東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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84話「神出鬼没な妖怪」

 ──Izayoi Sakuya──

 

 私が紅魔館の裏側に向かった時には、スクリタ様と小悪魔の勝利で戦闘は終わってた。吸血鬼達は気絶した状態で、既に紅魔館に運び終えている。全員生きた状態だが、未だに目は覚めない。

 

「咲夜さん、そんな丁寧にしなくても……」

「怪我人は黙って手当てされなさい」

 

 吸血鬼はお嬢様が戻ってきた時に相談しよう。そう思って私は美鈴の部屋にいる。約束通り、彼女の様子を見に来たのだった。

 

「それと、元はと言えば怪我をした挙句に雑な処置で済まそうとする貴女が悪いのよ。わざわざ来てやってあげてるんだから感謝しなさい」

「あはは……。ありがとうございます、咲夜さん」

「ええ。このまま大人しくされてなさいよ」

 

 大きな怪我を負ったのに、これだけ喋れるほど回復してるなんて。流石妖怪。私みたいな人間なら死んでもおかしくない。改めて実感する。美鈴は私とは違う生き物なんだ、って。

 

「……成長しましたね、咲夜さん」

「急にどうしたのよ」

 

 物思いにふけてると、突拍子もなく呟く声が聞こえた。成長だなんて。私は昔から何も変わらないと思うけど。

 

「さっき助けられた時も思ったんですけどね。昔はお嬢様くらい小さくて、ちょっと素っ気ない娘だと思ってました」

「はあ。……ちょっと後半失礼じゃない?」

「いえ! 悪い意味じゃないですよ!」

「素っ気ないをいい意味に捉えろと?」

 

 それってかなり無理があるんじゃない? という顔をすると、美鈴は誤魔化すように笑う。

 

「それで……そんな咲夜さんが、今はこうして私の手当てをしてくれてる、って思うとなんだか嬉しくて。『ああ、成長したなぁ』って。私……咲夜さんを後任に推して正解でした」

「……え? 貴女が私を推したの?」

「あれ。言ってませんでしたっけ?」

「ええ。初めて聞いた」

 

 お嬢様が美鈴に1つの仕事に専念できるように配慮した、とばかり思ってた。まさか美鈴から申し出ていたとは。やはり、私が彼女に抱いてたものは、最初から何も違わなかったらしい。

 

「……貴女は本当に変わらないわね、美鈴。出会った時から何も変わってない」

「そ、そんなー! 少しくらい成長してますよー!」

「ふふ。……お願いだから、そのままでいてね、美鈴」

「このまま成長するなってことですかー!?」

「ふふふっ……」

 

 勘違いする美鈴がなんだか面白くて。思わず笑みが溢れる。

 

「ど、どうして笑ってるんですか?」

「いえ。なんでもないわよ」

「そ、そうですか」

 

 初めて出会った時、彼女は私の妖怪への認識を変えてくれた。思えば私がこの館にこうして馴染んでるのも、彼女のお陰である部分が大きい。だから、本来お礼を言うべきなのは私の方。

 

「……ありがとうね、美鈴」

 

 お礼を言うには気恥ずかしくて。聞こえるかどうかの小さな声で呟く。

 

「え? 今──」

「なんでもないわよ。……ほら、これで終わり。このまましばらく休憩してなさいよ?」

「は、はい」

「メイド長! 失礼しますっ。お嬢様達が帰ってきました!」

 

 汗をかくほど急いで来たらしい妖精メイドが勢いよく扉を開ける。時間にして一時間も経ってない。もう見つけたとは思えないから何かあったと考えるべきね。

 

「はい、すぐ行きます。美鈴は安静にしておくこと。いい?」

「わ、わかってますよー」

 

 美鈴の部屋を後にし、私はお嬢様の元へと向かう────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Remilia Scarlet──

 

 帰ってくると真っ先に出迎えてくれたのは妖精メイドだった。普段美鈴が居る場所に彼女達は居て、代わりにいつも居るはずの美鈴が居ない。

 

「お嬢様。お帰りなさいませ」

「ええ、ただいま」

 

 そして館まで入ると、いつも通り咲夜が出迎えてくれた。その佇まいは普段と変わりない。

 

「咲夜。美鈴の姿がないようだけど」

「美鈴は吸血鬼達の襲撃により怪我を負いました。現在休養中でございます」

「美鈴が……。大丈夫なの?」

「はい。命に別状はありません」

 

