招カザル来訪シャ~頼れる相棒は世界を喰らう者~ 作:あったかお風呂
島への漂流から一夜明け、付近の散策へと出かけていたアティはベルフラウが起きたのを確認して笑みを浮かべる。
「おはよう、ベルフラウさん。近くを見まわってきたの。何かないかなって」
ベルフラウと白い蟲の召喚獣の元へ戻ってきたアティは拾ってきた武器や日用品等使えそうなものをベルフラウに見せた。
あまり上等な武器ではないが丸腰よりは遥かにましだろう。
先ほどのゼリーのような友好的ではない相手がいる可能性は高い。
「あとは……ご飯をなんとかしましょう。昨日から何も食べていませんよね」
「ギリイイ!」
白い蟲の召喚獣も賛同しているのか鳴き声を上げる。それを見たアティは微笑んだ。
「大丈夫。先生にまかせて、ね」
華奢な体つきの女教師は意外にもうまく魚を釣って見せた。
「へぇ……うまいものですのね」
ベルフラウが感心したように言うと、アティは心なしか誇らしそうに胸を張る。
「ふふふ、故郷ではよく釣りをしていたんですよ。なかなかのものだったでしょ?」
そう言っているうちに、焚火に焼かれる魚から香ばしい臭いが漂い、ベルフラウの鼻孔をくすぐる。
「焼けたみたいですよ、ほら」
アティから焼き魚を手渡されたベルフラウだったが、お嬢様であるベルフラウにとっては縁の遠い料理だ。
お抱えのシェフが作った料理を食べて育ってきたベルフラウは庶民の料理に戸惑っているようだった。
「ギシィイ!」
白い蟲の召喚獣はよほど腹を空かせていたのか戸惑うベルフラウに構わず焼き魚にかぶりついている。
「ほら、あの子みたいにかぶりついて食べちゃうの」
アティ自身も焼き魚にかぶりついてみせると、それをみたベルフラウもおそるおそる齧り付いた。
「……おいしい。ソースもかかっていない、料理ともいえないシロモノなのに」
ベルフラウは驚きながらも頬を緩ませ、焼き魚を完食したのだった。
腹ごしらえを済ませた二人と一匹は散策を開始した。
船からヒトやモノが流れ着いているかもしれない浜辺を歩く。
「そういえば、その子とベルフラウさんはどういった関係なんですか?」
「あの召喚獣たちにいじめられそうになっていたんです。囲んで、寄ってたかって……だから見ていられなくて。でも、私が軽率だったことはわかっていますわ……」
それを聞いたアティは自然と笑みを浮かべる。
自分の生徒がこんなにも優しい子であることを知って。
自分の生徒がとても勇気のある子だと知って。
「ふふっ。そんなことはありませんよ。必死だったんだよね? その子のことを守りたくって」
そんなことを言われたベルフラウは顔を赤くしながらも、小さく頷いた。
「ところで、その子に名前はあるんですか?」
「そういえば……ねぇ、あなた名前はあるの?」
ベルフラウはとなりにふよふよと浮かぶ白い蟲の召喚獣に問いかける。
問いかけられた白い召喚獣は少し間を開けると返答を口にした。
「ギイイ……イリデルシア」
イリデルシア、と呟いたベルフラウは少し考えた後。
「そうね……これからイリって呼んでもいいかしら?」
イリデルシアは了承したのか、頷いたような仕草をしてみせる。
「よろしくね、イリ!」
「これからよろしくお願いしますね、イリ!」
「ギィィイ!」
イリの呼び名が決まり、浜辺を歩き続けていたベルフラウは遠くに人影をみつけた。
しかしその人影は他の船客ではなくアティたちを襲撃した海賊たちだった。
「さあ、あのときの続きと行こうか!?」
海賊の頭と思われる男は戦意を滾らせ、構えている。
頭と一緒にいる召喚師らしき灰色の髪の男もベルフラウたちに聞きたいことがあるのか、戦う意志を見せている。
「ベルフラウさん、危ないから離れていて!」
アティはそう言うが、相手は二人。
しかも内一人はやっかいなことに召喚師だ。
離れたベルフラウは心配そうにアティを見つめるが、傍にイリがいないのに気が付いた。
「ギシリリ!」
いつの間にかアティの隣に移動しふよふよと浮かぶイリは声を上げる。
「もしかして、イリも一緒に戦ってくれるの?」
「ギイイ!」
小さい体に戦意を滾らせているのか、イリは雄叫びを上げた。
それを見て笑みを浮かべたアティは海賊たちに対峙する。
これで二対二、数では並んだ。
「女一人にちっこい召喚獣一匹か。恨むんじゃねぇよ! いくぜぇぇーッ!」
砂を蹴り、雄叫びを上げて向かってくるカイルをアティが迎え撃ち、戦いが始まった。
「私の相手はあなたですか」
召喚師の男と対峙したのはイリだった。
召喚師の男はイリを観察する。
大した魔力は感じられず、体も小さい。
力もあまり無いように見える。
しかし、召喚獣にはやっかいな能力を持つものもいるため油断は禁物だ。
見たところ、目の前の召喚獣は蟲の姿をしていることからメイトルパの住人であることが予測できる。
メイトルパには毒や麻痺を使う召喚獣も多い。
