ゾンビが蔓延る世界の中心で愛を叫ぶ   作:岩神

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※作品を読む前の注意点として
・主人公は普通の人間です。特別力や頭が良いという事はありません。
ゾンビパンデミックが起きた世界で偶然生き残ってしまった、あくまで普通の人間の視点から織り成される物語として作品をご覧下さい。
お願い致します。


始まりの日

 

 

 20XX年。世界は終わった。

 

 事の発端は数年前、まだ俺が高2だった年の春のことだった。

 

 終業式を終え、さぁ今日から春休みだ! と滅茶クソ浮かれ気分で帰宅し、冷蔵庫から缶コーラを取り出してソファーにドカッと座り込み、テレビを付ける。

 

 映ったのはお昼の情報番組だった。

 人気タレントが話題になっている名店の料理やらスイーツやらを食べるコーナーがやっていた。

 タレントにも料理にもスイーツにも興味は無かったが、俺は暫くの間、中身の無い食レポの風景をボーッと眺めていた。

 

 それから唐突に画面が切り替わった。

 映し出されたのはクソ真面目な面をしたお姉さん。普通のニュースだ。

 

 リモコンでも踏んだかなと視線を下におろすと、玄関の方からガチャりと音が聞こえた。

 扉の開け方でなんとなく分かる。妹様だな。

 ソファーに寄りかかりつつ後ろを振り返る。

 リビングのドアが開くと同時に妹が入ってきた。

 

「ただいまー」

「おう、おかえり。遅かったな」

「うんまぁ。友達と春休みの相談してた」

「あーキャンプだっけ? なーんで春にやるんだか。圧倒的季節外れですけど」

「季節外れだからいいんじゃん」

 

 頬を膨らませる妹に「そう言うもんかね」と苦笑しながら、視線をテレビに戻した。

 殺人事件があった様だ。事件のあった家が映され、映像に合わせてキャスターが原稿を読み上げて行く。

 ……ニュースの先程の番組と違って、賑やかでもないし面白くない。

 チャンネルを変えようと先程踏んでしまったリモコンを拾い上げ、テレビの方へと向けた。

 

 と、その時。

 キャスターのお姉さんが画面の外から差し出された用紙を受け取り、「今入ったニュースです」と言葉を紡いだ。

 

『○○県○○市で、市民による原因暴動が起こっているもようです。原因は不明で、暴動を起こした市民達は無差別に周囲の人々を……え?』

 

 新しい原稿を読み進めて行くお姉さんが、驚いた表情で画面横の方へ視線を移した。

 恐らく画面外のスタッフの方を見たのだろうか。

 

 なにやら面白そうなので、チャンネルはそのままにしておくことにしてリモコンをソファーへ放り投げた。

 

 そこへパックの牛乳とお気に入りのカップを持って妹が戻ってくる。

 

「あれ? お兄ちゃんどうしたの? ニュースなんか見て珍しいね」

「おう、なんか隣町で暴動が起きてるらしいぞ」

「ぼーどー?」

 

 テレビから視線を外さずに言ってやると、妹は不思議そうに首を傾げながら俺と同じ方へと視線を移した。

 

『え、映像があるようです』

 

 お姉さんが戸惑い気味にそう言うと、画質が少し荒い映像に画面が変わった。

 

 映ったのは隣町の商店街。

 ここから徒歩で30分くらいのところにある。

 たまーに買い物に行ったりするので馴染みのある場所だ。

 

 そんな馴染みの場所だが、映った光景は普段とは凡そ信じられないものだった。

 

「うわ」

「えっ!? うそうそヤバくない!?」

 

 思わず声が出た。

 妹が悲鳴にも近い声をあげた。

 

『現在警官隊が暴動の鎮圧にあっているそうです。周辺地域の方は外へけして出ず、暴動の鎮圧を待ってください』

 

「暴動っていうか、これ……」

 

 変な動きをしている人達が、人々を襲っていた。

 

 凶器は持っていない。素手だ。

 しかし、荒い映像なので少し見えづらいがーーー

 

