東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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78話「刺激的な移転」☆

 ──Remilia Scarlet──

 

「パチェ、準備は終わった?」

「ええ。終わったわ。私の体調もすこぶるいい。後は貴女の指示次第」

「そう。分かったわ」

 

 紅魔館を囲むように描かれた魔法陣。パチェや咲夜、それに妹達が協力して制作してくれたもの。そして、紅魔館そのものを幻想郷へと転移するためのものだ。咲夜が来てくれたことによって容易となった転移魔術。それの準備が終わり、後は実行するのみとなった今日。ようやく時代に取り残されることがなくなり、私達に合った時代へと向かえる。

 

「確認するわね。転移はお昼……太陽が一番高くなった時間でいいのよね?」

「ええ。もう少し詳しく話すと12時くらいね。転移は即座に開始されるように設定してるから、あっちには日が暮れる少し前頃に着く計算ね。先に言っておくけど、多少の誤差はあるわよ?」

「それは構わないわよ。多少の誤差なら修正が効くでしょうから。あっちが夜なら例え戦争になったとしても動きやすいしね。可能なら話し合いで片付くといいのだけど」

 

 吸血鬼という種族はプライドが強い。これはほとんどの吸血鬼に共通して、厄介なものだ。

 

「以前も戦争したのよね? 貴方達家族は」

「ええ。人間とね。……それを思うと、本当は戦争なんてしないに越したことはないんだけどねえ」

 

 それでも、家族のためだから。万が一の時は、私が……。

 

「お嬢様。ただいま戻りました」

「おかえり」

 

 館内の見回りに行かせた咲夜が帰ってきた。とてつもなく広いこの館を短時間で見て回れるのは、世界広しといえどもこの子くらいだろう。

 

「咲夜。みんな館に居たかしら?」

「はい。妹様は地下のお部屋に。美鈴も休憩を与え、自室にて待機させてます。それとお客様の吸血鬼や魔女も客室に招いています。お嬢様と同様に日が昇っているからか、吸血鬼の皆さん睡眠中みたいですけど」

「あら、私は平気よ? 見ての通りね」

 

 プライドの高い種族である吸血鬼がこんなにも私の館に集まるなんて想像していなかった。もちろんミフネアが集めた吸血鬼全員がここにいるわけじゃなく、一部はミフネアと同様に別ルートからの侵入。結果的に全部で三桁近く集まり、20人くらいが別ルートで潜入する予定だ。それにしても、未だにこれだけの吸血鬼が生きていたのは驚きだ。ここに来て姿を現したのは、それだけみんな今の時代に危機感を覚えているからだろう。

 

「そうでしょうか? しかし、お嬢様が一番若いとばかり思っていましたが、そうでもないのですね」

「ええ。私もティアより幼い吸血鬼が多いとは思ってなかったわ。20は居たわよね?」

「はい。集まったうちの20と数名がティア様より若い吸血鬼でした」

 

 ミフネアが集めた吸血鬼は若い吸血鬼が多い。私を主導者にする理由は当初、責任転嫁だと思っていた。しかし、実際は自分に自信のない若い子が多いだけなのかもしれない。私の父と同世代の有力者は既に息絶えていることが多く、そうでなくても自分の力を捨てて人に混ざることを選んだ者が多かったようだ。それだけ、吸血鬼にとってはこの世界は住み心地が悪いということ。どれだけ力があっても、幻想が薄まった今の時代で生き抜けるほど吸血鬼は人間より強くないらしい。

 

「この若い世代を私がまとめないといけないのよねえ」

「きっとお父様と同年代の吸血鬼も生きてると思うんだけど。流石にその世代が居ても私みたいな若い吸血鬼に手を貸そうとか思うはずないわよねえ……」

「若くてもお嬢様のように力強い者は多いと思いますよ?」

「力だけならフランが一番よ。問題は指導力の方ね。妖精メイドならまだしも、同族をまとめた経験なんて無いわ」

 

 生まれてこの方、吸血鬼は家族以外交流が少なかったから。館の主としてまとめるのと、家族ではない他人をまとめるとでは訳が違う。今回に関しては、他人の命さえ握ることになるかもしれないのだから。

 

「お嬢様なら大丈夫ですよ。それとお嬢様。正午まで10分を切りましたよ」

「あら。もうそんな時間? ならもう出発しないとね。お別れ会はもう済ませたし、心残りは無いわよね?」

「私はございません。お嬢様の居るところが今の私の家ですから」

 

 本来は人間の刺客だった咲夜も、美鈴の手助けもあってしっかりしたメイド長になってくれた。今では妖精達をまとめ上げることができる唯一の人間だ。

 

「無いわ。元々未練なんて無かったから」

「そ、そう」

 

 パチェとの出会いは突然だった。だけど、今では数少ない家族になって、親友となった。半ば居候だけど、妹には言えないようなことも相談できる良き友だ。……たまに辛辣なのはご愛嬌だろうか。

 

「でもそうね」

「うん?」

「ここに居るのは居心地がいいわ。だから付いて行くわよ。何処までもね」

「ふーん……嬉しいこと言うじゃない」

 

 ここに居るのは私の家族。家族のためなら、私はなんだってできる。……もちろん限度はあるけど。ただ、できることなら戦争は避けたい。平和に終われるなら、それに超したことはないから。

 

「さて。パチェ、転移魔術をお願い。『引越し』するわよ」

「ええ。衝撃とかは無いだろうけど、備えなさいよ。あっちに着いたら何が起きるかは、まだ不確定なことが多いのだから」

 

 椅子から立ち上がり、魔導書を片手にパチェが詠唱を始める。と同時に、床から光の泡が(ほとばし)る。触れるとそれは、少しばかりの魔力を感じた。

 

