東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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最終章「罪な妹の告白録」
79話「美麗な理想郷」


 ──Remilia Scarlet──

 

「……終わったの?」

 

 光が包まれたのは一瞬の出来事。それが終わると、書斎は普段通り何の変哲も無い部屋に戻った。この部屋には窓が無いから、外の様子は分からない。そもそもこの館自体、吸血鬼の館だから窓は少ないのだけれど。

 

「ええ。……魔力の濃さが段違いだから、転移は無事終わったみたいね」

 

 パチェは何らかの器具を見つつそう話す。恐らくは魔力の計測器か何かだろう。

 

「レミィも感じない? 妖力とかで。私はそっちの方、あまり分からないのだけれど」

「そうねえ……」

 

 言われて感覚を研ぎ澄ませる。なんとなく感じるのは、今までにない新鮮な空気。空気が澄んでいるというより、魔力やら妖力がいつも以上に濃いからだ。そのためか、力が漲ってくる。今ならなんでもできると錯覚するほどに。

 

「さっきと段違い、ね。ここはもう故郷じゃない別の場所なのね」

 

 そう実感すると、なんだか感傷に浸りたくなってきた。けど、まずは当主としてやるべきことがある。

 

「咲夜。外の確認をお願い。ついでに美鈴も起こして見張らせておきなさい。念のためにね。パチェは紅魔館に結界を張っておいて。何があってもいいように」

「はい」

「任せなさい」

 

 咲夜は瞬く間に消え去り、パチェも書物を手に取り準備に入る。咲夜に外の状況を聞いた後は外で待っているであろう吸血鬼と合流して、私も外の様子を見に行こう。向こう側から何かアクションがあるかもしれないけど、待ちに徹するのは万が一の時に遅れを取る。

 

「お姉様」

「あら、フラン。それにスクリタも」

 

 咲夜よりも先に妹2人が部屋に入ってきた。転移前は確かに寝ていたはずだから、移動で目が覚めたのだろう。あの光凄く眩し……あれ、2人? 

 

「ティアは何処? 一緒じゃないの?」

「眩しくて起きた時にはもう居なかっタ。先に行ってると思って来たけド、来てないノ?」

「ええ。見てないわね……」

 

 咲夜によると地下に居たはず。館の中で、しかも転移して10分も経ってない。なら、危険な目に遭うわけない。きっと先に起きて魔女の部屋にでも遊びに行ってるのだろう。後で咲夜に確認してもらえばいいか。

 

「だけど、ティアなら大丈夫よ。あの娘は強いし。にしてもいつになく元気ね、スクリタ」

「うン。この世界凄く満ちてるからネ」

「レミィ。張り終わったわよ。誰か入ってきたらわかるし、異変があればわかる。もう中は安心ね。結界が壊されたりしない限りは」

 

 壊されたりなんて、パチェも不穏なことを言う。敵対勢力が居るかもわからない現状、その不安ももっともだけど。あまり口に出して、妹を不安がらせるわけにもいかない。

 

「うーん……ティアが心配だし、ちょっと探してくる」

 

 なんて思ってると、その不安が伝播したのかフランが熟考の末に話す。

 

「ワタシも付いてく。ここに居ても仕方なイ」

「心配ないと思うけどねえ。途中、お客さんに会ったらいい子にするのよ? 2人とも」

「はいはい。子どもじゃあるまいし大丈夫だよー」

「フランと同じク」

 

 2人は振り返ることもなく急いだ様子で部屋を出ていく。

 

「お嬢様。ただいま戻りました。外は日が沈み、既に真っ暗闇ですね。付近には霧がかってる湖と、視界が悪いですが近くに山や森があることは確認できました」

「そう、ありがとうね。美鈴は?」

「叩き起していつも通り表で見張らせています」

「そ、そう。もうちょっと美鈴に優しく、ね?」

「優しく叩き起こしたので大丈夫ですよ」

 

 それは大丈夫なのだろうか。真顔で話す咲夜にどことなく恐怖を感じる。よくできたメイドだけど、たまに見せる威圧感は私でもちゃんとしないと、って思わせるほどだ。

 

