──Remilia Scarlet──
「お嬢様。お客様です」
「ありがとう、咲夜。もう下がっていいわよ」
そうして咲夜を下がらせ、残ったのは1人の男性。彼もまた私達と同じ吸血鬼であり、共に幻想郷へと向かう人物。
「いらっしゃい。ミフネア・ツェペシュ。親愛なる同盟者様」
「お、おやめください。レミリアさん。様付けなんて……。立場的には同じ領地主ですから」
「ふふふ。からかっただけよ」
「そ、そうですか……」
私の館にやってきたのは、お父様の友人であった吸血鬼の子、ミフネア。彼の父親には生前助けてもらった、その死後も、歳が近いこともあって彼との交流は続いている。ティアに思いを寄せているらしいが、未だに進展があったとは聞いていない。そも、会う機会が無いせいなんだろうけど。
「早速本題に入るけど、文書で知らせた通り、転移の準備は終わったわ。もういつでも幻想郷へ行くことができるわ。決行日になったら招集するわね。……そっちはどう? 他の吸血鬼達には協力を得られそうかしら?」
彼を呼んだのは他でもない。他吸血鬼との交流のため。あまり同族と関わらない私と違い、彼は多くの同族と親交を持つ。数は差ほど多くないが、それでも吸血鬼。全員が集まれば、幻想郷にいるという敵対勢力と対抗できるだろう。万が一なんて可能性もあるが、それを考えてはここで暮らし、自滅する未来しかない。
「ここに残りたいという吸血鬼も一部いましたが、三桁に近い数を集めることができました。恐らくこの世界にいる同族は、これでほぼ全てだと思われます」
「もうそんな数になってたのね。元々多かったわけでもないけど」
生まれた頃はどれだけ居たか分からない。ただ、少なくともこの館にいる妖精メイドより多くの数は一度に見たことがない。多分、四桁も行かなかったんじゃないかしら。
「レミリアさん。同族達は理想郷への道を見つけた貴方を主導者とする声が多いです。ただ、責任を押し付けているだけかもしれませんが……」
「いいわよ。それでも。元よりそのつもりだったわ」
「……よければ僕も」
「1人で充分よ。何かあった時、責任を負うのは、ね」
フラン達は私に何かあっても生きていけるだろう。支え合えるだろうし、今は咲夜もいるから家事の心配もない。問題が起きてもパチェが解決してくれるだろうし、外敵は美鈴が排除してくれる。……悲しんでくれるだろうけど、私は家族が幸せならそれでいい。
「そうですか……。なんだかごめんなさい、レミリアさん」
「謝らなくていいのよ。貴方も妹が……あれ。そういえば貴方の妹は?」
「ティアさんと遊ぶと言って地下に向かいました。……ここに来てすぐに」
「貴方も大変ねえ。……今年中には行くから、みんなに伝えておいて。いつでも行けるように準備を終わらせよ、ってね」
「……はい、分かりました」
いよいよ始まる。幻想郷への……侵略戦争。あちらは何も知らないだろう。話し合いで解決できそうならそうするが、私達は吸血鬼。誇りが、矜恃が……それらが胸にあるうちは、こういうやり方しかできないのだろう────
──Frandre Scarlet──
今何を見てるんだろ、私。
「てぃあ! 久しぶり!」
突然部屋にやって来たティアに似た黒い髪型の女性。私やティアよりも身長は少し高く、吸血鬼特有の翼とは別に、黒い角や尻尾の生えた女性。何度か見たことがある。ティアの友達、スィスィアだ。そのティアの友達が、部屋に入るなりティアを押し倒している。妹のスキンシップが過度なのは知ってるけど、改めて目にするとなんとも言えない気持ちになる。
「ん。久しぶりだね、スィスィア。何年ぶり? 大きくなったねっ」
「うん! いっぱいおっきくなった!」
「ふふっ。相変わらずで安心したっ」
「同じ吸血鬼なのに、ティアやスィスィアは私と違って本当大きいよねー」
