招カザル来訪シャ~頼れる相棒は世界を喰らう者~   作:あったかお風呂

12 / 41
4月9日加筆


先生ノ休日   ※4/9加筆

 自室の窓から朝日が差し込む中、帝国軍たちとの戦いから二日後の朝を迎えたアティだったが、何かに悩んでいるようだった。

 

「休日っていっても……どうしましょうか」

 

 昨日……つまり、帝国軍との戦いの次の日に仲間たちに言われたのは本日をアティの休日にしようということだった。

 

 働き詰めのアティを心配した仲間たちの提案だったが、アティは昨日の内に予定を決められなかったようだった。

 特に趣味もなく、学生時代も勉強ばかりしていたために決められずにいたアティはとりあえずベルフラウの元へ向かうことにした。

 

「まだ予定が決まってませんの?」

 

 自分の部屋に訪れたアティを迎えたベルフラウはまだ予定が決まっていない、というアティに呆れてみせる。

 

「私だけじゃなにも決まらなくて……だからベルフラウさんのところに来たんです。私と一緒に過ごしませんか?」

 

「……私と?」

 

「はい! 勿論、イリもね?」

 

「ギィイ?」

 

 

 

 イスアドラの温海。

 かつて無色の派閥の厚生施設として使われていたそこは地熱の影響で生まれた天然の海底温泉だった。

 

「すごい……海が煮たってる」

 

 以前アルディラからこの場所について聞いていたアティだったが、実際に見るのと聞くのでは違うのだろう。驚いた表情だった。

 

「この島にこんな場所があったなんて……」

 

「それじゃあ、さっそく……入りましょうか!」

 

 

 

 水着へと着替えたベルフラウは温泉に入るとため息をつく。

 

「はぁ……気持ちいいですわね……」

 

「ギィィ……」

 

 ベルフラウの腕に抱かれるイリも気持ちがいいのか鳴き声を漏らす。

 

「はあ……疲れが飛んで行ってしまいそうです……」

 

 アティも体に染み渡る温泉の暖かさが心地良いのか脱力していた。

 それを見たベルフラウはふと呟く。

 

「先生……ちょっとおばさんみたいですわよ」

 

「お、おばさん!? 失礼ですよ!! ほら、まだまだピチピチですからね!!」

 

 ベルフラウの発言を看過できなかったのか、アティは立ち上がると抗議する。

 本人の言う通りその白い肌は艶と張りがあり、とても若々しく美しい。

 

「ふふん! どうですか? これが大人の色気というものですよ。ベルフラウさんにはまだ分からないかな?」

 

 男たちを魅了するであろうそのプロポーションを見せつけるアティはおばさんみたいと言われたことを気にしているのか『大人』の部分を強調しつつもベルフラウを挑発し始める。

 言外にお子様だと言われたベルフラウはムっとすると腕に抱いたイリを解放して立ち上がった。

 

「くっ……お子様だとでもいうつもりかしら!? まだ私には未来があるわ! 成長の余地があるもの! それに何より……私の方がお肌に張りがあるわ!」

 

「ぐぅっ……」

 

 幼いベルフラウと肌の張りを比べても仕方のないことなのだが、アティは言葉をつまらせる。

 アティは冷静でない頭で思考を巡らせ……ぷかぷかと呑気に湯に浮かぶ第三者の存在を見つけた。

 

「イリ……イリに決めてもらいましょう! 私とベルフラウさんどちらが若々しくて色気があるのか!!」

 

「ギィイ!?」

 

「望むところよ!! さあ、イリ! 決めて頂戴!!」

 

「ギシィ!?」

 

 蚊帳の外から突然渦中に巻きこまれたイリが困惑するが無慈悲にも二人がイリに迫る。

 

「私よね? ずっと一緒にいたイリならわかってるわよね? 私が若々しくて色気たっぷりてこと!」

 

「私に決まってます! イリはちゃんと大人の色気が分かるんですよ!」

 

