東方罪妹録   作:百合好きなmerrick

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89話「最愛な妹へ」

 ──Frandre Scarlet──

 

 ティアとは長い付き合いになる。幼い頃にコアと一緒にティアに会って。でもその時は妹がいるなんて知らなかった私は、ただただティアが珍しくて。刹那的に物事を楽しむ私は一目見たティアを可愛いと思った。それから長い年月をかけて、想いが強くなって。可愛いから好きに。好きから愛してるに。そして、ティアに告白を促して。──未だにしてもらってない。

 

 ああ、ティアって意外と奥手なんだな、って思った。見るもの触るものみんな好きとか言っちゃうし、挙句の果てに食べようとするし。そんな妹が、告白だけは頑なにしてくれない。理由なんて簡単。『恥ずかしいから』。普段の彼女らしくないけど、根は意外と単純で可愛いから。

 

 単純で無垢な妹は、良いことも悪いことも判別せずに、思い付いたことをやろうとするから。正直なところ、いつかこういう日がやって来るんだろうなー、って考えてた。

 

 喧嘩するほど仲が良いって言葉があるのに、私達姉妹は本気で怒って喧嘩とかしたことがなかったから。だから、いつか本気で喧嘩して、思いっきりぶつかって。その時初めて本当に仲が良い姉妹になるんだろうなー、って。もちろん喧嘩しないまま仲が良いのが一番なんだろうけどさ。

 

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 いつもと変わんない? 

 

 毎日同じようなことして生きる? 

 

 私はお姉様と違う。そんなの楽しくないから。そんな理由で、こういうことが起きるのを楽しみにしてた。いつもと変わらない毎日が好きでも、例外は大好きだから。私はティアと本気で喧嘩できる日が来たことを内心喜んでた。それにただ『楽しい』で判断してるわけじゃない。私は知ってる。これが終わったら、ティアともっと分かり合えて、もっと親密になれるって。

 

 どうしてそんなことがわかるか? それはもちろん──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フラン! 大丈夫ッ!?」

「ん……?」

 

 傍らでスクリタが不安そうな顔を見せてて。上ではティアがお姉様やミフネアと戦ってた。

 

 気絶、してたのかな。何が起き……あー、思い出した。お姉様を庇ったんだった。お姉様ったら、妹だからって油断してたからなー。

 

「大丈夫。心配かけてごめん」

 

 確か光の攻撃を受けて倒れたとこまでは覚えてる。目を落として確認したけど、もう血は止まって、傷は治ってる。なら──戦える(止めれる)

 

「スクリタ。止めに行くよ」

「……ッ。無理しないでヨ!」

 

 ティアの姿は白い竜のようで。周りにはルーン文字が浮き上がって。その手にはご自慢の槍(ルイン)が握られて。槍を持ってルーン文字を操り、空を飛んで戦う姿は物語に出てくる戦乙女みたい。

 

「っ!」

 

 激しい金属音が響いた。ティアとお姉様が槍をぶつけた音だ。きっとティアが槍を持ってるのは、お姉様に合わせたから。

 

「はっ!」

 

 お姉様と正面から争うティアの背後から、鋭い爪を向けるミフネア。

 

「──!」

 

 しかし、その切っ先はティアの周りを囲うルーンに阻まれる。

 

「えっ──うわっ!?」

 

 ルーン文字はミフネアが触れた瞬間に光を放って弾け、ミフネアを吹き飛ばす。

 

「オネエサマ! 退いテ!」

 

 息をつく暇もなくスクリタは大きな炎の剣を振り回して。お姉様が声に反応して飛び退いたと同時に勢いよくその剣をティアへ──

 

回避(ソーン)

 

 ──当たる前に彼女の身体は真横に移動した。私も知ってるルーンの魔術。自分の意志に関係なく自動で回避する便利な魔術。

 

「ただそれって一度きりだよね?」

 

 ティアは例の如く『目』が無い。永遠や完全性を司る力を持ってるから、きっと緊張してる部分なんて不完全なものが存在しないだけ。そもそもこれ、格上に通じない時とか多いしあんまり使い勝手良くないんだよね。

 

 でも、ティアの力が万全じゃないからか。それとも完全性とか言いながら完全な力じゃないからなのかは知らないけど。彼女の創るモノ──例えば武器やルーンには『目』が存在する。

 