「なんだか綺麗ですね」

「なんなの? これは」

「転移するために館中に溜めていた魔力が溢れているだけよ。害はないわ」

「ふーん……。咲夜。着いたらまずは周囲の安全確認。終わったら同族含めみんなを起こしてちょうだい。まあ、これだけ光が見えれば何人かはおきそうだけどね」

「了解しました」

 

 次第に光の泡は多くなり、それが集まって眩い光となる。それは一瞬だけ、目の前に居る彼女らの顔が見えなくなるほどの強い光となって辺りを包み込んだ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Hamartia Scarlet──

 

 ミフネアが集めた吸血鬼達は84人。そのうちお姉様が家に招いたのは65人。お姉様は数えるのが面倒なのか、三桁近くとしか言わないけど。まぁそれはともかく。こんなにも吸血鬼が集まってくれたのは私も嬉しい。あっちで利用できる駒は多い方がいいからね。いっぱいあった方が替えも効くし、いっぱいあった方が私好みなのも増えていくから。

 

 私は正直なところ、お姉様が好きだ。それにお姉ちゃんも好き。美鈴もパチュリーも。スクリタや咲夜だって。家族が好き。家族だけじゃなくてスィスィアやミフネア、ウロとかイラという友達も。みんな好き。多分……ううん。絶対にそれだけじゃ収まらない。()()()()()()()()()()()()()()。人も物も、他の何かも。私は強欲だから。だから、あっちに行っても好きなものを手に入れるために。そして何よりも、好きなものを守るために。私はなんだってやってみせる。

 

「この娘も優しそうだなぁ」

 

 そして今、私は1人の吸血鬼の前にいる。1人用の客室にあるベッドで眠る名前も知らない吸血鬼の少女。彼女の髪にそっと触れる。肌触りが良くて、それにいい香りもする。なんのシャンプー使ってるのかな。

 

「んぅん……へ……?」

 

 薄らと目を開いた彼女と目が合う。その瞳に反射した私の顔は、いつも通り笑顔に満ちている。

 

「おはよう。私はティア。貴女は?」

「え……? あ、えっと……イレアナ。イレアナ・エグゼンシュです」

「イレアナエグ……噛みそうな名前だねー」

 

 まるで早口言葉みたい。私の名前ってまだ言いやすい方なんだなぁ、って。

 

「貴女は……レミリアさんの妹さん……ですよね? お名前はお伺いしています。こんな朝早くにどうしたんですか? まだ休憩しててもいいと聞きましたが……」

 

 彼女も招かれた吸血鬼の中の1人。大人しそうで、可愛らしい。薄い黄色髪の女の子。この子も私よりも若そう。意外と多いのかな。私よりも若い子って。

 

「うん。私用で来たんだ。それにしても……可愛い眼。珍しい色だね」

「は、はい……」

 

 恥ずかしそうに目を逸らしてる。吸血鬼はみんな紅眼なのに、この子は珍しい青い色。とても綺麗で、吸い込まれそうなほど綺麗な色。これを見てると、なんだか嬉しい気持ちになってくる。

 

「君は何歳? 答えてくれる子って意外と少ないけど、貴女はなんだか答えてくれそうだねっ」

「えっ。えっと……今年で250くらいで……。あの。ティアさんはどういう用事で……?」

「ふふっ。なんだと思うー?」

「ふぇっ!? あ、あの……?」

 

 頭を撫でて様子を見ると、少し恥ずかしそうに視線を外していた。内気なのかな。お姉様やお姉ちゃんとはまた違ったタイプの吸血鬼。ミフネアに近いかな。もう少し内気かな。凄く可愛いなぁ。この子も私のものにしよう。

 

「面白い子だねー。イレアナ、だっけ? 私貴女も好きだなぁ。私のモノにしたい」

「好きぃ!? えっ、あっその……!?」

「可愛いねぇ。……じゃあ、用事を終わらせないとね」

 

 頭に触れたまま能力を行使する。能力は何も無い。珍しくないけど、ちょっとだけ残念。集めた吸血鬼の中で能力を持ってる子は、かなり少ないらしい。

 

「ど、どうしたんです……?」

「ううん、何も。じゃあ、おやすみなさい。イレアナちゃん」

「ほえ──」

 

 意識を奪うと、彼女は糸が切れた人形のように横になる。このまま食べても美味しそうだけど、今は我慢。みんなのために、やるべきことをやらないと。

 

「イレアナちゃん、ごめんね。でも大丈夫。何も怖くないよ。だって、酷い記憶は残らないようにするからねっ」

 

 循環性はゼロに戻す力。永続性は破壊と創造。始原性は始まりを司る。無限性は永遠を。完全性は文字通り。……これだけあれば事足りる。でもね。全部龍のモノだから。私にあるのは北欧の魔術と奪う力だけ。龍の力を権能として機能させるには、幻想郷に行かないと。本領発揮は、そこじゃないとできない。

 

「もう聞こえないと思うけど。貴女の意識を貰って、新しい意識の『種』だけ創造して埋めておいたの。私が幻想郷に行けば開花する種。あっちに行けば私の思うまま動く人形になってもらうよ。……安心してね。全部終わったら元通り。それに……貴女だけじゃないから、心細くもないよっ」

 

 眠った彼女の頭を一撫でしてから、次の部屋に向かう。幻想郷も私のモノにしたいから。そのための人形を増やすために────




長い間お待たせしました。
ようやく戻って参りましたが書き溜めが終わっているのでこのまま最終話まで一直線。
最後までお付き合いくださいませ


イレアナ・エグゼンシュ……モブ吸血鬼代表の娘

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