時系列的には運命的な少女の後ですね。
ではまあ、お暇な時にでも
──Hamartia Scarlet──
初めてお姉ちゃんと一緒に寝る。これほど嬉しいことはないけど、少しだけ気まずい。いつかは
「ティア、どうしたの? 早く寝ようよー」
「う、うん⋯⋯」
私の心なんて気付くはずのないお姉ちゃんは、我先にとベッドに潜り込んでいた。すでに毛布を被り、ゆったりとして寝る準備を終えている。
そう言えば、私の部屋のはずだけど、お姉ちゃんはまるで自分の部屋みたいに過ごしている。そう言えば、昔見た本に同棲という言葉があった。愛し合った人が同じ家に住むというあれ。もしかして、すでにお姉ちゃんの方から──あ、違うか。元から同じ家に住んでいて、ずっと一緒に居るから遠慮してないだけか。⋯⋯残念だ。
「もぉー、早く寝ようってー」
「あっ⋯⋯」
お姉ちゃんが一向にベッドに入らない私を見かねて、私の手を引っ張って無理矢理ベッドの中に連れ込まれる。積極的なお姉ちゃんにより一層好きになってしまいそうになる。これ以上好きになったら、自分を止めれるかどうか分からないのに。⋯⋯ああ、でも、その時は止めれなくてもいっか。その時は、私をその気にさせたお姉ちゃんのせいということで。それなら、お姉ちゃんも悪いから嫌われないよね。⋯⋯うん、だんだん自分でも何を言ってるか分からなくなってきた。胸の鼓動が激しくなっているのが手を触れなくても分かるくらい緊張してる。今の私は、平常心を保つので精一杯の状態らしい。
「ほら、一緒に寝るとあったかいよ。今まで1人で寒かったよね? 寂しかったよね? でも、もう大丈夫。今日から私とずっと一緒だよ」
優しく言葉をかけられ、優しく抱擁され、その心地良さで心が落ち着く。お姉ちゃんは私の扱いをよく知ってるらしい。もしそうじゃなければ、今頃私はお姉ちゃんの首に噛み付いていた。ほんの数秒前までは食欲を我慢するので精一杯だったから。
「あ、嫌ならいつでも言ってね。強制はしないから」
「え⋯⋯い、嫌じゃない! ⋯⋯だからね、ずっと一緒に居て? お姉ちゃん⋯⋯」
「ふふっ、素直だね。好きだよ、そういうの。貴女が望む限り、私は貴女と共に居るわ。⋯⋯ただ、道だけは間違わないでね」
「道⋯⋯? タオ?」
一体どういうことだろう。もし道を間違えたら、お姉ちゃんは私のことを嫌いになるのかな。もしそうならその道を間違えたくはない。だからこそ、お姉ちゃんの言う道とは何かを知らないと。
「難しい言葉をよく知ってるね。変な本ばっかり読んでるでしょ? ま、間違ってはないよ。貴女が正しいと思う道。それが間違えている時もある。私達は悪魔だから。間違うのが世の通りなんだろうけど。それでも、貴女には間違ってほしくないの。自分を破滅に追い込むような道には進まないで。私が一緒に居るうちは間違わないようにさせるつもりだけど」
「⋯⋯一緒に居ないこともあるの? そんなのいや。お姉ちゃんとずっと一緒がいい」
できることなら、誰にも干渉されず、飢えも渇きもない世界でお姉ちゃんとずっと一緒に居たい。欲を言えばお姉様も一緒に。だから、お姉ちゃんやお姉様と一緒に居れない世界なんて価値がない。存在する意味もない。
「私もできるならずっと一緒に居たいよ。でも、何が起きるか分からないのが世の中だから。⋯⋯あ、そうだ。先に言っておくけど、私より先に死んだら一生恨むから。姉より先に死んでいい妹なんていない。少なくても、私よりは長生きしてよね。ティア」
「⋯⋯ううん。それはいや。お姉ちゃんが死ぬなら私も死ぬ。生きてる意味なんてない」
「ネガティブ過ぎない? 生きてる意味なんて必要なくていいよ。それでも、貴女に生きてほしいと願う人がいる。それだけは覚えてて」
そんなの、私にとってのお姉ちゃんと一緒じゃないか。そう言おうとしたけど、頭を撫でられて言う気がなくなってしまった。それに、お姉ちゃんの目が私にそう言わせるのを止めていた。悲しそうだけど、とっても力強い目。これを人間達は『決意の篭った目』とかで言い表すんだろう。私には⋯⋯よく分からない。どうして、そんな目ができるのか。どうして、そんな目を私に向けてくれるのか。
「さ、こんな暗い話はお終いにしよっか。もっと楽しい話をしよ? ティアは何の食べ物が好き? って、人間以外ないか。質問間違えた」