「きゅっとしてドカーン」

「きゃ!?」

 

 ティアを取り巻くルーンも。ティアが持つ槍も。次々に爆発して破片が飛び散った。大した怪我は負ってないけど、ティアは驚いたらしくて、小さな悲鳴を上げてた。

 

「グン……グニル!」

 

 お姉様はその隙を見逃さず──ありったけの力で槍をティアへと投げつけた。

 

「うっぐぅ……っ」

「ティア……」

 

 槍はティアの腹部を貫通して。大きな穴を開けて遥か彼方へと消え去った。

 

「いったいなァ……もう……」

 

 怪我は瞬く間に消え失せる。回復に集中した素振りもなく、改めてティアが規格外の能力を持ってるとわからせられた気分。

 

「ちょっと!? 傷の治りが早くないかしら!?」

「ミストルティン──!」

 

 お姉様が動揺してる隙に今度はティアの魔法の矢が拡散する。

 

「面倒ね……! フラン!」

「はいはい!」

 

 お姉様は私に呼び掛けるとそのまま直進する。お姉様の意図を汲み取った私は、無数の『目』を自分の拳の中に集めて破壊する。

 

「もう! お姉ちゃんっ!」

「ティア! いい加減諦め……なさい!」

 

 悲痛な叫びはお姉様の声に掻き消された。お姉様は綺麗に散る光を抜けて──器用に三度も、立て続けに妹の身体を爪で掻っ切る。

 

「つぅ……!」

 

 鮮血が宙を舞って。でもティアの身体は何事も無かったかのように傷がすぐに癒える。

 

「邪魔……しないで!」

「くっ……」

 

 ティアはお姉様を突き飛ばして無理矢理距離を離す。

 

「ミフネア! ティア止めテ!」

「一瞬しか持ちませんよっ」

「いイ!」

 

 ティアがお姉様に気を取られたのを見計らって、次はミフネアがティアに背後から飛びかかって動きを止めた。

 

「ミフネア……離さないと貴方──」

「離しませんっ!」

「スターボウブレイク!」

 

 スクリタが色鮮やかな弾幕を放つ。それは見るからに無差別に振り撒く災害みたいなもの。無数の弾幕がティアへ襲う。

 

「──じゃ、私も!」

 

 そして合わせるように、私も炎の剣(レーヴァテイン)を振りかざす。

 

 ミフネアは自分の能力で回避できる。だから、この攻撃はティアだけに通る。

 

「意味無いのに」

 

 そんな甘い考えをティアは嘲笑するように。

 

「──循環性」

「えっ?」

 

 途端にミフネアが飛ばされた。ただ力で飛ばされたわけじゃなく、ミフネアも『気づいたらそこに居た』みたいな顔をしてて。訳が分からない、といった様子。

 

「ミフネア! 弾幕が来るわよ!」

「あっ、はい!」

「って……え?」

 

 全ての弾幕がティアへぶつかる直前に後退して、ティアへと近付けない。私の剣も、スクリタの弾幕も。ティアに近付くことなく、その場で留まりティアへ近付くことはできなかった。

 

「意味無いんだよ。攻撃なんて何もかも」

 

 弾幕はティアに近付くと、まるで初めから何も無かったかのように姿を消す。

 

「ティアさんの能力強過ぎませんか!?」

 

 ミフネアみたいに弾幕をすり抜けて回避したとかじゃない。そもそも攻撃が届かない。ウロから貰った権能だろうけど、あれは初めて見たかも。

 

「だから、みんな……退いて」

「あの……皆さんこれどうしましょう……」

「泣き言言わなイ! 能力なんだからきっと限度があル!」

「権能だよ。そんなのないから」

 

 ティアの冷たい目。彼女のことを真に受けるなら、本当にどうしようもない。

 

 だけど、ここに居るみんなの顔は諦めたようには見えない。特にお姉様は──

 

「ティア。疲れてきたのかしら。言葉に威勢がないわよ」

「……お姉様」

 

 初めてだ。ティアがお姉様を、冗談抜きで睨みつけるなんて。

 

「それとも力に集中してるから、会話するのに力を割けないのかしら。貴女ってそういうの苦手だものねえ」

「お姉様より得意だもん!」

 

 ムカついたから。そんな顔でお姉様へ向かっていき、ティアはお姉様の首を狙って腕を伸ばす。

 

