東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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77話「懐疑的な妹と」

 ──Hamartia Scarlet──

 

「スクリター」

「……何? ティア」

 

 一呼吸置いて返ってくるお姉ちゃんと同じ声。お姉ちゃんの部屋に、探している人は居た。

 

「おはよー。寝てた?」

「うン……。何か用事?」

「ん。ちょっと気になることがあって」

 

 スクリタが居たのはお姉ちゃんの部屋。お客さんが来ている間は図書館に居座り、帰ってからは自分の部屋で静かに寝ていた。昔と違って、大人しいスクリタ。やっぱり違和感はそのせいなのかな。私を避けるのも、そこに理由があるのかな。今まで何を考えてても私の目的に支障はないと思ってた。けど、気になったからには知らないと。気付いても何もしないはずだけどね。

 

「最近ずっと避けてるよね。どうして?」

 

 ベッドから静かに起き上がるスクリタに近付く。明らかに警戒してる所作。隙だらけに見えて、反撃する気満々な反抗的な瞳だ。

 

「本を読みたいのニ、いつも邪魔してくるかラ」

「それは遊んでくれないスクリタが悪いよ。私はただ遊びたいだけなのに」

「だからってワタシの自由奪わないデ」

「……むぅ」

 

 私はただ遊びたいだけなのに。自由を奪いたいわけじゃないのに。どうして私の思い通りになってくれないんだろう。

 

「用事が済んだラ、寝ていイ?」

「もうすぐご飯だからすぐ起きることになるよ。それに寝かせないよ? 本当のこと話してくれるまで」

「諦め悪いよネ、ティア」

「正直に言ったら諦める。言わないなら言わせるよ?」

「やってみれバ?」

 

 スクリタは立ち上がり、警戒をしてる。ううん。それどころか、爪を露わにして戦闘態勢だ。そんなに言いたくないんだ、スクリタ。

 

「そっちがその気なら、私も手加減しないよ? あ、安心してね。武器はもちろん使わないから」

「妹が姉に勝てるわけなイ。退かないなら迎撃するだケ」

「言うね。お姉ちゃんが呼びに来るまで喧嘩しよう(遊ぼっ)か。負けたら話してよ?」

「人の気も知らないデ……。本当に勝手な妹だネッ!」

 

 そう言って振りかぶった爪は、私の頬を目掛けて。ただ吸血鬼の目には遅く感じる。

 

「どっちがっ!」

「うぅ……ッ」

 

 難なく腕を掴んで受け止め、その勢いでスクリタを組み伏せる。床に押し付けてる間も抵抗されるけど、あまりにも弱々しい。幾ら身体が元は人形とはいえ、弱過ぎる。普通の人間を相手してるみたい。

 

「……ねぇ、スクリタ、張り合いないんだけど」

「うるさイ……」

 

 私に抑えられたままそっぽを向いてる。なんでこんなに弱いんだろう。私が強くなり過ぎたわけでもないだろうし。能力も何も使ってないから、身体能力に変化は無いはずだし。

 

「あの……もしかしてさ。弱いのと秘密にしてること、何か関係ある?」

「……最近身体動かしてなかったかラ、そう感じるだケ」

「もしかして、力出ない? 最近一緒になってないから?」

「…………」

 

 何も言わない。ってことはそうなんだ。ちょっと私の中に居るだけでいいのに。まだバレたくないから少し操作はするけど、それだけなのに。どうして頑なに言わずに、私を拒むんだろう。

 

「図星なんだ。じゃあ吸収を拒んでるってことだよね。一緒になるの、いや?」

「……イヤ。もう支配されたくなイ。自由でいたイ」

「そんなつもりは無かったんだけどなぁ。……でも嫌だから拒んで死ぬとか馬鹿げてるよ?」

「もう少しの辛抱だかラ」

 

 私と一緒に居ることが自由じゃないみたいに言って。確かにその通りかもしれないけど、だからってスクリタが死ぬのは私が嫌だ。私の中に居れば安全なのに。幻想郷に行くのだって、あと数日かかる。それまでに消えない保証は無いだろうに。なんで。なんで拒むの。

 

