東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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72話「物静かな暗殺者」

 ──???──

 

 眼前に控える血の色の館。その門の前には、門番らしき1人の女性が立っている。

 

「…………」

 

 ただ眠っているらしく敵意は見えない。日頃の疲れだろうか。休ませてあげることもできるけど、そんなことをしてる暇は無い。最善は誰にも気付かれずに、対象だけを排除すること。主はわたしにそう命じた。あの吸血鬼だけでも狩れと。その真意は知ってるけど、拒む理由にはならない。

 

 だから何も考えず、無駄を省いて行動しないと。そう思って、いつものように()()()()()門番を素通りして、門を飛び越え──

 

「……んぁっ?」

「っ!?」

「うーん? ……何か気配を感じたと思ったのですが……気のせいですか」

 

 危なかった。時を止めて素通りしたはずの門番が、キョロキョロと辺りを見渡している。咄嗟に能力を使って隠れたけど、なんとか難を逃れたみたいだ。

 

「ふぅ……」

 

 できる限り距離を取り、胸を撫で下ろす。思わずため息までついてしまったけど、バレてはないみたい。にしても、どうして今のに気付けたんだろう。流石吸血鬼の館。門番も恐ろしい相手だ。ただ、わたしの前では関係無い。この力があるわたしには……。

 

 

 

 

 

 時折出会す妖精を避けつつ、真っ暗闇な廊下を歩いていく。外の陽の光が差さないことは予想していたが、ここまで暗いとは。人の目には暗すぎるけど、吸血鬼には関係無いんだろうか。暗闇の中で育ったわたしでさえ、時間をかけてようやく目が慣れてきた。しかし、部屋が多い。対象は何処に居るんだろう。

 

「……見つけた」

 

 なんて思ってると、書斎らしき部屋に青髪の少女を見つけた。背中に生えた身体とは不釣り合いな蝙蝠の翼。間違いなく対象──吸血鬼だ。不用心に扉を開けているが、命を狙われてるなんて思ってもみてないんだろう。

 

 気配を殺し、時を止める。ブラフを片手に、背後に回って銀のナイフに手を伸ばす。

 

「──っ!」

 

 そしてその無防備な首に、ナイフを突き立てた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Remilia Scarlet──

 

「はあ。疲れたぁ……」

 

 すっごい疲れた。徹夜なんてするものじゃないわね。いえ、徹朝かしら。私達の場合は。しかし、なんで長時間もこんなにつまらないことを続けなきゃならないんだ。と、目の前にある書類の山を睨みつける。こんなことをしても意味なんて無いと知りつつも、そうせずにはいられない。

 

「何か面白いこと無いかしらねえ」

 

 ため息をつき、机に身を伏せる。誰か暇な人は居ないかしら。今の時間は……恐らく正午かしら。この時間に起きてそうな人……誰も居ないわね。もしかしたらパチェが、程度かしら。なかなか昼まで起きている人居ないわね。

 

「……ん。あら。お客さんみたいね」

 

 ふと頭の中にとある場景が思い浮かぶ。見知らぬ銀髪の少女が、背後から私を襲う場面。手に持つものは銀製のナイフだろうか。場所は今私が居る部屋。服も今着ているものと変わらない、か。

 

 これが何かは身に染みて理解している。これから先に起こること── 未来(運命)の出来事。私の『運命を操る』程度の能力による副産物。数多あるうち、確定した未来を垣間見る。不定期に起きる現象。いつ起きるかは、故意に操作しなければ明確に知ることは無い。たださっき見た光景からして、件の少女が来るまでそう時間はかからないわね。

 

「美鈴を突破してここまで来るとはね。倒したのか素通りしたのか分からないけど、楽しみじゃない」

 

 最低限の狩りは続けているが、もはや争いや戦争からは退いた身。久しぶりの戦闘で、身体を動かせるかしら。いえ、動かせなければ家族を守れないのだ。もしもの時は、無理にでも動かさないと。

 

 そう思いつつ、能力を行使して未来を探る。運命操作は通常近い未来しか見れないものの、利便性は高い。こうやって未来を探っていると──

 

「──っ!」

「いっ……」

 

 ──突然背後に少女が視えた。咄嗟に左腕を盾にして振り返ると、鋭いナイフが手のひらに突き刺さる。慌てて少女から距離を取り、ナイフを引き抜く。見れば、その刀身には深紅の血が流れ落ちていた。久しぶりに見た、私自身の血だ。

 

「久しぶりに受けたわ。攻撃なんて。貴女、やるじゃない」

「…………」

 

 少女は無言でレッグホルスターから追加のナイフを取り出している。銀色の髪に、幼い顔。その薄汚れた服からは決して貴族など裕福な者では無いことが伺える。片手に懐中時計を。もう片方の手にナイフを持っている。

 

「あら、喋ってくれないなんて悲しいわね?」

「…………」

 

 何も喋らず、明後日の方向をちらりと見る少女。と同時に少女の姿が消え失せる。

 

「あら──っ」

 

 再び運命を視て少女の位置と攻撃方法を確認する。位置は先ほど少女が見ていた先。そして、再びナイフを手に迫る少女を、前に飛んで回避する。お世辞にも広いとは言えない部屋で、飛行による回避は一時しのぎにしかならない。

 

「危ないじゃない。どうして今更になって私を狙うのかしら?」

「ふっ!」

 