「私の方が得意よ!」

 

 しかし、お姉様は避けようとせずに、同じように掻っ切る仕草を見せて──直前でやめた。

 

「うぅっ……ぁがっ」

 

 首元にティアの爪が食い込む。血が溢れ出し、流れ落ちて。吐血しながらも、お姉様はティアの背中に腕を回して抱擁する。妹の服に血がつくなんてことはお構い無しに。

 

「あ──」

 

 それでティアは何か──多分お姉様が死んだ時のこと──を思い出して、反射的に手を引っこめる。抜いたせいで血が出るとか、そんなことも考えずに。引き抜いたあと、慌てた様子でお姉様の首に手を置いた。

 

 すると傷は跡形もなく消え去り、綺麗な身体に戻るお姉様。

 

「お姉様……! 大丈夫……?」

 

 抱きしめる姉を心配するように顔を覗き込むティア。それは純粋な心配から来るものだった。

 

「ティア…………やっぱり向いてないわねえ」

 

 なのに、少し離れた位置で見守る私の目に、お姉様が悪魔みたいな悪い笑みを浮かべたのが見えた。──悪魔なんだけど。

 

「へ──っ!?」

 

 抱きしめて拘束した状態でティアの首筋に噛みつくお姉様。文字通りの『バンパイアキス』を受けたティアは困惑と驚きで目が丸くなってる。本当に何が起きたのかわからないみたいで、まだ吸血するお姉様を引き剥がそうともしてない。

 

貴女が攻撃すれば(あなはがこうへきふれは)こっちの攻撃も届くわよね(こっひのこうへきもとろくわひょね)?」

「はぁ!?」

 

 何を言ってるか私にはわからなかったけど、ティアには伝わったみたい。あからさまに機嫌が悪くなってる。

 

「お、おねえ、さまぁ……っ!」

 

 そりゃあキレるよね、って。油断誘って攻撃とか容赦ないお姉様に珍しく怒ったティア。なんとか引き離さそうと爪を立ててお姉様の肩を押して。今度は血が出ようが治す気はないらしい。

 

「……フラン。これ手伝った方がいいと思ウ?」

「さあ……どうだろ。まだ見てていいんじゃない?」

 

 真横で呆気に取られたスクリタが私に疑問を投げかける。正直なところ、私もよくわかんない。何やってんだろう、あの姉妹。

 

「この……バカレミリア!」

 

 ようやく引き剥がすことに成功したみたいで、お姉様は肩から血を流しながらティアと対峙していた。牽制するわけでもなく睨み合ってる。もうただの喧嘩にしか見えなくなっちゃった。最初から喧嘩なんだけどさ。

 

「私の心配返して!」

「それはこっちのセリフよ! 貴女が居なくなってどれだけ心配したと思ってるのよ! 同じ気持ちを味わうがいいわ!」

 

 その言葉で私は察した。「珍しくお姉様も怒ってるんだ」って。そして、心配で同情誘って止めるつもりもないんだって。これはティアが心配して始めたことなんだから。同じことを繰り返させないように。

 

 でもだからって、不意打ちはどうかと思うけど。ティアも怒りか呆れかで呼び捨てにしてるし。

 

「……そっ。お姉様だけは痛いじゃ済ませないから!」

「やってみなさい! 私は貴女に守られるほど弱くないわよ!」

 

 挑発に乗ったティアは私達を気にせずお姉様に爪を向ける。

 

「この……っ!」

 

 向かってくるティアに対して、お姉様は妖力で形作った槍を手にして。

 

「──私だって、姉なのよ」

 

 今度は躊躇せずに直進したティアの攻撃がお姉様の肩を捉え。

 

「……っ。いったいなァ……っ」

 

 お姉様の槍はティアの腹部を槍で貫き、槍を伝ってお姉様の手が血で染まる。お互い引かずに目を合わて。なんだか間に入るのも悪い気がする。

 

「妹には負けないわ。貴女の力は攻撃が届かないようにするものみたいだけど。……それだと自分の攻撃も届かないものねえ? それに最初からしないのは『ずっと使えない』って言ってるようなものよ。怒りに任せて力を使わなかったのは、意識しないと使えないものってことかしら?」

「ほんと……今日のお姉様はいっぱい痛めつけたいなァ」

 