「お嬢様。お客様方はどうされますか? 廊下ではすれ違うことがなかったので、まだ眠っている方が多いと思われますが」

「え? あの光で起きないなんて……」

 

 転移前は日中、それも正午だったから、今もまだ睡魔に勝てないというのはわかる。だけど吸血鬼は夜に生きる生物。あれほど眩い光が館中を覆ったのだ。光を嫌う吸血鬼が1人も反応しないのは不可解だ。

 

「何かあるのかしら。咲夜、適当な吸血鬼が居る部屋を確認してきて。異常があればすぐに知らせて」

「承知しました」

 

 私の指示を受けて、咲夜は瞬時にその姿を消す。

 

「レミィ? どうかしたの?」

「吸血鬼ってね、日光が嫌いなのよ」

「ええ。この窓1つ無い館を見ればわかるけど」

「それは言い過ぎ」

 

 窓は少ないだけであるにはある。私の部屋とか地下とか、吸血鬼である私達がメインで生活する場所に無いだけ。一部の廊下など、カーテンで遮られてる場所もあるしね。

 

「話を戻すとね。光に敏感なのよ。吸血鬼って。それが弱点だから。それなのに光に反応しないなんておかしくないかしら」

「私はそれでも寝るけどね。一瞬眩しくなっただけだから。ただそうね。誰も起きてこないというのは不自然だわ。魔力の違い、妖力の違い。それに眠ってて気付けないほど鈍感な種族じゃないでしょう?」

 

 パチェの言う通り、私がここへ来た時に感じた世界の違いを、他の吸血鬼に知覚できないわけない。もしかして、何か良くないことでも起きてるんじゃ──

 

「お姉様! 大変!」

「フラン?」

 

 突然。フランが勢いよく扉を開ける。その顔は不安に顔を曇らせてる。

 

「ティア、どこにも居ないの! 色んな場所探したけど、ティアが居そうな場所にはどこにも……!」

「……え?」

 

 どうしてティアが? そんな疑問が何故か、泡のように突然現れ、消えた。

 

「今もスクリタがメイドの子と一緒に探してくれてるけど、見つからなくて……」

「あの魔女の部屋は? そこにも居なかったの?」

 

 嫌な予感が現実になりそう。ティアはたまに危ういことをするから。今回もそれと同じなのかもしれない。決まってそういう時は、私達のためになると思ってる時だけど。

 

「う、うん。魔女ってウロのことだよね? そもそも誰も居なかったよ。あの部屋には」

「それって本当に?」

「多分……。寝てるのかなってベッドも確認したけど居なかったし……」

 

 両方一緒に消えたということは、どちらか一方が唆したか。それとも共謀か。どちらにせよ、問題はどのタイミングで消えたか、かしら。咲夜が転移前に確認してたはずだから、恐らくはこっちに来た後。咲夜が見間違えたり騙されるはずはないから、前の世界に置いていかれた可能性は捨てる。きっとこの世界のどこかに居る。転移してからフランらが起きるまでの短時間で、どうやって消えたかはわからないけど。

 

「お姉様! どうすればいいと思う……?」

 

 フランの不安でいっぱいな顔が覗き込む。こんな顔をするのはいつ以来だろう。今まで見ないようにしていたのに。どうしていつも、あの娘は姉を心配させるのか。そろそろ本気で叱ってあげた方がいいのかしらね。

 

「まずは落ち着きなさい。ティアは強くて……それでいて頑固な娘よ? 姉の貴女が不安がってちゃティアに会った時心配させちゃうわ」

「う、うん……」

「それにこっちの世界に居るのは間違いないはずよ」

「……本当にそう言えるの?」

 

 何百年も一緒だったからこそわかることがある。これは憶測でしかない。だけど、確かな実感。ティアは……私達家族を大切にして、愛してる。いつも寝る時は誰かと一緒に居る寂しがり屋が、私達と離れた場所に居るはずがない。きっと、願えばすぐにでも会える場所に居る。

 

「ええ。だって家族だもの。あの娘が私達の居ない世界に行くはずがないでしょう?」

「うん……。それも、そっか」

 

 フランの顔にも安心が戻る。ただちょっと頬が赤い気がするけど、どうして照れてるのだろう、この娘。

 

