招カザル来訪シャ~頼れる相棒は世界を喰らう者~   作:あったかお風呂

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卑怯者はだーれだ


卑怯者 前

 帝国軍たちとの戦いから一夜明け、朝食を終えたベルフラウとアティは授業を行っていた。

 いつもとは違い、ベルフラウの自室ではなく船から少し離れた森に移動すると授業が始まった。

 

「今日は戦い方の短所を克服しましょうか」

 

「短所……」

 

「ベルフラウさんは召喚術を主体にして戦っているよね。でもそれだと、昨日みたいに急に接近されたときに対応しにくいの」

 

 それを聞いて昨日のことを思い出したのか、ベルフラウは顔を青くする。

 

「昨日だって、イリが対応してくれてなかったらどうなっていたか……。だから、避ける力を身につけましょう」

 

「避ける力を身につけるって……具体的にどうしますの?」

 

 疑問を口にしたベルフラウに対してアティは木の枝を構えることで答えた。

 

「来る途中で拾っておいたんです。当たると痛いですから、ちゃんと避けてくださいね!」

 

「ちょっ、ちょっと!?」

 

 アティが枝を振るうとベルフラウは必至に避け始めたのだった。

 

 

 

 授業が終わると所々を枝で打たれたベルフラウがアティを睨む。

 

「やりすぎですわよ、先生……」

 

「あははは……。ごめんなさい、ベルフラウさんが上手く避けるものだからちょっとムキになっちゃいました……」

 

 謝罪するアティをジト目で見るベルフラウは隣で浮くイリを撫でつつ、リペアセンターへと向かっていた。

 勿論、枝で打たれたベルフラウの治療をするために。

 

 アティとイリがベルフラウの治療を待っていると、クノンがアティに相談を持ちかけた。

 

「アルディラ様はあなたと行動をするようになってから様々な表情を見せるようになりました。私が不完全な感情プログラムしか持っていないばかりに、アルディラ様があのように笑えることさえ知らなかったのです……」

 

 そして続ける。

 

「やはり……機械には生物の感情を理解することは出来ないのでしょうか」

 

 だがアティはそれを否定して見せた。

 

「でもクノンは悩んで、理詰めで納得できないから相談してくれたんですよね? それは感情を持った生き物の考え方だと思いますよ」

 

 しかし、クノンはそれを否定する。ありえないと。

 それでもアティは続けた。

 

「否定してるだけじゃ、その先にあるものには絶対届きません。よく考えてみてください、アルディラのことだけじゃなくてクノン自身の事を。そうすればクノン自身の答えが見つかるはずです」

 

「私自身の答え……」

 

 アティの言葉を聞いたクノンはクノンなりに、その言葉を受け止めたようだった。

 

「(否定スルダケデハ、ソノ先ノニアルモノニハ届カナイ……)」

 

 そして、その言葉を聞いていたのはクノンだけではない。

 イリもクノンの相談を聞いていたのだ。

 昨日の帝国軍との戦いでのことがイリの中で燻っていた。

 ビジュがベルフラウの背後に飛び出し、刃を突き立てるまでの一瞬の間にイリはビジュに攻撃を行っていた。

 イリにはその理由が分からなかったのだ。

 

「(反射……無意識……)」

 

 イリは理由を並べるが、イリ自身そうではないことはわかっていた。

 あの時、イリはベルフラウに害をなそうとするビジュを認識していたのだ。

 

「(ツマリ……。否定! 却下! 断固……)」

 

 浮かび上がった答えを即座に否定しようとするが、先ほどのアティの言葉が思い返されて否定が続かなくなる。

(否定するだけじゃ、その先にあるものには絶対に届きません)

 

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 イリは突然声を上げると、リペアセンサーから飛び出していく。

 

「イリ!? どうしたんですか!? クノンさん、ベルフラウさんにイリを追いかけてくるって伝えておいてください!」

 

 アティはクノンにベルフラウへの伝言を頼むと、慌ててイリを追いかける。

 ベルフラウの治療が終われば召喚術でイリを呼び戻せる、追いかける必要はない。

 それはわかっている。

 しかしアティはそれでも追いかけないといけないような気がしたのだ。

 飛び出していくイリの姿が怯える迷子の子供のように見えた気がしたから。

 

 

 

 リペアセンターを飛び出し森を移動するイリを追いかけていたアティだったが、イリが突然移動を止めてこちらに反転したことに気づいた。

 

「はぁ……はぁ……どうしたんですか? 急に飛び出して……」

 

 少し息切れしながらも、アティはイリに問う。

 

「ギィイイ……理解不能……」

 

「理解不能……? 何が分からないんですか?」

 

「…………」

 

「私はまだ未熟ですけど、先生ですから……。イリの力になれるかもしれません。教えてくれませんか? 何が分からないのか、何に悩んでいるのか……」

 

「ギィイ……」

 

 

 

 

 アティの言葉を聞いたイリは少しずつ自身の戸惑いについて話し始めた。

 