 特に問題ないようで一安心。怪我は負ったが門は守り切ったということね。流石私の門番だわ。

 

「……それでお嬢様。そちらの方は?」

「こちらは八雲紫。こちらの世界のお客様よ」

「ご紹介に与りました八雲紫ですわ。……よろしくお願いしますね、人間さん」

 

 紫がそう言うと、咲夜は怪訝な目を彼女に向けていた。きっと私と同じように胡散臭いと思ってるんだろう。

 

「さて、ゆっくりお話しましょう。今後の私達の関係のためにも、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中で見つけた吸血鬼を運び終えた後、私達は食卓に集まった。全員が入ってゆっくり話せる部屋となった時、一番手頃なのがここだった。

 

「それでさっきの続きお願いできるかしら」

「そうですわね……。まずどこからお話すればいいのやら」

 

 紫と先ほど話したメンバーに加え、咲夜とスクリタがこの部屋に同席している。美鈴は怪我を負ったから部屋で休憩中。小悪魔や妖精メイド達は吸血鬼の監視兼結界の維持でここには居ない。

 

「それならどうしてティアが元凶だと思うのか教えてほしいんだけど」

 

 フランが食い気味に話に割って入る。ティアが悪く言われることを快く思ってないことがよくわかるわね。

 

「ええ。私は……言うなればこの世界を守る役目を担ってます。それ故に幻想郷を常に監視してまして。貴女の妹が吸血鬼に命令を出す瞬間を見てます。……まあこんなことを聞かなくても、心当たりはあるのでしょう?」

 

 全てを見透かしてるかのような怪しい瞳が私を一直線に捉える。その瞳を見てると、私の疑問や考えが読み取られてる気がした。

 

「吸血鬼の消えたタイミング。館と一緒に転移した者達とは別で、先に来ていた吸血鬼は貴方達が来るまでは何の変哲もなかった。そして貴方達が来たと同時に消えた吸血鬼と貴女の妹。対してあの娘と関わりがあった貴方達が消えていない。……状況としては、怪しいと感じるはずでしょうが……どうでしょう?」

「……そうねえ」

 

 本当はわかってる。ティアじゃないなら、あの魔女かこっちの妖怪。だけどそれだと私達も消えてる。可能性として残るのはティアだけと。目の前の妖怪が胡散臭いのは拭えないけど、嘘を言ってるようにも見えない。

 

「お嬢様。私からも一言いいでしょうか」

「……いいわよ。何かしら、咲夜」

「これは美鈴から聞いた話ですが……襲撃してきた吸血鬼の中に1人だけ明確に言葉を発した者が居るそうです。それも、ティア様の喋り方だったらしくて……」

 

 もはやティアが確定したと言ってるようなものじゃないかしら、それって。……でも、正直ティアならやりかねないとは思ってる。だけど認めたくないという気持ちが強い。

 

「もしティアが犯人として、貴女はどうするつもりなのかしら。この世界を守る役目があるなら……やっぱり罰を与えるの?」

 

 おそらくこの妖怪がこの世界の守護者……というか、管理者っていう印象が強いわね。それなら、管理外且つ外からの侵略者であるティアを許すわけがない。

 

「いいえ。先ほども話した通り……あの娘に危害を加えるつもりはありませんわ」

「えっ?」

「うン? 今のティア、ここにとって悪いことしてるんじゃないノ?」

「それは見方によって変わります」

 

 他人を操って侵略するってのはどう見ても害じゃないのかしら。そんな疑問を持つと、紫は薄らと微笑んだ。

 

「今回の場合は特にそうです。彼女が操る吸血鬼による人間への被害はゼロ。そして妖怪の死亡者も出ていませんわ」

「それは……どうして?」

「さあ。それは私にもわかりませんね」

 

 ティアは……敵と認識したら容赦のない妹だと思ってる。ただ結構強欲な部分もあるのよね。……いや。やっぱりどうしてかわからないわね。

 

「それと私自身、固定化された幻想郷よりも変化があり、夢のある幻想郷を期待してますの。あの娘が今してることは、良くも悪くもこの世界に棲む妖怪に変化をもたらす。……そう。『今してることは』ですけどね」

「含みのある言い方ね」

 

 どうやら何か思うところがあるらしい。きっとそれは、ティアに関係したこと。

 