「ギィイ……」

 

 そして距離をじりじりと詰める二人を見たイリの困惑は頂点に達し──逃げた。

 

「なっ!? 逃げる気ですか!?」

 

「逃がさないわよ! 来なさい!」

 

 二人に背を向け飛ぶイリだったが──瞬間。

 

 無情にも発動した召喚術によってベルフラウの元に喚び戻されてしまった。

 

「ギィィ!?」

 

 突然ベルフラウの前にワープしたことに驚くイリの体はベルフラウに捕まれる。

 

「ねぇ、イリ。……私よね?」

 

「ギィイ……」

 

 鬼気迫る表情でベルフラウが顔を寄せるとイリは思わず頷いてしまった。

 

「そうよね! イリは私を選ぶに決まってるわよね! ……そっか、イリは私が若々しくて色気があって美しくて可憐だと思ってるのね……ふふふ」

 

「そこまでは言ってないような……」

 

「ギィイ……」

 

 アティとイリの視線の先には温海の環境が育んだ花々と一緒にご機嫌そうな少女の笑顔も咲いていたのだった。

 

 

 

 イスアドラの温海から船へと戻るとベルフラウとアティが何やら話こみ始めてしまい、なんとなく居心地がわるくなったイリは二人がいる部屋から出て甲板へと向かう。

 甲板にはどうやら先客がいたようでカイルとソノラが姿を現したイリに声をかける。

 

「おぅ、イリじゃねぇか。先生たちと何処かに行ってたみたいだが、何処に行ってたんだ?」

 

「温泉ダ」

 

「へぇー温泉かー。この島にあったんだ? 行ってみたいね、アニキ」

 

 ソノラがそう言ってカイルを見るとその顔は驚愕に染まっていた。

 

「……お前……先生たちと温泉に行ってきたのか……なんて羨ましい奴なんだ」

 

「……アニキ」

 

 ソノラがジト目で自分を見ているのに気が付いたカイルは咳払いをすると声を張って掛け声をあげた。

 

「俺たちもいっちょ行くか! カイル一家、温泉へ出航だ!」

 

「おー!」

 

 カイルとソノラがヤードとスカーレルも誘いに船内へ駆けていくと、イリは海賊船を出て森の中へ入っていった。

 

 

 

 特に目的地も決めずに森の中を進むイリは地面から水晶が生えているのに気が付く。

 いつの間にかイリは霊界サプレスの者たちの集落『狭間の領域』へと入り込んでいたようだ。

 

「あ! イリがここに来るなんて珍しいですね。今日はベルフラウと一緒じゃないんですか?」

 

 銀の髪の少女が自身の領域に入ったイリに気が付いて近くに寄った。

 イリはその少女の姿を見たことがなかったがその『魂』は見覚えのあるモノだ。

 

「……? 成程ファルゼンカ」

 

 その魂から少女の正体をイリが見破ると、ファルゼンはようやく自分が鎧ではない本来の姿でイリの前に現れてしまったことに気づいて慌てだした。

 

「あっ!? そういえば私ファルゼンの姿じゃない!! ……あの、私が女だってことは秘密にしてくれませんか?」

 

 少女が人差し指を立てて口元にもっていくと、それを言いふらす理由を持たないイリが頷いた。

 

「了承。承認。動機皆無。ヨカロウ」

 

「よかった! ありがとうございます。ところで、イリはこの狭間の領域に用事があるんですか?」

 

 ファルゼンは安心したような表情を浮かべて白い手のひらを両方重ねると、首を傾げてイリにここまで来た理由を尋ねる。

 コロコロと表情と仕草を変化させる少女にイリは短い答えを返した。

 

「暇」

 

「……暇?」

 

「暇ダ」

 

 つまり、イリには特に用事が無いと言うこと。

 ファルゼンは水晶と木々しかない周囲を見渡すと困ったような顔を浮かべて答えた。

 

「うーん……この狭間の領域にはこの通り水晶くらいしかありませんし……他の集落のほうが……」

 

