東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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68話「久々な再開」

 ──Remilia Scarlet──

 

 ティアが友達──恐らくはあの竜娘──とともに旅行に出てから、どれくらい経っただろう。1ケ月は過ぎただろうか。いや、下手するともうそれ以上か。既に数百年の年月を過ごした私にとって、数日も数ヶ月も誤差に過ぎず、曖昧なものとなっている。これをフランに話したら、流石にそれは無いと否定されたものだが。

 

「……静かねぇ」

 

 日暮れ時の紅魔館。その紅色の廊下を歩きながら、ふとそんなことを思い、呟いてみる。

 

 末妹が居ない紅魔館はどこか静かで、平穏だ。それ故に、大きな変化が無い。いつもと違った非日常を持ち込んでくれるような、トラブルメーカーがいないせいだろう。彼女がいると、大変だけど面白みがある。いつも以上に楽しさが、笑みが溢れる。

 

 なんて、どれだけ寂しがり屋なんだ、私は。しかし、できればフランみたいに私にも……別れの挨拶くらい、してほしかったのだが。まったくもう。いつもティアには振り回さ──

 

「だーれだっ」

「ひゃぅ!?」

 

 そんな声とともに、視界が突然真っ暗になる。突然のことで慌ててしまい、変な声が出てしまった。

 

「な、何し……って、その声は──」

 

 ──ティア? 

 

 私がそう答える暇もなく、視界に光が戻る。咄嗟に振り返った私の目に映ったのは。

 

「ただいま、お姉様っ」

 

 最後に見た時と変わりない、末妹の……ティアの姿だった。

 

 既に身体を洗ってきた後なのか、髪が若干濡れている。長旅の疲労も見えず、活気で満ち溢れている。吸血鬼ということもあるが、怪我なんてどこにもない。私の……私の知ってるティアだ。何も変わりない、ティアなんだ。

 

「ティア! もうっ、どれだけ心配したと思ってるの!」

 

 溢れたのは怒りじゃないのに。どうしてもそんな言葉が出てしまう。ただ私の身体は意識せずとも動いていたらしい。安心からか、彼女を力強く抱擁していた。いつもの柔らかく、温かな肌を感じる。ちゃんと生きているという証拠だ。人間よりは冷たくも、その肌にはしっかりと生きていると実感できるほどの温もりがあった。

 

「えへへ、お姉様あったかーいっ。ごめんね? 言いそびれちゃったの。後で気付いたけど、お姉ちゃんに言ったから、大丈夫かなぁ、って」

「大丈夫なわけないでしょ! もう、どれだけ心配したことか……っ」

 

 というか。どうしてフランには言って私には言ってくれなかったのよ。私ってそんなに信用ないのかしら……。

 

「心配してくれて嬉しいなぁ。お姉様、ありがとうね。今まで待っててくれて」

「……当たり前じゃない。私は貴女の姉よ? 心配するに決まってるわ」

「ふふっ。そっかそっか。……お姉様ぁ。私ね。今飢えてるんだー」

 

 突如として抱きしめるのをやめ、蠱惑的な笑みを浮かべる。いつか見たような、私より知ってて、私をもっと望むかのような。そんな危険に満ち溢れた笑顔。

 

「あらあら。なら美鈴に食事でも作らせましょうか?」

 

 しかし私は、敢えて惚けて答える。私なりの、ほんの少しのお返し。私に何も言わずに出ていったことへの仕返しだ。そこに悪意はないが、少しばかりの悪戯心は存在する。

 

「むぅ……分かってるくせに酷いなぁ。久しぶりにお姉様が食べたいの。ダメ……?」

「だぁめ」

 

 顔を近付けてくるティアの唇を、人差し指で押さえて制する。ティアは無理矢理食べようとしないから、焦らすような仕草をしても安心だ。ただ、こっちに少しでもその気があると分かればガンガン攻めてくるから、油断はできない。

 

「……ふん。いいよー、っだ。じゃあ勝手にするもん」

「あら。私が乗り気じゃないのに食べようとするなんて悪い娘ねえ?」

「お姉様が乗り気じゃないならしないよ! 代わりにお姉ちゃんと遊ぶもんねー」

 

 おっと。そう来るか。いや、これは私の嫉妬心を煽るために言ってるに過ぎないだろう。ここで退けば、負けたことになる。妹にだけは負けてはいけない。戦闘能力で既に劣っている節があるから、尚更他のことで負けるわけにはいかないのだ。それに……何度も妹に負けては面子が立たない。

 

「そんなことしたら、余計に遊ばなくなっちゃうわよ? 貴女と」

「えっ!? ……う、うぅ。それは……やだ」

 

 目じりに僅かな涙を浮かべ、懇願するように私の両肩を掴むティア。嗜虐心が煽られるも、グッと堪えて返すようにそっとティアの両肩を掴む。

 

「……? お姉──」

 