接近は危険だが、召喚師である自身は遠隔攻撃が出来るため有利であると踏んだ。
「行きなさい! タケシー!」
男の召喚術により、霊界サプレスから黄色い魔精が召喚される。
電撃を得意とする下級の召喚獣だ。
「ゲレサン……」
召喚師の男がタケシーに指示を出そうとしたその時、召喚したはずのタケシーが消えてしまった。
「なっ……!? い、いった何が……ぐふぉ!?」
突如消えたタケシーに驚愕し、動揺する召喚師の腹に勢いよく迫るイリの体当たりが直撃する。
召喚師はもんどりうち、地面を転がり……ぴくぴくとわずかに痙攣するのみとなり、動かなくなった。
「ギリリリイイイイ!」
イリが勝利の雄叫びを上げるとちょうどアティのほうも決着がついたようだった。
海賊の頭は膝をつき、アティはそれを見下ろしている。
戦いを見ていたベルフラウはイリに駆け寄り、抱きしめた。
「すごいじゃない、イリ! がんばったわね!」
「ギイイ……」
イリは苦しいのか、それともこういったことに慣れていないのか困ったような声を上げた。
それを見て安堵の溜息を吐くアティだったが、敗北して膝をついていた海賊の頭が突然笑い出す。
「あー負けた、完璧に俺たちの負けだ。女にしとくにはもったいないぜ。そこのちっこいのもやるじゃねぇか」
痙攣していた召喚師も腹を押さえてふらつきながらもようやく起き上がる。
「ううっ……。カイルも敗れてしまいましたか。貴女、民間人ではありませんね」
「帝国の軍人でした。けど今は辞めてこの子の先生をしています」
それを聞いて納得したのか召喚師の男は頷き、そして自身を倒したイリを注意深く見た。
「なるほど……どおりで強いわけです。そしてその召喚獣も只者ではなさそうだ……」
カイルと名乗った海賊の頭はアティを気に入ったらしく、アティたちを海賊の客分として招待することとなった。
召喚師の男はヤードと名乗る。
ヤードもカイルたちの客分であるようだった。
「ほれ、あそこに見えるのが俺らの船──」
カイルたちの船がようやく見えてきたが、船ははぐれ召喚獣たちに襲われているようだった。
カイルと同じ金髪の少女が銃で応戦し、どこか妖しい雰囲気を感じさせる黒髪の男はナイフではぐれ召喚獣を斬りつけていた。
しかし多勢に無勢、状況はあまり芳しくないように見えた。
仲間の危機を見て走るカイルに続き、アティとヤードもはぐれ召喚獣たちへと向かっていった。
「ソノラ! スカーレル! 無事か!?」
「あ! アニキ!」
「ちょっとカイル! 帰ってくるのが遅いのよ!」
銃で召喚獣を攻撃した金髪の少女はカイルに気が付いて声色に安堵を混ぜ、黒髪の男は口では文句を言いながらも表情には笑みを浮かべていた。
「私も戦います!」
「ちょっとあなた!? あいつらは……」
「船では戦ったけど……これから仲直りすればいいんです! イリ、ベルフラウさんのことお願いしますね!」
ベルフラウの制止の声をきかずに召喚獣たちへと走るアティが碧の剣を呼び出すと再び赤い髪が白くなり、その手に碧の剣が現れる。
「ヒッ!? グヒィイイイ!?」
碧の剣が刀身と同じ色の光を発すると何か底知れぬ力を感じとったのか、はぐれ召喚獣たちはアティの碧い剣に怯えて逃げ出した。
謎の声によってアティに与えられた、謎の剣。
ヤードはどうやらその剣のことを知っているようで、アティに詰め寄った。
「どうしてあなたがその剣を使いこなしているんです!?」
ヤードたちの説明によれば、碧い剣の名は『碧の賢帝<シャルトス>』。
アティたちの乗っていた船によって輸送されていた二本の魔剣のうちの一つで、カイルたちは碧の賢帝ともう一つの魔剣を奪取するために船を襲った……とのことだった。
あのあとベルフラウたちはカイル一家に客分として正式に歓迎され、料理を振る舞ってもらい……その夜。
ベルフラウは船の傍の浜辺で座っていた。
「はぁ……。先生は図太すぎるわ。ねぇ、イリ」
「ギィィ?」
「まったく……自分から進んで海賊の仲間になるなんて……」
ベルフラウが隣に浮かぶイリに愚痴をいっていると、アティが船から姿を現した。
「二人ともこんなところに……。そろそろ眠ったほうがいいですよ、久しぶりのベットなんだから」
しかし、ベルフラウとしては海賊船で眠るのが不安でしょうがない。
もしも寝こみを襲われでもしたらなすすべもないだろう。
「心配しないで、いざとなったら先生がついてる。それに……イリだってね」
「そ、そうね……貴女には使用人として、その義務があるものね。さあ、イリ。一緒に寝ましょ」
ベルフラウはふよふよと浮いているイリを抱きかかえると船内のベットに入り、眠りについた。
「おやすみなさい、イリ」
「ギィイイイ」
イリを抱いて眠るベルフラウを夜空に浮かぶ月明かりが優しく照らしていた。
「ナルホド……月ノ『マナ』カ……想定ヨリモハヤク……」
夜会話で好感度を上げていけ。