「ヒマダトサケブ声ガスル! ワシヲ呼ブ声ガスル!」

 

 他の場所へ行くようにファルゼンが勧めるとイリが知らない声が聞こえた。

 

「こ、この声は!?」

 

「バアー!」

 

 イリとファルゼンの前に突然姿を現したのは青いイリだった。

 

「ホウ……影法師<ズィルウ>カ? イヤ……」

 

「彼は人の姿を真似てからかうのが大好きな幽霊……マネマネ師匠です」

 

「ワシハ霊界一ノモノマネ名人マネマネ師匠ジャ!」

 

 自慢げにモノマネ名人をなのったマネマネ師匠の姿は名人を名乗るだけあってイリにそっくりだ。

 

「マネマネ師匠、いたずらばかりしてるとまたフレイズに──」

 

「オマエ! ヒマナラワシトモノマネ勝負ヲシロ!」

 

 ファリエルの小言を無視したマネマネ師匠はイリへと挑戦状を叩きつける。

 

「面白イ! コノ我ニ勝負ヲ挑ムカ!」

 

 暇を持て余していたイリはその勝負を受けるとマネマネ師匠と共に水晶で作られたステージの上に移動する。

 

「最後マデワシノ真似ヲ続ケラレタラオマエノ勝チジャ! ワシニツイテコラレルカナ?」

 

「愚カ! コノ我ガ貴様如キの動キニ追従デキヌトデモ?」

 

 水晶のステージの下にはいつの間にか集落の住人たちが集まっており、イリとマネマネ師匠の勝負を見物するために居座り始めた。

 観客たちの中にはファルゼンも混じっており、イリへと手を振っている。

 

「言ッタナ? ワシノ動キニツイテコイ──!」

 

 モノマネ勝負と言う名の熾烈なダンス勝負が幕を開ける──! 

 

「ホッ! ヤッ! ホア!」

 

「ギシッギリリリ! コノ程度デ師匠トハ笑イガ絶エヌワ!」

 

 身体を左右上下に動かすマネマネ師匠の動きにイリは完璧に追従しおり、その声色は余裕そのものだ。

 

「ヌゥ……! ナンノッ! コレデドウジャ!!」

 

「ホウ……!」

 

 動きを上手くマネするイリを見て焦るマネマネ師匠はテンポを速くした。

 

「……可愛い」

 

 二人のモノマネ勝負をステージの下から観戦するファリエルは思わず呟く。

 小さな身体を懸命に動かすイリとマネマネ師匠の姿はファリエルに微笑ましさと愛らしさを感じさせていたのだ。

 だがほっこりしているファリエルとは違い周囲の観客たちはイリと同じように小さな身体の召喚獣たちで、彼らには勝負の苛烈さが分かるのか歓声を上げている。

 より激しさを増していく二人の舞に応じてファリエルを除いた観客たちが盛り上がり、ステージの周囲は熱狂に包まれていった。

 

 

 

 やがて二人の動きが最高潮に達するとマネマネ師匠が力尽きてステージ上に伸びてしまった。

 

「ゼェ……ゼェ……ヤルデハナイカ……」

 

 マネマネ師匠はバテて荒い息を吐くと悔しげにつぶやく。

 

「雑魚! 笑止! 師匠失格! 他愛モ無イ……」

 

「マネマネ師匠、これに懲りたらみんなにイタズラするのは止めてください」

 

 ファルゼンが腰に手を当ててマネマネ師匠を見降ろすと青い蟲は青い髪のファルゼンの姿に変化し、舌を出してファルゼンを挑発した。

 

「ベー! ヤーナコッタ!」

 

「……マネマネ師匠?」

 

 ファルゼンが底冷えするような低い声でその名を呼ぶと、さきほどまでの様子は何処へ行ったのかマネマネ師匠は素早く起き上がり逃げ出してしまった。

 

 

 

