ダンジョンに穢れ持ち種族が潜るのは間違っているのだろうか?   作:どらむすいいよね

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方針と蠢く影

「ちゅーわけで、遠征から無事に戻ってきたのと、どチビんとことの連携決定祝いで…乾杯やでぇ!!」

[かんぱーい!!]

 

 ロキファミリアの誘いを受けたヘスティアファミリアの面々。 特に主神のヘスティアは《豊穣の女主人》の料理の値段やらに圧倒されつつも。 大人ぶってエールを頼んだことを若干後悔していた。 ベルは果実水の値段200ヴァリスに引いており、金銭感覚の差をひしひしと感じていた。

 

 零細ファミリアの割には団長、シルヴァリアの存在…高い戦闘力と稀有なスキルによるレアドロップの数々で収入が安定しているがその殆どを貯蓄に回すことにしているファミリアの方針故に質素な食事。 じゃが丸くんとシルヴァリアの作る料理で済ませていたりする普段の食生活から見たら豪勢な食事を見れば嫌でも圧倒されるものであろうか。

 

 その一方、持ち込みのワイン(どこから持ってきたのか見るからに高そうな白ワイン)を愉しみながら。 カリッと揚げられた白魚の唐揚げにたっぷりと融かしたチーズ主体のソースをかけた見るからにお上品なこの店の料理に舌鼓を打つシルヴァリアとルイーズは対面の席に座る主神と黒一点の団員の様子を見て小鳥のごとく小首を傾げていた。

 

「主様、ベル。 口に合わぬのか?」

「やや、そんなことはないよ!」

「はい! 圧倒されてるだけです!」

 

「圧倒とな?」と腕を組み真剣な眼差しで、こちらを見るシルヴァリアに愛想笑いしかできないベルとヘスティアをよそに。 こちらに戻ってきたのは白銀の毛並みを持つ猫。 シルヴァリアの使い魔、ギンだ。

 

『ただいまっと…ああ、ルーイに言伝だ。後でリヴァリアさんが聞きたいことがあるって言ってたぞ』

「分かりました。 言伝に感謝致しますわ」

 

 ルイーズに話を通したギン。 彼は念話という独特の特殊能力を持っている。 しかし、一方通行の念話でしかないため聞いた者の応答は独り言に見えてしまうことだろうか?

 

「団長様、そういうわけでして少し席を外しますわ」

「うむ。 あい分かった。 リヴェリア殿の要件、恐らくは…」

「種族的な柵に世界は関係ないのでしょう…高貴なる森の民(ハイ・エルフ)始祖なる神の民(ノーブル・エルフ)の歴史的な邂逅ですわ」

 

 そう言い残し、ルイーズは席を立っていく。 となりの席が空いたがそこへ。シルヴァリアの視界に燃えるように鮮やかな赤い髪が見えた。

 

「ほほー…年号はさっぱりわからへんけど、ええもん飲んでるやんか、シルヴァたん」

「し、シルヴァたん…? ま、ぁいいかの。 ロキ様も一杯どうじゃ?」

「ええんか? いやー、太っ腹やなぁ! でも、あんたホントに零細ファミリアの団長なん?」

「コレはワシの故郷から持ってきた葡萄酒じゃよ。 オラリオの共通語(コイネー)と違った字なのは気にしたら負けなのじゃ」

 

 話す(ヒト)から少し意地悪な視線を感じたシルヴァリアは不機嫌からか少し唇を尖らせる。 その様子に何やら悶えるような雰囲気を見せるロキ神に彼女の頭に乗っているギンはジト目を寄越す。

 

『あんま俺の主人を困らせないでやってくれないか?』

「うお、堪忍やで。 えっと、この声はギンきゅんの声でええん?」

『おい、俺はショタ扱いされたくないぞ。 いやまぁ、生まれて数日だし間違いじゃない気もするが…』

 

 器用に眉あたりに皺を作る猫に吹き出しかけるロキだったが、女神の矜持が勝ったのかグッと堪える。

 

「しゃーけど、面白いなぁ。 間接的に言葉をしゃべる猫とか、神話の時代のエルフの生き残りとか…あのルーイたん…不老やろ?」

『…それは他言無用で頼むぞ、ロキ神。 聞かれるとヤベー事もある…特に闇派閥(イヴィルス)やらとかには、な』

「わーっとる。 ウチは口だけは硬いからな」

『…イマイチ信用できねー。 まぁ、角は取れたって聞いてっけどな…‘悪神ロキ’様?』

「昔の名前で弄るのはナシやで…ギンきゅん?」

 

 朱の瞳に睨まれたギンは『くわばらくわばら』と彼女から視線を逸らして、シルヴァリアの長い髪の中に逃げ込んでいった。

 

「ロキ様…呑まれるか? どうなのじゃ?」

「ん、じゃぁもらうわ。 なんて書いてるん、ほんまそれ」

「そうだの…フェイダン地方のアイヤールが辺境の村、アスナイが誇る白鈴ワインじゃ。 まぁ、もう手に入らんだろうが」

「フェイダン? 聞いたことないないけど、そこの出身なん?」

「…あー…まぁそうじゃ」

 