 するりとティアの棘が付いた尻尾がお姉様の足に絡み付く。

 

「痛っ。……へ?」

 

 そして、ティアがお姉様の槍を掴むと、槍は粉々に崩れ落ちる。

 

「じゃぁ──痛いの、あげる」

 

 次の瞬間、宙を舞うお姉様。足が掴まれて、ティアの尻尾で容赦なく振り回されてる。

 

「フラァァァァン! 早く助けぇぇぇぇ!!」

「世話が焼けるなー」

 

 お姉様を掴んでるから、さっき言ってた『循環性』は使えないはず。だけど『目』は見えないからまた別の力なのかな。

 

「ま。考えるのも面倒だし」

 

 これはティアと同じ魔術。

 

太陽(シゲル)

 

 ルーン文字を描くとその場から一直線に飛ぶ光の線。

 

「つぅ……っ」

 

 光はお姉様をギリギリ避けてティアを射抜いた。

 

「危なっ!?」

 

 太陽光的な魔術だし、普通は喰らうと遅くなるんだけどね。ティアは関係ないみたいな顔して、傷も既に完治してる。お姉様はというと……ティアが攻撃に怯んで離したお陰で拘束から逃れてた。

 

「ちょっと! 見てないで早く手伝いなさいよ! 1人で相手するの凄く大変なのよ!」

「邪魔しちゃ悪いかな、って。なんかいつもみたいに吸血ごっこしてたから」

「体力も回復できるし攻撃もできるから便利な技なの! 他意はないわっ」

 

 とかなんとか言って、絶対他意あったよ。この姉は全く……。

 

「……ミストルティン」

 

 静かに光り輝く弓を手にする妹。でも、武器なんて私の前じゃ意味無い。またさっきみたいに──あれ? 

 

「『目』が見えない……?」

「完全性。私に常時使ってるのを、これにも使ったの。だから……もう破壊されない。でも……」

 

 ティアは小さく笑って「正直に言うとね」と言葉を続ける。

 

「ウロから貰った権能使うのすっごく疲れるんだ。ここに来る前は全部不完全だったのもあって、ここまで強力なものじゃなかったの。だから私にはまだ簡単に扱えてね。──けど、こっちに来たら力が強すぎて。強力なのはいいんだけど、それで却って扱いにくくなっちゃったんだよねぇ」

「突然どうしたノ? 告白なんかしテ」

「黙って聞いて。お姉様にちゃんと話すの、多分初めてなんだから。それでね。強力すぎて、2つ以上とか並行して使うと集中力すっごい使うの」

 

 ティアは気まぐれなところあるから、唐突な話には驚かないけど。なんだろう。諦めた……という感じには見えない。

 

「権能は大きく分けて5つあって。今はずっと自分に完全性使って身体能力とか底上げしてる。時間巻き戻すのに循環性。怪我したら、永続性ですぐ回復して。始原性は能力奪った時に詳細知る程度にしか使わないんだよね」

「……えっと。まだ1つあるんですよね。聞いてる限りその、権能というのは」

 

 ティアは何をしようとしてるんだろ。こんな話をして。手の内を晒すようなことして。ティアはお喋りだし、話すのに深い意味はないだろうけど。

 

「うん。まだこっちに来て1回も使ってないけどね」

「始原性? というものみたいに戦闘じゃ使えないものなのかしら? 使ってもないってことは」

「逆だよ。戦闘だととっても強いんだよ。だからね?」

 

 ティアが決意した表情とともに、弓を番える。

 

「ちょっとやそっとじゃ倒れてくれないってわかったから。多少痛くしないと、って思ったから!」

 

 彼女の狙う先は私にはじゃなくて、彼女自身の頭上。

 

「無限性は私の夢を叶える不老不死の力。そして、文字通り無限を司る力なの。だから、もうお終い! 死なないように痛くしてあげるからっ! ──ミストルティン! 全てを貫け!」

 

 天高く放たれた1本の矢。それが上空で太陽のような眩しい輝きを放つ。光はその場に留まって、そこから溢れるように地上に降り注ぐ無数の矢。あまりにも広範囲。山を埋め尽くすほどじゃなくても、この広場を支配するくらいには範囲が広い。なのに、真下に居るティアにだけは当たることがない。もちろん近付くことすら難しそうだけど。

 

「──フラン!」

「全部見えないから無理!」

 