身長でも、部分的にでも。スィスィアの方は竜の血が混ざってるらしいから身体的な特徴の違いは分かる。だけどティアはどうしてなんだろう。同じ家で、同じ物を食べて、同じように……生活してるのに。私より沢山食べてるからなのかな。
「お姉ちゃん、羨ましい?」
「うーん……羨ましいっていうか、ティアが可愛く育ってくれて嬉しいかなー。もちろん妬ましいとかはちょっぴりあるよ?」
「ふむ。そっかぁ」
「てぃあ。遊ぼっ」
「きゃっ。あ、ふぇっ!? く、くすぐったいっ」
スィスィアに馬乗りにされ、くすぐられるティア。じゃれ合って楽しそうな声を上げている。最早私の姿も見えず、2人だけの世界に入ってるみたいだ。ティアと2人きりの時、私もあんな感じなのかな、と思うと少し恥ずかしくなってくる。
「あはははははっ! やめっ、やめてって!」
「ぅんっ」
ティアが力づくでスィスィアを押し倒し、立場を逆転させる。少し危なく見えたけど、多少の怪我を承知で楽しんでいるのがこの2人。時には吸血ごっこをしていることもあったし、喧嘩にさえならなければ止めるつもりは無い。吸血ごっこは私もティアとしたことがあるし、止めれば嫉妬してると丸わかりだしね。
「ふふ。押し倒されちゃった」
「……ふふっ。可愛いスィスィア」
「てぃあ……」
でも姉の前で一線越えようとするのは頂けないね。ティアったら、友達の前で張り切って、羞恥心すら忘れちゃったのかな。段々と表情が蕩けてきてるし、唇が今にも触れ合いそうになってるし。
「ティア、スィスィア。そろそろお姉ちゃん居ること思い出してほしいなー?」
2人に近付きしゃがみこむ。2人の朱色に染まった顔が目に入る。姉の前で、何故危ういところまで行けるのか。私の時は恥ずかしがってたのに。
「ず、ずっと忘れてないよ?」
「ふらん、混ざりたい?」
「そういうわけじゃないからねっ?」
本音を言えばティアだけ欲しいけど。妹が友達と遊んでるのを、邪魔するのも悪いから。私だってお姉ちゃんなんだし、少しくらいは我慢できるからね。
「じゃあどういうこと?」
「え。えっと……ほら。お姉様と貴方のお兄さん、いつ会談終わるか分かんないし、ね? ちょうどいい時に来られても困るでしょ?」
「ん。……確かに。にぃ止めそう」
「でしょ? だからもっと落ち着いた時に、ね?」
私が居ながらこの状況は、流石に危ないし、お姉様に滅茶苦茶怒られる自信がある。喧嘩したらティアに心配されるし、客人の前だし。できる限り避けないと。
「うん……でもてぃあともっと触れ合いたいなァ……」
「じゃあスィスィア。尻尾触らせてっ。スィスィアの尻尾気持ち良くて好きだからっ。お姉ちゃんもそれならいいよね?」
「う、うーん……それなら、まー……いいかな」
「ありがとっ。じゃっ、失礼して……」
そう言ってスィスィアの背後に回るティア。その手をそっと、彼女の黒い尻尾に這わすようにして撫でていく。その手つきは優しく、まるで妹の頭を撫でているかのような。
「んっ。あ……ぅ。んぅっ」
対するスィスィアは心地よいのか、小さく嬌声を上げ、抵抗もせずされるがままだ。ただ尻尾を撫でてるだけのはずなのに、どうしてこうも……なんとも言えない光景に見えるんだろう。さっきよりは大分マシだけども。今度また、ティアに翼触らせてみようかな。なんて思ってみたり。たまにしか会えないからスィスィアに構うのは別にいい。だけど、スィスィアにしたことは、ちゃんと私にもしてもらわないと。愛しい姉妹なんだから。
「……スィスィア。温かいね。あっちに行っても一緒だよっ」
「うん!」
関係はライバル的なものだけど、見ているだけなら微笑ましい2人組。ティアを奪い合うこともなく、平和ってのを実感できる。
「あ、お姉ちゃん。スクリタ、知らない?」
「え? ……スクリタなら図書館で本を読み漁ってると思うけど」
「そっか。ふーん……」
ただ一瞬だけ。その平和が揺るがされそうな気配を感じていた────