 跳躍によって近付き、接近とともに連続的にナイフを振り攻撃する少女。それを持ち前の動体視力で難なく躱し、対話を試みる。できることなら、それで戦闘を回避したい。見るからに幼い少女を傷付ける趣味なんてない。

 

「今なら見逃してあげるわ。痛い目を見る前に早くお家に──」

「わたしに家なんて無い!」

 

 声を荒らげたかと思えば、再びあらぬ方向を見ると同時に消失する。しかし、その手はさっきも見た。二度も同じ手を食らうはずがない。

 

 彼女の見た方向に視線を向け、今度は警戒して能力を行使。それとともに迫り来るナイフを弾こうと手を伸ばす。

 

「っ……!?」

 

 が、アテが外れた。視えた運命は彼女の見ていた先とは違う場所から飛んでくるナイフ。なんとか身体を逸らすも、反応し切れず肩にナイフが突き刺さる。血飛沫が迸り、宙を舞う。が、相手は待ってくれない。

 

 血を無視して突き進む少女。私の死角を攻めるかのように、血の影に隠れ、低い姿勢で突き進んでくる。

 

「よ、っと……」

 

 冷静に能力を行使して奇襲を警戒しつつ後ろへ退く。どうやら『視線の先に転移する能力』と思っていたものは間違いらしい。恐らくブラフ……。なら自由な場所に転移かしら。あからさまな懐中時計はブラフか、それとも本当に必要なのか。もし時計が必須なら、下手すると時止めなんてことも考えられるが……。

 

 流石に無いわね。そんな強力な能力、人間の子どもが持ってるわけないでしょうし。私に万が一、なんて警戒を誘っているのかしら。出方を絞って行動を予測しようとするつもりね。

 

「やるじゃない。……本当に逃げるつもりはないのね?」

「…………」

 

 何も言わずにナイフを構えている。どうやら、話し合いに応じる気は無いらしい。つまり私を殺せる程の自信があるというわけか。それは面白い。

 

 もう少し見ていたいが、あまり長引かせて傷付ける意味も、傷付けられる趣味だって無い。そろそろ決着を付けよう。

 

「貴女の考えは分からないけれど、まずはその力から封じさせてもらうわ!」

「っ……!」

 

 刹那、人間には知覚できないであろう速度で飛び出し、その懐中時計に手を伸ばす。流石に反射神経は私達程度とはいかないらしい。強引に握り締めることに成功し、そのまま力づくで奪い取る。

 

 これで能力を封じられれば……なんて考えるも、気付けば目の前から少女は消えていた。

 

「──そこ!」

「うぐっ……!?」

 

 ただそれも、予想の範囲内。予知した攻撃を避けながらも、私の死角に居た少女の首を掴んで倒す。そのまま馬乗りになり、空いた手で強引にナイフを奪い取った。ナイフを遠くへ投げ捨て、改めて両腕を握り締める。

 

 運命を操作し、選択肢を狭め、相手の行動すらも操作する。そうすることによって確定化させた未来を、私は文字通り掴み取った。

 

「吸血鬼の反応速度を舐めないでほしいわね。そして、私の力も」

「うぐっ……!」

 

 じたばたして暴れようとするも、吸血鬼の力に抗えるはずも無く。上に乗る私の質量は見た目通りで、少女ともあまり変わらないだろうに。少女は力の差で全く動ける様子は無い。

 

「逃げないのね。いえ、逃げられないのかしら?」

 

 自分だけの転移なら逃げられるはずだ。ということは、触れている相手も転移させちゃうのかしら。……いえ。それでもしないのはおかしいわね。太陽の下にでも転移させればいいのに。ここはそこまで広い部屋じゃないし、壁を一枚挟んで外になっている。

 

 ──ああ。ということは、この娘……人間でありながら強力な力を持つのか。このご時世珍しい。こんな娘が1人でここに来たのも、強力過ぎる力のせいか。フランやティアのように、怖がられてしまったのか。

 

「……はぁ。 煮るなり焼くなり好きにすればいい。もう抵抗はしない」

「言ったわね? 言ってしまったことは変えられないわよ?」

「……死に方を選ぶ趣味は無い」

 

 つまり私の好きにしていいと。こんなにも興味深くて、貴重な娘を手放すのは惜しい。むしろ私は……。

 

「ふぅん。貴女、名前は?」

「名前……そんなものは無い。わたしは主君に仕えるメイドだった。……名前なんて不要なものは与えられない」

「いや呼びにくいでしょうに……。そうねえ」

 

 時止めを使えるなら。それ以上の力が使えるなら。もしかしたら、私達吸血鬼にとっての『満月』に成り得るかもしれない。なら、それに準じた名前にしようかしら。

 

「ルーナ……いえ。どうせなら、これから向かう場所由来にしましょうか」

「……? あなたは一体何を……」

「十六夜と書き『いざよい』。昨夜と……いえ。咲き誇るの方がいいかしら。なんかいい意味だったはずよ。そうねえ……ええ、これにしましょうか」

 

 頭を傾げる眼前の少女を他所に名前を考えていく。両腕を離しているというのに、もう抵抗する素振りは見せない。どうやらさっきの言葉に偽りは無いようだ。

 

十六夜(いざよい)咲夜(さくや)。これから貴女はそう名乗りなさい」

「はぁ……?」

 

 目の前の小さな少女を立ち上がらせ、私はそう言い放つ。

 

「咲夜。死を受け入れると言うならば、これから貴女は死ぬまで私の従者となりなさい。──そして貴女の力、私のために使いなさい」




なお少女(7、8歳前後)
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