「お姉⋯⋯あ。うん、人間が好き。美味しいから」
「やっぱりそうだよねー。うーん、何の話をしよっかなぁ⋯⋯」
「⋯⋯お姉ちゃん、話はいい」
話を遮って、お姉ちゃんの肩を掴み、抑え込むようにして上に乗る。お姉ちゃんの顔の真横に両手を付き、鼻と鼻が触れ合うほど顔を近付ける。自分でも、何故こうしようと思ったのか分からないけど、至近距離でお姉ちゃんの目を見つめていると落ち着く。ただ、安心したかっただけなのかもしれない。お姉ちゃんの話で不安になったから⋯⋯。ああ、やっぱりお姉ちゃんのせいか。じゃあ、責任を取ってもらおう。
「あ、あの? ティアさん?」
「⋯⋯お姉ちゃんのせいで不安になっちゃったの。だから、責任取って」
「え、えっ? ティア⋯⋯?」
ここまでしたのはいいけど、さて、どうしようか。食べるのもいいけど、今はただ一緒に居たいだけ。お姉ちゃんが死ぬ話なんてするから。だから、今はただ一緒に居るだけにしよう。その温もりを、その肌を、感じるだけにしよう。
「今日はこのまま私の好きにさせて、ね?」
「えぇー⋯⋯ま、いいよ。さ、どうぞ、好きにしてください」
「ふふっ、ありがとう! じゃあ、好きにするね」
お姉ちゃんに許可を貰った。なら、善は急げ。早速好きにしよう。そう思って、私はお姉ちゃんを抱きしめる。この温もりは病み付きになる。いつもの1人でいる寒さはお姉ちゃんの体温で和らげられ、孤独の切なさは肌の感触によって消え失せる。やっぱり、ひとりぼっちは嫌いだ。お姉ちゃんが居てくれて、本当に良かった。生きてて⋯⋯良かった。
「⋯⋯抱きしめるだけでいいの?」
「うん、今日はこれだけでいいの。お姉ちゃんが居てくれるだけで、私は嬉しいから」
「⋯⋯ふ、ふふっ。ふふふ。可愛いヤツめー。私もティアが私の妹になってくれてとっても嬉しいよ。ほんと⋯⋯すっごく幸せ」
「私も⋯⋯幸せだよ。お姉ちゃん」
互いに温もりを感じながら、その気持ち良さに身を委ねるようにして目を瞑る。
今日は、本当に幸せな日になった────
──Frandre Scarlet──
「ティア、どうしたの? 早く寝ようよー」
「う、うん⋯⋯」
とても気まずい空気が流れている。一緒に寝ようとは言ったものの、ティアが恥ずかしがって寝ようとしない。いつもはあんなに甘えてくるのに、何を恥ずかしがる必要があるのか。でも、恥ずかしいということは、私のことを好きということの裏返し。ま、それでも一緒に寝ようと言ったからには、一緒に寝てもらうけど。
「もぉー、早く寝ようってー」
「あっ⋯⋯」
ティアの手を引っ張って、ベッドの中に連れ込む。そして、一緒に毛布を被り、心理的にも逃げられないようにする。肌が触れ合うほど近い距離感に、私の方も少しだけ緊張している。何故なら、私もティアのことが好きだから。一緒に寝ようと思ったのも能力云々は関係ない。もし私に能力が効いててもこうなることは時間の問題だった。それ程までに、私はティアを愛している。反応を見る限り相思相愛かもしれないけど、そこまで言う勇気はないから何も言えない。
「ほら、一緒に寝るとあったかいよ。今まで1人で寒かったよね? 寂しかったよね? でも、もう大丈夫。今日から私とずっと一緒だよ」
緊張して鼓動が高まるのを誤魔化すように、ティアの背中に手を回して抱きしめる。若干ティアの胸が邪魔になるけど、それも含めて好きな妹だから、今は良しとしよう。それにここまでして急に突き放したりするのも気が引ける。
「あ、嫌ならいつでも言ってね。強制はしないから」
「え⋯⋯い、嫌じゃない! ⋯⋯だからね、ずっと一緒に居て? お姉ちゃん⋯⋯」
顔をうずめて、聞き取りにくいほど小さな声でティアはそう言う。でも、幸運にも部屋は静かで、吸血鬼だから私の耳はとてもいい。恥ずかしがるその声も、ティアの胸の鼓動が徐々に落ち着いてくる音も聞こえている。良かった、どうやらティアの方も落ち着きを取り戻したらしい。じゃあ、私はお姉ちゃんだから、ティア以上に落ち着いていないとね。
「ふふっ、素直だね。好きだよ、そういうの。貴女が望む限り、私は貴女と共に居るわ。⋯⋯ただ、道だけは間違わないでね」
「道⋯⋯? タオ?」
タオ? ああ、ティアが見ていた神話とか宗教の本に載っている言葉かな。確か、人や物が通る道という意味の。詳しいことなんて興味はないから覚えてない。