「ベルフラウさんを守った理由が分からない、ですか」

 

 先日の帝国軍との戦いでベルフラウがビジュに襲われた。

 それを防いだのは他でもないイリだったが、その本人が自分の行動の理由を理解できないという。

 

「イリはベルフラウさんのことをどう思っていますか?」

 

「……」

 

「それもわからないんですね。ベルフラウさんが襲われそうになったとき、どう思いましたか?」

 

「……」

 

 質問に沈黙で返すだけのイリを見て少し悩んだアティは質問を変えることにした。

 

「じゃあちょっと質問を変えてみましょうか。ベルフラウさんがナイフで刺されたら死んでしまう。それはわかりますよね?」

 

「……ギィイ」

 

 イリの肯定を聞いたアティは続けた。

 

「そしてイリはベルフラウさんがナイフで刺されるのを防いだ。そうですよね?」

 

「……ギィイ」

 

「つまり、ベルフラウさんの死をイリが防いだわけですよね。ベルフラウさんが死んでしまうという結果をイリは拒絶したんですよね?」

 

「……ギィイ」

 

「それってイリはベルフラウさんに死んでほしくなかったということじゃないんですか? ベルフラウさんのことを失いたくないから守ったんですよね?」

 

「ギ……ギィイ……失イタクナイ……?」

 

「そうです。大切だと思ってるから失いたくないんです。大切だから、好きだから守りたいんです」

 

「ギ……ギギギ……却下! 論外! 撤回要求! 我以外ノ存在ハ不要! 他者ノ存在ハ不要! 発言ヲ取リ消セェエエエエエエエ!!」

 

 アティの言葉を聞いたイリはアティの言葉を否定すると、その身に魔力を渦巻かせる。

 渦巻いた魔力は虚空から光を呼び、アティの体を貫いた。

 イリは悲鳴を上げて膝をついたアティを見下ろすと、嗤いはじめる。

 

「ギシッ! ギシシッ! 撤回セヨ! ソシテ認メヨ! 我ニ他者ナド不要ダト!!」

 

「撤回……しません!」

 

 アティはふらつきながらも立ち上がると、イリの要求を突っぱねる。

 

「他者は必要ないなんて、そんなの寂しすぎるから! 私はイリのこと、仲間だと思ってます! もっと一緒に居たいと思ってます! もっと知りたいと思ってます!」

 

 そしてイリに言葉をかけながらも一歩一歩近づいていく。

 

「リ、理解不能……! 却下! 却下! 却下!」

 

 イリはアティの言葉を否定しながら後退しようとするが、接近したアティによって抱きしめられる。

 

「否定しないで! ちゃんと聞いて! イリは私のこと……嫌いですか? ベルフラウさんのこと……嫌いですか?」

 

「ギィイ……嫌イデハ……ナイ……」

 

「だったら、私とベルフラウさんと一緒にいてくれませんか? 私もベルフラウさんもイリのこともっと知りたいです。イリに私たちのこともっと知ってもらいたいです。私たちと一緒にイリなりの答えを探しませんか?」

 

「……ギィィ……」

 

 イリを見つめて言うアティの言葉にイリは弱弱しく頷くと、アティは笑みを浮かべてイリを抱きしめたままリペアセンターに戻ることにしたのだった。

 

 

 

 アティとイリがリペアセンターに戻ると、既に治療を終えたベルフラウが待っていた。

 

「あ……! ようやく戻ってきたのね!」

 

 ベルフラウはアティに駆け寄るが、腕に抱かれるイリを見ると目を見開いた。

 

「ごめんなさい、遅くなっちゃって……」

 

 待たせたことを謝罪するアティだったが、突然腕の中のイリをベルフラウに奪い取られる。

 

「先生! ずるいですわよ!」

 

「ずるいって……」

 

「……イリを誘惑して」

 

 アティは自分を睨むベルフラウの目線の先にあるものを察し、慌てて否定する。

 

「誘惑なんてしてないですよ!?」

 

「イリ、心配したんだからね? 先生に変なことされなかったかしら?」

 

「ギ……ギィイ……」

 

 ベルフラウに撫でまわされて困ったような声を出すイリを見るアティは心の中でイリへの声援を送っていた。

 

 

 

 アルディラに用があるというアティはリペアセンターに残るようだった。

 手を振って見送るアティと別れたベルフラウはイリを連れて鬼妖界集落風雷の郷へと足を向けていた。

 ラトリクスやユクレス村には顔を出すことの多いベルフラウとイリだったが、風雷の郷に訪れることはなかった。

 そこで挨拶がてら集落を見て回ることにしたのだった。

 

 

 

 ミスミの元へ訪れたベルフラウは自己紹介もそこそこに世間話を始めた。

 

「ふむ、ベルフラウとイリか。スバルが世話になっているようじゃな。スバルはお主らに迷惑をかけていないかの?」

 