「私が貴方達の前に現れた理由は交渉のため。あの娘がしようとしていることは……幻想郷の生物を全て不老不死にすることですわ」

「不老不死……え。不老不死?」

「あの娘、ただの吸血鬼だよ? そんなことできるの?」

 

 フランが不思議そうに問いただす。これまた突拍子もないほど盛大な計画だ。でも、私にはわかる。思い当たる節がある。ティアがそれを目指したきっかけが。

 

「彼女はこの世界の創造神様に会って叶えるつもりでしょう。……ただ、できるできないなんて些細なこと。問題はそれを実行しようとしていること。それは私の理念とは相反するものです。それを仲間である貴方達が止めてくれるなら、今してることは不問にしましょう」

「その言い方……これからしようとしてることは不問にしないのかしら?」

「それは終わればあの娘と決めること。ただご安心ください。死ぬことも、あの娘と会えなくなることもありませんわ」

 

 まだ決まってないのね。終わった後……ティアの気持ち次第というわけかしら。

 

「他にご質問は?」

「じゃあもう1つだけ。もしその交渉を断ればどうなるの?」

「それはご自分でお考えください」

 

 瞬間、その場に垂れ流されるとてつもない量の妖力。突然のことに周囲がザワつく。警戒すら意味をなさないと思えるほどの妖力だ。拒否権はないと言ってるようなものね。

 

「ああ、もちろんこの異変が終わり次第、ここを居住地とすることも構いませんわ。ただ、その見返りとして、この異変が終わったら少しばかり手を貸してもらいますけどね?」

「ふーん……。少し相談していいかしら」

「ええ、もちろんいいですわ。もし条件を飲むなら山の頂上を目指しなさい。その先にあの娘が目指すものがあり、あの娘もそこへ向かってます。少し話したとしても、間に合うでしょうから」

 

 そう言って立ち上がり──空を撫でる。すると何もない虚無から空間の隙間のような何かが現れた。空間の中を覗けば、無数の目が私を見つめてる。ずっと見てると気味が悪い。

 

「……うん? 貴女、返答は聞かないつもり?」

「ええ。そろそろ時間ですので。これから半日ほど用事がありまして。答えはその後……実際に目にしますわ」

 

 そう言って隙間の中へと入り、消える。その場には隙間も紫の姿もない。あんな力を持ってるのを見ると、幻想郷中を監視してるのもあながち嘘ではないと思えてしまう。

 

「お姉様……あんな胡散臭い奴信用するの?」

 

 フランは未だに怪訝な目で私を見つめてる。どれだけティアのことを想ってるかよくわかる。

 

「フランはイヤ? あの妖怪の話に乗るのは」

「だって全部とはいかなくても嘘かもしれないじゃん」

「あの力を見る限り嘘なんて必要ないじゃない。私達はこの世界にとって部外者。わざわざ交渉なんてしなくても、大義名分なんて幾らでもあるのよ」

 

 そしていつでも私達を簡単に倒せる。ティアに好き勝手させてるのも、私達の侵入を許したのも。いつ対処しようが関係ないから。いつだって……私達を排除できるから、なんだろう。

 

「それで? レミィはどうするつもり? あの娘の目的を聞かされてもさほど動じなかったけど。何をするか決めてあるんでしょう?」

「まあ……。ティアの目的が私の思う侵略とは大きくズレてたわ」

 

 力で捩じ伏せるだけの侵略だと思ってた。力で侵略し、支配しようとしているのだと。だけどそれはあの紫という妖怪を見て、不可能に近いことだと思い知った。場合によっては同じことをやろうとしていた私に言えることじゃないけど。

 

「一度死んだ身ながら思うことは、不老不死なんてなりたいと思わないってことね。死なないことが当たり前の世界で生きていても楽しくないわ。……目新しいのは最初だけ。生きてるだけで何も変わらないもの。いずれ後悔するのが目に見えてるわ」

 

 例えティアがそれを願うきっかけが私にあるとしても。妹には後悔する人生を歩ませたくないから。

 

「私はそうなってほしくないから止めるわよ」

「じゃあレミィは止める派ね。私は不老不死に興味がないわけじゃないけど……親友がする方に賭けるわよ」

「ありがと、パチェ」

 

 パチェとはもう長い付き合いになる。かける言葉は少なくても、

 