「難しい言葉をよく知ってるね。変な本ばっかり読んでるでしょ? ま、間違ってはないよ。貴女が正しいと思う道。それが間違えている時もある。私達は悪魔だから。間違うのが世の通りなんだろうけど。それでも、貴女には間違ってほしくないの。自分を破滅に追い込むような道には進まないで。私が一緒に居るうちは間違わないようにさせるつもりだけど」
「⋯⋯一緒に居ないこともあるの? そんなのいや。お姉ちゃんとずっと一緒がいい」
凄く寂しそうで哀しそうな目を向けられ、話す言葉を間違えたと実感する。本当は心配とかかけたくなかったけど、過ぎたことは仕方ない。だから、何とかして落ち着かせよう。⋯⋯でも、そうだ。言っておかなきゃいけないことがある。今のティアは、私が考えるに、まだまだ子どもだから。
「私もできるならずっと一緒に居たいよ。でも、何が起きるか分からないのが世の中だから。⋯⋯あ、そうだ。先に言っておくけど、私より先に死んだら一生恨むから。姉より先に死んでいい妹なんていない。少なくても、私よりは長生きしてよね。ティア」
「⋯⋯ううん。それはいや。お姉ちゃんが死ぬなら私も死ぬ。生きてる意味なんてない」
案の定⋯⋯というより、思ったよりも深刻だった。そこまで言うか。いや、そこまで言うのも仕方ないのかな。ティアは私と出会うまでずっとひとりぼっちだったし⋯⋯私もその気持ちは分かるから。多分、生きているものはみんな、誰かと一緒にいないと生きていけない。それが知恵あるものなら尚更。
「ネガティブ過ぎない? 生きてる意味なんて必要なくていいよ。それでも、貴女に生きてほしいと願う人がいる。それだけは覚えてて。さ、こんな暗い話はお終いにしよっか。もっと楽しい話をしよ? ティアは何の食べ物が好き? って、人間以外ないか。質問間違えた」
「お姉⋯⋯あ。うん、人間が好き。美味しいから」
「やっぱりそうだよねー。うーん、何の話をしよっかなぁ⋯⋯」
想像した以上に暗くなってしまったから、明るくしようとしたけど流石に話題が適当すぎた。ティアの返事も曖昧だし、哀しそうな顔のままだ。さて、何か面白そうな話はないものか⋯⋯。
「⋯⋯お姉ちゃん、話はいい」
頭を抱えて考えていると、横に向いていた身体が突然上を向く。あまりに一瞬のことで、理解が追い付かない。
「あ、あの? ティアさん?」
思考を巡らせ、今の状況を確認する。何故かティアが私の肩を掴んで馬乗りになっている。顔は物凄く近いし、彼女の胸が当たってめちゃくちゃ窮屈に感じる。それと、見た目に反して意外と重い。
「⋯⋯お姉ちゃんのせいで不安になっちゃったの。だから、責任取って」
「え、えっ? ティア⋯⋯?」
ここまで積極的なティアも珍しい。ようやくその気になったみたいだ。それはそれで嬉しいけど、急展開過ぎて付いていけない。心の準備もまだだし、これじゃあ私が攻めたいのに、受け側に回ってしまいそう。それは姉のプライドが許さない。何とかして、ここから挽回を⋯⋯。
「今日はこのまま私の好きにさせて、ね?」
────。⋯⋯やっぱり、別にいっか。たまには受け手に回るのも良さそう。されるがままというのも、ティアが相手なら本望だ。
「えぇー⋯⋯ま、いいよ。さ、どうぞ、好きにしてください」
「ふふっ、ありがとう! じゃあ、好きにするね」
そう言ってティアが取った行動は、ただハグをするだけだった。想像していた『間違い』が起きず、少しだけ拍子抜けした。だけど、妹の肌の温もりや、小さくも荒い呼吸、何よりもその心臓の鼓動は愛する人の実感となって身に染みる。
「⋯⋯抱きしめるだけでいいの?」
「うん、今日はこれだけでいいの。お姉ちゃんが居てくれるだけで、私は嬉しいから」
その言葉に、私は嬉しさで胸がいっぱいになる。感情が溢れ、思わず笑みがこぼれてきた。
「⋯⋯ふ、ふふっ。ふふふ。可愛いヤツめー。私もティアが私の妹になってくれてとっても嬉しいよ。ほんと⋯⋯すっごく幸せ」
「私も⋯⋯幸せだよ。お姉ちゃん」
それを最後に、ティアは私の上で眠りについた。重たくてもティアを動かす気にはなれず、私もそのまま目を瞑る。いつもの孤独感を、ティアを抱きしめることによって紛らわして────
いつか、3人で寝れる日を思って寝る妹達。本編で早速叶っちゃってるわけですが(