 スバルの母親であるミスミは授業中のスバルの様子が気になっているようだった。

 スバルは最初の授業では問題を起こしていたが、二回目以降は大人しいものだ。

 

「大丈夫ですわ。パナシェと一緒に大人しく授業を受けてくれています」

 

 それを聞くとミスミは安堵の溜息をつく。

 それから少し雑談を続けていたベルフラウだったが、他の場所も見て回ることを伝えて立ち上がった。

 

「それじゃあ、そろそろ失礼しますわ」

 

「……少し待たれよ」

 

 ミスミはベルフラウを呼び止めると、傍まで近づき少し屈んで耳打ちした。

 

「イリ、といったか。あれからは少し嫌な気を感じる。……気を付けるのじゃぞ」

 

 ベルフラウとイリを見送ったミスミは少し呟くと少女の行く末を心配していた。

 

「妾の杞憂ならいいんじゃがな……」

 

 

 

 

 ミスミ屋敷を後にしたベルフラウは風雷の郷を歩きながら先ほどのミスミの言葉を反芻していた。

 

「(嫌な気……)」

 

 自分の横を浮かんで移動するイリはいつもと変わらないように見えるし、ベルフラウには気などわからない。

 イリについて思考を巡らせていたベルフラウだったが、あるものが視界に入り思考を中断せざるを得なくなる。

 

「あれは……煙!? もしかして火事ですの!?」

 

 ベルフラウの目線の先では煙が空に昇ろうとしていた。

 

 

 

 ベルフラウとイリが駆けつけると、既に火は消されていた。

 近くでかくれんぼをしていたらしいスバル、パナシェ、イスラによって火は消されたようだった。

 

「もし火が山に燃え移っていたらと考えると、ぞっとするよ」

 

 そう語るイスラの言う通りもしかしたらとんでもない事になっていた可能性がある。

 ベルフラウはミスミとキュウマへ報告しにミスミの屋敷へと戻ることにしたのだった。

 

「火事……ですか。大事にならなかったからよかったものの……」

 

 そう言うキュウマは顔をしかめ、真剣な表情だった。

 

「キュウマ、もしかしたら……」

 

「ええ、帝国軍の工作かもしれません。一度集いの泉に集まりましょう。ベルフラウ殿はアティ殿を呼んできてもらえますか?」

 

「ええ! まかせてちょうだい!」

 キュウマの頼みに頷いたベルフラウはラトリクスへとアティを呼びに向かうことにした。

 

 

 

 ラトリクスに到着したベルフラウはクノンにアティを呼びに来た旨を伝える。

 現在はアルディラとともに電波塔にいると教えてもらったベルフラウはクノンに案内され、電波塔へと向かっていた。

 

「アルディラ様たちがいる部屋はもうすぐです」

 

 クノンの言葉の後。

 

「ギシィイイイ!」

 

「動かないで!」

 

 イリが鳴き声を上げるのとアルディラが叫んだのは同時だった。

 

「気配を消したところで融機人のセンサーには無意味よ! 姿を現しなさい!」

 

「ギィイイ! 誅殺!」

 

 イリが虚空より光を呼び出そうとすると、その魔力を感じ取ったのか隠れていた何者かが走り去る足音が聞こえた。

 そして。

 

「スクリプト・オン!」

 

 アルディラの召喚術が何者かが去った廊下に放たれる。

 今廊下にいるのはベルフラウたちだけだ。

 迫る召喚術に目をつぶったベルフラウだったが、何も起こらないことに気づき目を開ける。

 召喚術は消えており、ベルフラウの前には背を向けたイリが浮かんでいた。

 

「ちょ、ちょっと! 危ないじゃないの!」

 

 自身を助けてくれたイリを撫でながらもベルフラウは抗議の声を上げる。

 

「ベルフラウさん!? どうしてここに!?」

 

「あなたたちを呼びに来たんです! 集いの泉に至急集合ですって」

 

 ベルフラウが現れたことに驚いたアティはベルフラウの用件を聞くとアルディラと目を見合わせた。

 

 

 

 集いの泉で話し合いが行われていた。

 帝国軍による放火の可能性が高い、その結論が出ると各集落で警戒態勢を強めることにになった。

 とはいえラトリクスと狭間の領域は狙われる危険性は低い。

 火攻めが効果的でないためだ。

 ユクレス村と風雷の郷、そしてカイルたちの海賊船を特に警戒することに決める。

 現在は敵の動きを待つしかないため、既に空から帝国軍を探しているフレイズの報告を待ち、一端解散となった。

 

 

 

 上空から地上を見下ろすフレイズは地上で蠢く影を見つける。

 

「あれは……」

 

 森の中を進む帝国軍たちと──それを追い、背後に迫る白い異形達。

 

「帝国軍……それに……。皆さんに報告しなければ!」

 

 フレイズは翼を羽ばたかせ、集いの泉へと向かう。

 後方から響く帝国軍の悲鳴を聞きながら。

 

 

 




イリはミスミ様に警戒されているようです
ラスボスだからね仕方ないね
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