「お嬢様、ただいま戻りました」

「おかえり。報告お願い」

 

 その場に前触れもなく現れる咲夜に話を求める。この報告次第で、もしかしたら何を企んでいるかわかるかもしれない。

 

「お客様が滞在する部屋を全て確認してきました」

「適当な部屋で、異常があればすぐに知らせてとも言ったはずなのだけど……」

「結論から申しますと、誰一人として居ませんでした。霧のように消えていました」

 

 私のこと華麗にスルーしてる。ただ情報は有り難い。この館にはもう私達以外残っていないようだ。この短時間で、全員消えてしまったというのは驚きだが。

 

「つまりティアを除く私達(家族)以外は跡形もなく消えてしまったのね。……パチェはどう思う?」

 

 親友に意見を伺う。正直なところ、この手の考察は得意分野ではない。だから私よりも知識がある人に話を聞いておきたい。

 

「今回集まったのってプライドが高いけど、今回のような非常時だと流されるまま付いてきた吸血鬼達でしょう?」

「言い方に悪意があるけどそうね。もしかしたら、私達よりも若い世代は吸血鬼特有のプライドが少ないかもしれないけど」

「なら、その吸血鬼がみんなを扇動して……というのは考えにくいわね。それにみんな一斉に消えるなんて、用意周到にも程があるわ。ということは以前から準備していたか、すぐに準備ができるようにしていた。全員が消えた理由…… 元凶が居る。しかしそれはここに来た吸血鬼じゃない」

 

 考えつく先は親友も同じで。そう、これはきっと私達家族の問題。唆されたのか、自分で思い付いたかはわからない。だけど、ティアはきっと自分が正しいと思えばどんなことも平気でやってしまうから。

 

「ならきっと、貴女の妹が黒幕でしょうね。もしかしたらティアの友達の魔女も関わってるかもしれないけど。私達を巻き込んでいないところを見るに、ティアの方が何か企んでやっている可能性は高いわね」

「パチュリー。いくらお姉様の親友だからって──」

「やめなさい。きっと行動を起こしたのはあの娘自身の意思よ。……どうしてか、なんて可能性をあげればキリがないわ。あの娘はなんだってやりかねないから」

「それは……うん。否定はできないけど……」

 

 ティアがそうなった原因は私達にあるのだろうけど。だからというわけじゃない。家族だからこそ、悪いことが起きる前に止めなければ。

 

「……行きましょうか。ティアを探しにね」

「うん! もちろん私も行くからね!」

「ええ。じゃあパチェ、ここの守りを」

「あら。私も行くわよ?」

 

 意外な言葉に口を開けてパチェを見つめる。まさかパチェが自ら率先して行こうとするなんて。

 

「どうして驚かれてるのかしら。そもそも探すって言ったって、アテはあるの?」

「それは……ないわね」

「でしょう? 人探しのための魔法くらい使えるわ。精度は高くないけど、アテがないよりは断然見つかりやすいはずよ。ここの防衛魔法は小悪魔に任せればいいわ。多分できるでしょうし、あの娘なら」

 

 投げやりに聞こえるけど、それだけ信用してるってことかしら。ああ、自分の使い魔だからという前提があるからか。

 

「じゃあフラン、パチェ。一緒に行きましょうか。咲夜、家をお願いね。ここの指揮は貴女に一任するわ。あまり大人数で行くと目立って仕方ないからねえ。スクリタや美鈴にもここを守るように伝えておいて。と言っても美鈴はそのまま仕事を続行するようなものね」

「ついでに小悪魔に私の仕事を引き継ぐようにも話しておいてちょうだい」

「承知しました」

 

 その言葉とともに咲夜の姿がふっと消える。ここは咲夜に任せていれば安心。ただ、ここに居る相手がどんな力を持っているかもわからないし、早く見つけるに越したことはない。

 

「パチェ、あの娘の大体の位置はわかるのかしら?」

「近付けばね。あの娘がもし魔法を使えばより正確にわかると思うわよ」

「そう。充分ね。……早速探しに行くわよ」

 

 ティアや魔女がどこに居るのか。それに吸血鬼が一斉に消えた理由もまだわかってない。それでも今はティアを探さないと、ね────

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