 チリっと一瞬だけロキの気配が変わり、シルヴァリアはひやりとした感覚に見舞われる。 しかし、その気配は何事もなかったように霧散した。

 

「ほーん、なるほどなぁ…なんじゃこりゃあっ!?」

 

 グラスに注がれたワインの香りを愉しみながらロキは黄金色のそれを口に流す。 クドくない甘味と爽やかな口当たりのワインにロキは思わず目を見開いた。

 

「オヤジさんが傑作とうるさくて買ったワインでの。 まぁ気に入ってもらえたのであれば幸いなのじゃ」

 

 シルヴァリアはそう言うとロキに微笑みかけた。 穏やかなその笑顔は遠くの故郷を思い出すかのように懐かしさを感じるものだった。

 

 ☆

 

「なるほど…やはり、エルフの祖先に当たる種族でいらしたか、ルイーズ様は」

「様づけはやめてくださいませ、リヴェリアさん。 そうですわね…確かにワタクシはこの世界から魔法という奇跡が、ステイタスという枠組みに…窮屈に収められる前の時代に生まれた事は事実ですわ」

「ステイタスという枠組み…?」

「まぁ、あまり知らないほうがいいことはありますわよ? それに、ワタクシは確かにエルフの先祖にあたる種族ですが、結局はハイ・エルフとも言えぬ全く別存在ですし」

「…それは、シルヴァリア殿も同じということで?」

「そのへんは、黙秘致しますわ。 どうしても聞きたいならもう少し盃を酌み交わした後ですわ」

 

 ☆

 

 隣の席に腰を下ろすベートにおずおずといった様子でベルは話しかけていた。 アイズに近い男を知っておこうと思い立ったのである。

 

「ベートさんって実は優しいんですか?」

「あ゛あ゛ん? 何言ってんだ、ベル?」

「い、いえ…あの時僕たちを先導してくれたのもベートさんでしたし」

「疲弊した状態のテメエらをあのまま迷宮に放置するなんて選択を取れんのか、お前は? アイズが先導できるわけもねぇしな…消去法で俺がやるしかなかったってわけだけだよ」

「そうだったんですか…」

 

 雑魚は雑魚らしく。 そう宣う事を常としているベートだったが、あの時はそれを言ってる暇もなかったと言う。 要は先輩冒険者として「先導するしかなかった」だけの事だということなのだろうかと、ベルは内心でヘコむ。

 

「…歯が立たなくて悔しかったのか?」

「え?」

 

 エールを呷りながら不意にベートがベルに横目を寄越しながら口を開く。

 

「…クソ牛に歯が立たなくて悔しかったのかって聞いてんだよ」

「…それは…」

 

 果実酒の入ったグラスを手に一気に中身を飲み干すと、ベルはベートに向き直りその内心を話す。

 

「…とっても悔しかった…です。 シルヴァさんに頼りっぱなしで、彼女に無理をさせてしまった僕自身がが不甲斐なくて…悔しかったです…! ベートさん…僕はどうすれば今以上に強くなれますか?」

「おい、クソガキ…焦んな。 まぁ一つは訓練を積むこったな。 あとは実戦での経験値…修羅場を越えりゃ嫌でも強くなれる」

「修羅場ですか…」

「はぁ、仕方ねぇなぁ…今度オラリオの城壁に来い―――模擬戦の相手してやるよ」

 

 その申し出にベルは一瞬呆けた顔をする。 今何といったのだろうかこの人は…と

 

「手ほどきしてやるって言ってんだよ。 二度も言わせんな」

「は、はい!」

「お前も俺に似て蹴りを使えるようになれば確実に強くなれる。 ナイフに加えて脚も手数に入れれるようになれば…(・・)が増える」

「札ですか…」

「戦いにおいての手札は防御にも使えるンだよ。 蹴撃で相手の爪を蹴飛ばして方向転換や攻撃の受け流しもできる盾みたいなもんだ…それができりゃお前も確実に強くなれる…お前んとこの団長も剣ばっかり振り回して戦ってねぇだろ? それと一緒だ」

 

 お前にそれができるかどうかは別とするけどなと付け加えてベートは口を閉じる。 言うべきことは終わったと言わんばかりに。

 

「分かりました。 よろしくお願いします、ベートさん!」

 

 ☆

 

 ロキファミリアとヘスティアファミリアの懇親会も兼ねた宴会は成功というべき形でお開きとなった。 そんな彼らを…否。 その中心にいたであろうひとりの少年をその瞳は捉えて離さなかった。

 

「ねぇ、オッタル…彼らは強くなれるかしら?」

 

 私、その手助けがしたいわぁ…薄暗いその部屋に響いたその声は…その男の耳に届く。

 

「御意に、我が主人」

 

 その男は動き出す。 まだ無名の龍姫に降りかかるのは災いか、それとも祝福か…


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