 モノマネ勝負を終えたイリはファルゼンに見送られて狭間の領域を出ると再び目的地もなく彷徨い始めた。

 

「あら、イリじゃないの」

 

 イリを見かけるとスカーレルが手を振る。

 ユクレス村へと到着したイリが出くわしたのは温海帰りのカイル一味たちと困った顔をするヤッファだった。

 

「反逆じゃ! 謀反じゃ! 戦争じゃあああああ!」

 

 ヤッファの視線の先には村の一角に陣取ったジャキーニ一味が道行く住人たちに嫌がらせをしていた。

 

「本人たちが言うには謀反のつもりらしいが……」

 

 ユクレス村の護人として集落の住人たちに被害が出るようなら実力行使も辞さない考えのヤッファだったが、ジャキーニたちのやっていることがセコ過ぎてどうするべきか困っていたようだ。

 

「今日は先生の休日なんだ。先生の手を煩わせないうちにさっさと片付けようぜ」

 

「あのバカに先生のお休みを邪魔されちゃたまらないもんね!」

 

 カイルとソノラがジャキーニの前に進み出るとジャキーニがカイルを睨んだ。

 

「どうして海賊であるワシらが土いじりのために使われなきゃいかんのか!」

 

 それは盗みを働いたジャキーニ一味がアティたちに敗れ、償いとして畑で働くこととなったからなのだが当人たちはそれに不満があるようだった。

 

「それはあなたたち悪さをして捕まったからでしょうに」

 

 ヤードが呆れたように言うがジャキーニは気にせずなおも続ける。

 

「再戦じゃ! 再戦を要求する! 貴様らが召喚術という反則技を使ったせいでワシらは負けたんじゃ!」

 

「戦力が変わらないのなら再戦しても同じだってわかってる?」

 

 スカーレルの言葉を聞いたジャキーニは我が意を得たりと笑うと奥の手を取りだした。

 その手に握られているのは──サモナイト石。

 

「ふっふっふっふ……戦力が変わらない? それはどうかのう! 出てくるんじゃ! 化け物ども!」

 

 召喚術により異界の門が開かれると半漁人のような召喚獣が喚びだされ──。

 

「ギィイ!」

 

 イリの送還術により即座に消えてしまった。

 

「な、なんじゃと!? このサモナイト石まさか壊れておるんか!?」

 

 召喚獣が消えると手のひらに握ったサモナイト石を様々な角度から凝視し、故障を疑うジャキーニだったが、カイルが一歩近づくと後ずさった。

 

「で、どうするんだ? 戦力は変わらねぇみたいだが……」

 

「せ、戦争じゃあああああ! ワシらは自由を勝ち取るんじゃああああ!」

 

 ジャキーニ一味が破れかぶれに突撃してくると、カイルたちは溜息をつきそれを迎撃した。

 

 

 

 難なくジャキーニ一味の自称謀反を鎮圧して海賊船へと帰ったカイル一家とイリを出迎えたのは食堂のテーブル一杯に並んだ料理だった。

 

「あ、おかえりなさいみなさん!」

 

「フレイズから聞いたわ。みんなお疲れ様!」

 

 今回の騒ぎはフレイズを通して各集落の護人たち、そして船にいたアティとベルフラウにも伝えられていたようだった。

 アティとベルフラウは暴動の鎮圧に尽力したイリとカイル一家のために手料理を作って待っていたのだ。

 

「お、こりゃ美味そうだ!」

 

 皆がテーブルに着くとわいわいと騒がしい食事が始まる。

 アティは仲間たちの様子を眺めながら嬉しそうに口元を曲げた。

 仲間たちがくれた休日は楽しかったけれど、アティにとってはみんなと暮らす今の生活が毎日休日のように楽しいのだ。

 だから仲間たちといる今の平穏を守りたいと願う。

 アティは視界に広がる光景を記憶に焼き付けると自身も仲間たちとの会話に加わるのだった。

 




嵐の前のなんとやら。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。