「咲夜はどう?」

「私もお嬢様に従います。美鈴もきっと同じことを言うでしょう。ああ、あとこれは私事ですが、私は人間で不老不死になりたいとは思いませんので。どうかティア様をお止めください」

「え、ええ」

 

 咲夜……本当に嫌そうな顔で話してる。人間にとって不老不死というものは夢のようなものと記憶してるけど、どうやら咲夜には違うらしい。価値観の違い、というやつかしら。

 

「……ワタシはティアに借りがあル。今自由なのモ、生きてるのモ。みんなティアのお陰でティアの責任。ティアが大切にしてくれるのは有り難いと思うけド……束縛されるのは嫌いだかラ。ワタシは自由が好きだからティアを止めたイ」

「不老不死が束縛ね。人に生き方を決められるって意味だと本当に束縛なのかも?」

「ワタシはそう思ってル。フランはどう思ウ?」

 

 みんなの視線がフランに集まる。フランは少し考えたあと、いつもと違わない表情で口を開いた。

 

「私はね。……ティアを止めるかどうかなんて、正直どうでもいいや」

「えッ?」

「ティアの夢がダメとは思えないから。だってティア、お姉様が目の前で死にかけて……ってか死んで。それで目指したんじゃない? 不老不死を」

「……きっとそうね」

 

 フランもわかってた。当たり前ね。ティアと一緒に居る時間だけで言うと、この中だと一番フランが長い。それに、関係としても……一番深いかもしれないわね。

 

「大切な人を失いたくないから。原動力なんて単純でいいんだよ、あの娘。大切なのは自分がやりたいかどうかだし」

「じゃあフランは止めなイ?」

 

 スクリタの疑問に、フランは小さく横に首を振る。

 

「私さー。いつ死ぬかわかんないから毎日が特別だと思ってるの。いつ失うかわかんないから、一緒に居る時間を大切にしたいって思うんじゃないかな、って。もちろんティアが私の考えと同じじゃないってわかってるよ。それでもさ。ティアにとってこの何気ない日常は楽しいって思わなかったのかな。……そう思うとちょっぴり寂しいよね」

 

 フランはいつもと変わらない。そりゃあそうね。だってフランが一番……『いつも通り』を大切にして、一番好きみたいだから。

 

「だからティアに会いに行くよ。止めるかどうかはともかく。私はティアに言いたいことがあるし。それで例え私がティアと喧嘩しても、きっといつも通り仲直りして終わるけどね」

 

 フランの自信満々な笑み。フランには確信があるらしい。私よりもティアのことを知ってる、みたいな顔で妬ましいわね。

 

「あの」

「……そういえばミフネア居たね。忘れてた」

「え、えぇ……」

 

 フランのトゲのある言葉にたじろぐミフネア。理由はわかる。ティアを奪われたくない、という独占力ね。……ちなみに最初から居たの、私は忘れてないわよ。

 

「えっと。話に割り込むようですいません。僕も行かせてください。妹が彼女の元に向かったならきっと一緒に居ますし、友人としてこれ以上危険な目に遭う前に……ティアさんを止めたいです」

「だって。お姉様どうする?」

「好きになさい。止める権利なんてないわよ、私には」

 

 彼は恋心からティアのことを心配し、止めたいだけ。だから、ティアに害を及ぼすわけじゃない。それを邪魔するつもりはない。恋心については……ティアが了承するまでは認めるつもりもないけどね。フランはどうか知らないけど。

 

「ありがとうございます、レミリアさん!」

「お礼はいいわよ、別に」

 

 考えはそれぞれ違うけど、やっぱり家族への思いは同じ。それを知れたのが今一番嬉しいかもしれない。

 

「よし。決定ね。みんな。山の頂上を目指しましょうか」

「お嬢様。美鈴が負傷したため、私まで離れるとこの館が無防備になってしまいます。なので私はここに留まろうと思いますが、よろしいですか?」

「ええ。じゃあ家をお願いね、咲夜」

 

 美鈴は負傷して、代わりに咲夜が館を守るから2人はお留守番。小悪魔もきっと結界を維持するために残るから……。って、さっきとほとんどメンバー変わらないわね。

 

「……行ってくるわね。咲夜」

「はい。行ってらっしゃいませ、お嬢様。今度こそ、ティア様と一緒にお帰りください」

 

 その言葉を受けて、私は最後の探索に向かう。またいつも通りみんな一緒に笑うため────

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