 矢を生成してる原因(光源)は疎か、落ちてくる光の矢すらも。緊張してる部分が無い。きっと、その全てにティアの言う『完全性』が付与されてるから。

 

「なら仕方なイ! クランベリートラップッ!」

 

 避けることは困難と判断したスクリタがみんなを守るように拡散させる弾幕。光の矢は複数の弾幕が当たってようやく相殺するほどに頑丈。これじゃジリ貧確定だね。4人でやっても、ずっと落ちてくる矢を捌ききるのは困難だろうし。

 

「そのままお願いします! 僕はっ!」

「ミフネア!? 何を……ああそういうことね!」

 

 ミフネアだけは自分の透過する能力を使って一直線にティアに向かう。

 

「これ、くらい……っ!」

 

 能力の副作用で苦痛に顔を歪める彼は、それでも構わないとティアへ近づいていく。

 

 対するティアはその場から動かずに弓を消し、素手で立ち向かう姿勢を見せる。

 

「ティアさんっ……!」

「ミフネア……邪魔」

 

 矢が雨の如く降り注ぐ中で唯一ティアに触れるほど近づいたミフネア。その手はティアの肩を掴むも、彼に攻撃する意思は感じられない。逆にティアはお構い無しに彼へと手を伸ばす。

 

「僕は……貴女のことが好きですから。貴女の意思を尊重したいと同時に、貴女に悲しんでほしいと思いません……っ」

「……なら」

 

 その爪の切っ先が届く寸前、ミフネアの姿がブレる。ブレたと同時に爪がミフネアをすり抜けるも、ティアの顔には変化がない。

 

「不老不死とかそういう話は僕は拒みませんがっ。でもっ! ティアさん、今だって辛い顔してるじゃないですか! それって、争いを嫌ってるからですよね!? 家族との……! それにほら! お姉さん達と仲違いして手に入れた永遠なんて、家族のためを思う貴女にとっては本末転倒じゃないですか!」

「っ……」

 

 誰だって気づいてる。ティアが無理して笑ってること。ティアが私達を苦しめるのを好き好んでやるわけないってこと。今の今まで信じてたことを否定されても、ティアはそれを信じたいだけ。だって、私達が大切だから。傷つけてでも、守りたいなんて矛盾な感情を抱いてるのも……喪いたくないからで。

 

 ま、それはそうとお義姉さん言うな、とか口に出そうになる。うん、違うってわかってるけどね。まだ私認めたわけじゃないし、認めるつもりもないから。

 

「うるさい……」

「ティアさん! 戦いなんてやめて、話し合いましょうっ。傷つけ合うのは不本意だってみんな──」

「うるさい! 私に勝ってから言って!」

 

 ティアの手に現れる禍々しいオーラを放つ剣。

 

「ティアさ──えっ?」

 

 今度はミフネアの姿がブレることなく、剣をミフネアの腹部へ突き刺す。大量の血が流れ落ち、ミフネアも痛みからかティアを掴むのをやめてしまった。

 

 ──って今……一瞬だけ『目』が見えた? 

 

「つぅ……!? どうして……っ」

「私を掴んだ時に奪った。このまま痛みを味わって? ──大丈夫。死なないから」

 

 地面に落下したミフネアに襲い掛かる無数の矢。矢の雨を避けながらなんて、ここからじゃ間に合わない。

 

「ミフネア! 避けなさい!」

「く……ぅ……」

 

 お姉様の声に反応して身体を捩るも、ティアの真下に向かうこともできないみたいで。彼の目前まで矢が向かってた。

 

「──吸血鬼は世話の焼ける子が多いわね」

 

 ミフネアを守るようにして、地面から生える宝石の壁。それは矢を弾き、更なる追撃からミフネアを守る。

 

「っ……!」

「あの魔法ってもしかして」

「っ! パチェ!?」

「そんな驚くことかしら?」

 

 私達の後ろから、片手には魔導書らしき本を持って悠々と現れたパチュリー。

 

「貴女、どうして……!?」

「どうして? 吸血鬼達の治療が終わって、館に運ぶのも終わったからよ」

 

 こんな短時間で? そんな疑問がお姉様の口から出るより早く、その解答がティアの周りを囲む。

 

「ティア様、失礼致します」

「えっ」

 