 疑問に首を傾げるティアを引き寄せ、啄むように。軽く、優しく唇を重ねた。

 

 ただの一瞬で感じる、柔らかくも甘い味。一度口にすれば、やみつきになるのは必須。現に私はその味の虜になってしまった。……そんな、禁忌的な味がした。

 

「ぁ……おねえ、さま……」

「……ふふ。いつも通りで安心したわ。本当に、可愛い妹ねえ」

「えへへぇ……」

 

 離れて頭を撫でてやると、嬉しそうに子どもらしい笑みを浮かべるティアがそこにはいた。いつもの悪魔じみた雰囲気はどこもない。純粋な子どもらしい笑顔だ。実際のところ、中身は純粋とは行かないほど邪に染まっているが。それは最初に教えたフランのせい、ということで。

 

「お姉様も、優しくて大好き……」

「私もティアのこと大好きよ。……『も』っていうのがフランのついでみたいで嫌だ──」

「日暮れすぐだというのに、お熱いですねぇ」

「ひゃぁっ!?」

 

 不意に聞こえた声。それに驚き、思わず声を上げる。慌てて振り返った先には、パチェの使い魔であるコアがいた。

 

「私は悪くないですよー! そういう空気を感じ……なんか偶然通りかかったら、お二人を見つけただけですので」

「明らかに知ってて来たわよねえ?」

「あはは。そう怒らないでくださいよー。何も恥ずかしがることじゃないんですからー。……しかし、お久しぶりですねぇ、ティア様?」

「え? ……あっ。え、えっ!?」

 

 コアとティアの目が合う。と、ティアは驚きの表情へと変わる。そして脇目も振らずにコアに抱き着いた。

 

「コア! 死んだかと思ってたぁ……っ。生きてて良かった……!」

「痛い痛い痛いっ!? 相変わらず加減を知らない娘ですねっ!?」

「ふふふー。本物のコアだ!」

 

 感触を確かめるように、抱きしめながら色んな箇所に触れていく。妹にされるなんて、なんとも羨ましい光景だ。……フランにもされてみたい、という欲求もあるから、今度言ってみようかしら。……いえ。それは私のプライドに関わるからできないわね。

 

「ええ、本物のコアですよ。お久しぶりです、妹様。……そろそろ離してくれませんか? 貴女と私では力の差があり過ぎて痛いのですよ」

「あ、ごめんね」

「いえいえ、いいのですよ。──しかし、変わりましたね、ティア様」

「うん?」

 

 そういうコアの目が、鋭くティアを見ている。……ような気がした。私の気のせいだったのか。改めてよく見ても、胡散臭い笑顔しか浮かべていない。

 

「ほら、私とはフラン様を取り合う仲ですよー? そんな私にベタベタ引っ付いていいんですかー?」

「むっ。お姉ちゃんは私のだよ! コアもそれで納得したでしょ!」

「した覚え全くないんですが……。フラン様はいずれ私のものとなるんですよー」

「むぅ……。ふふ。コアは変わらないね。昔のままで安心したっ」

 

 微笑み、嬉しそうな顔になるティア。改めてこれだ、と実感する。私がどうしても見たかった笑顔。久しぶりに見れて、ほっとした。長旅が彼女を変えたわけじゃないと安心……したのか、私は。

 

 心の中で何かが渦巻いている。何かは分からないが、違和感や悪い予感。そういったもの。これも能力によるものだろうか。私は何か見落としてないか。……深く考えても辿り着けない。今は、後回しでいいか。

 

「じゃ、私はお姉ちゃんにも顔見せてくるからっ。お話したいこともあるしね」

「あっ。先に一緒にご飯でも食べましょう? 私もちょうどお腹が空いてたところだし、長旅で疲れたでしょう?」

「んー……うん! じゃあそうするー。コアも一緒に食べるー?」

「いえ。実はですね、私はパチュリー様に召喚されまして。今の主はパチュリー様なのです。図書館司書としての仕事が残ってるので、また機会があれば、ということで」

 

 どうやら私の意図を理解してくれたコアは、そのまま地下室へと続く大図書館の方へと向かってくれた。これで少なくとも心の準備が、フランとスクリタにできるといいのだが。

 

「お姉様、どうしたの? ほらっ、一緒に行こー」

 

 そう言って手を差し出してくるティア。私にはこの娘が、フラン達の思うような危険なことを考えているようには見えない。ただそれでも、家族がみんな、仲良く楽しくいられるように。亀裂なんか、生まれないように。

 

「ええ、行きましょうか」

 

 私はティアの手を握り返す。妹の、いつも通りの柔らかい感触を感じることができる。

 

「ふふっ。お姉様の手、あったかいなぁ」

「ティアも、温かいわよ」

 

 私は末妹と、一緒に歩いて食堂へと向かった────




ティアがいると勝手に物語進むから楽なり。
約半年ぶりのティアですねぇ。相も変わらず大罪っ娘でお送りしたいと思います。
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