふふ。そっかそっか。ねー、お姉様。そのコアって人、連れて来てもいいよ」
「知ってる悪魔だった? どういう関係なの?」
「ん。うーん……主従関係、かな。昔のね」
コアの言ってることと矛盾はしてない。なら、本当に彼女は昔妖精メイドの中に紛れていた悪魔なのだろう。面倒な性格しているが、フランがいいと言うなら、連れてこよう。約束なのだから。
「……騒がしい性格だったけど、スクリタは大丈夫なの?」
「え。えーっと……あー……」
何を思い出したか、大丈夫そうな、不安そうな……なんとも言えない微妙な表情をしている。妹のこんな顔はなかなか見ない。一体、過去に何をやらかしたのか。
「……いいヨ。少し騒がしいくらいなラ、我慢すル」
フランじゃない声が聞こえた。と思えば、ベッドの上でスクリタが眠たそうに目を開けていた。
「スクリタ……おはよう。調子はどうかしら」
「おはヨ、オネエサマ。普通だヨ。若干気怠い程度」
なんて言ってる割には、声だけでも疲れているのが分かる。下手すると、人並みまで能力が落ちてそうだ。流石に奇襲などはもう無いだろうが、万が一もある。もう少しだけ、防衛を強めるよう言っておくか。
「……ま、スクリタがいいなら連れて来ていっか」
「え? 明らかに強がっているけど……」
「強がってなイ」
「本人もこう言ってるし、コアも変わってないなら大丈夫。何かあっても、私が守ってあげるしね」
「…………」
「ふふ」
恥ずかしいのか、顔を赤くしてそっぽを向くスクリタ。そんなスクリタの頭を撫でるフラン。なんとも微笑ましい光景だ。しかし、正直になれないところは姉妹共通らしい。
「さて。少し待っててね。フラン、スクリタ。すぐ戻ってくるから」
「うん。いってらー」
「待ってル……」
「フラン様ー! おっ久しぶりですー!」
部屋に入ると同時に、コアはフランに真っ直ぐ向かって抱き着いた。フランはと言うと、苦笑はするもののどことなく嬉しそうな表情を浮かべている。
「あはは……。変わってないというか、前より騒がしくなってるね、ほんと……」
「本当に知り合いなのねぇ。……にしても」
私の妹にベタベタ触り過ぎではないだろうか。もう少し自重してほしいのだが。いや、むしろ今すぐ身体に叩き込んだ方が……。
「おっとっと。殺気が痛いのでこのくらいで。……あれ。あれあれ? フラン様、増えちゃいました? 増えましたよね! なんとも可愛らしい顔が2つも! 初めましてー。コアですよー!」
「うるさイ……。ワタシは、スクリタ。よろしク」
険しい顔付きでコアを見つめる妹。話題が尽きず、楽しそうで何よりだ。こんな状態じゃなければ、という前提が付くが。
「あらら。嫌われちゃいましたー? そんな怖い顔しないでくださいよー」
「……きゅっ?」
「落ち着いて落ち着いて。コアもあからさまな挑発しないの!」
「おやや。挑発ではなく、本心からの言葉なんですけどねぇ」
なんでこの娘、こんなに胡散臭いというか、あからさまなんだろうか。
「しかし……戦争当時よりこっちの世界のマナもかなり下がったとはいえ、ここまで弱まるものなんですね。恐らくはその出生に関わるのでしょうが……」
「お姉様、コアにも話したの? スクリタのこと」
「いえ……」
スクリタの状況は、コアには何も話してないはずだ。なら、どうして分かったのか。
「……見ただけで分かるものなの?」
「これでも色欲を司る悪魔ですよー? 本能的な物欲センサーもバッチ来いです!」
「フランとスクリタに手を出さないでよ?」
「あははー」
「笑って誤魔化さないで」
フランはそれなりに信用しているみたいだが、油断をしないに越したことはない。気を許すのが怖いが、親友の従者という手前、何かを制限することは出来ない。
「さて、どうやら我が主ほどとは行かなくても身体能力も落ちているようで。……生存に難があるというわけではないみたいですね。戦闘は難しそうですが。……ふむふむ。まぁ軽くなら遊べそうですが、ちょっと怖いですねぇ」
「……診断でもしてくれてるノ?」
「いや絶対違うでしょ。遊ぶって何でよ……」
幾らか心配は残るが、常識は僅かながらもあるらしい。……コアの心配はフランやパチェに任せても大丈夫そうだ。──しかし、スクリタは……。
一抹の不安が胸に残る。──それが杞憂などで終われば、どれほど良かったことか。
2020/05/13追記
矛盾を見つけたため一部改変しました。申し訳ないです(具体的にはレミリアがスクリタを治す方法を知らない、というくだり。いや貴方知ってたやん……())