 突然私達の前に出てきた咲夜と、ティアの周りに出現した銀のナイフ。矢に負けないほど多いナイフが囲んで、避けようのないほどティアの周囲を埋め尽くしてる。

 

「咲夜っ……!」

 

 ナイフが触れる直前、ティアの姿がブレて、ナイフが彼女をすり抜ける。

 

 もうさっきの『目』が見えた理由はわかった。ティアは複数の能力を同時に使うのが得意じゃない。それは権能だけじゃなくて、他の能力を使う時も一緒。並列処理するのが難しいのか、ティアが苦手なだけなのか。多分どっちもだけど。

 

 ついさっき『目』が見えたのはティアが剣を創造する魔術を使ったから。ただでさえ矢の全てに複数の権能を使ってるから、ちょっとした頭を使う能力や魔術だけでも集中力を欠き、強力な権能を維持できないのかな。

 

「──見えた」

 

 だから、今度も見えると確信してた。ティアが自分以外の能力を使うなら、きっと見えるはずだって。予想通り一瞬だけ見えた矢を放つ光源の『目』。それを自分の掌に移動させ──握り潰す。

 

「あ……っ」

 

 光源は大きく弾けて、矢とともに光となって地面に降り注ぐ。真下に居たティアは能力を行使したままらしくて光をすり抜け、驚きに満ちた顔で私を見てた。

 

「お姉ちゃ──」

「ティア、ごめん」

 

 見えたのはアレだけじゃない。もう片方の手に握ったもう1つの『目』。ティアが力を使ったままだったら効かなかった。だけど、今のティアは予想外のことを目にしたからか無防備だったから。

 

「きゅっとして──ドカーン」

「う、ぁ……っ」

 

 畳み掛けるように、私はソレを握った。ティアの左半身が音を立てて破裂する。赤い液体が宙を舞う。痛いはずなのに大きな声も上げず。ティアはふらりと空中でよろける。

 

「お姉様、ほら」

「ええ」

 

 地面に落ちようとするよりも早く、お姉様がティアを空中で抱きしめ、受け止める。ティアは自分の回復に集中してるのか抵抗もせず。お姉様の腕の中で小さくなってた。

 

「ようやく……ね。捕まえたわ。もう終わりよ」

「……なんで」

 

 降り立った時、ティアの姿形は元に戻ってた。竜の尻尾も鱗も消えて、それに『目』は見えたまま。権能を使ってない本当に無防備な状態だ。

 

「なんで、止めるの……?」

「ティア……」

 

 涙に溢れた目で姉を見つめる妹。身体は綺麗なのに、表情は疲れ切ってる。きっと今日1日で身に余るほど強大な力で萃香とかいう妖怪と戦ったり、私達と戦ったりした影響。でも、それ以上に精神的なダメージが大きそうだ。私達に止められるとわかったまま強行して、実際に止められて。もう戦うのも疲れたんだ、って。家族と戦うの、ティアもきっと嫌だっただろうから。

 

 いつも付けてないネックレスを付けてるのがその証拠。家族との思い出なんか付けて、明らかに思い出に浸ってる。止められるという現実から逃げてる。そうしないと、自分が耐えられないから。

 

「私は……お姉様とずっと一緒に居たかっただけなのに。もう死んでほしくないから……。あんなことを繰り返したくなかったから!」

 

 お姉様の腕の中で、ティアの目から雫が零れ落ちる。怒りというより、哀しさを感じる強い言葉で続けていく。

 

「どうして! なんで止めるの!? お姉様はもっと生きたくないの……?」

 

 必死に訴えるティア。どうしようもないほど顔がぐちゃぐちゃで。涙が溢れて止まらない。

 

「長生きしたくないなんて言えば嘘になるわね」

「なら……!」

「だからって、私に生きることを強制するの? 生き続けることが不幸になっても、貴女は私を生かしたいの? 何それ。自分勝手にも程があるわよ。他人から生殺与奪の権利を奪って、自分の思うがまま管理する? 馬鹿じゃないの?」

「え……?」

 

 思わぬ暴言に目をぱちくりと動かす。私の妹は怒られ慣れてないというのがよくわかる。

 

「傲慢すぎるわよ、ティア。死なないってことは、死ねないってことよ。後悔しても、死を望んでも。死なないから生きるしかない。今度こそちゃんと聞きなさいよ? 例えば住む場所が……この世界が滅んだりしたらどうするつもり?」