「意味わかんない。……スクリタ。もうこのまま私に吸われて。あと数日、私の中に居れば安全だよ」

「……ティアの中に居るだけデ、自分が自分じゃなくなル。中に居るだけで侵食されル。それが怖イ。だからアナタの中に居るのはイヤ」

「だから死ぬってのは私が嫌」

「死にたいわけでモ、死ぬわけでもなイ! ただワタシは……ワタシを大切にしたイ。これ以上自分を失いたくないかラ」

 

 私と一緒に居たら、スクリタがスクリタじゃなくなる? どういうことだろう。そんなに、私と一緒に居るのが嫌なのかな。私が居るとおかしくなっちゃうのかな。

 

「やっぱり……よくわかんないや。私は私。何も変わらない。アナタだって、きっと何も変わらないよ?」

「憶測でワタシは自分を賭けることができなイ。ワタシがアナタの中に居た時と今、全然違ウ。今のワタシは今が大切だかラ。戻るのはイヤ……」

「……はぁ。埒が明かないね。アナタは組み伏せられて抵抗できない。私はこのまま力づくで吸収することができる。有利なのは私って明らかだよね。なんでそれでも抵抗しようとするのかな、スクリタ」

 

 圧倒的な力の前じゃ何もできない。だから私は力が欲しい。スクリタだってわかってるはずなのに。

 

「……まだ負けてないかラ」

「あっそ。ほんと負けず嫌いだよね、うちの家族全員。……じゃあ、おやすみ」

 

 馬乗りになったスクリタの首に手を伸ばす。後は触れて、能力を行使するだけ。それだけで、スクリタを救える。

 

「ティア!」

 

 後ちょっとのところで私の思考を遮る声。何も悪いことはしてないのに、思わずビクッと身体が震えて、止まってしまった。

 

「……お姉ちゃん」

 

 扉の前に居たのはお姉ちゃん。そういえばもうすぐご飯だった。運悪く呼びに来ちゃったらしい。あ、ううん。別に私は悪いことしてないから、怖がる必要ないんだけど。今この状況、傍から見ると勘違いされそうだし。

 

「何してるの? ティア、スクリタ」

「スクリタの力が消えてきてるの。だから吸収しようとしてるんだよ、お姉ちゃん」

「あー……バレたんだ、スクリタ。それで騒動一歩手前になってるんだね。……うん、ごめん。私も残り数日ってなって気が抜けてたかも」

 

 あの言い方。それにこの落ち着いた反応。ああ、お姉ちゃんは知ってたんだ。

 

「お姉ちゃんも知ってたんだ。なんで言ってくれなかったの?」

「ティアだって私に秘密にしてることあるよね? それに私はお姉ちゃんだから。できる限り妹の要望には応えたかったからね。黙っててごめんね、ティア」

「……お姉ちゃんの意地悪。でもいいや。お姉ちゃんに説明する手間が省けたから。ねぇ、このまま吸っちゃっていいよね?」

 

 スクリタの首に手をかけつつ、お姉ちゃんに疑問を投げかける。

 

「ダメ。私が行くまでの数日間必ず持たせると約束する。それまで一緒に居て、本当に危なくなったら吸収してでも遅くないでしょ? それじゃダメ?」

「むぅ……お姉ちゃんは私よりスクリタの方が好きなの?」

「どっちも好きだからこう言ってるの。スクリタが死なず、ティアに吸収されない。どっちの願いも叶うでしょ?」

「…………」

 

 その通りだけど、それだと確実じゃないのに。……でも、お姉ちゃんを敵に回したくない。だって私の願いは……うん。私の『今の願い』はスクリタが死なないこと。なら、それを優先しよう。私の願いのためにも。

 

「分かった……。でもね。毎日妖力だけ渡し続けていい? スクリタが消えないように」

「フランを介してなラ……ううン。やっぱり直接でいいヨ。信用してないみたいで悪い気がすル……シ」

「そっか。なら、いいよ。お姉ちゃんに免じて、妖力を渡すだけにするね」

「うン、約束するヨ」

 

 その言葉を聞いて、スクリタの上から退き、首から手を離す。スクリタの手を引っ張って、彼女を起こした。

 

「……ん。一応仲直り……だよね? ならご飯の時間だし行こっか」

「うん……分かった」

「うン」

 

 一先ずはこれでいい。本当に危険な時はスクリタを吸収しよう。幻想郷に行くまで、ずっと私の中に居れば安全だろうから。ただ、今しばらくは、傍に居てあげないとね──────

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