 人が、人を食っている。

 

 変な動きをしている人が普通の人の首元へと噛みつき、そのまま食いちぎった。

 噴水の様に血が噴き出る。

 

「おいおい……」

「これ、ホント? 映画とかじゃなくて……?」

 

 あまりに現実味の無い映像に、二人して困惑する。

 妹の言う通り、映画と言われた方が納得できるだろう。

 

 ……しかし、冗談でこんな映像を流す訳が無い。

 多分、恐らく、本当に起こっているのだろう。

 この暴動が。

 

『! ……ぜ、絶対に家から出ないでください!!機動隊も出動しています!! 安心してください!!』

 

 映像が途切れた後、キャスターは困惑しつつもそう呼びかける。

 日本の警察は優秀だ。大丈夫だろう。

 ……大丈夫な、筈だ。そう思おう。

 

「お兄ちゃん……」

「大丈夫だ。ここまでは来ないよ。もしもの時は俺が守るから」

 

 不安げに瞳を揺らす妹の頭を撫で、ソファーから立ち上がる。

 

「何処行くの?」

「別に。腹減ったから飯作ろうと思って」

「ええ……」

 

 ガパリと冷蔵庫を開けて食材を物色する俺に、妹のドン引いた視線が突き刺さる。

 非常時でも腹が減ったんだから仕方ない。

 お、卵新しいのあんじゃーん。

 

「チャーハン作るか!」

「またぁ? お兄ちゃんってチャーハンしか作れない病に犯されてんじゃないの?」

 

 今度は呆れた顔で首を左右に振る妹。

 失礼な奴だ。なんだよチャーハンしか作れない病って、絶望的じゃねぇか。

 

「他のも作れるけどチャーハンが一番味安定してるだろ」

「だからって作り過ぎでしょ。昨日のお昼と夕飯もチャーハンだったじゃん。私そろそろ飽きたんだけど」

「そんなに言うならお前が作れよ」

「言われなくてもそうしますー」

 

 そう言って妹が大きめのケツで俺を冷蔵庫前から退かす。

 結構体格差あるのになんで押しのけられるかなぁ。

 毎朝ランニングしてるからか?

 運動嫌いのお兄ちゃんは妹に力で負けんの?

 なっさけねー……。

 

「お兄ちゃんは座ってスマホでも弄ってて」

「へいへい」

「あと、オムライスでいい?」

「オムライスもチャーハンみたいなもんじゃねーか」

「全然違うじゃん!!」

 

 強めのツッコミを入れてくる妹に声を出して笑いながら再度ソファーに座る。

 いやぁ、からかいがいのある良き妹を持って幸せだなぁ。

 

「……もしかしてゾンビってやつ?」

「ん? なんか言った?」

「ん? なんも言ってないよ?」

「あれ、空耳?」

「じゃねーの」

 

 そっかー、と呟く様に言ってから妹は台所へと引っ込んで行った。

 誤魔化しやすい奴だ。

 でも雷が鳴るだけで俺の部屋まで駆け込んできて抱き着いてくるような子だ。

 不安を煽るような事を言ってしまうのは良くない。

 そもそもゾンビなんて、非現実的な……。

 とはいえ、すぐ近くで大変なことが起こっているのは現実なんだ。今のうちに逃げる準備をしておかないといけないな。

 

「ちょっとうんこしてくる」

「ご飯作ってる妹にうんことか言う!?」

「お前も今言ったじゃん」

「うがーーーーっ!!!!」

 

 台所から鬼の様な形相で顔を出す妹に声を上げて笑いながらリビングのドアを開けて廊下へ出る。

 ……さて、取り敢えず防災バック。あと着替えと飯とスマホのモバイル充電器をバックパックに詰めとくか。

 

 




某スーパーのレジで、アルバイトっぽい若い女の子に対応してもらったのですが、最後お釣りを貰う時に結構ギュッと手を包まれて渡されたのでちょっとビビりました。
今日も気分はハッピーです。
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