「世界が……そんなの、有り得ないし……」

「なんでそう言えるのよ。何億、何兆年と生き続ければ、そういう未来が来る可能性だってあるのよ。その時貴女はどうするの?」

 

 考える素振りを見せるも、口は動かない。何も思い付かないみたいだ。

 

「どう、って……」

「何もできないわよね。貴女は大切な人に永遠に苦痛を味わわせたいの?」

「違う……けど……」

 

 初めて怒られてる姿を見てる。ティアも慣れてないことで、いつもの元気がない。ティアが初めて大好きな人に怒られる瞬間だろうし、仕方ないだろうけど。

 

「ティア。貴女に生殺与奪を決定する権利なんてないわ。生きることを奪う権利も死ぬことを奪う権利もね」

「私は……ただ、もっと遊びたいから。もっと幸せになりたいから……」

「その結果、望まない人に望んでもない不幸を与えることになってもいいのね?」

「ち、ちが……う、けど……」

 

 涙を流すティアに、容赦なく言葉を続けるお姉様。怒り慣れてない感はあるけど、その目は真っ直ぐティアを見据えてる。

 

「ティア。大人になりなさい、なんて卑怯なことは言わない。だけど、そのままでいいなんて甘いことも言わない。……一言だけ言っておくわ」

 

 ティアの頭を優しく撫でる。壊れやすく愛おしいものに触れるみたいに優しく。

 

「え……?」

「前を見なさい。道を振り返ることをやめなくていい。でも、進むべき道を見ることをやめないで。貴女はまだ子どもなの。だから、気に食わないことも、できないこともいっぱいある。幾らでも後悔なさい。道を誤ってやり直すのも、ひたむきに前を見続けるのも。それは子どもの特権だからね。──不老不死を目指した理由くらいわかってるわ。その上で言わせてもらうけどね。私は今が好きよ?」

 

 チラリとこっちを見て、お姉様は話を続ける。

 

「今この状況含めてね。フランも言ってたけどね。永遠じゃないからこそ、大切に思えるものよ。壊れやすいから大切にするみたいにね。ティア。貴女も今を大切にしなさい」

 

 そう言って満足した顔で立ち上がるお姉様。ティアはその場でぽつんと、1人座り込む。

 

「……え? お姉様?」

「どうしたの? まだ何かあるわけ?」

「あ、あの。その……」

「何よ。言ってないことがあるなら早く言いなさい」

 

 ティアはしばらく無言だった。何を考えてるのかわからないけど、その目はじっとお姉様を見つめて。

 

「…………赦してくれるの?」

 

 しばらくの沈黙のあと、深く考えて出した言葉はそれだった。

 

「はあ? ……ああ。ちゃんと謝れるならね?」

 

 お姉様は一瞬だけ「何を当たり前のことを」なんて顔をしたけど。すぐにその意図に気づいたみたいで、言葉を促した。

 

「……ごめんなさい。ごめんなさい……お姉様」

「私だけじゃないでしょ?」

「みんなも……迷惑かけて、ごめんなさい……」

「私は別にいいよ。そこまで──」

「ごめんなさい……。ごめんなさい……っ」

 

 大粒の涙を流すティアに私の言葉は聞こえてないみたいで。ティアにとってその言葉がどれだけのものかわからない。ティアはとっても単純だから。その言葉を口にした理由も単純なものなのかもしれない。謝りたかった。許されたかった。そんな単純なものなのかも。

 

 ただ私はそれを聞いて「ちゃんと謝れて偉いね」なんて子どもじみた感想が頭に浮かんでた。

 

「貴女のせいで色々大変なのよ。早く戻って、やり直すわよ。やったことに対する反省も罰も、その後でいいわ」

「うん……」

 

 怒られて調子が戻らないティアはお姉様の手を握って立ち上がる。その姿はいつも見る姉妹の姿。

 

「……ティア。手」

「うん……」

 

 もう片方の手を握って、私達は山を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──私はティアを一番よく知ってる。ティアが誰を好きだろうと、私は一番ティアが好き。だから、ティアのことはなんでもわかる。ティアはちょっとやそっとじゃ反省しない。今回みたいに怒られて初めて反省して。ティアはようやく……叶わない夢を捨てて──前を向いて歩き始めるって、私は知ってる────

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